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第60話 不安と差別

「あっちこっちに異世界の人がいる……」


 通学中、なんども異世界の人……サンルート人を見るのが多かった。

 白人風の人、犬猫兎……その他哺乳類をそのまま人にしたみたいな人。

 みんな突然の出来事に困惑しているのか、ただ無気力に座っていたり、寝そべっていた。

 貧相な恰好をしている人もいたが、高級そうな服を着ている人も同じくらいいた。

 ……あの人たちは、サンルートでそれなりに上の階級……所謂貴族の人たちであったのだろうか?

 そういう人たちが、貧相な恰好の人たちと肩を並べて座り込み、お互いに不安を口にしていた。


「ここはどこで、私たちはどうなってしまったんだ……家も……土地も……お金も……何もかも無くなった……」

「気を落とすなよ、俺なんて元から家はあってないようなもんだぜ? それより……お袋と嫁の安否が心配だ……」

「貴方、お仕事は?」

「あぁ、一応探索者だが、どうにも稼げなくてね、遠くのダンジョンに出かけた矢先にこれだ」

「……それは大変ですね」


 ……こんな会話が聞こえる

 もはや、彼らの中では、存在していた階級も、崩れ去ったのだろうと私は考えた。


 ……みんなつらいだろうな、突然得体のしれないところにやってきてしまって、家も財産も失って……何か私にできることはないだろうか?

 炊き出しとか……職業支援とか……でも、そういうのって自治体がやることで、私には経済的にも到底出来そうもないかなぁ……でもなぁ……何とかしてあげたいなぁ……うーん。

 そんなこと考えている中……。


「おい! お前どこの誰よ?」

「わ、私は……サンルート人です」

「あはは! 本当に猫が喋った! ウケる!」


 遠くでチャラい男女の集団が携帯で撮影をしながら、猫獣人の人に話しかけていた。

 おそらくあの猫獣人は……女性だろう、声や体型からしてそう見える。

 猫獣人は……困っている様子だった。

 私は思わず、立ち止まってしまった。


「なぁ、これ食うか? あんたにピッタリだろ?」

「た、食べ物を恵んでくださるのですか? ありがとうございます!」


 遠目で見た限りだと……缶詰だろうか?

 男が缶詰を開け、猫獣人に手渡した。

 猫獣人はそのまま……缶詰目の中身を食べているようだった。

 その様子を見て……集団は爆笑していた。


「あはははは!! 猫缶を美味そうに食ってるよ!! 超ウケるんだけど!!」

「あはは! ほんと! マジで猫じゃん!!」


 必死に食べている猫獣人を見て……チャラい男女は手を叩いて笑っていた。

 ……なんだろう、ものすごく腹が立つ。

 彼らだって心はある、お人形じゃないんだ。

 どこかもわからない世界に突然やってきて困っているのに……それをまるで嘲笑うからのようにからかうなんて……許せない。


 私はバッグを抱え、足早に彼らに向かった。

 ちょっと怖いけど……あいつらに言ってやりたかった。

 貴方達が同じ立場だったらどんな気持ちになる? 突然別の場所に転移させられて、そこの人々にからかわれて、人にされて嫌なことはするなと小学校で学ばなかったのか?

 ……そんなことを言ってやろうと考えていた、その時。


「う、うわぁ!? な、なに!?」

「なんなの!? これ!?」


 男女の集団からちょうど私までを覆うように……足元に魔法陣が現れた。

 これは……ダンジョン!?

 ……そんなことを考えていると、周囲が光に包まれた。

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