閑話 研究者の過去 その8 ~移住~
「もう! 叔母さん! なんなの突然!」
「あはは、ごめんねぇ」
私はたじたじになりながらも、子どもたちに「本の世界」について話した。
「でも、瑠璃ちゃんのお話、とても面白かったよ」
「そ、そう? でも、叔母さんが助け船を出してくれたおかげだし……」
「あはは、それでも面白かったよ、きっとお話を作る才能があるんだよ、瑠璃ちゃんには」
「そ、そうかなぁ……」
私にお話を作る才能か……でも、お話をしている時の子どもたちの顔……なんかよくわかっていないようだったなぁ……。
何か……いい方法ないかなぁ……子どもたちにわかりやすく伝える方法……あっ。
「ねぇ叔母さん、この家に画用紙ってある?」
「あぁ、あるけど、何をするんだい?」
「紙芝居だよ! 絵にしたら分かりやすくなると思わない?」
「おお! それはいい考えだね!」
そうだ、絵にして解説したら、きっと子どもたちもついていけるはずだ。
「あ、そうだ! ちょっと待ってておくれよ!」
叔母さんは何かを思いついたのか、どこかへと向かってしまった。
……しばらくして、叔母さんは大きな木の枠を持ってきた。
その枠は、ただの枠ではない……まるで小さなステージのように見えた。
「叔母さん、それは何?」
「これは紙芝居さ、以前主人……貴方の叔父に値する人が使っていたものさ……昔はこれで子どもたちにお話を披露していたのさ、ほら、以前使っていた紙芝居もあるよ」
叔母さんは以前の所有者……叔父が使っていたらしい紙芝居を見せてくれた。
話の内容は、「泣いた赤鬼」「大きなカブ」「金太郎」……どれも童話だった。
「瑠璃ちゃん、これで紙芝居をすればきっと子どもたちも喜ぶよ」
「そ、そうかなぁ……」
叔父が作った紙芝居を見てみたが……何故か、私でもできそうな気がした。
絵は苦手な方だけど……これだったら描けるかも!
「よし! それじゃあ、まずはお話を考えないとね! そうだなぁ……駄菓子屋だし、お菓子の世界なんてどう?」
「あはは、いいねぇ、それはどういう世界なんだい?」
「そうだなぁ……」
その日、私たちは紙芝居の内容を考えあった。
☆
頻繁に家を抜け出しては叔母さんの家に行く日が続き……気が付くと私は、高校を卒業する歳になった。
紙芝居の数も辞書みたいになって、以前叔父がやっていたであろう紙芝居の数を優に超えていた。
「瑠璃ちゃん、将来はどうするんだい?」
「うーん……やっぱり、異世界を見つけたい!」
「あはは、相変わらずだねぇ」
叔母さんと夕食を食べながら、私は叔母さんに将来について話した。
そろそろ大学に行く頃か……もう、家にいる必要は無くなる……そうだ!
「ねぇねぇ叔母さん、私ももう18だしさ、荷物全部ここに持ってきてもいい? 将来的に大学に行く予定だけどさ……叔母さんの家から通学したいんだ、叔母さんに迷惑掛けちゃうかもしれないけど……いいかな?」
私は叔母さんに無理なお願いをした。
頻繁に家に出入りしている時点で迷惑かもしれないけど、流石に完全に住むのは……迷惑だよね?
「……もちろんさ!」
「い、いいの?」
「あぁ、むしろ、住んでくれた方が嬉しいさ、紙芝居も子どもたちに大好評だしね」
「やったぁ!」
私はその日、年甲斐もなく喜んだ。




