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閑話 研究者の過去 その8 ~移住~

「もう! 叔母さん! なんなの突然!」

「あはは、ごめんねぇ」


 私はたじたじになりながらも、子どもたちに「本の世界」について話した。


「でも、瑠璃ちゃんのお話、とても面白かったよ」

「そ、そう? でも、叔母さんが助け船を出してくれたおかげだし……」

「あはは、それでも面白かったよ、きっとお話を作る才能があるんだよ、瑠璃ちゃんには」

「そ、そうかなぁ……」


 私にお話を作る才能か……でも、お話をしている時の子どもたちの顔……なんかよくわかっていないようだったなぁ……。


 何か……いい方法ないかなぁ……子どもたちにわかりやすく伝える方法……あっ。


「ねぇ叔母さん、この家に画用紙ってある?」

「あぁ、あるけど、何をするんだい?」

「紙芝居だよ! 絵にしたら分かりやすくなると思わない?」

「おお! それはいい考えだね!」


 そうだ、絵にして解説したら、きっと子どもたちもついていけるはずだ。


「あ、そうだ! ちょっと待ってておくれよ!」


 叔母さんは何かを思いついたのか、どこかへと向かってしまった。

 ……しばらくして、叔母さんは大きな木の枠を持ってきた。

 その枠は、ただの枠ではない……まるで小さなステージのように見えた。


「叔母さん、それは何?」

「これは紙芝居さ、以前主人……貴方の叔父に値する人が使っていたものさ……昔はこれで子どもたちにお話を披露していたのさ、ほら、以前使っていた紙芝居もあるよ」


 叔母さんは以前の所有者……叔父が使っていたらしい紙芝居を見せてくれた。

 話の内容は、「泣いた赤鬼」「大きなカブ」「金太郎」……どれも童話だった。


「瑠璃ちゃん、これで紙芝居をすればきっと子どもたちも喜ぶよ」

「そ、そうかなぁ……」


 叔父が作った紙芝居を見てみたが……何故か、私でもできそうな気がした。

 絵は苦手な方だけど……これだったら描けるかも!


「よし! それじゃあ、まずはお話を考えないとね! そうだなぁ……駄菓子屋だし、お菓子の世界なんてどう?」

「あはは、いいねぇ、それはどういう世界なんだい?」

「そうだなぁ……」


 その日、私たちは紙芝居の内容を考えあった。



 頻繁に家を抜け出しては叔母さんの家に行く日が続き……気が付くと私は、高校を卒業する歳になった。

 紙芝居の数も辞書みたいになって、以前叔父がやっていたであろう紙芝居の数を優に超えていた。


「瑠璃ちゃん、将来はどうするんだい?」

「うーん……やっぱり、異世界を見つけたい!」

「あはは、相変わらずだねぇ」


 叔母さんと夕食を食べながら、私は叔母さんに将来について話した。

 そろそろ大学に行く頃か……もう、家にいる必要は無くなる……そうだ!


「ねぇねぇ叔母さん、私ももう18だしさ、荷物全部ここに持ってきてもいい? 将来的に大学に行く予定だけどさ……叔母さんの家から通学したいんだ、叔母さんに迷惑掛けちゃうかもしれないけど……いいかな?」


 私は叔母さんに無理なお願いをした。

 頻繁に家に出入りしている時点で迷惑かもしれないけど、流石に完全に住むのは……迷惑だよね?


「……もちろんさ!」

「い、いいの?」

「あぁ、むしろ、住んでくれた方が嬉しいさ、紙芝居も子どもたちに大好評だしね」

「やったぁ!」


 私はその日、年甲斐もなく喜んだ。

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