第242話 ウシメン
「じゃあ、ゴルドが戻るまでこれにお湯入れて待ってよっか」
「瑠璃はん……なんやそれ?」
「これはね、『ウシメン』だよ」
私が手に取ったのは、かなり小さいカップ麺……ウシメンだ。
牛骨スープが特徴の手軽に食べられるカップ麺だ。
私は居間にあるポットから5人分のウシメンにお湯を注いだ。
そして、付属のプラスチック製のフォークの袋を開けた。
「瑠璃はん、そのフォーク、どうするつもりや?」
「こうするの」
私はウシメンの蓋を抑えるように、フォークを突き刺した。
フォークはまるで、地面に突き刺さった槍のように聳え立っている……これこそウシメンの醍醐味だよね。
「ほら、こうすれば蓋が取れないでしょ?」
「な、なるほど……画期的やな」
「これで3分くらい待つの、そうすれば出来上がり」
3分もすれば、ゴルドも戻ってくるだろう……多分。
「どんな風になるんだろう……バリ楽しみ!」
「なんか……待ちきれ……ない」
私たちはウシメンを見つめつつ、ゴルドの帰還を待った。
☆
「い、今戻ったぜ……」
「あ、ゴルドおかえり、ウシメンできたよ」
「う、ウシメン?」
ゴルドが椅子に座り、私たちは突き刺さったフォークを抜き取り、蓋を開けた。
「おぉ……瑠璃ちゃん……これ……ラーメン?」
「そうだよ」
蓋を開けると、食欲をそそるような牛骨の香りが居間に漂った。
「さ、食べよ」
「ルリルリ、どうやって食べるの?」
「フォークですくって、すすって食べるの」
「すするの? こ、こんな感じ?」
リンは私が言った通りに麺を掬い……すすった。
「……んん! これバリ美味しい!」
「ほ、ほなウチも!」
ラピスもリンの真似をし、ウシメンを口の中に入れた。
……今更だけど、これって共食いかな? って、失礼か。
「……」
ラピスは……沈黙した。
……あれ? 口に合わなかった?
「ラピスちゃん……大丈夫?」
「おいラピス? 火傷でもしたのか?」
ラピスは……涙を浮かべながら、麺を飲み込んだ。
「……美味い」
「……ラピス?」
「瑠璃はん……これめちゃくちゃ美味いで……絶妙なしょっぱさ……動物系なのに臭みも無い……最高や……」
「そ、そう……」
ラピスはウシメンが大変気に入ったのか……フォークで面を一気に掬い、口の中に入れた。
なんだろう、普段上品に見えるラピスが、はしたなく口いっぱいに食べ物を入れている……相当気に入ったらしい。
ラピスはその流れで、スープも一気飲みしてしまった。
「ラピスちゃん……そんなに……美味しかった?」
「最高や! キセノンはんも早う食べ!」
「うん……いただきます」
キセノンはラピスの食べっぷりに少し引いていた……皆から見ても相当異様な光景だったようだ。
私も伸びないうちに早く食べてしまおう。
「いただきます」




