ドワーフの過去 その3 ~エデンの実~
「これは……かなり重体です、手術をしようにも……治る可能性はかなり低いでしょう」
医者の言葉を聞いたワシは、思わず手が出てしまった。
「おい……なんだよそれ……お袋は助からねぇって言いてぇのか!!」
「に、兄ちゃん! 落ち着いて……」
「テメェは医者だろ!? 何とかならねぇのかよ!!」
「落ち着いてってゴルド兄ちゃん!!」
弟分と妹分がワシを引き留めようとしたが、気持ちが高ぶっていたワシは、そんな制止をものともしなかった。
医者はおびえた様子で、ワシをただ見つめていた。
「おい!! なんとか言えよ!! 治る方法があるなら言えよ!! ワシは、お袋が助かるなら……どんなことだってやってやるよ!!」
ワシの怒号を聞いた医者は、震え声でこんなことを言ってきた。
「……エデンの実」
……医者の言葉を聞いたワシは、一瞬冷静になった。
「……それはなんだ?」
「う、噂で聞いたんですけど……ここから数百メートル離れた……ほら、『ヨークの山』、あるじゃないですか、あ、あそこに、エデンの実っていう、どんな病気も治せる果実があるとか……ないとか……」
医者の言葉を聞いたワシは、覚悟を決め、物置へと向かった。
その話が本当ならば、お袋が救えるかもしれない。
その言葉に賭け、ワシは使えそうな武器が無いかと思ったのだ。
「ちょ、ちょっと兄ちゃん! 何する気?」
「エデンの実を探しに行く」
「はぁ!? 何言ってんの!!」
弟分はワシを止めようとするが、周りが見えていなかったワシは、それに目もくれず、ただ使えそうな武器を探していた。
「……この斧、使えるな」
「兄ちゃん、マジで行く気なの?」
「これでお袋が治るなら……やってやる、お前は医者とお袋を見てろ、いいな?」
「ちょっと待ちなって! なら僕も……」
「いらない、ワシ一人でやる」
「ちょ、ちょっと兄ちゃん!!」
弟分の制止を振り切り、ワシは斧を片手に、孤児院を出た。
☆
数時間かけて、ヨークの山についた。
この山には、山の奥深くにダンジョンがあり、モンスターが常にいる。
ダンジョンを破壊すればいいのだが、どうも近づけず、上空から侵入を試みようにも、モンスターが手ごわく、未だ破壊できないでいた。
そのため、王国政府は、この山には熟練の探索者以外は近づかないように知らせていた。
「この中に……お袋を治す薬が……」
いくら政府が近づくなと言っても、今はお袋の命が掛かっている。
ワシは覚悟を決め、山の中へと入った。
☆
山を登り始めて数十分。
早速モンスターがお出迎えだ。
相手はゴブリンの群れ……いくら弱いモンスターといえど、探索者でなければ対処は難しい。
ワシもそのくらいの知識はあった……が、気持ちが高ぶっていたワシを止められる存在は、この場にはいなかった。
「そこをどきやがれ!!」
ワシは斧を振り回し、ゴブリンどもを消していった。
端から見たら素人の攻撃、しかし、奴らには効果絶大だった。
奴らはワシのいい加減な戦いぶりに恐れをなしたのか、一目散に逃げて行った。
「待ってろ……お袋……必ず助けて見せる……」
ワシは斧を引きずり、再び歩き出した
モンスターが現れたら倒し、また歩き出し……。
それの繰り返し、飲まず食わずだったが、不思議と空腹感は無かった。
「お袋……お袋……」
ワシは諦めたくなかった。
お袋が生きてさえくれれば、ワシの命なんてどうなってもいい。
ここまで生きていけたのはお袋のおかげなんだ、ここで恩返しできなくてどうするんだ。
そんな気持ちで、歩き続けていたのだが……。
「お……袋……」
意識が薄くなっていき、突然の眠気に襲われたワシは……目の前が真っ暗になった。




