吸血鬼の過去 その10 ~想い~
「ラピス……ちゃん……」
「お詫びなんていらんわ……ウチは……」
「……」
私は、ラピスちゃんの温もりを感じると、自然と冷静になった。
「ごめん……私……今まで……ラピスちゃんに……酷い事……」
「気にしてへんわアホ……好きな人の為にそう行動したんやろ? ならウチはなんも言わへん……むしろ、好きな人の為にそこまでできるなんて、褒め称えたいぐらいやわ」
「どういう……こと?」
「実はウチ……」
……ラピスちゃんは、自分の過去を語ってくれた。
探索者を始めた時、最初に入ったパーティで好きな人ができたこと。
その人に褒められようと頑張ったけど、その人には旦那さんと息子さんがいて、絶望したこと。
そんな絶望の気持ちをその人にぶつけてしまい、そのまま逃げるように旅に出たことを話してくれた。
「そんな……ことが……」
「せやねん、やからウチはキセノンはんの行動、間違ってへんと思うで」
「でも……そのせいで……ラピスちゃんは……」
「別に怪我くらい、この仕事してたらするやろ」
「そんな……」
私は、ラピスちゃんの言葉を聞き、初めて「恥ずかしい」という気持ちになった。
「ま、とりあえず、今までの事はお互い忘れようや、ほな、はよ服着ろや、風邪ひくで」
「そんな……ラピスちゃん……私……」
「ええねん、ウチはキセノンはんが無事なだけで……」
「……ラピスちゃん!」
「うおお!?」
私は気持ちが高ぶってしまい、思わず、ラピスちゃんを抱きしめた。
「いててて!! ちょお、強く抱きしめんでも……」
「ご……ごめん」
私は力を緩め、ラピスちゃんと目を合わせた。
「いやぁでも、ウチも躊躇せんと、行動せんとあかんな」
「どういう……こと?」
「じ、実はな、怒らんで聞いてほしいねんけど……ウチも、リンはんの事……好きやねん」
「え……そ……そうなの?」
ラピスちゃん……リンちゃんのこと、好きなんだ。
「いや、そんな悲しい顔せんといてや! べ、別にウチは、リンはんが幸せならそれでええんや、別にキセノンはんと結ばれても、それはそれで……」
「……」
私は……ラピスちゃんの言葉に感極まり、再び抱きしめた。
「いててててて!! な、なんやねん!」
「ラピスちゃん……私……リンちゃんが……好き……でも……ラピスちゃんも……好き!」
「は、はい!?」
私は、ありのままの思いを、ラピスちゃんにぶつけた。
ラピスちゃんは困惑している様子だったが、今のこれが私の本心だ。
私は、リンちゃんもラピスちゃんも好き。
何度でもそう言える。
「私……リンちゃんや……ラピスちゃんみたいに……ありのままを……受け入れてくれる人……好き」
「そ、そうかいな……それは……お、おおきに……」
ラピスちゃんは抱きしめる私を、優しく撫でてくれた。
「でも……ラピスちゃん……リンちゃんにしか……興味ない?」
「い、いやぁ……それは……」
ふと、ラピスちゃんの顔を見ると、夕日のように真っ赤になっていた。
「興味ないなら……それでもいい……私……2人を……振り向かせる」
「そ、そうかいな……が、頑張ってな……」
「ラピスちゃんも……頑張ってね」
私たちはそのまま……しばらく抱きしめ合った。




