吸血鬼の過去 その１ ～「きょうだい」と使命～
「それでは、始め！」
……山奥にある広場、試合開始の合図を聞き、私は構えをし、相手に向かう。
至近距離まで近づき、私は拳を作り、相手に迎え撃った……のだが、相手はその攻撃を読み、避けられてしまった。
相手は流れるように足を出し、またその流れで拳を前に出してきた。
私はそれを受けるのに手一杯で、気が付くと……背中から地面に倒れた。
「はぁ……はぁ……」
また……負けちゃった。
「そこまで！」
試合終了の合図と同時に……相手が手を差し伸べてきた。
「まだまだね、キセノン」
「……『お姉ちゃん』」
私がその手に応えると、相手……お姉ちゃんは、試合の感想を述べた。
「よし、それじゃ、お前らは休んでろ」
「わかりました……『お父さん』」
「うむ、次！」
審判……お父さんの言葉を聞いた私たちは、広場の端の方に座り込んだ。
そして、私たちの代わりに、違う2人が広場の真ん中に立った。
私たちは、吸血鬼……お父さんの元で、このように「修行」をしている
「はぁ……私……全然勝てない……私は……『きょうだい』の……恥」
自分が不甲斐ない……毎日のように行われている試合も、毎回負けてしまっている。
「別にいいじゃない、アンタはこの中じゃ一番年下なんだから」
「でも……」
「それに……恥なんて誰が決めたの？ お父さんがそう言った？」
「いや……言ってない……」
「でしょ？」
お姉ちゃんは、明るい笑顔で、私を慰めてくれた。
でも……どうしても、自分に自信を持てなかった。
☆
私は大勢の「きょうだい」に囲まれていた。
私を含めて男女10数人……みんな同じ吸血鬼だったけど、顔は全然違う……。
……それもそのはず、お父さんは、「本当のお父さん」ではない、きょうだい達とも血は繋がっていない。
なぜそうなのか、理由はまだ聞いていない……けど、私たちはそれを受け入れていた。
私たちは物心をついた時から……常に「修行」に励んでいた。
夕方頃に起きたらご飯を食べ、山の周りを10周、その後は知識の勉強、その次は武術の試合をして、また知識の勉強をしたり魔法の勉強をしたりして、その後は空を飛ぶ練習をし、上空でまた体を鍛える……日が昇ったら寝る……それの繰り返しだ。
「キセノンは知識については優秀だが、体術はまだまだだな……もっと体を鍛えなさい」
「はい……お父さん……」
お父さんはとても厳しかった。
私は知識力だったら誰にも負けない自信があったけど、体術についてはからっきしだった。
だから、毎日のようにそれについてお父さんに怒られていた。
「キセノン！ なんだその動きは！ 無駄な動きを減らしなさい！」
「はい……お父さん……」
「キセノン！ 他のきょうだいは既に前に出てるぞ！ もっと急ぎなさい！」
「はい……お父さん……」
こんなことをして何の意味があるのか……私にはわからなかった。
私たち「きょうだい」は……何のために鍛えているのか。
疑問に感じた私はお姉ちゃんに質問をした。
するとお姉ちゃんは……何とも言えない表情をしていた。
「うーん……なんでだろうね？ 私も知りたいぐらいよ」
「そう……」
「あのね、アンタは深く考えすぎなの、そんなこと疑問に思ってどうすんのよ？ 私たちが今やるべきことはお父さんの元で修行をして一人前になること、でしょ？」
「うん……」
私たち「きょうだい」の使命……お父さんの元で修行をし、一人前になること。
理由は分からないが、それが私たちの共通認識なのだ。
……鍛えることは嫌いではない、寧ろ好きな方だ。
疑問に思ってどうするのか……か。
「キセノン！ 行くよ！」
「お姉ちゃん……待って……」
