サキュバスの過去 その14 ~失恋~
「すぅー……はぁー……すぅー……」
深呼吸をし、体の底から落ち着こうと、ウチは自分の手のひらで顔を仰いだ。
あかんあかん……あと少しで噴火するところやったわ。
ふぅ……大分熱も冷めたし、そろそろ戻るかな。
ウチは気を引き締め、ダンジョン探索の準備を整えようと、ギルドの中に入った。
……そこで、ウチは、衝撃の場面を見てしまった。
衝撃とは言っても、あくまで「ウチにとっては」やが……。
「嘘……やろ?」
ギルドの受付、そこにはアンはんと「ドワーフの男性」がいた。
アンはんはその男性を抱きかかえ……接吻をしていた。
そしてアンはんの足元に、「アンはんに似た男の子」がおった。
「愛してるよ、アンモラ」
「私も……」
ドワーフの男性とアンはんは……お互いに愛の言葉を口にしていた。
「それじゃあママ! お仕事頑張ってね!」
「あぁ! 2人とも気を付けて帰れよ!」
アンはんは2人向かって手を振り……見送った。
2人は幸せそうな笑顔で、ウチの目の前を通り過ぎた。
ウチは……放心状態になった。
その2人が男やったからとちゃう……何か別の理由やと、この時すでに分かっていた。
「おぉラピス!」
放心状態のウチに向かってアンはんは元気よく声を掛ける。
その声はウチの耳を高速で通り抜けた。
「聞いてくれよラピス、さっきのは『私の夫と息子』なんだがね、忘れ物をわざわざ持ってきてくれたんだよ、いやはや、私は忘れ物を頻繁にしてしまうのだが、だからといっていきなり『キスしたい』とか言ってくるのはおかしいと思わないかい? この間だって……」
……アンはんの長話、いつものことなのに、今日はどうにも頭の中に入らない。
理由はわかっていた……いや、わかりたくなかった。
見間違いであってほしかった、せやけど……この目で見てしもうた。
アンはんには……永遠に愛を誓った相手、そしてそれを証明する血のつながった存在がおる。
さっきまでのウチ……まるで馬鹿みたいやないか。
「……全く、馬鹿みたいだよな? ラピス、そう思うだろ?」
長話を終えたアンはんは、いつものようにウチに同情を求める。
ウチはその言葉に……どういうわけか腹が立ってしもうた。
「……せやな、馬鹿みたいやな……ふふ……」
アンはんの言葉に、ウチは呆れたのか……笑ってもうた。
「そうだろう? 全く場所を考えて欲しいものだよ……」
「ウチは……とんでもない大馬鹿や」
「……ラピス?」
ウチは……手が出てしまい、アンはんの顔を……思い切りひっぱたいてもうた。
何かがはじける音がギルドの建物の中をこだまし、辺りが静粛に包まれた。
「……」
我に返ると、ウチは……手が震え、目頭が熱くなっていた。
咄嗟にひっぱたいた手を抑え、ギルドの建物を飛び出した
「待ってくれ! ラピス!」
2回目となるアンはんの制止の声、ウチはそれを無視し、一目散に逃げた。




