3 緑の石と金茶の花
「…俺、何でこんな遠くに来てるんだろ」
「そりゃアレクが希望したからじゃない」
「ああ…あの頃の俺を殴ってやりたい」
よく晴れた空を見上げながら、アレクサンダーは深々と溜息を吐いた。
国境の防衛の要であるクロヴァス辺境領。防壁の上に立って異常がないかの見張り役を務めているアレクサンダーの眼下には、黒々とした深い森が広がっている。この森は隣国との国境でもあり、豊かな恵みをもたらすと同時に強く凶暴な魔獣も発生する危険もはらんでいる場所。その魔獣が増えすぎないように見守り、退治することが辺境に仕える騎士の主な役割だ。
学園卒業後、まず訓練生として1年間みっちりと鍛え上げられた新人は、次の1年で各領地の騎士団に派遣され、適性を見られつつ実戦経験を積む。研修終了後に充分な能力があると認定されれば、国から認められた正騎士の資格を得ることが出来る。その認定は最短で研修終了時の2年、平均的には5年程度かかる。勿論正騎士の資格を取らなくても研修後は騎士として働くことは出来る。が、やはり資格があればその後の出世や恩賞も違って来るし、携われる任務の範囲も変わって来る。何かと有利なことも多い為、大半の騎士希望の者は正騎士になることを目指す。
研修後はそのまま派遣先の領地の騎士団に誘われて残る者もいれば、王都に戻って王城付きの騎士団に配属される者もいる。領地持ちの貴族は家を支える為に自領に戻る者も多い。当然、様々な理由で騎士を諦める者も少なくない。
アレクサンダーがこのクロヴァス辺境領に研修で派遣されて3ヶ月余りが過ぎた。
何か異常を発見した時の確認用に、片手に収まる程度の遠望鏡を首から下げ、すぐに走れるように軽めの革の鎧を身に着けている。この辺境に派遣されて以来、重い金属の鎧を身に着ける機会はめっきり減った。相手が魔獣であることが多い為、防御よりも先手が取れる機動力重視がこの土地の騎士団の特徴らしい。何せ人を襲うような魔獣は、丈夫な金属の鎧を付けていても一撃で致命傷を負わされる。受け止めるより避けたり逃げたりする方が生存率が余程高いという長年の経験により積み上げられた結論だ。勿論防御の魔法が付与されているので、見た目よりもはるかに安全性は高いが。
その為、露出の多くなった顔や腕はすっかり日焼けして黒くなっている。淡い茶色の髪色と相まって、そこら辺に寝そべっていると地面と一体化して潜むのに丁度いいなどと先輩騎士から揶揄われたりしていた。
「お前、暑くないのか」
「気合い」
アレクサンダーの隣には、鎧の上から長いローブを纏って更に頭からすっぽりフードを被った小柄な人物が立っている。共に王都から派遣されている同期だ。その外見は、騎士というよりも魔法士に近い。
「だって日焼けすると赤くなるし、肌荒れのもとだもん」
「そこを両天秤に掛けるのか」
「綺麗でいたい女心くらい理解してよ」
「別に俺はいい」
「王都に婚約者いるくせに〜。あんまり理解がないと嫌われちゃうよ」
相手は、クスクス笑いながらアレクサンダーの腕を指先で突ついた。
「よせ、パット」
「え〜冷たいなあ。婚約者に対してもそんなに冷たいの?」
「お前にだけだ」
その人物、パットに突つかれたところを大仰に払いのけた。
「もう!そんなことばっかり言ってると彼女へのプレゼントのアドバイスしてあげないんだからね!」
「う…」
パットことパトリシア・グレッグ。グレッグ伯爵家の生まれで、現在は騎士団所属ではあるが、攻撃魔法が得意な為に学生時代は魔法科に在籍していた。しかし小柄な体を生かして短剣を扱うことにも長けており、その剣の腕前を惜しんだ騎士団長から直々にスカウトされた経緯を持つ。本人も将来叶えたい目標が魔法士よりも騎士の方が近道だと知り、最終学年で騎士科に進路変更をした変わり者だ。
赤みがかった長く艶やかな金髪に、大きく潤んだような緑の瞳。華奢で可愛らしく庇護欲をそそる外見に騙される人間も多いので、対人戦では抜群の戦績も残している。力や体力面では劣るものの、総合力においては同期の中ではトップクラスの実力の持ち主である。
そして騎士団では数少ないおしゃれのセンスも持った希有な存在でもある。
その為、アレクサンダーがヴィーラへのプレゼントを贈る際のアドバイスを毎回貰っていた。というより、彼女へのプレゼントのチョイスがあまりにも酷…独創的すぎるのを見て、見兼ねてパットが協力を申し出たのだ。
「そろそろ交替の時間だよ」
「特に異常はなさそうだな」
「また彼女にプレゼント贈るんでしょ〜?一緒に選んであげようか?」
「…今日はまだいい」
アレクサンダーは、ここに来てからヴィーラに毎週のようにプレゼントを贈っていた。
最初の訓練生の1年は王都にいたのだが、毎日しごかれてクタクタになっていたので、たまの休暇も実家へ帰らずに寮と訓練場の往復ばかりだった。そしてやっと訓練に馴れた頃に、辺境への派遣となったのだ。そのせいで、もう1年以上も彼女とまともに顔も合わせていない。その埋め合わせの為、せめて贈り物を、と思ったのだ。
「……プレゼントより、メッセージの一言でも書いてやれ、っての」
ポツリと呟いたパットの言葉は、次は何を贈ろうかと悩んでいるアレクサンダーの耳には届いてなかった。
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「今日は何を付けようかしら…」
アクセサリーの前で、ヴィーラは複雑な気持ちで溜息を吐いた。
彼女の前には、机の上に並べ切れない程の大量のアクセサリーがズラリと並んでいる。これは全て、辺境に派遣されているアレクサンダーから贈られて来たものだった。彼が辺境に研修で行ってから約半年が過ぎたが、大体週に一度、多いときは二度もプレゼントが贈られて来ていた。一つ一つはさほど高価ではなく普段使い出来るようなさり気ないものではあるが、さすがに負担だろうとお返しの品と共にやんわりと断りの手紙を送ったが、他に使うところがないしお返しはいらないから、と短い返事が来てそれ以降もプレゼントは止むことはなかった。
「首は一つだし、手足は二本ずつしかないのよねえ…」
主に贈られて来るのはペンダントやブレスレット、アンクレットなどだった。指輪はきちんとサイズを測る必要があるので避けたらしい。そして贈って来るようになった最初の頃は、ちょっと外に付けて行くには躊躇われる独特のセンスの品だったが、ある時を境に急にセンスの良いものに変わった。おそらく誰かに頼んで選んでもらっているのだろう。
しばし逡巡した後、緑色の小ぶりな石の付いたペンダントを手にした。彼女の髪色をイメージしたような色の石と、その周囲に赤みがかった金属の花細工の金具が添えられたものだった。一見シンプルだが可愛らしいデザインで、特に気に入っていた。気が付けばそれを選んでしまうのも、その金属の色味がアレクサンダーの瞳を思い起こさせるからかも知れなかった。
そろそろノマリス家を訪ねる時間になる。再婚約をしてから約1年半。もともと外交官を目指していたウィリアムの妻になる前提だったので、夫が国外に赴任している間に妻が家政を采配出来るようにと通常の貴族の妻よりも後継教育に近いことを学んでいた。その為、当初2年の予定だったがもう教育は終わっている。今は、引き継ぎもかねてノマリス家での本格的な執務の一部ではあるが、受け持たせてもらっていた。
本日は大事な話があるからと、ノマリス子爵から言われていた。重要な話とだけ聞いているが、ヴィーラには心当たりがない。両親の方は何となく察しがついているようだったが、ノマリス子爵から直接話を聞くように、と送り出される。
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「先日、半年後にアレクサンダーに正騎士の資格認定が下りると、内々に連絡があったよ」
互いに挨拶を交わして軽く世間話などをした後、不意にノマリス子爵が居住まいをただしてこう言った。
「まあ!おめでとうございます」
学園卒業後、訓練と実地研修を経て、正騎士の資格を国から認定されるには最短で2年と言われている。あくまでも最短であって、その2年での認定はそれだけ彼が優秀であるという証でもあり、ヴィーラはそれを心から嬉しく思った。
「その為、こちらについて貴女に話すのも早めることに決めたんだ」
ノマリス子爵が、数枚の書類を差し出した。それを受け取ってヴィーラが目を通す。読み進めるに連れて彼女の顔に戸惑いが浮かび、書類の上を何度も目線が往復していた。
「…あの…これは…その」
何度読んでもすぐには信じられないことが記されてあって、ようやく疑問を口にしたヴィーラの声は少し掠れていた。
その書類は、ノマリス家の後継を指名して王家に提出する正式なものだった。その書類は二枚あり、一枚には現ノマリス子爵から次男アレクサンダーを指名するもの。そしてもう一枚には、そのアレクサンダーがヴィーラをノマリス家後継に指名することが記されていたのだ。
「私からヴィーラ嬢を直接指名するには手続きが煩雑であるし、息子がいることを理由に認められない場合もある。だが、現在子供もいないアレクが妻になる予定の婚約者であるヴィーラ嬢を指名するのは問題はない」
「そ、れは…子供のない寡婦が一時的に婚家を継ぐ場合なのでは?」
「騎士などの危険の伴う職業に就いている場合、配偶者、若しくは周囲が婚姻同然と認めた婚約者が継ぐことは認められているんだよ」
まだ各地で戦火が絶えなかった時代、騎士や兵士などが生死不明になることが珍しくなかった。その場合後継がいれば問題はないのだが、該当者がすぐに見つからずに誰も継ぐ者がいないまま家門が消滅することも多かったのだ。その後、後継が見つかってもそれが本物かどうか、消滅した家門の財産が散逸してどこに所有権があるかなど、膨大な問題が発生した。
国はそれを防ぐため、当主が危険度の高い職に就いている場合は、血の繋がりはなくとも配偶者や家令などが後継と同様の権利を行使可能な指名制度を取ったのだ。ただしその制度は指名された当人のみに限られ、正式な血統の者が見つかった場合は、充分な精査を行った上で後継者を交代させて家を存続させることになっている。
もし指名された者が存命中に血統の者が見つからなかった場合は、その領地や資産等は国に吸収される。
この制度は、平和になった今の時代も有効とされている。
「アレクが正騎士の資格を認められると同時に私は後を譲ろうと思っていてね。それからヴィーラ嬢を後継として指名することは全く問題はないよ。それにこれは、アレクから言い出したことなんだ」
「アレクが、ですか?」
ヴィーラとウィリアムの婚約が解消されてアレクサンダーがノマリス家の後継になるかという話が出た際、ヴィーラを自分の後継として指名することを前提に彼女と再婚約をオルタナ家に申し出て欲しいと提案があったという。
今は国家間の大規模な戦いはないとは言え、騎士が危険の伴う職であるのは変わらない。騎士科では、自分に万一のことがあった場合を常に念頭に置くようにと、後継の指名制度についてもきちんと学ばせていた。
「アレクが、ヴィーラ嬢なら我が家のことも分かっているし、これまで学んだことを無駄にさせるのはしのびない、とね」
「アレクが私のことをそこまで…」
ウィリアムと婚約してから彼の補佐として役立てるように色々と学んで来たことをアレクサンダーにも認めてもらっていたことが嬉しくて、思わずヴィーラは胸を押さえた。その指先に当たる、アレクサンダーの瞳を思い出させる色の金具が付いているペンダントが、ほのかに熱を帯びているように感じられた。
「本音を言うとね、私達もアレクよりもヴィーラ嬢が後継として我が家の執務をしてくれることを嬉しく思っているんだ」
「そうよ。あの子はそういうことに全く向いていなくてねえ…」
「ああ、あれは酷かった」
以前、ウィリアムが後継とは言え、万一がないとも限らないと言うことで、次男のアレクサンダーにも後継教育を受けさせていたことがあった。これは貴族の家では普通によくあることである。
だが大変残念なことに、アレクサンダーは後継者としての能力に著しく欠けていた。簡単な書類業務から試しに任せてみたのだが、結果的にその書類を修正するのに通常の3倍の時間を要した。事務作業が苦手なのかと言う訳ではないらしい。騎士にも必要な事務作業はある為、学園ではその試験もあったのだがそちらは何とかなっていた。しかし、どういう訳か後継教育方面では呪われたように壊滅的な結果だったのだ。
「アレク自身も己の力量は分かっているから、話をした時は間違いなく断ると思っていたんだがなあ…というか、正直『断れ』と念を送っていたのだが見事に無視して来てな」
「あの子が後を継ぐと言い出したときは、我が家はこれで終わるのね…と覚悟したわねえ」
「そ、そうだったんですか…」
両親にそこまで言われるとは、アレクサンダーが一体どれだけ向いてなかったのか、ヴィーラには想像もつかなかった。
「今から申請をすれば半年後の正騎士認定と同時に許可が下りるだろう。これが認められれば、ヴィーラ嬢が執務で出来ることも増えるようになるよ。今までは私を通したり委任状を作ったりしなければならなかったからね。どんどん好きに取り仕切ってくれて構わないから、楽しみにしているといい」
「…それはそれでプレッシャーです」
「いいのよ。私達はずっと前から貴女を娘と思ってますからね。優秀な貴女が本当の娘になってくれて嬉しいわ」
「はい…ありがとうございます」
恐縮するヴィーラに、夫人は優しくその手を握りしめてくれたのだった。
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本日もノマリス子爵と執務を行う予定だったが、急遽王城からの呼び出しが来たということで、夫妻揃って出掛けていた。ヴィーラの両親も、昨日から領地にいる当主の兄夫婦に会いに行っていて留守だった。
実家で過ごそうかとも思ったが、もう殆どノマリス家の一員として扱われているヴィーラはノマリス子爵から留守中でも自分の裁量で執務を進めていていいとの許可を貰っている。やはり当初の予定通りノマリス家へ向かうことにした。
「あら?どなたかしら」
「あのノマリス夫人でいらっしゃいます?」
「いえ、私は…」
「あ!アレクの婚約者さんですかぁ?」
「は、はい…」
ヴィーラがノマリス家に到着した時、正門前に馬車が止まっていて、ちょうどそこから小柄な人物が降り立ったところだった。。
赤みがかった長い金髪に、可愛らしい淡い桃色のドレス姿のご令嬢だった。ヴィーラに声を掛けられて振り返ったその顔は、大きな緑の瞳が印象的で薔薇色の頬をした美少女だった。カールした睫毛は長く、瞬きをする度に音がしそうだ。
「わたくし、パトリシア・グレッグと申します。アレクとはずっと辺境で一緒におりましたの」
「あ…ヴィーラ・オルタナと申します」
愛らしい様子で小首を傾げながら挨拶をされ、ヴィーラは戸惑いながらも美しい所作で挨拶を返す。その様子を見たパットは、一瞬目を眇めてヴィーラを見つめた。
「あのぅ、アレクとクロヴァス領から一緒に戻って来たんですけど、わたくしの荷物の中に彼の私物が紛れ込んでいたので、お持ちしましたの」
「まあ、わざわざありがとうございます」
届け物をしてくれたということではそのまま帰す訳にはいかない。たとえノマリス子爵夫妻が不在の場合であっても主人代理としての来客対応は既に任されている。ヴィーラはノマリス家の執事に急いでもてなす準備を頼むと、パットを応接室に案内した。
「グレッグ様と言うと、伯爵家の…」
「はい。田舎の広いだけの領地の貴族ですが」
「グレッグ伯爵領というと、王国の食料庫と呼ばれる程の豊かな領地で有名だと伺っております」
「まあ、ありがとうございます」
しばらく世間話を交わしていたが、思い出したようにパットが手にしていた鞄から小さな箱を取り出した。箱の様子から装飾品のようだったが、包み紙はなく封が切られているのが見えた。
「こちら、アレクの私物でしたの。ただ、申し訳ないんですけど、わたくしへのものかと思いましてうっかり開いてしまいましたの」
「いえ、お気になさらないでください。彼が間違えてしまったのですから」
「きっと、婚約者さんへのプレゼントだったと思うんです。だから申し訳なくって…」
パットは目を潤ませながらコテリと小首を傾げた。あざとい仕草ながらもそれを上回る可憐さで、ヴィーラもうっかり見惚れてしまった。
「あの、アレク…サンダー様とクロヴァス辺境領でご一緒と伺いましたが…」
「わたくしこう見えても騎士団所属なんです」
「ええっ!?…あ、し、失礼しました」
「いいえぇ!皆そうやって驚くんですよぉ」
思わず驚いて声を上げしまったことを謝罪するヴィーラに、パットはコロコロと鈴を転がすような愛らしい声で笑った。パットは、自己紹介も含めて自分が魔法士から騎士に進路変更したことなどを説明した。その際に、同じ新人騎士としてアレクサンダーと共に辺境領で就いた任務のことなどのエピソードも添える。ヴィーラは、短い手紙すら寄越さないアレクサンダーの辺境領での様子に、興味深げに熱心に耳を傾けていた。
「一緒に戻って来られたとのことですが」
アレクサンダーは、クロヴァス辺境領で1年派遣される予定と聞いていた。研修中の新人は基本的には3ヶ月から半年程度で別の場所に派遣されるそうなのだが、人手の足りない領地では貴重な人材として1年の留意を求められることもあるという。
「わたくしは辺境領での研修は半年だったんですけど、アレクがどーうしても一緒に王都に戻りたい!と強引に馬車に乗り込んで来まして」
「馬車に、ですか。それは大変失礼なことを」
婚約者や恋人などではない限り、未婚の令嬢と二人っきりで密室になる馬車に乗るのはあまり褒められたことではない。しかも強引に乗り込んだなど完全にマナー違反だ。
「アレクは辺境領での研修をわたくしと同じ半年にして欲しいと騎士団長様に直訴するそうですわ」
「直訴…それは、許されることなんでしょうか」
「よっぽどのことがないと今からの変更は難しいと思いますわ。まあ、今はあちこちで新人騎士が配置転換する時期ですからちょうど休暇期間ですし、こちらに戻って直訴する分にはおそらく問題ないと思いますけど。ちょっと団長様からお説教を受ける程度じゃないかしら」
厳しい罰にはならないようでヴィーラは安堵したが、何故そんな無茶をしたのかさっぱり分からなくて軽い頭痛を覚えた。
「辺境領では随分ご迷惑をお掛けしていたようで、申し訳ありません」
「いいのいいの。アレクとはあっちで遠征時ではしょっちゅう一緒の馬車で移動してたから、仲は良いのよ。ほら、わたくしこうして小さいでしょう?」
辺境の馬車は、鎧と同じで機動力優先で作られている。その為、二人乗りで小回りの効く小型タイプが多い。少しでも乗り心地を良くする為に、組み合わせは大柄の者と小柄の者でセットに乗せられるのだ。パット曰く、新人騎士の中で一番小柄だったパットと、一番大きかったアレクサンダーが組まされるのが遠征時の恒例と化していたのだと。
「遠征の度に貴女の惚気…んんん…お話を聞かせてくれるのが楽しくって〜。だから貴女とは初対面なのにもうずっとお友達でいたみたいな気がするわ!」
「光栄です」
「ねえねえ、貴女のことヴィーラお姉様って呼んでもいいかしら?わたくし、一人っ子だからお姉様が欲しかったの!」
「は…はあ…」
「わたくしのこともパットと呼んでくださいませ!ヴィーラお姉様!」
正面に座っていたのに、いつの間に移動して来たのかパットはにじり寄るようにヴィーラのすぐ隣にまで来ていた。気が付くと体が密着する程側に座られて、しっかり手まで握られていた。こんな風にグイグイ来るタイプとはあまり出会ったことがなかったので、完全にパットのペースに呑まれている。ヴィーラは、学園時代に仲が良かった男爵令嬢の家に招待された時、飼ってた犬がこんな感じだったなあ…あの子は元気かなあ…などと少々現実逃避をしていた。
「あらあ?お姉様の付けてるペンダント、わたくしとお揃いですわぁ」
いつの間にかパットにガッチリ抱きつかれていたヴィーラの胸元に、揺れるペンダントを目敏く見つけられた。
「わたくしもアレクにいただいたものですの。『いつも良くしてくれるから』って。ほら、わたくしの瞳の色と同じですって」
「よくお似合いですね」
パットは、形よく磨かれた爪の先で自分の胸元のペンダントトップを掲げて見せる。確かにパットが持っているのは、今ヴィーラが身に付けているものと同じ意匠だった。自分の貰った緑の石とは微妙に色味が違うように思えたが、今は自分の胸元にあるので並べて比較は出来ない。だがパットの持つ緑の石は本人の瞳の色と寸分違わず揃っているようで、とても可愛らしく思えてヴィーラは素直に感想を述べて微笑んだ。
それを聞いて、パットは一瞬だけ鼻白んだような表情をしたが、すぐにヴィーラに再び抱きついて来た。遠慮なくギュウギュウ抱きついて来るので身動きが取れない。思った以上に力強く、小柄で華奢に見えてもさすがに騎士団所属だとヴィーラは感心していた。
「お姉様、しばらくこうしててもいいですか?何かこう…人肌が恋しくて」
「え?ええ…それは…構いませんけど」
「お姉様、お優しい」
キュウ、とご機嫌な様子で抱きしめられて最初は戸惑っていたが、ヴィーラは末っ子であったし近くにいた年下と言えば弟のようなアレクサンダーだけだったので、妹がいたらこんな感じなのかしら、などと最終的にはすっかり受け入れていた。パットの自分より高い体温が、まだ小さかった頃に甘えて来たアレクサンダーをつい思い出してしまったのもあり、ヴィーラは何となく暖かい気持ちになったのだった。
(そう言えば、パット様とアレクは一緒に王都に戻って来てるのよね?じゃあこっちには寄らずに王城に直接行ったのかしら?)
アレクサンダーの行方を聞こうとしたのに、何故か抱きつかれて有耶無耶になってしまったヴィーラは、こっちにも顔を出すかもしれないから一応何か好物でも用意してあげた方がいいかしら、などと少々ズレたことを考えていたのだった。




