逡巡と罰と野望と。
前回の通り連続投稿です。
「いいのか?奴ら放って置いて。」
合流したカナタは誡斗に妖を放置して良いのかと問う。それに対し誡斗は…
「いいのさ。あのくらいの妖は自分より強い奴がいる所を襲う事はない。ここにはもう来ないさ。」
誡斗は『自分より強い者がいる場所を襲わない』という習性を利用したのだ。
妖は強きものに従う。奴等よりも自分達が強い、それを知った以上、あの虫型妖はもうこの果樹園を襲わない。
そして先ほど救助した少女と共に、農家たちの元へと向かった。
「妖は追い払いました。ここに来る事はないでしょう。」
「皆様には果樹園だけで無く孫まで救っていただいたようで… 何とお礼を申し上げれば良いのか。」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!」
あの後、女の子を無事に農家たちの所へ連れて行った。
農家たちは果樹園だけでなく、自身の孫まで助けられたことに感謝の言葉が見つからない様子。
「いえ、これは仕事ですから。」
「ではオレ達はこれで。」
「そうですか。この度は本当にありがとうございました。」
そう言い誡斗達『天津風』は風月の森を後にした。
そしてその帰り道…
「フゥ…」
「誡斗君? 大丈夫?」
「あぁ、まぁな。…さっきの頭目の妖は死なせちまったからさ。」
そう、誡斗は戦う前に「誰一人死なすな」とそう言った。それは人だけでなく妖に対しても言ったのだ。
誡斗が無駄な戦いを避けたいという性格なのは皆知っている。
だからこそ、そうした。相手が人であれ妖であれ無駄な殺生を禁じている。それが『天津風』なのだ。
だが、誡斗は今後の憂いを弾くために頭目の虫型妖を殺した。間違った判断とは思わないが、ああ言った手前、そして自己の思いからやるせない思いがあった。
「大丈夫よ。君の判断は間違いじゃないから。」
「そうですよ。それに背負うなら私たちも背負いますから!」
そんな時、雪菜や風華に諭される。その言葉で少しは気が楽になった。
「あぁ、ありがとな。二人とも。」
「もしもし、私を忘れないでくれよー。」
すっかり置いてけぼりのカナタ。自分だって雪菜や風華と同じ気持ちなのだから。
「ハイハイ、わかってるよ。」
「どうだか。話を戻すがアイツらの上位の存在が何をするのか、分からないのが気掛かりだね。」
「ま、当面は奴らは大人しくしてるだろうし、それまでに解決しないとな。」
「次はそうはいかないかもだしな。」
「うん。相手が宗教だからね。」
「そういうのが一番相手しづらいのにぃ…」
妖が発した宗教の教えとは、人間を殺すというモノだった。
それらと関わりを持つ存在が近くにいる。それは事実だ。それに風華は思わずは頭を抑えた。
「何にせよ、近いうちにデカいヤマに当たるなよなぁ。」
「それでも、無駄な殺生だけはしたくない… なんて言ってられないか…」
誡斗のその思いに、3人は無言で頷いた。
彼らを照らす夕日も、どこか悲しげに見えた
時刻は18時を周り、辺りが暗くなって来た頃、双帰亭に帰って来た誡斗達。そんな彼らが見た光景が…
「…」
「…」
「ちょっとー! なんか反応しなさいよ!」
「ちょっ!姉貴! 騒ぐなって!」
「おかえりニャ〜。みんニャ。」
エプロン姿の少年と少女がひたすら縦7㎝横3㎝高さ1.5㎝の木製ブロック(いわゆるジェン○ブロック)を逆ピラミッド状に積み上げているところだった。
「いや〜、随分楽しそーだなって。」
「楽しい訳あるかッ! 昼からずっとコレだぞ!」
「だぁ〜〜ッ!! 姉貴!静かにしてくれ!」
「寝坊するからだよ。叶芽、ワタル君。」
「いつもの事だけど、まぁガンバレ。」
カナタに揶揄われる二人。少女はカナタに向け怒り、少年は姉に対して怒る。
この二人は誡斗達が朝食を摂っていた時にまだ寝ていた者たち。天津風のメンバーであり、姉の「紫空 叶芽」、弟の「紫空 ワタル」という姉弟である。
どうやら朝寝坊に対する[お仕置き]を受けている模様。
とは言えこの光景はいつもの事らしく、雪菜や誡斗は呆れつつも応援する。
「ニャハハッ。寝坊助さん方、あと3分で作らニャいと追加の[お仕置き]だニャ〜♪」
「「最悪だ〜〜ッ!!」」
『アハハハハハッ!!」
そんなこんなで笑いながらも応援し、次なる戦いに備えてひと時の休みに入るのだった。
*****
満月が照らす夜、月土連邦の国境に程近いとある山間に彼はいた。
修験者の服装をしているがその額には2本の角が生えている。
さらに特徴的なのが自身の胴体より長いその「脚」である。
彼は目を閉じ地面とは一段程高い岩の上で座禅を組んでいる。風が吹き木の葉が舞う中、彼は眉一つ動かさず座禅を組み続ける。
「ここに居たかぁ。探したぜぇ、相棒。」
そこに現れたのは動きを阻害しない程度の鎧に身を包んだ男。
ただし額には1本の鋭い角が生えており、彼の「腕」は自身の身体より長く、脚ではなく腕を使い歩いている。
「誰かと思えば、お前か…」
「よく言うぜぇ。分かってたクセによぉ。」
座禅を解き、声を掛けた男の方を向き脚を地面につける。だが膝の位置は頭を超える高さにある。
明らかに人間では無いこの二人、間違いなく妖である。こんな夜の山間で何をしているのだろうか。
「そろそろ移動しようぜぇ『桂践』。早くしねぇと間に合わねぇ。」
「…慌てるな『香迅』。まだ間に合う。」
脚の長い妖は「桂践」と、腕の長い妖は「香迅」と、それぞれ呼ばれ合った。
妖は普通、名前を持たないばかりか言葉を喋る事もない。
ある程度強い個体のみ言葉を発する事ができ、名前を持つ個体などほんの一握りなのだ。中には例外もあるが、彼等はその例外には当て嵌まらなさそうだ。
そして香迅は先程の会話の中で間に合わないと言った。どこかを目指しているようだがどこに向かっているのだろうか。
「奴等は明朝に出発する。だが俺達の目的地はそう遠くは無い。慌てず騒がず、動けばいい。」
「ま、そうだなぁ。しかし久しぶりに暴れられるとなると、滾ってくるねぇ!」
「否定はしないが、無茶はするなよ。この時の為に多くの同士を募ったのだからな。」
「勿論さぁ。それに、全てはあの御方の為…」
「「全ては、我等が『神』の為!」」
そう言うと彼等は移動を開始した。
あの御方… 神… 気になる単語だらけだが、彼等は何かしらの目的があるのは明白だ。
多くの謎を残しつつ、夜は更けていく。
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