付近の裏事情
「まさかこんな近所に出るとはな…」
「それも山一つ陣取ってやがる。」
あれから一時間経ちようやく誡斗は「お仕置き」から解放された。
そして雪菜、武蔵とともに組合に赴いてみれば、組合の掲示板に貼られた妖関連の依頼書の数に圧倒され、嬉しくない賑わい振りを体感、目にした後訪れたのは十六夜からさほど離れていないとある小さな街。
二日前に15〜20体程の妖が付近の山に現れたようで、幾らかの家屋などに被害が及んでいる。
住民はすでに避難したため無人である。
だが、その山は街から徒歩4歩程度の距離しかない。且つその数は倍近くまで増えているのが分かる。
「流石に3人じゃ足りないんじゃ…」
「取り敢えず、やれるとこまでやってみようぜ。」
そう言いつつ山に足を踏み入れ10分後。
ガサガサッ… バキィ…
「反応あり。10時から1時の方向にかけてこっちに真っ直ぐ来てる。」
「おいでなすったか。真っ直ぐ来るなら…向こうに出るか。」
「確かに、向こうはここより開けてるしな。」
誡斗達は20m程奥にある開けた部分へと向かう。
その最中にも大勢で草木をかき分けこちらに近づく音がする。
やがて、追跡者達は姿を現す。
『グギャァァッ!!』
『グルオォォッ!!』
現れたのは四足歩行の動物に角や棘、羽、数本の触手を生やしたような見た目の妖が縄張りに入った獲物を追い立てるかのように半円状に囲む。
その数、およそ36体。
「オイオイ、聞いてた話より多くねぇか?」
「だが1体1体は大した奴等じゃない。互いに守りながら戦おう。」
「うん。」
「オウ。」
誡斗達はそれぞれの武器を構える。
そして激しい戦闘が始まる……
かに思われたが5分も掛からず妖側は全滅した。
こちらが3人に対して向こうは36体と12倍の差があったにも関わらずだ。
「随分呆気なかったな。」
「この辺りにもう反応は無いよ。全部倒してる。」
「コイツら…… 連携も協調性も無かった。まるで「行け」と言われたから来て偶然集まったみたいだったな。」
誡斗の呟きに二人は頷いた。
妖は基本群れない存在。群れを成した妖、徒党を組んだ妖は、ボスを中心に連携した動きで獲物を狩ることが多い。
だがこの群れはまさに烏合の衆。自分勝手に単調な攻撃をしてくるだけだった。
おまけに1体も逃げ出す個体がいなかったため簡単に全滅したのだ。
「これも髑髏衆絡みなのかな?」
「それに便乗した他の何か… っていうのは無いか。」
「現状何の手掛かりも無いしな。」
妖達の死体が粒子となって消滅するのを見届けた後、誡斗達は山を降りた。
*****
「…という感じだな。2班の成果は。」
その日の午後5時。双帰亭に帰って来た天津風のメンバー同士で今日の報告会が開かれた。
カナタ達1班や風華とワタルの3班も概ね似た様なモノだったらしい。
ただし、どちらも体長約5m程もある巨大な妖が1体ずつだったらしいが。
「よーするに、数が違っただけで対して変わらんと。」
「今の所はそうだな。ワタルと風華は?」
カチャカチャ…
「まー、出てきたのは… カナタ兄の方と対して変わらなかったよ。デカイ鳥みたいな、ヤツだったけど。」
「複数では無かったですね。翼が2対あるハゲワシみたいなのが古い砦に陣取ってました。」
「じゃあ特に情報は無しか?」
カチャ、カチャ…カリカリカリ…
「いや、戦闘中誰かに見られてる様な、気がしたんだよね。」
「何ィ。人様の妹を覗き見とは良い度胸だ。…で、誰に見られてたんだ?」
「それが分かってたら苦労しないよ。姿どころか、顔も見てないんだから。…まぁいたっていう確証はないけど。」
「なるほど… もし居たのなら情報収集か、監視って感じだな。それも相当腕の立つやつだな。」
「ま、用心しておくに、越した事はないでしょ。…よし、できた。」
「ところでワタルよう。さっきから何してんだ?」
会議中にも関わらず先程から聞こえるカチャカチャといった作業音。
これはワタルが何かを組み立てている音である。
そしてその手には様々な色に塗られた、いや、色の違うパーツで出来た拳銃の様な見た目の銃があった。
「ヨッと。」
パシュッ! カァン!
ワタルは庭に出ると拳銃にマガジンを装填し、奥の的に向け引き金を引いた。
銃口から光の銃弾が放たれ、真っ直ぐに的の中央に命中した。
「うん、我ながら上出来。…いや〜、砦の中にパーツに使えそうなやつがあったからさ、多少もらってきちゃった。」
「それドロボーじゃね? 姉貴はドロボー育てた記憶はないぞー。」
「大丈夫だって、依頼主に許可取ってきたし。それにコンパクトなやつ欲しかったし、材料余ってたから丁度良かったよ。」
拳銃を掌で回すワタル。
どうやら余り物と拾い物のジャンクパーツで銃を組み立てたらしい。
「いやぁ… 余り物と拾い物で銃一丁作るとは、相変わらず天才だなワタルは。」
「お褒めに預かり光栄至極。なーんてね。」
「全くだぜ。なんでお前がこんなとこに…… イヤ、何でもねぇ。」
小次郎の疑問に数瞬、ワタルと叶芽の眉が歪んだように見えたが、後にワタルはすぐに笑顔を見せる。
足元に置いてあった、綺麗に包装された箱を抱えて。
「…あぁそうだった、どうもこーさん。このフィギュアありがとね。」
「ん? あーッ!? ホントにやりやがったのか! オメェよくも人の金でそんなモノ買いやがったな!」
「ありゃこーさんが悪いんだよ。あ、隊長、カイ兄休憩入るねそれじゃっ。」
「おいコラ!待ちやがれワタルゥッ!!」
目尻に光るものが見えた気がしたが恐らく気のせいではないだろう。
口早に休憩を告げ流れるようにワタルが出ていき、それを小次郎が追って行った。
「全く、アイツらは…」
「ま、オレ達も休むとしようぜ。」
会議はそのまま閉会となり一同は解散した。
そして翌日、小さな運命が動くことを、一同はまだ知らない。
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