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前日

 ──愛の病。

 そんな名前の都市伝説を聞いたことがないだろうか。

 

 俺こと風野葵(かざのあおい)がそれを知ったのは、中学生を名乗れる最後の日の夜遅く。

 次の日から始まる高校生活(げんじつ)への嫌気からいじくっていたインターネット、そこでたまたま触ってしまった都市伝説紹介サイト。

 その中にあった、今一番覚えておきたい都市伝説なる項目に記されていたのを、たまたま偶然に発見してしまったときだった。

 

『時に愛は目に宿る。揺らぐことなき真の愛を持つ者は、愛する者以外には見えない愛の形が映し出されるのだ』


 何でもそれは数少ない実在する症状だとか。

 真の愛とはまさにこれのことだと、何か目でも悪くなりそうなくらい派手に記載されている一項目。


 ……阿呆らしい。ほとんど抽象的だし、もてないからって拗くれて書いた黒歴史か?

 書いてあるそれっぽいだけの文を頬杖を突い眺めながら、ため息感覚で欠伸を吐く。


 まったくもって馬鹿馬鹿しい。

 どうせどっかのイケメンに群がる様への嫉妬。或いはストーカー事件の考察とか、そんな俺みたいな人種(陰キャラぼっち)が女に飢えて書き上げた妄想、そんなところだろう。


「……んなもんあるなら、俺もそのくらい惚れられてみたいな」


 都市伝説なんて所詮はほら話。

 トイレの花子さん、それと神隠し的な異世界送りくらいしか信じられるものはないとわかってはいる。

 ……けれどどうせなら、もし本当に存在しているのなら。

 明日から通う高校にいるであろうまだ見ぬ美少女達が、ここに書かれているくらい熱烈に俺を好きになってくれないかと、僅かに小年心を踊らせてみる。

 

 口は悪いけどなんだかんだ言って優しい幼馴染、愛らしく微笑んでくれる義理の妹、少人数の部活に所属している黒髪ロングの美少女、後は凜とした佇まいの生徒会長とかその他諸々。

 どこぞのギャルゲの主人公のように、華やかな女性達に囲まれ謳歌する日常。健全な思春期なら、男女問わず一度は考えつきそうな煌びやかな幻想。


 ──馬鹿馬鹿しい。

 

 夢物語が許されるのは、中学にいた糞野郎とか異世界から帰還した勇者系非一般人、そんな次元違いの存在達だけ。

 俺みたいな凡人陰キャラぼっちは所詮ゴキブリ以下……いや、疎まれながらも日々を懸命に生きているゴキブリさんなどとは比べるべくもない、ちっぽけな塵カス程度の生き物。クラスの隅っこで余計な注目を浴びないよう、声を地策すごすごと過ごしていければ幸せだというのにな。


「……はあっ」

 

 きゃっきゃうふふな妄想で気が紛れたのは僅か十秒ほど。

 思い出した嫌な記憶と自分の馬鹿さ加減への呆れを追い出すように吐かれたため息。

 

 勘違いするなよ俺。

 これから始まるのは空虚な灰色の青春。豪華絢爛、酒池肉林、波瀾万丈などどこにもない、退屈で予想通りの平坦な半日軟禁生活だ。

 

 明日からの高校生活に対して億劫さを増しながら、次の面白そうな都市伝説を探していく。

 もう三十分もすれば日が変わり高校生を名乗らなくてはならない。

 けれどせめて今だけは、この夜の中で眠気が俺を支配するその時までは。どうか現実よ、俺に追いつかないで頂きたいと切に思う。


 ──そう。後から振り返って見れば、このときもっと文章を読み込んでおけば良かったと思う。

 

 後悔するべきはこの夜、分岐点ダと思えるのはこの瞬間。

 たぶん俺が俺である限り無理な話だが、珍妙なものだと鼻で笑って終わりにするのではなく、読み込んでおくべきだったのだ。

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