鈴猫
チリン、と
軽やかな鈴の音がした。
音の方を向けば1匹の猫が行儀よくお座りしている。柔らかい薄茶色をした長い毛をふわふわとさせ、涼やかな青い瞳で真っ直ぐこちらを見ていた。
「やぁ。こんにちはレディ、君もお散歩中かい?」
オスかメスか解ってはいないけど、これだけ美しいのだからレディと言っても怒られないだろう。
当の本猫は返事をする訳でもなく、愛らしく小首を傾げるだけだったので、思わずその魅力的な毛並みに触れてみたくなってしまった。
しゃがみ込んでそっと手を伸ばせば、逃げる様子はなく指先の匂いを嗅いでいる。警戒はされていないようだ。
驚かさぬよう、そっと、そっと撫でていく。すると猫は焦れたように脚に擦り寄り、乗せろとでも言いたげに膝に前足をかけた。
そんなお誘いを受けて断るなんて男が廃るというもの。故に、地べたに胡座をかき喜んでエスコートすれば、猫はこちらに背を向けて寝転んでしまった。
リラックスしてくれるのは嬉しいが、出来ればこっちを向いて欲しかったなあ、なんて考えながら頭や背を撫でていく。その手触りは思い描いたものと寸分違わず心地よくて、ああ猫っていいなあ。でも飼うことは出来ないから残念だ。明日もここに来れば居てくれるかなあ。なんて耽っていると、ふと気がついた。
この子、首輪が無い。
こんなに毛艶も良くて大人しくて人懐こくて、飼い猫としか思えないのに。
首輪も付けず外に出す飼い主もいるにはいるだろう、しかしこの猫はいかにも金持の家に居そうな、高級な雰囲気をさせていた。
だからこそ違和感が拭えない。気の所為と言われてしまえばそれまでかもしれないが。
撫でる手が止まった事に不満を抱いたのか、猫は軽く伸びをしてから膝を降りてしまった。
数歩先を歩き、行儀よくお座りをして背中あたりを毛繕いしている。
振り返ったその体制のまま、猫は金色の瞳を真っ直ぐこちらに向けて口を開けた。
にゃあと鳴いたのだろうが、聞こえてきたのは軽やかな鈴の音だった。
めっちゃ可愛かったんだよにゃんこ。夢の中で自分はイライ・クラークだったのでそれっぽい口調にしました。それっぽいだけでイライくんではありませんよ!!(これは二次創作に含まれるのだろうか)