空・中・走・行
結界製のユニコーンに跨がり、平原を駆け抜ける。
背後からは大型の魔物が迫り、前方には魔物の群れが敷き詰められていた。
「ど、どうするんですか!? 逃げ場がないですよ!」
「大丈夫だ。逃げ場はある」
そう言いつつユニコーンの速度を上げて魔物の群れに突っ込み、高く高く跳躍した。
「と、飛び越えるんですか!?」
「いいや、空を走るんだ」
結界術で空中に足場を建設し、ユニコーンはその上に蹄を下ろした。
「どうせ門は開けてくれないだろうし、だったら上るしかないだろ? あの城壁の上までさ」
次々に足場を建設し、跳ねたユニコーンが空を駆け上がる。
「ひぃ! た、高い! 高いですよ! 落ちたら死んじゃいます! 食べられて骨も残りませんよ!」
「あぁ、だからしっかり掴まってろ!」
俊敏な動きで空を駆け上がり、ついに高度が城壁を越える。
その位置から見下ろした防壁の天辺では、何人かの兵士があんぐりと口を開けていた。
「そこにいると危ないぞ」
そう声を掛けつつ結界の足場から跳躍して、城壁の上へと飛び降りた。
「うわっ!」
「な、なんだ! 魔物か!」
「いや、でも人が乗ってるぞ!」
周囲の兵士たちが驚き、こちらに槍の穂先を向ける。
俺達は無害をアピールするために両手を挙げた。
「落ち着いてくれ。敵じゃない。魔物から逃げて来たんだ」
「そ、そうです、そうです!」
七奈はぶんぶんと頭を縦に振っていた。
「で、でも魔物に乗っているじゃないか!」
「これは魔物じゃなくて――」
「何事だ」
ユニコーンの説明をしようとしたところで、上官と思しき人物がやってくる。
白髪の女性のようで、その辺の兵士よりも上等な装備に身を包んでいた。
「紅葉さん! ま、魔物に乗った男が上から振ってきたんです」
「ほう」
彼女はゆっくりと足を進め、ユニコーンに手を触れる。
「これは……本物ではないな」
ようやく話がわかる人に会えたみたいだ。
「なんの魔法だ?」
「これは魔法じゃなくて――」
不意に背後から鳥形の魔物の叫び声がする。
そちらに展開していた結界剣を一振り飛ばして貫き、撃墜した。
「結界術なんだ。このユニコーンも」
証明としてユニコーンの色を抜いて透明にする。
そうすると彼女の目が見開かれ、周囲の兵士たちがどよめいた。
はじめて会った時の七奈とまったく同じ反応をしている。
「これは驚いた。まさか結界術にこのような使い方があったとは」
ユニコーンの色を戻すと興味深げにまた触れた。
「いいだろう。今は猫の手も借りたい」
手が離れ、彼女は視線を俺達に移す。
「見ての通り、今は非常事だ。正式な許可は出せないが、とりあえず留まってもらって構わない。ただし、それなりの働きはしてもらおう」
「あぁ、それでいい。元よりただで助けてもらおうとは思ってない」
「いい返事だ。ならば、その結界術を思う存分披露してもらうとしよう」
話は纏まった。
「七奈はどうする?」
「わ、私ですか? 私は……灯也さんの側を離れたくないです」
騎乗のために回されていた両手に力が入る。
まぁ、ここに置いていくのも酷な話か。
「――わかった、すぐに向かう」
そう話しているうちに、彼女――紅葉に誰かから通信が入ったみたいだ。
「東の城門が破られた。市街地に魔物が雪崩れ込んでいる」
「そいつらを全滅させればいいってことか」
東の方角に目を向けてみると、たしかに騒がしいことになっていた。
魔法で応戦している者がいるのか、ちかちかと発光している。
「なら、一直線に向かった方が早いな」
「一直線に?」
その疑問に答えるように結界術で空中に橋を渡した。
こうすれば城壁をぐるりと回って向かうよりもずっと早い。
「なるほど、こういうことか。キミには驚かされる」
「そりゃどうも。さぁ、行こう」
結界橋を渡って、東の城門へと急行する。
「キミたちは引き続き防衛を。市街地のことは彼と私がどうにかする」
「はっ!」
部下達に指示を出し、彼女も結界橋を駆け抜けた。
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