結・界・刀・剣
「あー……よく寝た」
大きなあくびを一つして、ベッドから立ち上がる。
その足でまず冷蔵庫へと向かい、昨日のうちに仕込んでおいた肉を取り出した。
それをオーブンに放り込み、魔法陣に魔力を流して熱量とタイマーの設定を行った。
「これでよしっと」
朝食の準備を終えて次に洗面所へと向かう。
同じように魔法陣に魔力を流して蛇口から水を流した。
顔を洗い、歯を磨き、着替えを済ませると、ちょうど朝食が焼き上がる。
「ちょっと重たいけど、精を付けないとな」
フォークとナイフを持って切り分けたステーキを口へと運ぶ。
急ごしらえにしては中々いい味をしている。
脂身の少ない部位を選んで正解だった。
「ごちそうさま」
テーブルの上に食器を放置したままリビングを出て玄関に向かう。
靴を履いて玄関扉を押し開き、草木が生い茂る森林のど真ん中に出た。
振り返ると森には不釣り合いな一軒家が佇んでいる。
「解除っと」
ぱちんと指を鳴らすと、一軒家から色が抜けて透明となり掻き消えた。
俺が昨晩から寝泊まりしていたこの家は、結界術の応用で造り出したもの。
指先一つ、俺の意思次第で、建築も解体も思いのままだ。
「さーてと、行くか」
うんと伸びをして、俺は森の奥深くを目指した。
§
地球が異世界と融合して数十年が経っているらしい。
生まれてからずっと見てきたこの風景は本来の地球ではない。
本当はどんな姿をしていたのだろうか?
その答えは今や老人たちの記憶と、古い写真の中にしかない。
時折、発見できる前時代の残骸を見て、思いを馳せるばかりだ。
「――グルルルルルルル」
しばらく森を歩くと低い唸り声がして、周囲に四足獣型の魔物が目の前に現れる。
周囲に目をやるとすでに取り囲まれているようだった。
「またお前たちか」
同種の魔物を飽きるほど相手した。
すでに対処法は熟知している。
「狙う相手を間違えたな」
結界術を使い、形作るのは結界を変形変質させて造った鋭い結界剣。
それを空中に幾つも展開し、不用意に跳んだ魔物を返り討ちにする。
同時に右手に結界刀を構築し、地上を駆けてくる魔物に対処した。
こちらからも駆け、すれ違い様に一体二体三体と連続で斬り伏せる。
そして最後となった魔物に上空から結界剣を振り下ろし、地面ごと真っ二つに両断した。
「これで終わりっと」
結界術を解除して結界刀を掻き消すと、すぐに亡骸の魔石化が始まる。
魔物は死ぬとその肉体が圧縮されて一つの鉱石となった。
この魔石の用途は多岐に渡る。
集めておいて損はない。
「あれと、あれと、あれ……あそこもか」
数と位置を確認し、すべての魔石を結界で囲む。
そうして結界を消し去ると魔石もその場から消えてなくなった。
別の場所に予め用意しておいた結界に転送させたからだ。
「慣れたもんだ」
魔石の回収を済ませて再び森を移動した。
§
「かなり日が傾いて来たな」
枝葉の天井から差す木漏れ日が茜色に染まっている。
完全に日が落ちればすぐに視界が黒に塗り潰されてしまう。
「夜は危険だし、今日はここまでだな」
ここは無理をせずに体を休めておくのが正解か。
「どの辺が……いいかな」
今夜を過ごす家を建築するため、いい立地を探して森を歩く。
周囲を見渡しながら足を進めていると、ふと遠くのほうで誰か走り抜けていった。
魔物ではなく人だ。
久しぶりに生きている人間を見た。
「ん?」
その誰かの後を追うように、今度は複数の魔物が駆けていく。
寄せ集めではなく、きちんとした群れのようで動きが揃っている。
「あの数はちょっと不味いかも」
走り抜けていった誰かは慌てた様子だった。
あの数の魔物を相手に対処できず、逃げているに違いない。
追いつかれたらそこであの誰かの命が終わってしまう。
「助けないと」
助けられるのに見捨てたら後悔する。
それに聞きたいこともあるしな。
「よし」
俺はすぐに行動に移し、知らない誰かを助けるために駆け出した。
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