第一話 宝物庫? 不思議な面子の鼻毛は伸びる! 美しい姫様!!
ここは、どうやら、寺のようだ。
寺の境内にある家の応接間のソファーに、ロングポニーテールの鮮やかで煌めく茶色の髪をした女性が妖艶なポーズで腰かけている。
ちょっと、離れたところには、地べたで正座をしている、ごつい筋肉をしたアフロの大男がいた。
「真馬、鼻毛」
妖艶なポーズで腰かけた美しき女性は艶やかな声でそそるようにいった。
「はっ、畏まりました、女王様」
真馬と呼ばれた巨漢は、アフロの髪形をし、両耳に金色のピアス、赤色のサングラスをかけ、身長190センチはあろうかという巨体だった。
肩が筋肉で盛り上がり、筋骨隆々の大男の鼻から、ニョキニョキッと鼻毛が何本も物凄いスピードで伸びた。
右鼻穴から伸びた鼻毛はテーブルの上にあったウイスキーの大瓶にくるくると巻き付き、左鼻穴から伸びた太い鼻毛は水割りの氷が入った瓶に巻き付いた。
その瞬間。
「いつものわりね」
ソファーの上で再び足を組み直し、左手で扇子を持った。
白地に美と墨字で書かれた扇子を見開き、妖艶な美しい女性は即座にいった。
「ハァッ、美神女王様!」
瞬時に美神が、右手に持って揺らしていたグラスに、真馬が両方の穴から長く伸びた鼻毛で、ウイスキーと氷を注ぎ込んだ。
「うーん、風呂あがりのウイスキーは最高ね」
美神はグラスを揺らしながら、ごくりと、ゆっくりもったいぶったようにニコリと微笑した。
少しずつ飲み、味の感銘に浸っている。
真馬は自身が入れたウイスキーにドキドキし、ウイスキーを飲み干す美神を上目遣いでみつめていた。
その時だった。
Doooon!
今、真馬たちがいる場所からは遠くのほうで物凄い爆発音がした。
「ッ! 真馬、なに? 今の音は?」
美神は血相を変え、爆発音とともに、ソファーから、さっとからだを起こして、裏手側を見た。
「これは寺の奥にある宝物庫のホウカラですヤ」
真馬は野太い声で語尾が高鳴りながらいうと、からだを後方に手向け、インスピレーションするように鼻毛を空中にウヨウヨ浮遊させた。
「宝物庫? まずいわ、あそこには、封印した異宝物が!」
美神は、立ち上がり、ぎょっとした顔で美と書かれた扇子で口を隠した。
「見に行くわよ、真馬、アフロ馬におなり!」
後ろを向き直り、美と書かれた扇子で真馬の鼻毛をあおいだ。
「はっ、かしこまりました、女王様!」
ぽーん!
なんと真馬は瞬時に巨躯の人の姿から馬に変身した。
しかも、その変身した馬の姿の頭には、アフロで赤い三角の鋭いサングラスをかけており、両馬耳には金色のピアスが付いているではないか?
「鼻毛、行くわよ、真馬」
美神はつややかにそそるような声でいい、真馬を一瞥した。
瞬時に馬に変身した真馬の両方の鼻の穴から、鼻毛がスピードを上げ、ニョキニョキ伸び、美神の腰に巻きついた。
鼻毛が弧を描き、スポンと馬に変身した真馬の胴体の腰掛部分に、ちょこりと美神を乗せた。
「いきますヤぁ!」
真馬は厚かましい馬声でほえ、鼻息を荒くして前足を高らかと上げ、猛烈な勢いで、宝物庫のほうに美神を乗せて走っていく。
(嫌な予感がするわ)
美神は少し俯き、細く美しい柳眉をくゆらせた。
けげんな表情をし、口を扇子でふさいだ。
☆☆
「ヒヤ(冷)ヒーんや、これは何があったんですヤ!」
宝物庫の前に着き、真馬は厚かましい馬声でやかましいくらい、大きなパンチの効いた声を張り上げた。
「降ろして真馬、鼻毛!」
真馬が馬に変身した状態からニョキニョキ鼻毛が伸び、瞬時に美神の腰に巻き付き太い鼻毛は、弧を描きスタッと、鼻毛に誘導されて美神は地に足をつく。
美神は降りると同時に「美」と漢字で書かれた扇子を見開いた。
「闇の魔気を感じるわ。気をつけて真馬!」
美神は宝物庫の前で懸念し、険しい表情で真馬を一瞥しいった。
「ブ、ラブラブジャー♡フゥン!」
ぽーん!
何と真馬は馬の状態から元の人間の容姿に瞬時に変身した。
身長二メートル近い巨躯の身体とアフロと赤いサングラスが光る。
「あっしが扉をあけますゼヤ。下がっていてくださいヤ、女王様」
「女王ね、確かにあやかしの国では女王だったけど、結婚してもね、なんだかね」
美神がそういうと、真馬は数歩前へ歩み寄り、腕組みをし、次の瞬間、動いた。
「放毛ぇけぇえっぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
真馬の鼻毛がシュルルと凄いスピードで伸び、観音開きの扉に巻き付き、左右に扉が瞬時に開けた。
くじゃくの羽のように鼻毛が宙を漂い、憶測のつかない反動に威嚇した。
真馬は寡黙な表情で腕組みをしたまま、勇み足でジリリと歩み寄った。
美神は扇子と自身の寺の式神の護符を何枚か引っ張り出し構えた。
「毛えぇぇぇぇぇッ、なんとヤぁ!」
扉が見開いた向こう側の光景を真の当たりにし、真馬は絶句する。
二人は、恐る恐る宝物庫の中へ歩み寄る。
「ッ、嘘? 鬼神面が泣いているなんて!」
宝物庫の中心に施工されていた鬼神像の面の瞳から血の涙が滴り落ちていた。
滴る鬼神像の面からの血は胴体の中心部に重宝され、祭られ護符で何重にもまかれて、左右に鬼の角が生えた青色の水晶に滴る。
「なに? 鬼水晶がっ!」
鬼水晶の色が奇妙な色にだんだん変わっていくではないか。
美神は血相を変え、大声で驚嘆し叫んだ。
だんだん鬼神像から滴る血で赤黒く鬼水晶が染まり、ひびが入っていく。
二人は動きを止め絶句し、息が止まる。
「そんなひびがぁ! 封印護符で砕けるはずがない鬼水晶がなぜッ?」
その時、かばうように真馬が横から美神の前に立った。
パキッ!
鬼水晶は粉々に割れた。
その割れた瞬間、歪な瘴気を放ち、光り輝き鬼水晶の破片は天井を破り、突き抜けた。
邪悪なオゾマシイ物の怪の魔気が現れ、どこか各地に光の弧を描いて物凄いスピードで消えた。
「私の封印護符が破られるなんて、いったい何が? まさか?」
「どうやら、鬼水晶のカケラが全て、散ったようデスヤぁ。そのカケラから瘴気を感じたデスヤ、もしや」
「考えられるわね。私も感じたわ。物の怪が、世に現われたかもしれない。気をつけないと」
二人は、懸念し、肩を落とした。
美神は声が途切れながら固唾を呑み、カケラが突き抜けた宝物庫の天井をみやった。
☆☆