理不尽な試練とその対価
生存報告を兼ねて投稿。
長らく執筆から離れていたこともあり、設定の食い違いがあるかもしれません。
指摘してもらえると助かります。
赤き怒りの落日は地表に激突する前に消えた。ゼフィがこれ以上被害が出ないよう魔法を中断したのだろう。
あのまま大地に落ちていたら紫氷山ダンジョンは溶解の後、消滅……跡形もなく消滅していただろう。そうなる前にと、アスターは拳を振りかぶっていたが杞憂だったなと拳を下ろした。
「終わったな」
「うん。約束通り手を出さないでくれてありがごふっ!」
「おい、血が!」
戦闘が終わった瞬間、ゼフィは口から盛大に血を吐いた。顔色もやや青い。元々の白い肌が病的な色味を帯びている。だが表情は華やかだった。一つの使命を終えた戦士の顔だ。
ひとまず魔力も体力も限界だろうゼフィにポケットから回復薬と魔力回復薬をセットで渡す。
「これを飲め。ちょっとは楽になる」
「う~、ありがとう。このレベルの魔法はまだボクには早いみたいだね……もっと力をつけなきゃ……」
これ以上の強さを求めてどうするのだろうかと思ったが、彼女にも事情があるのだろう。最強種を相手に勝つだけの力を、これからも求められるだろうから。それはレグノムの守護神、天帝として求められていることであり、彼女自身が目指す”守護者”の理想のためでもあるはずだから。
体力と魔力を回復させたゼフィはに浮遊するだけの力が取り戻したようで、ふらふらと地面から離れた。
「あんま無理しない方が良いぞ。そういうの後から響いてくるからな」
「なんかお爺ちゃんみたいな物言いだねえ、まあ大丈夫だよ……さてアレどうしようか?」
そう言ってゼフィはヒョウの残骸が落ちたあたりを指さした。ヒョウの巨大な骨の骸の山に、一つだけ青い光を放つ球体が残っている。ヒョウの内部に埋め込まれていた守護龍としての核――”ドラゴンコア”。おそらくは絶対龍皇インペリアルが創り出したであろう神秘の宝珠である。
ソレは、まだ生きているように脈打っている。
「どうって……回収するよ。相棒ならそうするだろうから」
「すぐにでも破壊したいところだけど、紫氷龍を譲ってもらった恩もあるからね。いいよ、ただし保管は厳重に……アスター!」
ゼフィの言葉が尻切れとんぼになっていく。その視線の先には、宙に浮いて淡く発光するドラゴンコアがあった。まるでヒョウの怨念が宿っているかのようだ。
「気をつけて……アレから魔力の集中を感じる。まだ生きてるよ」
「ああ、回収なんて言った俺が甘かった……破壊する」
ギュンと拳に魔力を込めるアスター。山一つ吹き飛ばせるだけの威力を込めて、地面を蹴った瞬間、かつて耳にした絶対君主の声を聞いた。
『余はインペリアル。余の守護龍を屠りし勇者たちに告ぐ。汝らにさらなる試練を与えん』
*
――同刻、焔連山中腹。
ラヴァを討伐したウズメ、ノース、カトレアはその巨体からドラゴンコアを捜索している最中だった。ウズメはかつて家族だったものの成れの果てを前にして、手を震わせながらナイフを振るっていた。
そしてウズメの詠唱魔法ノヴァナックルで焦げ付いたラヴァの頭部から紅の球体を取り出す。
すると作業をしていたノースとカトレアもやってきて、手元のドラゴンコアを覗き込んできた。
「これが本体……なのか?」
「なんか気味悪いわ……ドクドクしてる」
「ドラゴンコアだ。龍皇結界の守護龍には必ずこれが埋め込まれている。インペリアル様から下賜されるそれはそれは大変栄誉な……」
尊敬するこの星の主を侮辱されたと感じたのか、ウズメが反論しようとする背中、ドラゴンコアはウズメの手を離れて空に浮いた。
よもやこの状態から復活するのか?と身構えたノースとカトレアだったが、唯一、ウズメだけは尊き御方の気配を感じて跪いていた。
『余はインペリアル。余の守護龍を屠りし勇者たちに告ぐ。汝らにさらなる試練を与えん』
その声は言葉の一つ一つが、その身を打つような重みを帯びていた。絶対龍皇インペリアル。姿を見たものはおらずとも、その名は創世からテスラ大陸の果てまで轟く存在。
声だけ。姿は見えないはずなのに、ノースとカトレアは圧倒的な格の差を味わっていた。正直なところ今すぐ膝から崩れ落ちそうだ。
(信じられん、体が……魂が……)
(ただの声に怯えているというの?)
厄災龍と相対したときさえ、恐怖に打ち震えたことは無かった。
2人が無言なので、ウズメが「インペリアル様、発言をお許しいただけますか」と切り出した。
『よかろう』
「さらなる試練とは、いかようなものにございますか」
コアがやや暗くなり失望の色が濃くなる。
『つまらぬことを聞くな。問えば何でも教えてもらえるとでも思うたか? まだ余への依存が抜けておらぬと見える』
「……っ! 差し出がましく御身のお言葉に口を挟んだことをお詫び申し上げます」
ウズメは己の失態を恥じて顔を赤らめるが、幸いそれを見た者はいなかった。
『では続けよう。これから1時間後、余は王都シャトーを襲撃する』
「「なっ……」」
ノースとカトレアは絶句する。ここ焔連山から王都まで馬車で7日をかけた。今から戻っても襲撃には間に合わない。
『誤解があるようだから言っておくが、戦うのは余自身ではない。安心せよ』
その言葉にホッとする。あわや唐突に世界最強の存在と戦う羽目になるところであった。
『試練は3日間に渡り行われる。最後には余の分身が降臨するであろう。しかしだ、もしもそなたらが余の分身に敗北するようであれば……』
『王都シャトーを灰燼に帰す。老若男女、貧富貴賤、弱者強者、一切合切を問わずだ』
「バカな、そんな理不尽が許されるのか……」
ノースは怒りに震えていた。いくら創世の龍皇だからといって、そのような行いをするならば邪神と変わらないだろう。
だが許される。それが世界を統べる絶対龍皇という存在だから。
少なくともウズメは大して驚いていなかった。すでにインペリアルはこの世界の創り直しを考えているのだ。アスターがインペリアルに負ければ世界は壊され、新たな世界が作られるのだ。ならその過程でこのような茶番を仕組んだとしても何ら不思議はなかった。
『フフ、ただの理不尽ではないぞ? 理不尽な試練には、相応の対価を用意しようではないか。そうだな、例えば……誰か一人を生き返らせてほしい、などというのはどうかな?』




