#08 属性別職能
他に居住区画外部に興味を持たせる方法はないかと考え、私は古代文明として偽装した施設にダンジョンを設けることにした。
ダンジョン自体は惑星を構成するナノマシン弄るだけで簡単に自動生成させられ、難易度ごとに階層分けをして深く潜るほどに出現する魔法生物のレベルを上げることも容易だった。
出現する魔法生物の種類は地上に生息している生物の情報を取得し、ダンジョン階層に合わせたレベルで一定数を保つように発生させる。
またダンジョン内部には10階層毎に特殊な個体を待機させ、討伐後に地上または深層への転送装置が出現するようにした。
ただし深層への転送装置によって人格容器が再構築される先は、複数用意したダンジョンで共通のものとして地上からは到達出来ない場所に用意する。
そこで他所の居住区画の探索者と邂逅させることで、別の居住区画の存在を知らせることにした。
中には同じ世界の人間であるか疑う者もいるかも知れないが、全天を世界樹の枝が覆っているので会話の流れによっては個々の居住区画の所在地を特定する者も少なからず出てくるだろう。
生活圏の違う者たちがダンジョンという特異な場所で邂逅し、親交を深めた先に新たな物語が生まれてくれるのは間違いない。
そんな彼らが10階層毎の転移装置にて帰還する際には、それぞれの居住区画に戻すことで区画外部に住む者が居ることを広めてくれることだろう。
人格情報の登録地は共通のダンジョンで人格容器を再構築する際に個人個人の情報を保存出来るので転送先を選り分けるのはそれほど難しくはないが、やはりイレギュラーな事態もわざと織り混ぜることで全く知らない土地に転送するのも新たな物語の始まりとしては充分に活用出来そうなので確率低めに転移装置の誤作動を設定する。
これで他所の居住区画との接点を持たせることが出来たので、外部へ開拓を進める切っ掛けとしては問題なく機能してくれるはず。
次にすべきはなんだろう?
と考え、最初に転生させる人格情報たちには居住区画内での最低限の役割を与える必要性に思い当たる。
いきなり【星幽領域】での記憶消去の後に、ありもしない文明を捏造されたこちらに転生させられるのだからやることが定まっていないと困ったことになってしまう。
なので私は大雑把に属性別に職能を与えることにした。
わかりやすいところで『土』属性には地形への干渉能力から整地と基礎的な建築を任せる。
また『土』属性が構築した簡素な建築物の構成素材の置き換えを『金』属性の者に行わせる。
『金』属性の素材置き換えに関しては、情報を取得したことのあるモノ(触れたことのある素材)に限定した。
小型の物品の製造も『金』属性の役割とする。
そうやって製造された小物に特殊な効果を付与する場合には『火』属性の能力を用いることにしした。
『水』属性には何をさせようかと考え、物体を液化させる特性から素材の合成にる新素材の開発を任せることにする。
かなり職能が限定されてしまっているが、基本的に『火』『風』『水』『土』に関しては戦闘に特化させた拡張現実の魔法があるので狩猟やダンジョン探索などをこなす戦闘職として頑張って貰うことにする。
職能が浮かばずに困った『風』は空気中に散布されいるナノマシンに干渉してダンジョン内でなら広範囲に及ぶ索敵などの役割はあるが、居住区画では何が出来るだろうか。
色々と考えた末に空気中ナノマシンに干渉して広範囲に情報を伝達する特性を利用しての音響や新たに映像を空中投影する権限を与えて芸能方面で能力を発揮してもらうことにした。
『木』属性などは考えるまでもなく、治療師や第一次産業に従事して貰う。
生命情報の書き換えによって植物の促成栽培も容易で他にもやれることは多岐に渡りそうだった。
最後まで残された『無』属性はどうしたものだろうか。
生命情報の有無に関わらず重量の増減を行える能力から運搬などを担って貰っても構わないが、拡張現実を保存出来る特性を活かしたかった。
そこで私は拡張現実の製品開発を行わせることにした。
これはナノマシンの集合体に特殊な効果を付与したモノとは違い製品情報を『無』属性の者から譲渡された登録者がいつでも呼び出せる代物とする。
これならいわゆるRPGの空間魔法を用いたアイテムボックスに収納しているような演出も可能だった。
ナノマシン集合体のアイテムもやろうと思えばやれなくもないけれど、呼び出すごとにナノマシンの形状を再構築しなければならないので拡張現実の物品よりも現出にどうしても時間がかかってしまう。
ただ拡張現実で武器を造った場合は【抵抗】の影響を受けるので一段劣る性能になってしまう。
なのでアイテムボックスの容量を大きく占有することになるけれど、その辺りで性能の帳尻を合わせることにした。
これで属性別の職能はよしとして金銭のやり取りなどはどうしたものかと悩む。
貨幣や紙幣を発行したとして偽造が簡単に出来てしまうのである。
それならいっそのこと金銭のやり取りは情報だけで済ませるのもありかもしれない。
なにせ住民の人格容器は全てナノマシンの集合体なのである。
ステータスに【所持金】の項目を追加して、金銭の情報を交換させるのなら偽造の心配はないだろう。
【所持金】を偽装したとしても惑星全土の情報は常に監視されているし、受け取り手に送金完了しない限り契約も成立出来ない。
その裏を突くようなことを成した者には宿業値のおまけ付きで特別な技能でも与えることにした。