#04 転生
惑星と衛星間で情報のやり取りをする下準備が整ったので、今度は惑星環境をナノマシンを使って操作する。
眼前に拡張現実で現在の惑星をバスケットボール大に縮小したものを投影させる。
それを眺めながら手始めに地下に埋蔵された氷を素材にしたナノマシンを地表面に呼び出し、水にする。
地表面の6割を水が覆うように地形を変更し、陸地をどう配置するか試行錯誤を繰り返す。
最終的に大陸を7つ用意し、潮の満ち引きで地続きになる場所もあるが、基本的に大陸間はなるべく距離を離した。
海の水深は最大で200m前後になるよう海底の地形を微調整する。
あとは適当に陸地を隆起させ、山脈を配置していく。
世界樹周辺は簡単に人が近付けないように過酷な地形にした。
一旦、地形の操作はここまでにして気候の調整に移る。
【星幽領域】の気候を参考に年間の気温の変化等を設定し、一部の地形を設定した気候にあわせて凍結させたり砂漠化させるなどして微調整した。
そこまで設定が固まったところで気候と地形に即した植生を構築させる。
惑星は受信した植生情報を元に地表のナノマシンを変化させ、植物を次々と構築していった。
植物の配置に併せて、繁殖に小動物の力を必要とするものの側にそれらを発生させる。
それを起点にして食物連鎖を再現するように生態系を整えていった。
とりあえず人間だけを配置していない状態の惑星環境が完成したので直接自身の目で地上を確かめるべく、生物が余り生息していない世界樹付近に人格容器を用意させる。
現在使用している人格容器は衛星と同化させてから私は人格情報を惑星に向けて送信した。
惑星に降り立つと直前まで居た衛星との重力の違いに違和感を覚えたが、すぐに元の感覚を取り戻した。
周囲を見渡すと全く人間の手が入っていない自然環境が上手いこと再現されていた。
そんな大自然の中へと私は踏み出し、すぐに後悔した。
1番の原因は虫である。
私の身体はナノマシンの集合体なので生身のように外傷こそ負うことはないが、身体に張り付かれたりするのはぞっとするものがある。
それだけならまだいいがそれらを餌にしている者や動物たちが見慣れない生物である私を領土を踏み荒らしに来た外敵と判断して襲って来るのである。
なるべく自然に違いに状態を再現したため、私だけを特別扱いするといった措置を取っていなかったので仕方がない。
私は身体の出力を上げて逃げに徹した。
下手に害して今はまだ配置していない人間を恐れられても困るのである。
どうにか双方無事なまま逃げ切れたものの人間の身体は不自由極まりなかった。
視覚・聴覚・嗅覚の情報は限定されているし、骨格によって制限されている可動域など色々と縛りが多い。
いっそ全部取り払ってしまうかと思った辺りで私は固定観念に囚われていたのだと気付く。
今はもう【楽園】による枷は存在していないのだから姿を人型に拘る必要なないのである。
それなら人格容器どういったモノに作り直すかと考え、なるべく肉体的に制限のない生物をリストアップしていく。
その作業の中でも私はまだ固定観念を拭い去れていなかったらしく、これからこの惑星に構築するのはファンタジーめいた世界なのだから選択肢は既存の生物だけではないと考え至り、喜色を浮かべた。
最新の私が固有宙域内でプレイしていたRPGに高確率で出てくる魔法生物の中に丁度良いモノが存在していた。
不定形でぷにょぷにょとした魔法生物のスライムである。
不定形なので肉体に可動域の制限なく、状況に応じて肉体を変形させられ、周囲の環境は体表面から察知するために全方位を常時把握出来る感覚器官を有していた。
求めていた条件をこれだけ満たした生物は他に思い当たらないこともあり、私は人格容器をスライムに作り変えることで新たに生まれ変わることにする。
その際に体格はどの程度にするか迷った末に手のひら大と慎ましやかなサイズにした。
肉体の設定を完了すると身体は溶けるようにして縮み、余分なナノマシンは惑星と同化していく。
やがて私はヒトならざる肉体を得た。
違和感があるかとも思ったけれど、宇宙空間を周辺の情報も得られずに自身の姿を認識出来ない状態で長期間さまよっていた経験もあり、大して違和感はなかった。
記憶情報に関しては身体を構成するナノマシンに保存すれば問題ないので脳やらなにやらといったものの存在を考慮する必要がないのは助かる。
私の場合は惑星そのものが身体の一部のようなものなのでどこにでも存在出来るので分身を各地に生み出して記憶情報の分散して保存したりなどいろいろと遊べそうだった。
ただそんなことをしなくとも私自身は惑星上ならいつでもどこにでも瞬時に移動することが可能で、移動先に新たな人格容器を用意してやれば人格情報を転送するだけで済む。
なのでわざわざ分身を用意する意味は余りなかった。