*** 98 『神田メソッド研修会』7 育成環境 ***
「さて、それでは次に日米の選手育成環境の違いについてご説明させて頂きたいと思います。
日本の高校やプロの2軍での育成環境については皆さんの方がお詳しいでしょう。
『水を飲むことを禁じ、強制的に脱水症状にして選手の運動能力を極端に低下させたブレーキ状態で効果の無い練習をさせるのみならず、生命の危険すら与える』
『特に投手には日に10キロも20キロも走らせて、白筋を減らしめて力も瞬発力も低下させ、球速も球威も筋持久力も低下させる』
『漫画の影響を受けてうさぎ跳びなどの危険な行為を強要し、選手たちを筋挫傷や半月板損傷に追い込むという傷害事件を起こす』
などが主なものです」
((( ……(くっ)…… )))
「これに比較する対象として、私共の研究室がトレーニングコーチを派遣しているサンフランシスコ・ギガンテス傘下のワイルドキャッツの育成環境を例にとってご説明致しましょう。
因みに神田くんが日本のプロに行かず、5000万円とも言われた契約金を蹴ってワイルドキャッツに行ったのは、その育成環境が素晴らしいと思ったからでもありますが。
それではまず、みなさんが最も驚かれるであろう制度からお伝えします。
ワイルドキャッツでは、選手はコーチが勧める如何なる練習でも拒否出来るのです」
「「「 !!!!!! 」」」
「そ、そんな……」
「週に1度ほどの面談で練習方法の相談に乗ることはありますが、コーチが選手に練習を強要することは出来ないのですね。
もちろん水分や塩分の補給も選手の自由です」
「そ、それではコーチがいる意味が無いのでは……」
「いえ、高校を卒業したばかりの若い選手では、練習の方法もよくわからないのですよ。
ですからコーチの第1の仕事は、彼らにトレーニング方法を教えてやることなのです。
例えば動的ストレッチと静的ストレッチのやり方などですね」
((( ……なんだそれは…… )))
「やはりご存じありませんか……
動的ストレッチは故障を減らすために練習前に行う運動で、静的ストレッチは筋肉内の疲労物質の排出を促すために練習後に行う運動です。
因みに、日比山高校野球部の休日の練習は正味6時間ですが、そのうち1時間以上もこの運動に費やしています。
平日の練習でも3時間の練習のうち40分をこのストレッチに費やしていますね。
もちろん神田くんが始めたことですが」
「そ、そんなに……」
「なにしろ日比山でも東大でもワイルドキャッツでも、筋肉痛の選手は強制的に練習を休ませられますから」
((( えっ…… )))
「その理由は、筋挫傷や靭帯損傷のリスクを減らす以外にも、そうした筋疲労状態での練習では投球や守備のフォームを乱してしまうために逆効果にしかならないからです」
((( ……そ、そうなのか?…… )))
「加えて投手コーチたちは投手に変化球の投げ方も教えています。
もちろんカーブやシュートだけでなく、スライダーやフォーク、カットボール、シンカー、チェンジアップなどの変化球もですね。
さすがにまだナックルやジャイロやライズを教えられるコーチはいないそうですが」
((( なんだその聞いたこともない変化球は…… )))
「そしてもちろんワイルドキャッツのコーチは選手たちに打撃、守備などのフォームや練習方法も教えますが、そのコーチングに従うかどうかは、完全に選手に任されているのです」
「そ、そんなスタイルで果たして優秀な選手が育つのでしょうか……」
「あれ?
みなさんはご覧になっていらっしゃらなかったのですか?
そうやって育って来たメジャーリーガーが、日本の指導者たちが育てて来たと称するプロ野球球団を、完膚なきまでに叩きのめしていましたよね?」
「そ、それはそもそも体格やパワーが……」
「神田選手の体格もパワーもメジャー選手の中でも全く引けをとっていませんよ。
むしろパワーに関して言えば、パワーリフティングの世界記録保持者ですから。
ですから、日本人とアメリカ人の体格の違いという言い訳は難しいですね。
そもそも日本の選手たちが貧弱な体格とパワーしか得られなかったことについては、指導者たちの無知と怠慢によるところが大きいですし。
特に選手が摂取する各種栄養成分については、完全に放置されていましたので」
「う、ウチの野球部では、合宿所の生徒たちに毎日旨いものを腹いっぱい喰わせているぞ!」
「あなたは確か強豪私立の監督さんでしたね。
ということは育成予算も潤沢でしたか。
ですが、実は今の御年輩の方々がお考えになる『旨いもの』『栄養のあるもの』とは、肉と白米なのですよ。
そうして、肉と白米はリジンという必須アミノ酸の合有量が少ないのです。
そのために、せっかく摂取した他の必須アミノ酸が体外に排出されて無駄になってしまうのですね」
「な、なんだと……」
「しかも合宿所などで肉類を多量に食べさせようとすると、どうしても揚げ物が多くなります。
これは油脂の摂り過ぎにより肥満を助長しますが、あなたは生徒さんたちの体脂肪率をチェックされておられるでしょうか」
「そ、そんなもの、いったいどうやって計ればいいと言うのだ!」
「残念ながら今の日本では『体脂肪率』という言葉すら普及していません。
ですから、選手さんたちの体格が良くなったのが、筋肉量の増大によるものか単なる肥満によるものかが判別出来ないのです。
国内で体脂肪率計が普及していないのは、スポーツ指導者等がその存在を知らないからでしょう。
誰も知らないのなら誰も売ろうとはしませんから」
「ううっ」
「ですが、ワイルドキャッツでは週に1度体重と体脂肪率をチェックしています。
もちろん日比山高校野球部でも東大野球部でも、神田くんが寄贈した体脂肪率計によるチェックが行われています。
つまり、あなたもアメリカに行けば体脂肪率計は買えるのですね」
「うううっ」
「だ、だがあのギガンテスの選手たちの中にも太った選手は大勢いただろう!」
「彼らは太っているように見えて、その体脂肪率は全員が12%以下だそうです。
日本人男性の健康的な体脂肪率は10%から19%ですので、最も多い人でも下限近いところにいますね。
つまりギガンテスの選手たちの中で太っているように見えた選手もその大半が筋肉だったのですよ」
((( !!!! )))
「ただし、この10%から19%という数値は一般人にとってのものでして、筋肉量の多いスポーツ選手などではさらに低くなって行くことがあります。
陸上競技のトップアスリートの中には体脂肪率8%以下の人も大勢いるのですよ。
あの神田くんは5%ですが」
「な、なんだと……」
「話を戻しましょう。
このリジンという必須アミノ酸を多く含む食品は、実は大豆などの豆類なのですが……
残念ながらご年配の方は、戦時中の『代用食』の御記憶から、子供たちに豆類や野菜類を食べさせたがらないのです。
たぶんご自身が嫌悪されていらっしゃるからだと思いますが。
『あんな貧乏臭いものが喰えるか!』と仰って」
「「「 あぅっ! 」」」
「せめて玄米でも食べさせていればまだ栄養素は豊富だったんですが、これもご年配の方は忌避されますしね」
((( ………… )))
「また、多くの方は、『値段の高い食材=栄養価の豊富な食材』という誤解をされています。
本当は『値段の高い食材=入手が困難な食材』ということがほとんどで、もしくは『味がいいために値段を吊り上げても買ってくれるひとがいる食材』ということになります。
つまり、その食材の値段と栄養成分にはほとんど関係が無いのですよ。
しかもみなさんは『1種類でも摂取量の少ない必須アミノ酸があると、それ以外にいくらアミノ酸を食べさせても筋肉にならずに体外に排出されて無駄になる』という事実はご存知無いようですね。
実際には無駄になるだけでなく、排出のために腎臓や肝臓に負担がかかっていますので、むしろ害になっているのです」
「お、俺がやってきたことは全て無駄だったというのか……」
「全てとは申しませんが、その可能性は高いですね。
残念ながら、特にスポーツの場合は知識の伴わない努力は往々にして無駄に終わりますから」
「あうううっ……」
((( 『あみのさん』ってなんだ? )))
((( 『網野さん』って誰だ? )))
(神田: こいつら……)
「ですから、もし日本人アスリートの体格が欧米人に比べて本当に劣っていると思われたなら、それは栄養の量よりもむしろバランスが悪かったからであり、すなわち指導者層の不勉強から来るものだったと考えられます。
たぶん栄養士の資格を持つ野球指導者は日本にひとりもいないでしょうし」
((( そ、そうだったのか……)))
「アメリカ人を含む西欧人は、子供のころから日常的に豆類を大量に摂取しています。
もちろん穀類も小麦中心に。
そしてもしも過去10年間、野球指導者のみなさんが選手たちに全ての栄養成分をバランス良く摂取させていたならば、今の20歳の野球選手の筋肉量は推定で30%増になっていたことでしょう。
さらに長距離ランニングを無くし、腕立て伏せなどの筋持久力トレーニングのみではなく、筋瞬発力のための強負荷トレーニングを十分に行っていたとしたら50%増だったと思われます。
平均身長ですら10センチは高くなっていた可能性がありますので、おそらくメジャーリーガーとの体格差はほとんど無くなっていたのではないでしょうか。
神田くんのように。
彼の持論は『トレーニングとは鍛錬3割食事7割』ですからね」
「「「 ………… 」」」
「そしてもしみなさんが神田くんと同様な指導をされていたならば、今のプロ野球選手の平均年齢は25歳以下になっていたでしょうし、投手は全員150キロ台のストレートを投げられていたでしょう。
中には160キロ台を投げられる投手も現れていたかもしれません」
「「「 ……(ううっ)…… 」」」
「つまり、いくら長時間根性練習をさせても体格もパワーも技量も貧弱なままだったということは、それだけ日本の野球指導者たちの無能さと不勉強さを象徴していることになります。
まあ水も飲ませずリジンやビタミンも補給させなければ当然ですが」
「「「 ……(くっ)…… 」」」
「みなさんは、神田くんがワイルドキャッツの入団テストを受ける前に行った記者会見を覚えていらっしゃるでしょうか。
彼は日本の球団の育成内容が大いに不満だとして渡米したのですが、その不満の内容は、
『水を飲ませない』
『長距離ランニングを強要する』
『筋トレ施設すらない』
だけでなく、
『宿舎の食事に全く配慮が無く、栄養バランスが最悪である』
というものもありましたでしょう」
((( そ、そういえばそうだった…… )))
「また、日本の野球選手の体格が貧弱なことについては、大きな体格を持つ生徒さんを指導者たちがうさぎ跳びなどの理不尽な練習によって潰して来たことも大きいかと思います。
先ほども申し上げました通り、体格のいい生徒さんほど、うさぎ跳びによる膝へのダメージは大きくなりますので」
((( …………… )))
「つまり、日本の野球指導者はうさぎ跳びを通じて野球部から体格のいい生徒さんを排除し、小柄で軽量な選手ばかりにしてきたことになります。
日米の野球選手の体格が違うのは当然ですね」
「「「 ……(あぅ)…… 」」」
((( そういえばウチの監督、自分より遥かに身長が高い奴ほどいつも殴りつけてたな……
それでそいつが退部すると『根性無しがいなくなって清々したわい』とか言ってたか……
あれは劣等感だったのかも…… )))
((( そういえば俺たちも、自分より遥かに身長が高い奴ほどいつも殴りつけてたな……
それでそいつが退部すると『根性無しがいなくなって清々したわ』とか言ってたか……
あれは劣等感だったのかも…… )))
((( レギュラーも『根性のある順』とか言って選んでたけど、結果は背の低い順番だったんだよな…… )))
((( だからウチの先発メンバーは全員160センチ以下だしな…… )))
((( そう言えばコーチにさせてくれって奴は結構来るけど、監督が選ぶのはいつも背の低い奴だったか……
俺たち全員155センチ以下だもんな…… )))
((( だから今の高校野球選手ってみんな背が低いもんな…… )))
(神田: マジかよ……
確かになんでみんな背が低いのかって不思議に思ってたんだけど、阿呆監督や莫迦コーチの劣等感のせいだったのかよ……)
「また、特に長距離走に於いては体内のカルシウムを大量に消費します。
つまり、これも先ほども申し上げました通り、毎日長時間走らされる成長期の選手たちは、カルシウム不足によって身長の伸びすら阻害されてしまったのです。
このカルシウムを積極的に補ってやってきた指導者は日本には存在しないでしょうから、日本の野球選手の体格は余計に貧弱なものになってしまったのでしょう。
因みに豆類にはカルシウムが豊富に含まれていますので、生徒さんたちに大豆などを摂取させないのは実に残念なことですね」
((( くくくっ…… )))
((( そ、そうだったのか…… )))
((( そ、そんな大事なことをなんで今まで誰も知らなかったんだ…… )))
((( 『かるしうむ』ってなんなんだ?
スペシウム光線の親戚か? )))
(神田: こんな↑阿呆に選手はともかく『指導者』とかやらせんなよ……
高校球児のために阿呆はみんな馘にすべきだろうに……)
「ですから、この研修ではトレーニング方法だけではなく、相応な時間を割いて栄養学の講義も行います。
みなさん、初めて聞く名称や効果ばかりだと思われますが、どうかご努力下さい。
この知識こそが日本のスポーツ指導者に決定的に欠けているもののひとつですから。
出来ればさらにご努力頂いて、栄養士の資格もお取りいただければと思います」
((( ううううううっ…… )))




