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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
97/157

*** 97 『神田メソッド研修会』6 研究者の星 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。





 原宿助教授はまた聴衆を見渡した。


「どうも多くの野球指導者の方は、水分を摂らせないために、筋トレ後のタンパク質補給すら行わせていないようですね。

 また、食事の内容にも無関心であったために、せっかく辛いトレーニングをさせても筋肉は増えなかったのです。


 それからもう一つ神田くんが気を付けていたこと。

 それは『強負荷トレーニングは、自分が6回から8回挙げることが限界である重量で行う』ということでした。

 これはスポーツ医学界では既に確立されている学説でもありまして、最も筋肉量を増やして筋瞬発力を上げられる方法なのです。


 ですが、実は日本でこの理論が認知されるようになったのはつい数年前のことなのです。

 元々は10年ほど前に西ドイツで発見されていたものでして、つまり神田くんは日本の研究者に遥かに先んじてこの理論を知り、そして実践していたのですね」


((( ………… )))


「そして同じ部位の筋トレは1日に2セットから3セットまでしか行わないのがベストの方法なのです。

 それ以上行うと筋挫傷、皆さんの言う『肉離れ』の危険が飛躍的に増しますので」


((( ……………… )))


「そしてもうひとつ重要なことは、『同じ部位の筋トレは毎日行ってはならない』ということなのです。

 3日に1回、2日おきにすべきなのです」


「そ、それはなぜなのでしょうか……」


「筋肉は酷使されているときには太くなりません。

 酷使されてズタズタになった筋繊維が修復されるときに太くなるからであり、通常この修復には3日かかるからです」


「2日おきに6回から8回の筋トレを2~3セットですか……

 そんな僅かな練習で本当に筋力が上がるのでしょうか……」


「当時、東大野球部の監督やコーチも同じ疑問を持ちました。

 ですが、神田くんは全身30か所ほどの筋トレを日に10か所ずつ行っていましたからね。

 それでも時間はあまりかかりませんので、せいぜい45分ほどのトレーニングでしたが。

 ただ、その結果があの筋肉の塊のような体であり、パワーリフティング競技会での世界新記録だったのですよ。

 因みに私共研究室の研究員も全員が同じ鍛錬をした結果、日本ボディビル選手権大会のベスト10に4人も入ることが出来ましたが」


「「「 !!!! 」」」



(ここでその4人の研究員がブーメランパンツひとつで登場。

 その場でにこやかにポージングを始めた。

 全日本レベルの隆々たる筋肉が躍動している)


「「「 !!!!!!!!! 」」」



「いかがですか。

 みなさんの仰る『僅かな練習』でここまでのカラダが作れるのです。

 因みにわたくしも同じトレーニングをした結果、30歳代の部で全日本3位に入れました。

 皆さんも同じトレーニングをされてみて、筋肉が育って行く過程を実感されてみては如何でしょうか。

 男性の場合、身長などの成長はおおよそ25歳で止まりますが、筋肉は鍛錬によって何歳まででも増え続けますので」


((( ………… )))


((( じ、冗談じゃない。

 生徒に混ざってそんな鍛錬なんかして、もしも重量で負けたら生徒にナメられちまうじゃねぇか! )))


((( 俺たちの商売ぇは舐められたら終ぇだろうに…… ))) 

(↑ヤクザ屋さんの口癖と同じ)



「つまりトレーニングによる成果とは、そのトレーニングにかかる時間とは関係が無いのですよ。

 長時間のトレーニングはやはり苦痛でしょうが、ここでも皆さんは『苦痛があればあるほどそのトレーニングは効果的である』、つまり『長時間のトレーニング程効果的である』というカン違いを為さっているのです」


((( ……………… )))


「ことほど左様に、トレーニングというものは指導者の知識が問われるものなのですね」


((( …………………… )))


(研究生たちの大胸筋が上下に大きく揃って動いている。

 それはまるで原宿助教授の発言に相槌を打っているように見えたのであった……)



「それから、念のため申し添えますが、先ほど申し上げた『2日おきの筋トレ』は、まだ筋肉が大きく育っていない未熟な選手のための方法論です。

 筋肉が十分に育ったあとは毎日の鍛錬に切り替えますが、それでも回数は6~8回を日に2~3セットまでですね。

 ですからさほど時間はかかりません」


「あ、あの……

 未熟な者が毎日の鍛錬を行えるようになるのは、どの辺りが境界線なのでしょうか……」


「これは神田くんが考えた基準なのですが、ベンチプレスで180キロを8回挙げられるかどうかが境界線だそうですね」


「「「 !!!!!! 」」」


(今度は壇上にベンチとバーベルが持ち込まれ、巨大なウエイトをつけたベンチプレスが始まった。

 女性研究員が笑顔でプラカードを持っているが、それには『ただいまのウエイト180キロ♡』と書かれている。

 全員が8回ずつバーベルを挙げると、研究員たちは笑顔で手を振って退場して行った)



「たぶんですが、日本の高校生ではこの重量をたとえ1回でも挙げられる方はいらっしゃらないと思います。

 あの神田くんは高校2年生になった時に出来るようになったそうですが」


((( ……………… )))



「それでは、筋トレの具体的な方法については明日実践しながら行うとして、ここまででなにかご質問はございますでしょうか」



「あ、あの、恥ずかしながら、どうしてわたくしたちはこういったトレーニング方法を知らなかったのでしょうか……」


「それはまず医学・生理学界の問題ですね」


「は?」


「医学や生理学と云うものは、まず疾病を治すことを目的に発達して来たのです。

 次に怪我を治療するため、その次に病気にならないための公衆衛生を確立するため。

 そして、健康な体にスポーツのトレーニングをさせて運動能力を高めるなどという研究は、誰もやって来なかったのですよ。

 診察費や薬代が貰えませんので儲かりませんからね。


 ですからこの『スポーツ医学』という分野は、ここ15年ほどで拓かれてきた分野であり、最近ようやく『学説』も確立されて来たのです。

 わたくしは、こうした新しい分野に興味を惹かれてこのスポーツ医学研究を志して来たのですが。

 そうした学説がようやく定着して来たような分野ですから、専門書も一般書も極めて少ないのです。

 そのため皆さんの目に触れることも無かったのでしょう。


 もしくはみなさんは専門書などを全く読まずに、単に自分や自分の指導者が行って来た練習方法を踏襲されて来ただけだったのでしょうね。

 甚だしきはテレビアニメの真似をして。

 その練習がどんなに野球選手に害になるかは全く考慮されることも無く」


((( ……………… )))



「そ、それでは神田選手はいったいどのようにしてトレーニング方法を知ったのでしょうか……」



(原宿先生、ここで大きく息を吸って背筋を伸ばす。

 同時に体に力が入ったために、大胸筋が大きく盛り上がってスーツのボタンが飛んだ。

 前列に座っていた研修参加者たちが仰け反っている)



「彼は……

 アメリカと西ドイツのスポーツ医学界の論文誌を取り寄せて、それらを読んでトレーニング理論の基礎を学びました。

 彼に言わせれば、通常の本に書いてある内容は、著者が無知と妄信の人かどうかわからないために、論文誌しか信用しないようにしていたそうです。

 論文誌に載った論文の内容は、世界中の研究者の厳しいチェックや追試に晒されるからです。


 しかもそれらのトレーニング方法を鵜呑みにするのではなく、必ず自分で実践して、その効果を自分の体で確認していたのですよ。

 それも全て中学生時代に……」


「「「 !!!!! 」」」



「もちろん全ての論文誌は英語かドイツ語で書かれています。

 わたくしは彼が東大に入学した時にそのことを聞かされたのですが、鳥肌が止まりませんでした。

 彼が様々な分野で天才であることはみなさんもご納得いただけるでしょうが、わたくしは、彼の才能の中で最も優れているものは『努力する才能』だと思っています。


 彼は昨年のメジャーのナショナルリーグMVPに選ばれたことからもお分かりの通り、世界一の野球選手です。

 ですがわたくしは、同時に世界一のトレーニング研究者だとも思っているのです。


 ご存知でしょうか。

 彼が来季球団から受け取る年俸のうち30万ドル、実に7500万円は、他の選手にコーチングをしてやることに対する対価なのですよ」


「「「 !!!!! 」」」


「現在の日本のプロ野球選手の1軍平均年俸はようやく1000万円に乗ったところですので、神田くんは日本のプロ7人分のコーチ料を受け取っていることになります。

 また、現在の日本のプロ選手の最高年俸は約6000万円ですので、それを上回ってもいます。

 これは彼のコーチングをメジャーの一流球団が完全に認めていることの証左でしょう。

 つまり日本の野球指導者のコーチングと全く異なる方法をです」


((( ……………… )))



「先ほどのご質問のお答えに戻りましょう。

 みなさんが最新のトレーニング理論や方法をご存知無かったもう一つの理由。

 それはわたくしたち研究者に野球の経験と実績が無かったからです。


 先ほどご立腹されてお帰りになられた方々が大勢いらしたことからもお分かりの通り、我々が研究の結果得た成果は現場の指導者の方々には受け入れ難いものなのです。

 特に自分たちが今まで信じ込んで実践してきた練習方法と真逆である場合は。

 これがわたくしたちが抱えていたジレンマでもあります」


(な、なぁ、『じれんま』ってなんだ?)

(さ、さぁ、ジンマシンのことじゃないか?)

(それじゃあ『けんきゅうしゃ』とかいう連中はみんな体が痒いのか……)



(神田: オマエラ脳ミソが痒いんじゃねぇか?)



「ところが、神田くんという究極の実践研究者であり、また世界最高のプレイヤーでもある人物が現れました。

 彼はわたくしたち研究者の希望の星でもあるのです。

 だからこそ、かのスタンフォード大学の医学部長も、神田くんに助教授相当の地位と研究室と研究費7500万円を提示して勧誘していたのでしょう」


((( ………… )))


「ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、スタンフォード大学の助教授ともなれば世界中で通用する肩書です。

 しかも24歳での就任となれば圧倒的に最低年齢記録の更新となるでしょう。

 もし日本の大学が迎え入れるとすれば、助教授ではなく教授の肩書が必要になるでしょうね」


((( …………………… )))



((( なんで俺と同じで野球ばっかりしていた奴が大学教授になんかなれるんだ…… )))


((( ひ、ひょっとして俺も大学教授になれるのか?

 も、もしなれるなら、俺のことを碌に字も書けないってバカにしてた進学組の連中を見返してやることが出来るぞ! )))



(神田: いや…… 字ぃ書けねぇと論文書けねぇからな……)



「今回の私共の研修会も、単なる『コーチング研修』という名称であれば、とてもではないですが、これほど多くの方々にお集り頂くことは出来ませんでしたでしょう。

 今もこうして多くの皆さまが残って下さっている理由、それはこの会が『神田メソッド研修会』という名称であるからでしょうね。

 それは重々承知しながらも、我々は少しでも現状の危険で無意味な練習手法を是正したかったのです。

 まあ神田くんがこうした研修会のために3000万円も寄付してくれたからこその名称でもありますが」


「「「 !!!! 」」」


((( そ、そんな…… )))


((( お、俺の収入の15年分以上ものカネを寄付したというのか…… )))



(神田: そうか、日本の高校野球の監督やコーチって、そんなに給料安いのか……

 まあ、『水飲むな!』とか『うさぎ跳びしろ!』とか怒鳴ってるだけで、全く生産性の無い仕事してるから当然だろうけど。

 だから劣等感拗らせてこんな奴らになっちまってるんだろうな……)



「さらに彼はトレーニング理論の研究と正しいトレーニングの普及のために、その年俸から拠出して日本に基金を作ってくれました。

 その総額はなんと2億5000万円になります」



「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」





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