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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
92/157

*** 92 『神田メソッド研修会』1 *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……





 原宿先生がアメリカに視察に来た。

 学会シーズンも終わって、自分の研究室の研究員たちがコーチをしている様子を見に来たそうだ。

 4人のコーチたちもそれぞれ論文書いてたから、その指導もあったそうなんだけど。


 先生はブレットやエリックに大歓迎された後は、テレビで俺をベタ褒めしていたスタンフォードの医学部長さんのところにも表敬訪問に行ったそうだ。

 そこで2人は俺の昔の話とかで盛り上がって、すっかり意気投合しちゃったらしい。


 特に学部長さんは、俺が中学時代から論文誌に載ってたトレーニング方法を実践して、それで効果に納得した上で練習を続け、その延長として研究論文を書いたって聞いて、涙目になるぐらい感激してたそうだ。

 それで原宿先生は研究室ごとスタンフォードに引っ越して来ないかって誘われたらしいんだけど、まあ一応国立大学だからなあ。

 そういうわけにもいかないんで、丁重にお断りしたそうだ。



 そんなこともあって、どうやら原宿先生はさらに実践研究に踏み込むことを決意したらしい。

 ほら、ギガンテスやワイルドキャッツからコーチたちが莫大な報酬貰ってたろ。

 あれって大学の規定で半分は研修費の名目でコーチたちの個人収入になって、あと半分は研究寄付金として研究室に入ることになってたんだよ。

 もちろん原宿先生の懐に入るわけじゃないけど。


 それでその寄付金を使って、本格的なトレーニング実験を始めようっていうことになったんだ。


 具体的には、特に中高一貫教育校とタイアップして、その野球部員のトレーニングに関与することで、どれだけ身体能力や野球能力を上げられるかという実験だ。

 それで俺も対象になる学校をどこにするか相談を受けたんだけど、俺が勧めたのはあの全体大とその付属高校と中学だったんだよ。

 練習試合で世話になった水道橋監督は、今や助教授兼中学や大学を含めた野球部の総監督になってるそうだし。

 それに原宿先生とも日米親善オーオプン戦の時に、後楽園球場のバックネット裏席で名刺交換してたそうだしな。


 それで原宿先生が連絡取ってみたら、水道橋総監督はもう諸手を挙げて大歓迎してくれたそうなんだ。

 そういえばあのひとは、当時の日比山高校の練習を随分熱心に見学に来てくれてたしな。

 それになにしろ全国「体育」大学だから、そういうトレーニング方法の研究なんかも本業みたいなものだったけど、医学や生理学からのアプローチは誰もやっていなかったそうだ。

 全体大には医学部は無いし、まだスポーツ科学部も無かったからな。


 それに原宿研究室の研究員は全員が医師免許持ってるし、中には医学博士号持ちもいるから、生徒たちの安全という点でも実に心強かったそうだ。



 それでまずは、水道橋総監督が付属中学、高校、大学の監督やヘッドコーチやコーチたちを交代で東大原宿研究室に送り込んだのよ。

 もちろん本人もな。

 全体大の人たちは、東大のそれも医学部の研究員がみんなムキムキマッチョなんで相当に驚いてたらしいわ。

 全員がベンチプレスで150キロ以上挙げるし。

 歓迎宴会で大胸筋ラインダンス見せられて仰け反ってたらしいぞ。

 講師の千葉さんなんか、俺の真似して左右の大胸筋に顔描いて動かしながら腹話術で漫才させたそうだし……


 全体大のひとたちは、『神田メソッドによって、1日1時間以内の鍛錬でここまでの体が作れた』って聞いて、俄然やる気になったそうだな。



 それでまあ主に『神田メソッド』をみっちり研修したあとは、原宿研究室からトレーニングコーチを各校に派遣して実際にトレーニングを始めるんだと。

 もちろん、その過程でどんなトレーニングがどの部位にどれぐらい効果があったか、っていう点について、年齢別により詳細に研究して行くそうだ。


 もちろんあの田町監督と品川ヘッドコーチが指導してる日比山高校も一緒に研究対象にするようお願いしといたよ。

 おかげで土日は新木場グラウンドで全体大付属のレギュラー陣と日比山のレギュラー陣が一緒に練習や練習試合もするようになったんだ。

 あそこならけっこう豪華な宿泊施設もあるし。

 それに両校とも、この4年間で東東京大会予選で準決勝で2回、決勝で2回対戦した強豪校だからなぁ。

 まあ、いずれも全体大付属が僅差で勝ってたけど。


 だからお互いに練習試合の対象としては最高の相手だったんだよ。

 それで両校の野球部に3000万円ずつ寄付もしておいたけど。

 そしたら食事のグレードが相当に上がったんで、選手諸君はみんな大いに喜んでたそうだ。

 専門の調理師さんは神保さんが用意してくれたし。(もちろん全員天使)




 それで俺も原宿先生に是非にって研究内容の意見を求められたんだけどさ。

 俺としては最近ドミニカで試してみた、『摂取する必須アミノ酸、ビタミンやミネラルとトレーニング後の筋繊維の発達』っていうテーマに興味があったわけだ。

 ま、まあ俺は体内物質の動きを認識出来るから、結論はもうわかってるんだけど、それを生化学検査や組織検査で実証してみたかったんだ。


 それに中学生と高校生と大学生の筋繊維発達の違いっていうのにも興味があったし。

 でも特に筋肉の組織標本採取なんかは医師免許持ってるひとじゃないと出来ないからな。



 そしたらさー、原宿先生が大乗り気になっちゃって、俺が求める実験を実行する助手をつけてくれるっていうんだわー。

 なんでも俺の助手が出来るっていうんで、希望者が殺到したらしいな。

 それでまあ、俺も協力することになったんだ。


 それに、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、俺の体ってもう前世の勇者時代にかなり近づいて来てたんだ。

 つまり、どんなに疲れてても、一晩寝れば完璧に近いぐらい復活出来るようになってたんだわ。

 みんなが気を使って中4日とかで投げさせてくれてたけど、俺的には中1日でも十分すぎるぐらいだったんだよ。

 それでやや時間を持て余してたっていうこともあったんだけど。


 今まではその持て余した体力をめーちゃんとのイチャコラに使ってたけど、今はめーちゃんも妊娠初期の大事な時期だからな。

 だからまあ地道にゆっくりと研究を始めてみる気になったんだ。


 それでとりあえず神保さんに頼んで100万ドルばかり日本に送金して、研究資金を寄付する基金を作って貰うことにしたんだ。


 ほ、ほらもうすぐ1985年9月で『プラザ合意』が起きちゃうから、みすみす半分になるよりは円に替えて役に立てようと思ったんだってば!

 これにはさすがの原宿先生も驚いてたわ。

 ま、まあ日本円にして2億5000万円だからな……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 そうそう、実は渋谷涼子ってトンデモな資産家だったんだよ。

 いや、渋谷家の資産じゃなくって個人としても。


 爺ちゃんや父ちゃんがいつ亡くなっても渋谷物産の株式を相続出来るように、相続税対策として生まれたときから毎年莫大な贈与を受けてたんだと。

 それで、俺が上野に八王子製作所から預かった事業資金は絶対にすぐにドルに替えるなって珍しく強く言ってたのを聞いて、自分のドル資産にもヘッジ売りかけようと思ったらしいんだ。


 だもんで副会長さんにお願いして渋谷物産財務部の手を借りて、手持ちのドル資産1億ドルにドル売り円買いのヘッジをかけてたんだと。

 でもってそれを見た副会長さんの指示で、渋谷物産も海外に持ってた鉱山・油田権益とか株式とかのドル資産の半分にヘッジ売りかけてたらしいんだ。

 その額なんと20億ドルだってよ!


 それでプラザ合意後は2年と3か月でドル円が250円から125円になっちまったもんだから、渋谷涼子は120億円儲けちまったんだ。

 渋谷物産は2400憶円の儲けな。

 なんでも当時の大商社の2年分の経常利益に匹敵する儲けだったそうだわ。


 まあ実際には円ベースでの為替差損を回避してただけなんだけどさ。

 それにしてもカネ持ちは違うね!


 そんな大金持ちの社長令嬢が、なんでお嬢様学校に行かずに日比山みたいな公立高校に来てたんだろうって不思議に思って聞いてみたんだよ。

 そしたらどうやら父ちゃん母ちゃんも爺ちゃん婆ちゃんも、そういう貴族学校みたいな特権階級学校が大嫌いらしくって、ついでに将来の社長候補になる婿を迎え入れるために『男を見る目を養って来い!』っていうことだったらしいんだわ。

 それで実際に上野みたいな最高の男を見つけて結婚出来てヨカッタよな。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 原宿研究室が始めたもうひとつの試みが、『コーチのためのコーチング研修』だったんだ。

 最初は主に野球に関してのみだったんだけど、要は全国の中学や高校の野球部監督やコーチを集めて、正しいコーチング論を教える研修会だ。


 これ、俺から見ても実に望ましい試みだよ。

 だってここでの研修内容が広まれば、アホみたいな『根性練』でケガして失われる才能がそれだけ減るんだもの。

 だから俺も追加で3000万円ばかり寄付して参加することにしたんだ。


 おかげでこの研修は『神田メソッド研修会』って言う名称になって、無料で開催出来るようになったんだよ。

 ついでに俺の名前のおかげで、いくつかの新聞や野球誌がその研修会のことを記事にしてくれたし、MHKまで番組の中で紹介してくれたんで、初回から500人近い参加希望者が来たそうだ。


 その中には、晴れて教員資格を得て、母校で体育教師をしながら野球部コーチにもなったあの新大久保くんもいたんだぜ。



 それで5日間ほどの研修が始まったんだけど、そのとき集まった全国各地の野球部の監督やらコーチやらの反応が実に興味深かったんで、先生の指示で若手研究員が詳細な研修記録を俺にも送ってくれたんだ。


 そしたら神保さんも相当に興味を持ったらしくてさ。

 配下の上級天使さんたちを過去に派遣して、研修に来た監督やコーチたちがその時なにを考えていたかを『看過』や『読心』の魔法で調べて研修記録に書き加えてくれたんだ。


 おかげで全国の野球部のトンデモな実態があからさまにわかっちまったんだわ……


 


「みなさん、本日はこのように多くの方々にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。

 私はこの研修会を主宰させて頂きます東京大学医学部助教授の原宿と申します。

 よろしくお願い致します」


(スーツの上からでもはっきりと分かる原宿先生や研修助手たちのムキムキな体を見て、研修参加者のほとんどが硬直している。

 因みに先生たちはこの研修会のために1か月ほど前スーツを誂え直していたが、それもすぐにパッツンパッツンになっていた。

 ちょっと力を入れるだけで上着やワイシャツのボタンが飛びまくるので、先生も含めてみんな以前からボタン付けには随分と習熟している。

 中には頑丈にボタンをつけすぎて、トイレで力んだ拍子にワイシャツとジャケットを破いて涙目になった研究生もいた。

 それでとうとうゴムヒモでボタンをつけるようになったり、トイレで個室に入るときには上半身裸になったりしているようだ)



(神田: なんだこの↑コメントは!

 ここまで詳細でなくともよろしい!)




「さて、最初にこの研修会のカリキュラムをご説明させて頂きますと、まずは医学的、生理学的見地から野球のトレーニングにつきまして解説させて頂きます。

 その後に、科学的な根拠をご紹介しながら、『神田メソッド』と呼ばれるいくつかの個別トレーニングのご説明と、実際に私共がコーチングに参加させて頂いております全国体育大学付属高校野球部の練習をご見学頂くことになっています。



 それではまず最初に注意事項をご説明させてくださいませ。

 これは野球に限った話ではないのですが、なによりも練習中は生徒さんたちには必ず水分を補給させて下さい。

 水を飲むことを禁止するなどということは絶対に止めてください」


(年配の監督が叫んだ)


「な、なぜだ!」


「これは医師としての意見です。

 特に夏の炎天下の練習では、水分補給を怠ると命に係わるからです」


「い、命だと……」


「今年の夏も新聞紙上で『日射病による死亡事故』という記事がたくさんありましたでしょう。

 実に痛ましいことに、この夏も日本全国で500人近い方々がお亡くなりになられていました。

 医学用語では『日射病』ではなく『熱中症』といいますが、熱中症は主に体温上昇と水分不足から発症するのです」


「に、日射病は帽子を被っていれば防げるだろう!」


「それは迷信です。

 しかも毎年多くの方々が熱中症で死亡される原因になっている、最悪の迷信なのです」


 盛大などよめきが起きた。


(神田: そんなことも知らねぇ阿呆共が『指導者』とかやってんのかよ……)



「どうして帽子を被ることで発汗によって失われた体内の水分が補われるというのでしょうか。

 それはまるで、腹巻をしていれば空腹にならないと言っているようなものですよ」


「だ、だがうちの生徒たちは、練習中に水を飲むことを固く禁じているにもかかわらず、なんともないぞ!」


 大勢の年配の監督たちが頷いている。


 原宿先生が微笑んだ。


「あなたの監督する野球部は部員数が多いのではありませんか?」


「あ、ああ、60人ほどいるが……」


「それではレギュラー陣が打撃練習をするときに、それ以外の部員たちはロードワークに出たりしているのでは?」


「もちろん交代で外に走りに行っているが……

 そうしなければ打球が当たったりして危険だからな」


「彼らは間違いなくロードワークの途中で水分を補給しています」


「「「 !!!! 」」」



「例えば神社の社の中、民家の好意で物置の中などに予め水筒などを置いているのでしょう。

 他には途中にある水道や井戸などでの補給ですね。

 生徒さんたちも馬鹿ではありませんから。

 それ以外にもあなたが食事やトイレなどでグラウンドからいなくなった隙に、隠していた水筒などから水分を補給しているはずです」


「だ、だがコーチたちもいるんだぞ!

 ロードワークにも自転車でついて行かせてるしな!」


「そのコーチたちも卒業生でしょう。

 現役の生徒さんたちは、そうした方法を代々コーチたちから教わっているのですよ」


「な、なんだと……」


(大勢の年配監督が仰け反る中で、かなりの人数の若いコーチたちがニガ笑いしている)



「ですが、そうしたことを指摘して水分補給を完全に禁止するのは絶対に止めて下さい。

 本当に生徒さんたちの命に関わりますから。

 この中で練習中に生徒さんが突然ふらふらになったり気絶したりした経験を持つ方はいらっしゃいますか?」


(ほとんどの参加者がおずおずと手を挙げた)


「ふう、みなさんとその生徒さんは実に運がよろしかったですね。

 水分不足でまっすぐ歩けなくなった状態は、重体一歩手前だとお考え下さい。

 そしてもしも意識を失ったとしたら、それは危篤状態です」


「「「 !!!!! 」」」


「き、ききき、危篤だと……」


「はい危篤です。

 なぜなら、意識が無いということは、自力で水を飲めなくなっているからです。

 その際には直ちに救急車にて病院に搬送し、30分以内に生理食塩水などの点滴を始める必要があるでしょう」


((( そ、そんな……)))


(救急車なんか呼んだら『てんまつしょ』とかいう作文を書かされるぞ……)


(その作文3回で『かいこくしょぶん』とか『きんしんしょぶん』とかいう罰を喰らっちまうじゃねぇか!

 そんなことになったら、その分給料が減らされるだろうに!)


(監督も俺たちコーチも文章なんか書いたの小学校の遠足感想文以来だから、そんなもん書けないぞ……)


(5年前に書かされた『てんまつしょ』は、たった2ページだったのに校長に50か所も赤入れられて3回も書き直しさせられたしな……

 ついでに『もう少し日本語の勉強もしましょう』とかイヤミ言われたし……

 あ、あんなことは2度とごめんだ!)


((( べ、別に俺が救急車呼ばなくっても誰か他の奴が呼ぶだろ…… )))



(神田: なんだと……)




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