*** 91 防具試作品完成と新広告のアイデア ***
この物語はフィクションであります。
実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……
また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……
それからは、ジョーの登場でモチベーション上がりまくったマイスターたちがみんなで工夫して、超高級品から廉価品まで5段階もの防具が用意されていったんだ。
アメリアさんの会社で作っていたチタン製品って、航空エンジンのタービンブレードとか人工骨だろ。
だから耐久性も耐腐食性も最高の物を求められてて、製品試験も異様に厳しかったんだけど、野球防具にはそこまでの品質は要らないよな。
要は軽くて頑丈ならいいんだし。
次に高価だったケブラー繊維も、さすがに銃弾に対応する必要までは無かったから、最上級品を使う必要も無かったんだ。
それで作られた5種類の試作品なんだけど、まずはオーダーメイドの最高級品クラス1になる。
これはジョーが使っているものだな。
メットとマスク、それからネックガード、プロテクター、ファウルカップ、レッグガード、レガース、トゥーガード、アームガード、ショルダーガード、手首ガードとついでに背面ガードのセットだ。
実は、ジョーがファウルチップ受けても平然としているのを見て、メジャーのキャッチャーたちから同じものを欲しいっていう要望が殺到してたんだ。
もちろんそれぞれのチームカラーで塗装した一品物を。
これに関しては、形状のデザインは以前神保さんが用意したデザインを使い、日本から派遣されてきた開発部の人たちが作ることになった。
もちろん各球団の希望を受けて、オーダーメード塗装になる。
因みにお値段は一式1万ドル(当時≒250万円)にしたそうだ。
それでもほとんど儲けは出ないんだけど、何と言っても毎日のようにテレビに映ってるメジャーのキャッチャーたちだから、最高の宣伝になるんで敢えて作ってやることになったんだ。
ついでに、同じデザインのTシャツをそいつの球団が売り出すときに、デザイン料も手に入るし。
次のクラス2は、デザインも地味で量産品になるが防具の質は最高で、これは一式2500ドル(当時≒63万円)だ。
まあ2番手の捕手からマイナーのレギュラークラスを想定したプロ用防具だな。
クラス3はチタンの質がやや落ちて使用量も少し減ってるけど、それでも十分なガード機能を持つものだ。
お値段は1500ドル(当時≒38万円)。
想定使用層は高校生や大学生の上位チームになる。
クラス4はさらにお得になって700ドル(当時≒18万円)、メットの外殻は強化プラスチックになる代わりに、内部にチタンのメッシュと薄手のケブラー繊維が入っているものだ。
他の防具も同様に、表面は強化プラスチック製で内部にチタンメッシュと薄目のケブラー繊維が入ったものになる。
それでももちろん今までの革製や普通のプラスチック製の物に比べて5倍以上の強度があるけど。
クラス5は少年野球用だ。
さらにチタンとケブラーが薄くなる代わりに、セットのお値段は300ドル(当時≒8万円)にしたそうだ。
打者用防具も同様にクラス1からクラス5まで用意された。
こちらは5000ドル(当時≒125万円)から200ドル(当時≒5万円)だ。
こうしてみると、けっこう高いようにも見えるんだけどさ。
キャッチャー用防具は、アマチュアだったらチームごとに1セットあればいいだろうし、打者用防具は3セットもあれば十分だろ。
だからまあ、チームの予算で買えばいいわけだ。
それにセットでなくとも1個ずつでも買えるし。
実は本当はギガンテスのチームカラーで塗装したり、チームロゴを入れたかったんだよ。
その方が絶対売れるから。
でも、それらの使用料ってむちゃくちゃ高いんだ。
少年野球用のクラス5セットなんか、それだけで価格が5割増しとかになっちまうし。
だから残念ながら塗装は平凡な灰色にすることになったんだ。
ついでに内野手用のケブラーアンダーウエアも作るそうだ。
そのままだと通気性が悪いんだけど、内部にケブラー製の薄い小さな板を織り込んだベストになるらしい。
それからこれは俺のアイデアだったんだけど、メットは21世紀のサイクリング用のヘルメットみたいに、流線型の穴が開いてて色もカラフルでスタイリッシュなやつも作ることにしたんだ。
21世紀のメットカタログ見ながら天使さんたちが元イラスト描いてくれたよ。
あと、これは使えるかどうかわからなかったんだけど、打者用のメットの一種として、アメフト用のメットやキャッチャーマスクみたいに顔面を細い金属で覆ったものも作って貰うことにしたんだ。
俺が試作費を負担して。
そう、俺前から不思議に思ってたんだわ。
なんでキャッチャー用のマスクはあるのに、打者用のマスクが無いのかって。
これで打者用レガースとレッグガードやアームガードやケブラー製のアンダーシャツや薄手の背面ガードと合わせれば、打者がピッチャーに向けている面は手首から先以外は全てガード出来ることになる。
まあ足を売り物にしてる選手は使ってくれないかもしれないが、デッドボールによる事故は大幅に減らせるだろう。
こうして試作品作りが始まったんだけど、その後は全米消費者センターに持ち込んで強度テストを受けることになっているそうだわ。
俺の成績は順調だったよ。
さすがに対戦したことのあるバッターも増えて来たんで、ノーヒッターゲームやパーフェクトゲームは減って来たんだけど、それでも開幕から5連勝して連勝記録は伸ばせていたんだ。
ストレートもとうとう時速180キロまで速度が上がって来たし。
また、俺の勝ち星に比例するようにMHKの衛星NLB放送の視聴率も上がっているそうだ。
そんな或る日また俺はブレットに呼ばれたんだよ。
「ユーキ、君の活躍のおかげで、我がギガンテスの経営はこれ以上無いぐらい順調だ。
本当にありがとう」
「いやまあ俺も自分のために頑張っているわけですから、それで球団が儲かっているなら俺も嬉しいですね」
「はは、さすが稼ぎ頭は言うことが違うな。
それでな、実はMHKの衛星放送が素晴らしい視聴率を記録しているおかげで、日本企業から球場内に広告を出したいという要望が殺到しておるのだよ。
それでまた君のアドバイスを貰いたいと思ったのだ」
「そうですか。
でもGMもご存知の通り、今は日米貿易摩擦が激しいですよね。
ですから、アメリカ国内に工場を持っている会社や、アメリカで作られた証である『メイドインUSA』の表示許可を得た商品だけ広告を出させては如何でしょうか。
もちろんその選定基準は公表しないままで」
「なるほど、それで広告にも小さくメイドインUSAと入れさせるわけか……」
「ええ」
「いや素晴らしいアドバイスをありがとう」
そうなんだよ、21世紀に日本の有名選手がMLBに行くときに、とんでもない金額の契約金とか貰ってたろ。
30億円とか50億円とか。
あれって、ほぼ自動的にくっついて来る日本企業の広告費が目当てだったんだよな。
だから、既に日本人有名選手が所属している球団は新たに日本人を獲得しようとしなかったんだ。
つまり、契約金だのなんだので50億払っても、広告費300憶円ゲット出来るから日本人選手と契約してたわけだ。
さすがMLBビジネスは規模がデカいぜ。
「それからもうひとつ広告のアイデアがあるんですけど」
「是非聞かせてくれたまえ」
「外野のフェンスや球場内の壁以外にも広告が出せそうなスペースってありますよね。
例えばバックスクリーンとか、外野の芝生そのものとか、更には外野スタンドの上とか」
「だがMLBの規定でバックスクリーンには広告は出せないぞ。
打者に球が見えにくくなってしまうからな。
それから外野の芝生に広告など書いたら守備がしにくくなるだろうし、外野スタンドの上に看板など出したら、ハリケーンなどの強風が吹いたときに危険だろう」
「もちろん実際の球場でそんな広告を出すわけにはいかないでしょう。
ですがテレビ画面上だけなら可能です。
コンピューターグラフィックス技術で、画面上にだけ広告を出させるんです。
外野の芝生なんかは、普段は芝生のまま放映してチェンジのときだけ広告を表示させるとか」
「な、なんと…… 画面上だけの仮想広告というわけか……」
「ええ、上手くいけばケーブルテレビ局ごとに、好きなだけ地元企業の広告を出させてやることが出来るでしょう。
しかもアニメーションなんかで動く絵の広告も出せます」
「す、素晴らしい……
さっそくコンピューターグラフィックス企業に打診してみよう!
それにしても、エリックがよく言っているが、君の才能はいったいどこまで広がっているんだろうかね……
20年後に君がウチのGMの椅子に座っている姿が目に見えるようだ……」
まあ、俺としては21世紀のサッカー中継の広告なんかを参考にしただけだけどな……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この頃の俺は、MLBの野球にだいぶ慣れてきたこともあって、試合が終わると毎日めーちゃんが待つ『女神さま下界公邸』に帰ってたんだ。
ホームゲームの後は神保さんの運転する車からの転移で、ロードゲームの後は現地のホテルからの転移で。
それでまあ、毎日毎日めーちゃんとイチャコラしてたわけだ。
それで或る日、いつものように5ラウンドほど終えた俺たちはピロートークしてたんだ。
「あなたさま……
わたくしそろそろ妊娠してもよろしいですか♡」
「も、もちろんだよ……」
「それでは…… 『んっ』
うふふ、今排卵しましたので間もなく妊娠します♡
子種をどうもありがとうございます……」
さ、さすがは女神さまだ……
そ、そんなことまで出来るんだな……
「ところであなたさま♡
地球の女神を孕ませるご感想は如何ですか?」
「えっ……」
「わたくしは、これで本当にあなたさまの女になれるように思えて、とても嬉しいです……」
それでめーちゃんが涙とか零すもんだから、無茶苦茶愛おしくなって、ついまた押し倒しちまったぜ……
そしたらさー、まためーちゃんの顔つきが少し変わったんだ。
それはもう慈母の微笑みっていうか、女神さまそのものっていうか……
どうやら渋谷涼子も妊娠したらしい。
天使たちの噂によると、あいつら何故かエッチの前に上野が筋トレしてから致すそうなんだけど……
やっぱり変わったカップルだわー。
それで渋谷一族は大騒ぎになってな。
家族全員でサンフランシスコにお祝いにやってきたそうだ。
それで上野たちはもっと安全で大きな家に引っ越すんだと。
それでめーちゃんの提案で、俺たちの家の空いてる部屋を5部屋ばかり貸してやることにしたんだ。
ま、まあこの家ならセキュリティーは地球最高だからなぁ。
神保さんによると核戦争にも余裕で耐えられるそうだし。
もちろん上野たちには既に天使1個小隊を張り付けて護衛させてたけど。
めーちゃんと渋谷はもうママ友になった気分で、毎日楽しそうにお腹さすりながらお茶会してるそうだわ……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺のシーズン連勝記録が16になり、昨シーズンからの連勝記録が通算で47連勝になったころ、またオールスターのファン投票結果が発表された。
ありがたいことに、俺はまたナショナルリーグの投手部門1位だったよ。
そうそう、この1985年からオールスター戦の前夜祭として、選抜メンバーによる『ホームラン競争』が始まったんだ。
それでナショナルリーグチームを率いるギガンテスのガイエル監督が、出場メンバーとして俺を推薦しちまったんだわ。
まあ俺もその時までに代打も含めて20本のホームランを打ってたし、ホームランランキングでも12位だったんだけど、それでも半分冗談のつもりだったんだろう。
このホームラン競争って、各リーグのオールスター出場選手の中から8人ずつ選ばれて、各人10球ずつ打ってホームランの数を競うものなんだ。
見逃しは球数に含めないで、実際にスイングした数のうち、何本ホームランを打てたかで順位が決まるんだよ。
2019年の今だと第1ラウンドや第2ラウンドや決勝ラウンドがあるんだけど、このときはまだ始まったばかりなんで一発勝負だったけど。
ピッチャーは各打者が連れて来て、好きなように球を投げさせるんだ。
もちろんみんな120キロ台のストレートとか打ちやすいを投げさせるんだけどな。
140キロ以上だとさすがにホームランもそうそう打てないから。
でもさ、120キロのストレートって、重力に引かれてけっこう落ちるから意外と打ちにくいんだ。
普段そんな球打つ練習したことも無いし。
それで俺はドミニカで一緒に練習したジョナサンにピッチャーを頼んだんだ。
こいつにはもうジャイロの投げ方教えてやってるから。
ジョナサンが右に軸が向いた130キロのジャイロ投げると、重力とマグヌス効果が見事に相殺されて、遅い球のくせに完全なストレートになるんだよ。
まあ、遅くて真っすぐっていう最高に打ちやすい球だ。
それで金曜の夜に行われたホームラン競争で気持ちよく打ってたら、なんとホームラン8本で俺が優勝しちまったんだわ。
びっくりだよ。
ジョナサンは、なんかちょっと自信無くしたって言って落ち込んでたけど、賞金半分渡したら途端に笑顔になってたわ。
ホームラン競争が生中継されてたMHKでも、放送が土曜日の昼だったんでその瞬間はトンデモな視聴率になってたそうだ。
おかげで翌日はさらに気分良く投げられて、打者9人を全員三振に打ち取れたんだ。
そのときの視聴率はもっとスゴかったそうだな。
おかげでまたデッカいトロフィー貰っちまったぜ♪
こうしてMHKのMLB視聴率が爆上がりするのに反比例して、日本のプロ野球のテレビ視聴率は落ちて行ったんだ。
放送の目玉になるラビッツの順位が断トツ最下位に低迷してたこともあって、なんでも去年の5分の1以下の視聴率になっているそうだ。
まあ仕方ないよな。
元々俺たち呼んだのはあいつらだし、それでボコボコにされて萎縮しちまったのもあいつらなんだから……




