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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
87/157

*** 87 日米親善試合1 *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……



 



 後楽園球場の2階席の下には、テレビ局やラジオ局用の放送席がある。

 そしてその隣にはオーナールームと呼ばれる特別室も存在した。

 グラウンドに面した座席数は12だが、その奥には20人ほどが座れるラウンジも付随している。

 部屋の一角にはバーも設えられており、巨大なテレビまで設置されていた。


 その豪勢な部屋では、オーナーのサベツネがグループ各社の首脳に囲まれてご機嫌で踏ん反り返っている。

 


「どうかね球団社長、今日の我がラビッツの選手諸君の調子は」


「ははっ、大井町監督からは、全員絶好調との報告が上がって来ております!」


「そうかそうか、今日はいよいよあの生意気な若造の泣きっ面が見られるのか。

 いや楽しみだのう♪」




【読買テレビ放送席】


「さあいよいよ日本シリーズ5連覇中の読買ラビッツが、アメリカ大リーグからサンフランシスコ・ギガンテスを迎えての日米親善試合が始まります。

 実況はわたくし上中里、放送席にはラビッツ時代に豪速球で知られ、沢村賞を3度も受賞された赤羽さんに来て頂いています。

 赤羽さん、よろしくお願いします」


「よろしく」


「さて赤羽さん、今日の対戦をどう予想されますか?」


「まあ何と言っても我がラビッツは史上最強の呼び声の高いチームですからねぇ。

 それに対してギガンテスは、いくら大リーグの球団と言っても一昨日来日したばかりでしょう。

 あの狭い飛行機の座席に押し込まれて、時差ボケに苦しむ中で果たしてまともに野球など出来るかどうか疑問ですね」


「ということは赤羽さんの予想では、ラビッツ有利と」


「しかも今日の先発は、昨年の最多勝投手であり、沢村賞受賞者の大森君ですから。

 なにしろNくんに言わせれば、全盛期のわたしに匹敵するストレートの球速だそうですから、それほどの豪速球ならば大リーガーにも十分以上に通用するでしょう」


「事前の取材では、大森投手も今日に合わせて調整は万全とのことでしたからね」


「ええ、これからはバカ高い年俸を払って大リーガーを呼ぶ必要も無いことを、我がラビッツが証明してくれると思います」


「さてラビッツの選手たちが守備位置に着きました!

 いよいよ試合開始です!」


「うーん、今日の大森君もマウンド上で大きく見えますねぇ。

 これは相当にやってくれそうですよぉ」


「さあ、ラビッツの大森投手、大きく振りかぶって第1球、投げました!

 去年から導入された、世界最新鋭のスピードガンによる球速表示がバックスクリーンに出されます。

 148キロですっ!

 時速148キロもの素晴らしいストレートが内角低めいっぱいに決まりました!」


「素晴らしい豪速球です!

 あれでは大リーガーといえども手が出ないでしょう!」


「さて大森投手、振りかぶって第2球、投げました!」


 カキーン!


「あ、ギガンテスの1番バッター、センター前に弾き返しました……」


「いやたまたまでしょう。

 今のストレートも147キロありましたからね。

 この豪速球がそうそう簡単に打てるわけはありません。

 いわゆる出合頭というものですな、はは」


「さてギガンテスの2番、ダリオ・ホセ選手が打席に入りました。

 ホセ選手は昨年1軍に上がり、主にその守備力でチームに貢献したそうです」


「いくら守備が良くても、あの細い体ではねぇ」


「さあピッチャー大森選手、セットポジションから第1球を投げました!」


 カキーン!


「ああっ! 

 ホセ選手、内角高めの球を引っ張ってレフト前に持っていきましたっ!

 これでノーアウト1塁2塁となります!」


「ふ、ふん。また出合頭ですよ……」


「さあ打席には3番のファースト、ブラウン・クリストファー選手が入りました。

 赤羽さん、このブラウン選手は大きいですねぇ」


「いやいくら体が大きくても、これは野球ですから。

 ストライクゾーンが広くなる分、体格が不利に働くこともありますよ」


「さてマウンド上の大森投手、セットアップから第1球投げました!」


「ストライーク!」


「さすがは大森投手! 

 大きく曲がるカーブが外角低めいっぱいに決まりました!

 赤羽さん、さすがは大森選手のカーブですね」


「ええ、40センチもの変化の大きさで外角低めにコントロールされる素晴らしいカーブですからね。

 これは大リーガーでもちょっと打てないでしょう」


「大森投手、第2球を投げました!」


 ガキィーン!


「ああっ! か、カーブを打たれた……

 ああああっ、レフトスタンド上段に突き刺さる特大ホームランだぁっ!」


「………………」


「あ、赤羽さん、今の球は同じカーブだったようなんですけど……」


「いえ、おなじカーブでも、先ほどのカーブと違って気合が足りていませんでした」


「き、気合ですか……」


「そうです気合です。

 気合が入った球は打たれず、気合が入っていない球は打たれるんです!

 大森君ももっと気合を入れた球を投げて欲しいもんですね」


「そ、そうなんですか……

 さ、さてギガンテスの主砲、キャッチャーのキング・ジョー選手がバッターボックスに入ります」


「ずいぶん太った選手ですな。

 あれでは腰が回らず、内角球はまったく打てないでしょうに」


「マウンド上の大森投手、入念なサインの交換から第1球、投げました!

 内角低めいっぱいに148キロの豪速球が決まってストライク!」


「さすがはラビッツバッテリーです。

 あの体格を見てすぐに内角が弱点だと見抜きましたね」


「さあ、大森投手、大きく振りかぶって第2球投げました!」


 ガキ――ン!


「ああっ、せ、センターフェンス直撃のヒットだ!

 あまりの当たりの良さにキング選手は1塁にストップ!」


「…………」


「赤羽さん、内角低めの球を打たれてしまいましたね」


「やはり今の球は気合が足りませんでしたね」


「そ、そうなんですか」


「ええそうです。

 打たれるのは気合が入っていないからです。

 それが証拠に打たれてしまったわけですから」


「は、はぁ……」


 カキーン!


「ああっ!

 5番のデューシー・フィリップ選手にも打たれたぁ!

 ライト前に転がるヒットだぁ!」


「ふ、ふん、やはりあの4番は太り過ぎで足が遅いですな。

 あの当たりで2塁止まりとは……」


「さてついに6番、神田投手が打席に入ります!

 赤羽さん、神田投手は去年大リーグでは9番を打っていたそうですが、今日は6番に起用されていますね」


「どうせ地元日本出身だということで贔屓でもされたんでしょう」


「さて神田選手に対して第1球投げました!

 147キロのストレートが外角低めいっぱいに決まってストライク!」


「そうでしょうそうでしょう。

 所詮はプロ入り2年目の若造です。

 現役時代のわたしに匹敵するこの大森君の豪速球にはちょっと手が出なかったんでしょう」



(なんだ今の球?

 スピードは無ぇ、キレも球威も無ぇ……

 なんでこんな棒球投げたんだ? 失投か?

 それともひょっとして俺ナメられてんのか?

 まあいいや、とにかく力いっぱい振るだけだ……)


「さあ、神田選手に対して、第2球、投げました!」


 グゥワキーン!


「ああっ! お、大きい……

 大きい当たりがレフトスタンドに向けて……

 ああああっ! スタンドを超えて場外だぁっ!

 神田選手、超特大の場外スリーランホームランっ!」


「………………」



(へへ、バックネット裏と3塁ベンチ上席は大騒ぎだな。

 みんなの前で打ててよかったぜ……

 それに比べて1塁側はお通夜みてぇだわ。

 後で聞いたんだけど、また新大久保くんは観客席で号泣して周囲の客をドン引きさせていたそうだな……)



 カキーン!


「ああっ! また打たれたっ!」


 ガキ―ン!


「ま、また……」


 カキーン!


「ああ…… 9者連続ヒットだ……」


「…………」


「あっ! つ、遂にラビッツ、ピッチャー交代です!

 昨年の沢村賞投手大森、ワンナウトも取れずに交代ですっ!」


「き、今日の大森君は調子が悪かったですねぇ」


「そ、そうなんですか?」


「当たり前です!

 調子が良ければ打たれるわけ無いじゃないですか!」


「…………」



 カキーン!


「ああっ! 2番手の15勝投手、大井町も打たれたぁっ!」


 カキーン!


「あああっ! ま、また……」


「お、大井町くんも調子が悪いのかな……」




 結局1回の表は打者13人の猛攻で10点も取っちまったよ。

 さて、次は俺の出番だな……

 あー、肩が少し冷えちまったか。

 仕方ねぇ、最初は90%のストレートから行くか……


「さ、さあいよいよラビッツの攻撃です!」


「は、はは、なにしろ相手はプロで1年しか投げていない新人投手ですからね。

 日本最高の打撃陣がきっと点を取り返してくれるでしょう!」



(ん? この1番バッター、さっきからバットぶんぶん振ってるけど、初球はまるで打つ気が無いみたいだ。

 まあ、投球練習にちょうどいいわ)


「さてギガンテスの神田投手、ノーワインドアップから第1球、投げました!」

 内角高めにストレートが決まってストライク!

 球速は…… ひ、162キロですっ!

 神田投手、時速162キロもの超豪速球を投げました!」


「い、いやいやいや、いくらなんでも機械の故障でしょう。

 そんな球がプロ2年目の若造に投げられるわけがありません!」


【実況アナ】

(でも投げてるぞ……)


「2球目は…… ああっ! 168キロですっ!

 168キロのストレートが外角低めいっぱいに決まりましたっ!」


「………………」


「さ、3球目は…… うわぁぁぁっ!

 175キロですっ!

 ひ、175キロものストレートが内角低めに決まって、三球三振ですっ!」


「そ、そそそ、そんな速い球があるわけないじゃないですか……

 や、ややや、やっぱり機械の故障ですってばばばば……」



(さて、次のバッターはと……

 お、ストレートに狙いを絞ってるな。

 ジョーのサインは…… はは、ライズかよ。さすがだわ)



「さあ2番蒲田に対して神田投手、第1球投げました!

 ああっ! 暴投だっ!

 キャッチャー立ち上がる素振りも見せずに、ボールはバックネットの遥か上に突き刺さっているっ!

 しかしバッター蒲田は大きく空振りしてストライクっ!」


「ば、バカな……

 なぜあんな暴投を空振りするんだ……」



(はは、2球目はカットボールか。

 このバッター、まだストレート狙いみたいだからいい配球だな)



「さあ神田投手、ノーワインドアップから第2球投げました!

 バッター155キロのストレートを大きく空振りして2ストライク!」


「ほ、ほら、やっぱりストレートは150キロ程度じゃないですか……

 それにしても、いくら速いストレートだと言っても、バットに掠りもしないとは……」


【実況アナ】

(この阿呆解説者、ということは機械の故障などは無くって、さっきの球が本当に175キロだったことには気づかないのか?)



 お、3球目はカーブか。

 そうだな、コイツぜんぜん球見てないもんなぁ。



「ピッチャー第3球、投げました!

 ああ、2番蒲田また空振りで三球三振っ!

 落差も曲がり幅も1メートル半近いカーブが外角低めいっぱいに決まりました!」


「有り得ません!

 カーブが1メートル以上も曲がるなどということは有り得ないんです!」


【実況アナ】

(でも曲がってたろうによ。

 この阿呆自分のカーブより曲がるカーブ見たもんだから頭のネジ飛んだな……)



「さぁ昨シーズンのセリーグ首位打者、N選手が打席に入りました!」


「だ、大丈夫ですよ、N君なら必ずや打ってくれるでしょう……」



(ふふん、ついにNさんとの対戦か……

 さて、Nさんはどんな球に狙いを定めてるのかな……

 あー、このひとなーんも考えてないわー。

 来た球を打てばいいって思ってるわー。

 さすがは天才N選手だね♪


 でもさ、それって『見たことのある球』だから打てるんだよね。

 相手が5球団しかいない狭いリーグだから首位打者になれたんだよね。

 それじゃあジョーのサインは……

 うん、やっぱりフォークか。

 それもまずは50センチフォークで小手調べか……

 よし!)



「あーN選手、初球は落ちる球に空振りですね……」


「は、はは、あの程度の落ち幅の球なら、N君ならすぐに弾き返しますよ……」



(2球目は50センチジャイロか。

 この組み合わせは鉄板だな)


「N選手、2球目も落ちる球に空振りですっ!

 しかもまったくタイミングが合っていません」


「ば、バカな…… お、同じ変化球を続けて空振りとは……」


「本当に同じ変化球だったのでしょうか……

 私の目には少し球速が速かったように見えたのですが」


「し、所詮その程度の差に過ぎません!」


(さて、3球目はどうするかな。

 はは、やっぱりカットボールか……)


「さあ第3球、神田投手投げましたっ!

 ああっ、ど真ん中のストレートを空振りだっ!

 か、神田投手、三者連続三球三振でラビッツ打線を抑えましたっ!」


「だ、打者も調子が悪いのかな?」




 おー、バックネット裏と3塁側ベンチ上はさらに盛り上がってるのう。

 よきかなよきかな……


 ん?

 な、なんか号泣してる声も聞こえるぞ……

 ま、まさかまた新大久保くんか?





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