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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
85/157

*** 85 結婚式 *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……



 



 アカデミーの建設工事が始まった。

 設計や施工や建設機械の提供はサンフランシスコの大手建設会社なんだけど、ブレットの意向で管理職以外は現地の人たちを大量に雇うことになってるそうだ。

 もちろんロリンゲス村の人たちを最優先で。


 それでまず始まったのが、村とリジルの街を繋ぐ道路整備だったんだ。

 村の景観を壊さないようにって、村側の道路の最後500メートルは未舗装にするそうだけど、それ以外は綺麗な舗装道路にして。

 おかげで今までデコボコ道をボロ車で1時間かけて街まで行ってたのが20分ほどになるそうだな。

 これで村の子供たちも街の学校に通えるようになるらしい。

 村では中古の送迎用バスも買ってたよ。




 そうそう、このころ俺ちょっと不思議に思ってたことがあったんだ。

 村でトレーニングをしているキャッチャーはミゲルも入れて3人もいるだろ。

 でもその3人がお互いにそれほどライバル意識を持っていないみたいなんだ。

 それにドミニカのアカデミーで優秀な選手を何十人発掘しても、全員ギガンテスに上がれるわけじゃないよな。


 それでその辺りのことをルイスに聞いてみたんだわ。


「はは、彼らの活躍する先はいくらでもあるんだ。

 例えばギガンテスの開幕エクスパンドロースターに入れれば、それは一流の証だ。

 なにしろワールドチャンピオンチームのロースターだからな。

 ロースターに入れなくとも、ワイルドキャッツでベンチ入りメンバーに入っていれば、それだけで他のチームのスカウトたちに注目して貰えるし。

 そうして、金銭トレード等で他のチームに移ってそこで活躍して行くことになるだろう。


 その際も、チャンピオンチームの育てた若手だということで、トレードの代償は優に3割増しになるだろうね。

 つまり選手も嬉しいし、球団も儲かるんだ」



 なるほどなー。

 やっぱり勝つことこそが、ますます球団の利益に直結してるんだ。

 だから俺もあんなに莫大な年俸を貰えたわけか……



 しかもこの時期アメリカではケーブルテレビ局がヤタラに増え始めてたし。

 それで今までは大手企業しかテレビCM出せなかったのが、街の中小企業でもケーブルテレビにならCMを出せるようになったんだ。

 そうしていつの時代もスポーツって最高の人気コンテンツだろ。

 特に野球の場合はイニングの合間にCMを入れやすいし。

 そのCMにも地元出身の選手を登場させたりしてたよ。


 おかげでこの時期のMLB球団は、放映権料収入がどんどん伸びて行ってたんだ。

 さらにこれからインターネットも発達して行くから、当面は安泰だろう。

 これから球団数も増えて行くし、今はまだ傘下の3A球団を持っていないメジャーチームも、すぐに全球団が持つようになるだろうし。

 そういう点で、優秀な若手選手には活躍の場がいくらでもあるんだそうだ。

 俺もちょっと安心したよ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 1月下旬にはワイルドキャッツの選手たちが帰国して行った。

 まああれだけ練習してたんだから、2月1日の身体検査で査定アップは間違いないだろう。

 俺も2月中旬には帰国することにした。

 25日には俺とめーちゃんの結婚式があるからな。


 そうそう、めーちゃんの設定としては、神保さんの養女っていうことになったんだ。

 地球名は『神保めい』だってさ……

 さすがは神界で、めーちゃんのパスポートはもちろん戸籍も全て完璧に用意されてたよ。



 ミゲルもマリーアを連れて一緒に渡米してたわ。

 サクラメントに部屋を借りて一緒に暮らすそうだ。

 なんでもサクラメントにはロリンゲス村出身のひともいて、マリーアも少し安心してるらしい。



 それでさ……

 マリーアがサクラメントの中学校・・・に通うっていうんだよ……

 ミゲルの勧めで高校までは行くことにしてるんだと。



 マリーアの中学校登校初日。


 担任の先生が茶目っ気たっぷりに、マリーアのこと『ミセス・ロリンゲス』って紹介したもんだから、クラス中が盛大にフリーズしたそうだわ。

 ま、まあ、ドミニカ出身の子はいなかったみたいだからな。

 それにマリーアは体も小っちゃくって、どう見てもアメリカ人のクラスメイトたちよりも年下に見えたから。


 それで休み時間にマリーアはクラスの女の子たちに取り囲まれちゃったんだ。


「ね、ねぇ…… い、いつどこで結婚したの?」


「去年の11月にドミニカで結婚したの♪」


「し、新婚さんなんだ……」


「うん♡」


「そ、そそそ、それで旦那さんは?」


「ええ、サンフランシスコでお仕事があるから一緒に来たのよ」


「へ、へぇー。そ、それでどんなひとなの?」


「あのね、野球選手なの」


「「「 !!!!!! 」」」



 そしたら、女の子たちを遠巻きにして耳ダ〇ボにしてた男の子たちが、猛然と突っ込んで来たそうなんだ。


「な、なあ…… サンフランシスコで野球のお仕事って……

 ま、まさかまさか…… ギ、ギガンテスの……」


「うん、キャッチャーやってて、登録名はミゲルっていうの」


「「「「「 !!!!!!!!!! 」」」」」


「あ、あのミゲルかよっ!」

「あ、あのあのあの、たまにミラクルボーイの球を受けてる!」

「ジョー・キングの直弟子の!」


「うん♡」


「な、なあ……

 マリーアは、あ、あのミラクルボーイに会ったことあるのか?」


「ええ、ミラクルボーイは去年から今年の2月までドミニカのわたしたちの村でキャンプしてたから、毎日のように会ってたわよ。

 その前の年も。

 わたしたちの結婚式にも参列して下さったし、わたしの英語の先生でもあったの」


「「「「「 !!!!!!!!!!!!! 」」」」」




 それでさ、マリーアは一瞬でクラスに受け入れられた、っていうよりVIP扱いになっちまったんだと。

 教室内はもちろん、登校中や校内を移動するときも、常に取り巻きというか護衛の子たちがついてるそうだわ……

 ま、まあサクラメントでのギガンテスの人気は凄まじいからなぁ……



 それでさ、シーズン始まってしばらくして、マリーアの学校で父兄参観があったんだ。

 でも当日はミゲルが午前中からマイナーリーグの試合に呼ばれてたんだよ。

 だから俺がミゲルの代理で行ってやることにしたんだ。

 その日はホームでのナイトゲームだったし、俺の登板予定も無かったから。

 誰も来なかったらマリーアも寂しいだろうと思って。


 そしたらさー。

 なんていうか、学校中がフリーズしてたわ……

 でも、アメリカ人ってそういうときには選手にサイン求めたりしないのな。

 サインは選手がオフのときには求めないっていう不文律みたいなもんがあるらしい。


 でも最後にマリーアの担任の先生が、クラスのためにサインをお願いできないかって申し訳なさそうに言って来たんだ。

 それでもちろん色紙にサインしてやったんだけど、ついでに『みんな、マリーアをよろしくな!』って書いといたんだよ。


 そしたら、男の子たちとかみんなその色紙見て拳を握りしめてたそうだ。

 おかげで当日からマリーアの取り巻きというか護衛が膨れ上がっちまったそうだな。

 もはや大名行列並みになってるらしいぞ。


 だからまあ、お礼にクラス全員日曜日のホームゲームのベンチ上席に招待しといたよ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺たちの結婚式当日。

 生憎と雲が厚く垂れこめる曇天だったんだけど、式の前からサンフランシスコ大聖堂には大勢の人たちが集まってくれていた。

 サンフランシスコ市郡の市長さんたちを始め、カリフォルニア州選出の上下両院議員さんたちやもちろんギガンテスの仲間たちもだ。

 そうそう、婚約してた上野と渋谷も来てくれてたよ。


 そうして俺が聖堂内で待っている中、大きな扉が開かれて神保さんにエスコートされためーちゃんが、見事なウエディングドレス姿で入って来たんだ。


 そしたらさー、神保さんもめーちゃんも喜びのあまり神威がダダ漏れなんだわー。

 聖堂内を飛び交ってる9人の大天使さんと1000人の上級天使さんたちも、感激しすぎて隠蔽魔法が少し疎かになっちゃってるし……

 大聖堂上空には天使たちと天使見習いたち10個師団が飛び回ってたんだけど、それで上空の雲が吹き払われちゃって、聖堂にだけ太陽の光が燦燦と降り注いでるし……

 もうまさに『女神降臨』そのままだよなー。


 おかげで大司教さんも含めたその場の全員が、めーちゃんを見た途端に大硬直して、床に膝ついてお祈り始めちゃったんだ。

 大司教さんなんかおんおん泣いてたし……

 参ったよなーこれ……




 そんなこんなで若干時間は押しちゃったんだけど、無事に式も終わり、みんなで市長公邸に移動して結婚披露パーティーが始まったんだ。


 そうそう、俺の発案で家族や子供たちも参加自由にしてもらったんだよ。

 アメリカでは普通こういうパーティーには子供は連れてこないもんなんだけど、まあたまにはいいだろう。

 そのせいか全員が家族連れで来てたけどな。

 市長さんたちや議員さんたちもみんな孫連れて来てたし。



 パーティーは最初テーブルに着席して始まった。

 まあ予想通り子供たちは大はしゃぎでたいへんな騒ぎだったんだけどさ。

 俺とめーちゃんが入場した途端にビタっと静まっちゃったんだわ。

 みんなめーちゃんに近寄って来るし。

 子供の方がそういうのに敏感なんだな。


 それでとにかくも上院議員さんの音頭で乾杯してパーティーが始まったんだ。

 市長さんにお願いして厨房を借りて、料理はすべてあの天使メイドたちが50人の天使たちに手伝わせて作ってくれてたよ。

 みんなここ数年相当に料理修行をしていたそうだ。


 それで最初のオードブルは和洋折衷のものだったんだけど、まあ器だけは凄かったわ。

 なんでも目の玉飛び出るぐらいの値段のする美術品クラスだったそうだけど、すべてに『強化』の魔法がかかってるから壊れる心配は無いんだと。


 それで次は各人の前に卓上焜炉が置かれて、小鍋仕立てのすき焼きがふるまわれたんだ。

 それで笑っちゃったんだけどさ、それまではみんな談笑しながら賑やかに飲んで食べてたのが、肉を口にした途端に全員が黙っちゃったんだわ。

 まあさすがは神保さんが用意した超特上の松阪牛だ。

 その後に出て来たステーキもおんなじだったな。

 みんな談笑も忘れて黙々と喰ってたよ。



 それでその後はパーティー会場の周囲に設置された屋台で、各種料理の提供を始めて立食パーティーに移行したんだけどさ。

 とうとう最後まですき焼きとステーキコーナーの列が途絶えることは無かったんだぜ。



 そうしたらクリスとフィリーが俺に近寄って来て小声で聞くんだ。


「な、なあユーキ、このビーフはやっぱり日本のものなのか?」


「そうだ、日本から取り寄せたものだよ」


「そ、それでな、失礼な質問で申し訳ないんだけど、このすんげぇ美味い肉は日本ではいくらぐらいするもんなんだ?

 い、いや女房子供が家でも喰いたいっていうんだよ……」


 その瞬間、周囲のかなりの人間の耳がダ〇ボになった。


 神保さんが微笑んだ。

「100グラムにつき1万円ほどでございますね。

(実際にはオンス当たりのドル建てで言っている)」


 そしたら一斉に盛大なため息が漏れてたよ。

 慌ててステーキの列に並び直したりするやつまでいたし……




 ある程度食事を済ますと、俺とめーちゃんは公邸の中庭に出た。

 周囲ではとうとう雨が降り始めてたんだけど、公邸の上だけには雲もなく、相変わらず陽光が燦燦と降り注いでいる。

 そのせいで大きな虹もかかってたし。


 さらにその場にとんでもない数の鳥たちが飛んで来たんだわ。

 そうしてめーちゃんを取り囲んで静かに輪になってるんだ。

 どっから来たのか木の上にはイーグルの番までいるし……

 パーティーに来ていた子供たちも、みんな口開けて笑顔のめーちゃんを取り囲んでたわ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 結婚披露パーティーが無事お開きになると、俺とめーちゃんはみんなの祝福とお礼の言葉の中、神保さんの運転で新居に向かった。

 どうやらその女神さまの『下界公邸』とやらは、サンフランシスコとサクラメントを繋ぐインターステートのサクラメント寄りにあるらしい。

 途中の出口を降りて3キロほど奥に入った小高い丘のてっぺんにあるそうだ。


 どうも周囲10キロ、標高100メートルほどの丘を丸ごと買って、その頂上付近に天使たちが建物を建ててくれたらしい。

 普通アメリカ人の金持ちでも、こういう人里離れたところには邸を作らないそうなんだ。

 もちろん警備にたいへんなコストがかかるからなんだけど。

 でも俺たちには『警戒』の魔法があるし、護衛の天使たちが2個大隊ほど常駐するそうなんで問題は無いらしいわ。


 でもさ、丘に近づいても邸がぜんぜん見えて来ないんだ。

 なんか入念に『隠蔽』の魔法までかけてあるそうだな。



 そうして森の中を緩やかに上がっていく道を抜けたら、頂上にとんでもない邸が建ってたんだ。

 こ、これ、サンフランシスコ市長公邸より遥かにデカいぞ……

 もう邸っていうより城だわー。


 城の前には建物を造った天使たちが勢ぞろいしてた。

 そうして全員がめーちゃんから労いの御言葉みことばを頂いたんで、みんな大喜びしてたよ……


 そうそう、俺たちは新婚旅行には行かなかったんだ。

 めーちゃんにとっては、この下界での俺との暮らしが新婚旅行みたいなもんなんだと。




 翌日俺は上野たちを家に招いた。

 もちろん邸は『隠蔽』の魔法で10分の1ぐらいに見えるようにしておいたんだけど、それでも上野は口をあんぐり開けてたわ。



 去年の東大は、春の6大学では優勝決定戦で惜しくも早大に敗れて2位、秋の6大学でも明大に負けて2位だったんだけど、それでも堂々のAクラスだわな。

 上野もキャプテンの重責を果たせて随分とほっとしてたわ。


 それで上野の卒業式が終わったら、すぐに2人は結婚式を挙げるそうなんだ。

 もちろんその後は上野は渋谷物産に入社して、将来の社長候補生として育てられる予定らしい。



 それで俺もそのとき初めて渋谷物産の話を聞いたんだけど、随分と興味深い会社だったよ。


 まずは、渋谷一族が会社の株式の80%を保有していて、残りは社員持ち株会が持ってるんで、会長や社長の地位は安泰なんだけどな。

 その会長社長の仕事は敢えてほとんど無いようにしてるんだそうだ。

 つまりまあ、『君臨すれども統治せず』っていうのに近いんだと。

 唯一の仕事は、国賓クラスの客が来た時に挨拶するとか、役員会で業績を褒めるとか、なるべくそういうものだけにしているそうだ。


 その代わりに各業務分野を代表する副社長が20人もいるんだと。

 その下の常務取締役に至っては120人もいるそうだし。

 そうして副社長の中から、特に国内部門、海外部門、管理部門を統括する副会長が3人出て、この3人と副社長会が全体に睨みを効かせているそうなんだ。


 つまりさ、渋谷物産ではいくら社長会長に追従して気に入られても、それだけじゃ出世出来ないそうなんだよ。

 また、社長の椅子を巡っての権力闘争も有り得ないし。

 日本の大手企業って、この権力闘争が激しすぎて、勝った派閥が負けた派閥を粛清するもんだから、社長交代からしばらくはボロボロになってるそうなんだ。

 そういう弊害を無くすとともに、権力が社長に集中して社長の失敗で即会社が傾くようなことも避けているそうだ。





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