*** 82 ワールドシリーズ ***
この物語はフィクションであります。
実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……
9月上旬、俺が31連勝目を飾ると、ギガンテスのナショナルリーグ西地区優勝が決まった。
それから5日後、メッツが東地区で優勝すると、すぐにリーグチャンピオンシップをかけた試合が始まったんだ。
(当時まだ『中地区』は無かった)
そうそう、MLBと日本のプロ野球の違いはたくさんあるけど、その中の最たるもんが、『地区優勝チームが決まると、残り試合が全部キャンセルされる』っていうものかな。
シーズン終盤は同地区内の対戦になるから。
つまり無駄な消化試合が一切行われないんだよ。
リーグチャンピオンシップ第1戦は俺が先発してメッツをパーフェクトに抑えることが出来た。
第4戦にも登板して2安打無失点に抑え、ギガンテスは4勝1敗でナショナルリーグの優勝を果たすことが出来たんだ。
またサンフランシスコ周辺がお祭り騒ぎになってたわ。
因みに俺のシーズン中の成績は、
・勝敗:31勝0敗(MLB連勝新記録)
・ノーヒッターもしくはパーフェクトゲーム:9
(MLBシーズン新記録及びキャリア通算新記録)
・自責点:6
・防御率:0.2(MLBシーズン新記録)
・奪三振:590(MLBシーズン新記録)
・1試合奪三振:23(MLB新記録)
・連続イニング無失点:100イニングス(MLB新記録)
・ホームラン:35本
・打率:48.2%(規定打席数未達のため参考記録)
ってな具合だったわ。
ま、まあ上出来って言っていいんじゃないか?
因みにMLBでは、打率3割以上、盗塁30以上を記録した選手を『30-30』って呼んで讃えるんだ。
これにホームラン30本以上が加わると『トリプル30』とか言ってな。
まあ、超一流選手の証だ。
俺の場合、盗塁は禁止されてるから無理なんだけど、代わりに30勝以上があったもんだから、ホームランと勝利数で『新30-30』とかって呼ばれたよ。
どうやらこの記録もアンタッチャブル扱いになるそうだ。
いよいよワールドシリーズが近づいて来た。
相手はあのNYヤンキースだ。
でもさ、対メッツ戦で5本柱の1人の準エースが肩を痛めちゃったんだ。
それ以外のピッチャーも、年齢のせいか相当に疲れてたし。
もうみんな目の下に隈が出来ちゃってたしな。
それで俺は第1戦の先発を任されたんだよ。
俺の変化球って初見のバッターに強いだろ。
まあ、オールスターで対戦した奴も2人ばかりいたけど、もう随分前のことだし、5日も休み貰ってて休養も十分だし。
おかげでまたゾーンに入れて、試合が終わってみればまたもやパーフェクトゲームよ。
どうやらこれは1956年のボン・ラーセンに続いて史上2人目のワールドシリーズでのパーフェクトゲームだったらしいな。
でもさ、第2戦と第3戦は先輩ピッチャーが打たれちまって負けちゃったんだわ。
それで第4戦は俺が投げて2安打完封勝利。
だけど第5戦も味方ピッチャーが打たれちまって、とうとうヤンキースに王手をかけられちまったんだ……
第6戦に先発した俺は頑張ったよ。
ヒットは3本も打たれちまったけど、それでもヤンキースを0点に抑えられたんだ。
ジョーも俺もホームランを2本ずつ打ってたし。
そして3勝3敗で迎えた第7戦。
俺は監督のガイエルに先発を直訴したんだ。
「ユーキ、キミはまだ若い。将来も有る身だ。
肩を壊しては何にもならんぞ」
「はは、こういう時のための左投げですよ」
「そうか…… そういえばそうだったな。
ギガンテスがここまで来られたのは君のおかげだ。
全てを君に託そう。だがどうか無理はしないでくれ……」
それで俺はジョーと相談して、例の大型ミットをつけてもらったんだ。
まあ暇なときには何度か練習もしていたし。
それで打者一巡までは左のナックルを主体に投げることにしたんだよ。
それで打たれたら右での投球に切り替えることにして。
まあ俺も自分のナックルは相当に研究してたからな。
ボールを握る位置とキャッチャーに届くまでの回転数の組み合わせで、3種類の変化をするナックルを投げ分けられるようになっていたんだ。
1つ目は右に20センチほど曲がってから5センチ浮き上がり、最後に30センチ落ちる球。
2つ目は5センチ浮き上がってから左に曲がりながら落ちて行く球。
3つ目は右に20センチ曲がってから左に30センチ曲がり、最後は30センチ落ちる球だ。
この投げ分けが出来るようになったおかげで、ジョーのキャッチングも安定したし。
しかもありがたいことに、当時MLBにはナックルボーラーが2人いたんだけど、どっちもナショナルリーグの投手だったんだ。
だからヤンキースのバッターのほとんどにとって、ナックルは初見の変化球だったったんだよ。
それでもナックルは球速が120キロぐらいしか無いからな。
だからまあ多少は打たれることは覚悟してたんだ。
たぶん味方も打ってくれるだろうし、イザとなったら右投げにチェンジしてもいいだろうし。
そしたらさ、驚いたことに3回まで誰にもヒット打たれなかったんだ。
つまり打者1巡目までは抑えられたんだよ。
4回にはヒット打たれちまったけど、必殺牽制球ですぐアウトに出来たし。
これも相手にとっては初見のワザだったんで、随分とびっくりしてたわ。
それで6回までは無得点で抑えられたんで、終盤は右投げに切り替えて頑張って投げたんだ。
まあ、ほとんどジャイロとフォークばっかしだったけど。
味方打線が6点も取ってくれてたから、俺も余裕を持って投げられたよ。
それでついにヤンキースを無得点に抑えて、我がギガンテスは30年ぶりのワールドシリーズ制覇を達成することが出来たんだ……
はあ、これでようやく俺のルーキーイヤーが終わったか……
けっこう長かったな。
俺、お疲れさん……
それでもう当面試合も無いし、俺は久しぶりに自分に『キュア』をかけたんだ……
おかげで眠くならずに表彰式にも出られたし、シャンパンファイトにも参加出来たよ。
ああ、ジョーの笑顔を見たのは初めてだったかもだ……
ギガンテスがワールドシリーズを制覇した翌日から、次々にアワードが発表されていった。
俺が獲得出来たのは、まずは満票で『ナショナルリーグ新人王』だ。
これはまあ当然かもな。他の新人は目立ったやつがいなかったし。
次は『ナショナルリーグシーズンMVP』。
それから『リーグチャンピオンシップMVP』。
もちろん『ワールドシリーズMVP』も貰えたぞ。
考えてみれば、ギガンテスのワールドシリーズ4勝って、全部俺が投げたときだったし。
それから『セイ・ヤング賞』。これも満票での受賞だ。
(註:日本で言う沢村賞と同じ先発完投型の投手に贈られる賞)
そして『ゴールドグラブ賞』。
(註:日本ではゴールデングラブ賞だが、MLBではゴールドグラブ賞と言う)
これはちょっと不思議だったんだよ。
俺、ピーゴロってほとんど処理してないし。
でもどうやら必殺牽制球による牽制アウトの数が評価されたらしいな。
加えて、牽制球を警戒した相手がほとんど盗塁しなかったことも大きかったんだろう。
どうやら被盗塁率がナショナルリーグのピッチャーの中で断トツ最低だったそうだし。
というか盗塁成功はゼロだったか。
次は『シルバースラッガー賞』
これはアメリカのバットメーカーが主催している賞で、各リーグ、各ポジションごとの打撃成績によって与えられる賞になる。
そういえば俺、月間MVPは4月から9月まで6か月連続で貰ってたわ。
おかげでなんか『月間MVPコレクター』とか『月間MVPスイーパー』とか言われてたし。
それから『100イニングス連続無失点』と『31連勝』と『1試合23奪三振』と『シーズン奪三振590』のMLB新記録を讃えられて、『MLBコミッショナー特別顕彰』も貰えたんだ。
はは、なんか各種タイトル総ナメだな。
俺自身はそこまで頑張った記憶は無いんだけど。
まあ毎試合集中して淡々と投げてただけだったし。
それでGMのブレッドと面談したんだけど、最初に今シーズンのタイトルボーナスを言い渡されてびっくらこいたよ。
だって、各賞合わせて50万ドル(当時≒1億2500万円)もあったんだぜ!
しかも来季の俺の年俸提示額は150万ドル(当時≒3億7000万円)だってさ!
「ユーキ、君には出来れば若手キャッチャーの指導もお願いしたいんだ。
君の球を受けられるのがジョーとミゲルの2人だけというのは、球団としても不安だからな。
それ以外にも若手への『ユーキメソッド』コーチングもお願いしたいんだ。
そのフィーとして追加で30万ドル(当時≒7500万円)払うのでどうか引き受けてくれないだろうか……」
ご、合計180万ドルかよっ!
そ、それって今の為替レートで4億5000万円かよっ!
す、すげぇ……
「でっ、でも、さすがにジョーの年俸を上回るのはちょっと……」
「ははは、内緒だがジョーの年俸は200万ドルになる。
君たちはまさに我がチームの攻守の要だからな」
まあ俺も一発サインしたよ。
それで翌日タイトル料が振り込まれてたもんで、すぐにティ〇ァニーに行ってダイヤの指輪買って、花屋にバラ100本の花束作らせて、神界に転移したんだ。
そうしてめーちゃんの前で片膝ついて言ったんだよ。
「めーちゃん俺と結婚してくれっ!」って……
めーちゃんは号泣しながら抱き着いて来てくれたよ……
それでまあ、結婚も決まったしそろそろ子作りの練習も解禁していいかなっていうことで、2人で初エッチしたんだ。
でもさー、2人とも溜まってたろ。
しかも俺もめーちゃんも『身体強化』と『キュア』使えるだろ。
それも超勇者級と女神級のやつ。
気が付いたら3日3晩ヤリ続けてたよ……
300ラウンドぐらいヤってたんじゃないか?
そしたらなんかめーちゃんの顔つきが少し変わったんだ。
今までは神々しい超美人だったのが、すっげぇ若々しくなって可愛らしくなっちゃったんだわ。
お、俺の好みど真ん中だ……
やっぱりヒト族の女性って、エッチすると変わるのかな……
(ふふふ、さすがは女神さまでございますな。
勇者さまの理想を読み取られてその通りにお体を改変なさるとは。
これでもう勇者さまも女神さまにメロメロでございましょう♪)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は下界に小さな家でも買おうかと思ってたんだ。
そこと神界を転移魔方陣で繋いで、神界でめーちゃんと暮らすつもりで。
そうしたら、めーちゃんが下界で俺と一緒に暮らしたいって言うんだよ。
それからヒト族と同じように結婚式もしたいって。
それで俺はサクラメントの郊外辺りに家を買おうかと思ったんだけどさ。
神保さんが既に用意してあるって言うんだわー。
なんでも女神さまの『下界公邸』っていうんだと。
女神さまが住むんだから予算は神界が出して当たり前だそうだ……
それでとにかく俺は一旦下界に降りたんだ。
もうそろそろミゲルの契約更改も終わってるだろうし、オフの間にまたドミニカで練習したいと思ってたからそれも頼みに。
それに市長主催の優勝祝賀会もあって、チームのみんなも全員出席することになってたし。
ミゲルも無事に年俸を20万ドルに上げてもらえたそうで、随分喜んでたよ。
「ユーキ、これも全て君のおかげだ。本当にありがとう」
「いやまあお前も頑張ってたからな。当然だよ」
「おかげで俺、結婚出来ることになったんだ。
それで3週間後に故郷の村で結婚式をすることにしたんで、ユーキにも是非出席してもらいたくってお願いしようと思ってたんだよ」
「それはおめでとう。
それにちょうどよかったよ。
俺もまたドミニカでキャンプ張りたいと思ってたんだ。
お願い出来るか?」
「もちろん大歓迎だよ。
俺もちゃんとトレーニングしないと、マイナーに落とされたら大変だからね」
「それにしてもお前、あれだけ野球ばっかりやってて、よく結婚相手を見つけられたな。
どこの女性なんだ?」
「ああ、ユーキも会ってるじゃないか。マリーアだよ」
「ん? マリーアって誰だ?」
「ほら、グラウンドの外に出たボールを探してくれてた子供たちのリーダーで、夜は小さい子たちに英語教えてた娘だって」
ちょっ!
お、おまっ!
あ、あのどう見たって中学1年生ぐらいにしか見えなかった女の子かよっ!
「いやほんっとよかったよ。
マリーアは村長の娘だから、俺が3年以内にメジャーに上がれなかったら、隣村の村長の息子のところにお嫁に行くことになってたんだ。
俺がマリーアと結婚出来るのもユーキのおかげだよ」
「おい……
マリーアって、い、いくつなんだ?」
「はは、今年14歳になったからもう結婚出来る年齢だよ」
ま、マジかよ……
ま、まあ昔の日本も女性はそのぐらいで結婚してたか……
そういえばあの村、80人ぐらいしかいないうちの15人が乳幼児と子供だったな……
そうか、みんな結婚年齢が異様に早いせいだったのか……
そういえばこいつだってまだ19歳だし……
それにしてもだ!
「おい、ロリミゲル!」
「なんだい?」
な、なぜ動じないんだ……
ロリっていう言葉はアメリカやドミニカでは通用しないんか?
(勇者さま勇者さま)
(あ、神保さん)
(あのドミニカの村の名前は『ロリンゲス村』と言います。
そして村の住民の皆様のファミリーネームは『ロリンゲス』なのでございます。
そのために、その呼び方には違和感を感じられないのでございましょう)
(そ、そうでしたか……
そ、それにしても『ロリん下衆』とは……)
「そうそう、ユーキはまだ結婚しないのかい?」
「お、おう……
実は来年2月下旬のキャンプインの前に、サンフランシスコで結婚式をしようかと思ってるんだ……」
「そうか! おめでとう!
それ、俺とマリーアも参列させてもらっていいかな?」
「もちろんだよ。みんなにも来てもらえるようにお願いしようと思ってるんだ」
「楽しみにしているよ♪」




