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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
81/157

*** 81 オールスターゲーム ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……



 



 7月に入っても2連勝していた俺は、絶好調のままオールスターゲーム当日を迎えた。



 試合前にジョーから言われたわ。


「相手のアメリカンリーグの野郎共は、お前ぇの球を初めて見る奴らばっかしだ。

 つまり誰も見たことのねぇ球種を持つお前が絶対的に有利だってぇこった。

 だから今日はストレートとチェンジアップとスライダーは封印する。

 責任投球回数はたったの3回、打者9人だけだからな。

 俺のミット目掛けて思いっきり投げて来いや!」


「おう! いつも通り配球は任せるぜ!」



 先発の俺はグラウンドに出た。

 おー、相手ベンチにゃあなんかテレビや雑誌で見た顔がいっぱいいるじゃねぇか。

 まさに全員スーパースターだらけだわ。


 それで俺がマウンドに立って最後の投球練習をしてたら、そのアメリカンリーグのスーパースター共がみんな俺を見てやがるんだよ。

 デビュー以来19連勝中で、ノーヒッターやパーフェクトゲームを5回もやらかした若造がどんなツラぁしてるか拝んでやろうってぇことか……


 ああ、滾ってきたよ……

 なんか俺、本当に夢の舞台に立ってるんだな……



 プレーボールの声がかかった瞬間から俺はゾーンに入った。

 それも深い深いゾーンだ。

 もうジョーのサインとミットしか見えてねぇ。

 試合の途中経過も覚えてねぇ。


 そうして4回の表にマウンドに上がろうとして、ジョーに腕を掴まれたんだ。



「お前ぇ、久しぶりにまたぶっ飛んでやがるな。

 やっぱりてぇした野郎だわ。

 だが、もうお前ぇの責任投球回数は終わったんだ。

 後はゆっくりベンチに座ってオールスターゲームを楽しんでいろ」


 なんかナショナルリーグチームのみんなも俺のこと遠巻きに見てたよ。

 噂に聞く俺の集中力に驚いてたみたいだ。



 それで俺、そのとき初めてスコアボードを見たんだけどさ。

 ああ、1回から3回までアメリカンリーグは0点か。

 ヒットも0だな。

 そうか、俺は相手のスーパースターたちを完封出来たのか……



 それでそのあと俺はダグアウトでまた爆睡しちまったんだ。


「みんな済まねぇ。

 コイツはゲームに集中しすぎると、投げ終わったあとすぐにこうやって爆睡しちまうんだ。どうかカンベンしてやってくれ」

 っていうジョーの声を微かに聞きながら。


 なんか、みんな笑うっていうよりは、畏怖の表情で俺を見てたそうだな。


 ま、まあオールスターゲーム中にダグアウトで寝てる奴とか前代未聞だろうからなぁ……



 それで翌朝ホテルのダイニングでジョーが教えてくれたんだけどさ。

 俺は相手打線を全員三球三振に抑えてたんだと。

 だから27球しか投げてなかったんだよ。


「お前ぇ、3回の打席でバックスクリーン直撃のホームランを打ったことは覚えてるか?」


「え、俺ホームランなんか打ってたんか?」


 そんときのジョーの顔は見ものだったぜ……

 周囲にいたナショナルリーグのメンツもだ。

 なんかみんなバケモンでも見るような顔してたわ……



 それにこの時の俺の投球は伝説になっちまってたそうだ。

『ミラクルボーイのミラクルな27球』とか言われて。


 アメリカンリーグの監督のコメントが、『あいつがアメリカンリーグにいなくて本当によかったと思う』だったらしいな……



 そう言えばホテルの俺の部屋にデッカいトロフィーが置いてあって、『1984年、MLBオールスターMVP』って書いてあったわ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 オールスターゲームも終わった7月下旬、俺はGMのブレットに呼ばれた。

 部屋にはブレット以外にジョーもいたんだ。



「ユーキ、君も知っての通り7月末はMLBの移籍期限だ」


(そ、そうだったんか……)


「それで今、ナショナルリーグの3球団からミゲルを欲しいという要望が届いている。

 年棒はどこも倍額の10万ドルを提示して来たし、移籍金もかなりの額だ」


「そ、それって……」


「うむ、君の球を受けられる貴重なバックアップ要員を奪おうという魂胆だろう。

 今のジョーは生涯最高成績キャリア・ハイを続けているから、今年で引退ということは有り得んが、それでもミゲルがいなければ不安は残るだろうからな。

 だから君の意見も聞かせて貰いたいと思ったのだ」


「ということは、ミゲルは移籍先の球団で飼い殺しにされる可能性もあるっていうことなんですね……」


「十分に有り得るだろうな」


「そうですか。

 それではわたしの言うことではないと承知の上で、ミゲルの年俸を上げてやって頂けませんでしょうか。

 私の球を捕球出来るのは、ジョー以外ではまだミゲルしかいませんし」


 ブレットが微笑んだ。


「君はそう言うと思っていたよ。

 実はミゲル自身にも移籍を打診してみたんだが、ミゲルは君の球も、君のコーチングももっと受けたいので移籍したくないと言っていた。

 わかった、ミゲルは他球団に出さないことにしよう」



 それで今度はミゲルがGMに呼ばれたんだけどさ、ブレットが提示した臨時年俸更改額がなんと15万ドルよ。

 可哀そうにミゲルはしばらく口も利けなかったそうだ……

 あとでこれも全部ユーキのおかげだって泣かれたけど……



 そして、その日からミゲルは毎試合ベンチ入りするようになって、ダグアウト内でジョーがミゲルを隣に座らせたんだ。

 そんでもっていろいろと教え込んでるんだよ。


「今の回の配球を言ってみろ」とか、

「現代ベースボールで重要なのは緩急だ。

 だから投球の合間には必ず打者のタイミングを外す球を投げさせろ」とか、

「特にユーキの場合は、フォークの後に投げ出し方向が同じジャイロを投げさせれば相手はまず打てねぇ」とか、

「あのバッターは左右の揺さぶりに弱ぇから、決め球にゃあカーブかスライダーが有効だ」とか……


 そうやってミゲルに教え込むようになったんだ。


 ついでに俺が投げてる試合で点差が開いてると、8回とかの自分の打席が終わった後に、監督のガイエルに言うんだ。


「ああ、俺もちいっと疲れたから次の回はミゲルと交代させてくれ」って……


 ガイエルも笑顔で了承してたよ。



 それからもミゲルの出番は少しずつ増えて行ったんだ。

 俺が投げるときだけじゃあなくって、他のピッチャーが投げるときでも。


 チームのみんなも「あのミスター・キングがミゲルを弟子にしたぜ!」って驚いて、なんにも言わなかったしな。

 たまに打席機会が回って来ると、ミゲルもヒット打ってたりしたし……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 8月になった。

 それで俺が23勝目をあげると、なんかまたサンフランシスコ中が騒がしくなっていったんだ。


 球団が売り出した『ブレイク・ジ・アンタッチャブル!』とかいう字がプリントされたTシャツを着た奴も増えていったし……


 それで俺もさすがに気が付いたんだけど、MLBの投手の連勝記録って24連勝だったそうなんだ。

 そうして、記録好きのアメリカ人たちが数えたMLB記録って山ほどあるんだけど、その中でも『アンタッチャブル』って言われる、この記録を更新するのは絶対無理だぜ!っていう大記録がいくつかあったんだ。


 例えば、

『ジョン・ディマジオの56試合連続安打』とか、『タッド・ウィリアムスのシーズン打率40.6%』とか、『セイ・ヤングの通算511勝』とかだ。


 その中で、1937年に記録された投手の24連勝も、アンタッチャブル・レコードって言われてたんだよ。



 それで俺がロードで24連勝目を上げたら、もうサンフランシスコ中がお祭り騒ぎよ。

 俺の25戦目はホームでの第2戦が予定されてたからな。

 当日の混乱を避けるために、当日券の販売は無しにして全て前売り券で売ったらしいんだけど、もう何週間も前にとっくに売り切れてたそうだ。


 球場周辺広場では広告塔が50基に増えてたし、球場に入れないファンのためのパブリックビューイングも巨大なスペースが5か所も用意されてたし。


 そういえば、球場を埋め尽くしたファンの7割がモヒカンだったよ。

 女性客も含めてな。

 残り3割の女性や頭髪が寂しくなっちゃってた人たちも、ほとんどがモヒカン型の被り物を被ってたし。

 ホームベース裏に陣取った球団オーナーやサンフランスコ市長もサンノゼ市長もサクラメント市長もモヒカンだったし……

 球場周辺を取り囲んだ20万人のファンもほとんどモヒカンだったそうだし……


 だいじょーぶかサンフランシスコ!



 でもまあみんなワクテカになってて楽しそうだったからいいか……



 それで俺はまたプレイボールの声を聴いたとたんにスイッチが入って、自動的にゾーンに没入出来たんだ。

 それでいつものようにジョーのサインとミットしか見えないまま、時間が過ぎて行ったんだよ……


 後で聞いたんだけど、俺がパーフェクトのまま9回に入ると、サンフランシスコ市周辺を走っていた車の90%が半径数百キロに渡って路肩に停車したそうだ。

 そうしてラジオの音量を上げて放送に聞き入ってたんだと。

 俺が27人目のバッターを三振に抑えた瞬間、そうした停車中の車が一斉にクラクションを鳴らしたらしいな。

 球場周辺では500発の打ち上げ花火が飛び交ってたし。




 こうして俺は『ヒーロー・オブ・ザ・サンフランシスコ』になれたんだ。


 どうやら市長特別顕彰も貰えるみたいだし、それになにより舞い上がってた3市長の推薦で、俺は『ヒーロー・オブ・ザ・サンフランシスコ』の称号に加えてアメリカ国籍と市民権を貰えることになったんだ。

 渡米1年以内の23歳の若造に対しては異例中の異例の報奨だそうだわ。


 どうやらみんな、俺が日本に帰っちまうのを恐れてたらしいぞ。

 そんなことするわけないのになー。




「ということで神保さん。

 これで俺は日本に帰ってあの届け出を出さなきゃなんないんですよね」


「はい」


「それじゃあ、シーズンオフにでも日本に帰って出しますか」


「構わないのですか?」


「はは、ぜんぜん気にしませんよ」


「それでは書類はすべて準備しておきましょう」


「よろしくお願いします」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺が連勝記録を26に伸ばしたころ、ある試合でホームランを打ったんだけどさ。

 カーブにタイミング外されてバランス崩してバットの芯も10センチ近く外してたんだけど、それでもなんとかレフトスタンドインぎりぎりまで持って行けたんだ。

 これも『エンシェント・トレントのバット』のおかげだわ。

 なにしろあれから4年以上も使ってるのに一度も折れてないもんな。


 そしたらダグアウトでジョーが近寄って来たんだよ。


「お前ぇ、よくあんだけ芯を外しててスタンドまで持って行けたな……

 どう考えてもバットがへし折れて当然だったろうに。

 ちょっとそのバット俺に見せてみ」


 それで仕方なくトレントバット渡したんだけどさ。

 ジョーが、「こ、こいつぁ……」とか言って絶句してるんだよ。

 俺はイヤな予感がしたんだわ。



 そして案の定、ジョーがいっぺん貸せって言うんだよ。

 それで特大のホームランを打っちまったんだ。


「おいユーキ、このバットも日本製か!」


「ま、まあそうだな……」


(原材料は異世界産で製作は神界とか言えるかよ……)


「俺の分も注文しておけ!

 これほどまでに軽くて丈夫なバットは見たことがねぇ!

 しかもフルスイングすると絶妙に撓りやがる!

 なんてすげぇバットなんだ!」



 それで俺、焦りまくって必死で説明したんだ。

 これは超貴重な木で作られてるんだとか、絶対に水分を含ませてはいけないとかな……


 なんせ間違って水分与えたまま放置したら根を生やして歩いて逃げちまうし、そのまま池の中にでも逃げ込まれたら、数週間で巨大化して人を捕食し始めるからなぁ……


 そしたらジョーがすっげぇ残念そうな顔してこっち見てるんだわ。


 それで仕方が無いんで、神保さんが用意してくれてたあと9本の『トレントバット』のうち1本を貸し出してやることにしたんだ。

 試合が終わった後の管理は神保さんに頼んで。


 そしたらやっぱりクリスもフィリーも貸してくれって言って来たんだよ。

 ま、まあ仕方無いよな……


 それで3人が打ちまくったもんだから、当然のごとくチームの全員が俺にバットを借りに来たんだわー。


 おかげで8月のチーム打率が一気に30%になっちまったんだ。

 それでギガンテスはナショナルリーグの首位独走よ。


 それで『トレントバット』はチーム内では『魔法のバット』って呼ばれて、すっげぇ大事にされるようになったんだ。

 試合後には全員が乾いた布で時間かけて綺麗に拭いてくれてるし、それを神保さんが吸湿材入りのハードケースに仕舞ってもみんな当然だっていう顔してるし……


 でも……

 みんなすまん……


 それ『魔法のバット』じゃあなくって『魔物のバット』なんだ……





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