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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
80/157

*** 80 『CRYBABY JOSE』 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……



 


 みんなの予想通りルイスの足首は全治3か月の重傷だった。

 しかもルイスはジョーに次ぐチームの古参だからなぁ……

 このまま引退の可能性も十分にあったんだよ。


 それでも俺たちは戦い続けなきゃなんないんだ。

 翌日はホームに戻ってカーディナルスとの対戦になる。

 そして、ルイスの代わりにショートストップとしてマイナーから上がって来たのはあのホセだったんだ。

 そう、あのドミニカの小さな村で一緒に練習したホセだ。



 初めてギガンテスのロッカールームに現れたホセはガチガチに緊張してたけど、そこには当然俺とミゲルがいるわけよ。

 なんかあからさまにほっとしてたぞ。

 ダグアウトでは常に俺の隣に座ってたしな。


 それにしてもホセの奴、ちょっと見ない間に随分と成長してたわ。

 もともと身体能力は素晴らしかったんだけど、毎日こつこつユーキメソッドを続けてたおかげで、動体視力ポイントが25まで上がって来てたんだと。

 おかげで打球の行方を瞬時に見極められて、守備範囲がとんでもない広さになっていたんだ。

 打撃に関してもウエストコーストリーグでベスト20に入ってるそうだし。


 まあルイスには気の毒だったけど、ホセもようやくチャンスを掴めそうだっていうことなんだろう。

 メジャーってぇのはこうやって世代交代していくんだな……




 試合は6回まで進んだ。

 得点は5対0でウチがリードしている。

 その日も絶好調だった俺は相手打線をパーフェクトに抑えていたんだ。


 7回の表。

 俺は2アウトから相手の3番に痛烈なショートゴロを打たれた。

 まあそれでもショート正面だったからほっとしてたんだけど。


 でも……

 その打球がホセの目の前でイレギュラーバウンドして大きく跳ねちまったんだ。

 ホセはとんでもねぇ反射神経でグラブを上げたんだけど、それでもボールはそのグラブを弾いてレフト前に転がったんだよ。


 ん?

 記録はエラーだと?

 なんでだよ!

 どう見たってショート強襲のヒットだろうに!

 そんなことになったら、ホセがエラーしたことになっちまうじゃねぇか!


 あー、そうか。

 ボールに触れなかったんじゃなくって、正面に来た球をグラブに当てて後逸したから、強襲ヒットじゃなくってエラーにされちまったんか……

 それに、これはあくまで公式記録員の主観だからな。



 ホセがバックスクリーンに表示された『E』の文字を見て硬直している。

 俺のパーフェクトピッチングを楽しみにしていた観客席から大きなため息が聞こえて来た。

 中にはブーイングしているファンもいる。


 俺はその後の相手打者を三振に打ち取ってダグアウトに戻ったんだ。

 ホセは……

 あー、隅っこに小さくなって座ってるよ。

 両手で顔を抑えてるし……

 今こいつの頭の中には故郷の家族の顔が浮かんでるんだろうな……



 俺はホセの前に歩いて行き、その左肩に手を乗せた。


「ようホセ。ありがとうよ」


 ホセはビクンと震えた後、恐る恐る顔を上げた。

 あー、泣いちゃってるよこいつ……


「お前のとんでもねぇ反射神経でグラブにボールを当てたからこそエラーになったんだ。

 おかげで俺のノーヒッターゲームは守られたんだよ」


 ホセが口を開けて俺を見ている。

 俺の言った意味がよくわかってないみたいだな。


 そのときジョーがのしのしとやって来て、ホセの右肩に手を乗せた。


「ユーキの言った通りだ。よくやったな若ぇの。

 お前ぇの凄まじい反射神経がユーキのノーヒッターゲームを守ったんだ」


 おお!

 さすがはチームリーダーだ。

 ジョーもいいとこあるじゃん!



 サードのフィリーも近寄って来た。


「いやあのイレギュラーバウンドを見て冷や汗が出たぜ。

 俺だったらボールに触ることも出来ずにヒットにしちまってただろう。

 ナイスプレーだったぜ若いの!」


 ファーストのクリスも来た。


「さて、これで俺たち守備陣の責任は果たしたからな。

 この試合をノーヒッターゲームに出来るかどうかは、もう全部ユーキの責任だ。

 これでようやくとんでもねぇ緊張感から解放されるわ」


「そうだな、サードに球が飛んで来るたびに、俺ぁキンタマ縮み上がってたからなぁ……」


「お前ぇはまだマシだぜ。

 ファーストなんざ、お前ぇらがショーバン送球するたびにションベンちびりそうになってるんだぞ」


「わははははは」



 さすがはウチのチームだ……

 これでホセも少しは元気が出たろう。

 なんせギガンテスのクリンナップトリオっていう、ホセにとっての雲の上の連中に褒めてもらえたんだから……


 はは、また泣き出してるよ。

 さっきまで蒼白だった顔が赤くなって来てるけど……



 それでさ、8回の表に2アウトから俺また打たれちゃったんだ。

 カーブにバット合わせられて、レフト方向にふらふら上がるフライを。

 打たれた瞬間、ポテンヒットを確信したわ。



 そしたらさー、ショートのホセが猛然と後ろに走って行くんだわー。

 そんでもって、一瞬だけボール見た後に思いっきりダイブして、地面ぎりぎりで捕球しちまったんだ。

 ボールを見ながら後退したんじゃ絶対に間に合わねぇって思ったんだろうな。

 1回だけボールを見て落下点にダイブして、ボールを見ないまま捕球したんだぜ。

 とんでもねぇスーパープレイだわ。



 1塁側の観客が総立ちになって拍手をしている。

 それは俺たちがダグアウトに戻っても止まなかったんだ。

 いわゆるカーテンコールだな。


 でもさ、メジャー初出場のホセはそんな経験が無かったんだ。

 だから仕方がねぇから、俺がホセの腕を掴んでダグアウト前に連れて行って、観客席に向き合わせてやったんだよ。


 大観衆の拍手がさらに大きくなった。

 ホセはどうしていいか分からずにきょろきょろしとる。

 それで俺はホセの帽子を取って、代わりに上げてやったんだわ。


 それでもう客は大喜びよ。

 爆笑は起きるし拍手はさらに大きくなるしだ……

 はは、ホセもようやく今の自分のプレーを讃えて貰ってるってわかったみたいだわ。

 あー、大粒の涙をぽろぽろ零しちゃってまあ……



 その後は俺も気合入りまくりで投げたぜ。

 ホセが2回も守ってくれたノーヒッターゲームを壊すわけにゃあいかねぇからなぁ。



 まあ、ホセも完全にファンから認められてたわ。

『CRYBABY JOSE(泣き虫ホセ)』とか呼ばれてな……


 入院中のルイスも同じドミニカンのホセが活躍したんで喜んでたそうだ。



 それからもホセはスーパープレイを連発して、とうとう翌年にはゴールドグラブ賞を獲得するんだけどさ。

 授章式で、「ぜ、ぜんぶユーキのおかげなんですぅ!」って叫んでまた号泣しちゃったんだぜ。


 はは、『CRYBABY JOSE』の面目躍如だな……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は次のカブス戦も完封した。

 これでデビュー以来11連勝、連続イニング無失点記録は99イニングスになっている。

 おかげでまたも5月のナショナルリーグ月間MVPを獲得することが出来たんだ。


 だけどさ、ピッツバーグに乗り込んでのパイレーツ戦の2回の裏、とうとう相手の4番にホームランを打たれちまったんだよ。

 久しぶりに投げた外角低めのストレートを、見事にライトスタンドに持ってかれちゃったんだ。

 まあ、相手はあのビル・ミドロックだったからなぁ……

 さすがは過去10年間で4回も首位打者になってた野郎だわ。


 まあ仕方が無い。

 またこつこつと無失点記録を積み重ねていこうじゃないか。


 そう思って気落ちせずに頑張ったせいで、試合は4対1で勝てたけどな。

 これで12連勝か。

 ルーキーのデビュー以来の連勝記録は5連勝だったから、こっちはダントツで記録更新中だ。

 因みにルーキーのシーズン連勝記録は1941年の10連勝だったから、これも今や俺がタイトルホルダーだぜ。




 それで俺もちょっと考えてみたんだ。

『なんで俺はメジャーでこんなに活躍出来ているんだろうか?』って。


 俺の思いついた理由は2つある。

 ひとつめはMLBが使ってる公認球の縫い目が高くって、変化球がよくキレること。

 つまりMLBは変化球投手有利だっていうことだ。


 もう一つはジョーの存在が大きいわ。

 なんてったって、俺が球種を考える必要が全く無いもんなぁ。

 ただ単にジョーのサイン見て、ジョーのミット目掛けて投げてりゃいいんだもの。

 だから簡単にゾーンに入れるんだよ。

 なーんも考えずにただサイン通り投げるだけっていうのが、こんなにラクだとは思っていなかったわー。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 この頃には全米で急速に増えていたケーブルテレビ局が、続々とギガンテスに契約を求めて来たそうだ。

 もともとMLBチャンネルっていうのはあったそうなんだけど、その中でもギガンテスの試合を中継すると、その分の放映権料が球団に入るんだよ。

 この放映権料ランキングが、ウチは全米28球団中(当時)ヤンキースに続いて2位にランクアップしたんだと。

 おかげで球団の総収入が倍増どころか何倍にもなってるそうだ。

 もうブレットGMなんかいつもニコニコだわ。

 やっぱり勝負の世界は勝てば天国だったんだな……



 それで儲かっているうちに将来のために投資しておこうっていうことで、ドミニカやプエルトリコに『ギガンテスアカデミー』を創設することにしたそうだ。

 まあ2019年の今だとけっこうたくさんの球団がやってることだけど、1984年としては相当に画期的な試みだったんだよ。


 それで正式に引退を表明したルイスが、ドミニカアカデミーのヘッドに就任するそうだ。

 引退後は故郷で若手のためにコーチをしたいと思っていたルイスは、無茶苦茶喜んでいるらしい。

 それで足首の怪我が治ったら、ワイルドキャッツに行って若手育成の方法を勉強する予定だそうだ。



 そうそう、今のギガンテスの快進撃の元になったのは、俺と『ユーキメソッド』だっていうことで、その両方を獲得してたワイルドキャッツのエリックも、年度末の契約更改では大幅年俸アップ間違いなしらしい。

 アメリカ人にしては珍しく、ユーキを獲得出来たのはスカウトのアンジーのおかげだってちょっと遠慮してるそうなんだけどな。


 それで、ブレットがアンジーに聞いてみたそうなんだ。

「なぜユーキに最初にワイルドキャッツのセレクションを受けるよう勧めたのか」って。

 そしたら当然のごとくアンジーの答えが、「全米最良の育成環境を持ったチームだったから」だったんだよ。

 それでやっぱりエリックの年俸大幅アップは間違いないらしい。

 ついでに育成費も倍増らしいけど。


 アンジーについては俺がロースターに入った時点でかなりの報奨金を貰えたみたいだし、今後10年間は球団から俺の年俸の何%かを貰えるみたいだ。

 やっぱりスカウトの世界も当てるとデカいんだなぁ。


 まあ、俺にとってはあんまり気にする話じゃないんだけど、それでも世話になった人たちが評価されるのは嬉しかったぜ。




 6月になって暖かくなって来ると、俺の調子は更に上がった。

 それでも同じナショナルリーグ西地区のチームとの対戦が増えて来ると、少しは打たれるようになったけどな。

 それでも6月に登板した5試合では、5勝0敗でパーフェクトゲームも1試合出来たよ。

 なによりも、代打の出場機会が増えてホームランを6本も打てたんだ。

 これで今シーズンの俺のホームランは21本、なんとナショナルリーグのホームランランキングの15位なんだぜ。



 そしたらさ。

 7月のオールスターゲームのファン投票で、俺がナショナルリーグの投手部門1位になっちまってるんだわ。

 びっくりだよな。

 どうやらみんな、俺とアメリカンリーグの強打者たちの対戦を見てみたいらしい。



 因みにジョーはキャッチャー部門3位だったんだけど、俺に投げさせるために監督推薦で出場が決まってたよ。





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