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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第1章 転生~中学生篇
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*** 8 ゴールへ ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 沿道で日本語が聞こえた。


「5キロ! 3分2秒! 21人!」


 そうか、ラスト5キロからは、1キロごとに天使さんたちがデータ教えてくれるって言ってたっけ。


 先頭とは3分2秒差。

 普通なら5キロで3分差は完全に絶望的な差だけど、今はマラソンのラスト5キロだ。

 なにが起きるかわかったもんじゃない。

 今俺に必要なことは、キロ3分のペースを守り抜くことだ。

 ロングスパートは必要ない。

 スパートするのは競技場に入る直前からだ。


 あー、また途棄がいる。

 可哀そうに。

 これが「根性で先頭集団について行く」ってことの弊害なんだよな。

 向かい風が強くって前の走者を風よけにするとき以外は。

 でも今日は快晴無風だろ。

 だったら途棄は完全に自己責任だよな……



「4キロ! 2分15秒! 13人!」


 お、47秒も縮めたのかよ。

 こりゃ先頭集団へろへろだわ。

 まあ俺も顔面の脂肪燃やし切って、理科室の人体模型みたいな顔になってるだろうけど。


 やれやれ、そろそろ大胸筋や広背筋も燃やし始めるか。

 でも大腿四頭筋はラストスパートに取っておかないとなぁ。


「3キロ! 1分30秒! 8人!」


 おお! また45秒も縮めてるよ!

 俺もけっこうキてるけど、前はもっとだな。



 後で見た録画では、このころからアナウンサーは興奮し始めてたみたいだ。

「神田選手、ペースを上げた模様ですっ! 先頭との差が縮まって来ましたっ!」とか。


 でも解説者は相変わらずだった。


「ふん、今更多少スパートしても遅すぎます。

 残り3キロで500メートル差は絶望的ですよ。

 だから根性出して最初から先頭集団についていけばいいのに」

 とか言ってたわ。


 俺、スパートしてなかったんだけど……



「2キロ! 58秒! 6人!」



「さあ神田選手! あとひとり抜けば6位入賞ですっ!」


「…………」


(そ、そんな…… こんなガキが……

 お、俺が根性鍛えて育てた三鷹を差し置いて、オリンピックに出やがったナマイキなガキが……

 こ、こんなことになるんなら、このガキの練習に強引にでも割り込んでいればよかった……

 そうすれば俺の直弟子がオリンピックで大活躍したって言えたのに……)



「1キロ! 21秒! 4人!」


 はは、前の連中もロングスパート始めたかな。

 1キロごとの先頭とのタイムの縮まり方が小さくなって来たか……



 このころから放送席は早くも絶叫を始めていた。

「あと4人っ!」とか、

「メダルの可能性がぁっ!」とかな。


 アナウンサーの興奮に比例して、ナゼか解説者は静かになっていってたけど……


 お、あそこに3人固まってるわ。

 あれが2位集団だな。


 でもまだ我慢だ。

 キロ3分ペースでも差は縮まってるからいいじゃねぇか。

 スパートタイミングは競技場直前になってから考えよう。


 あれ?

 前の3人が急に減速したぞ?

 そうか、ロングスパート合戦やりすぎて、みんなエネルギー使い果たしちゃったのか……

 燃料無かったら、どんな高性能の車も走れないからなぁ。

 自分のペースを守れば銀メダルの可能性もあったのに。



 さて、競技場入り口前に戻って来たか……

 あ、さすがにペースがキロ2分45秒に上がってたわ。

 まあ、あと500メートルも無いからいいことにしよう。


 俺の前にいるのは……

 あーあれ、フランク・ロンガーだな。

 100メートルも先にいるのか……


 仕方ない、ここまで来たんだから、まだ400メートル以上もあるけどマジラストスパート始めるか……

 ここまで温存して来た大腿四頭筋よ。頼んだぞ。

 それからしばらくは無酸素に近い運動になるから、ミオグロビンもよろしくな。

 でも400メートルちょっとで100メートルも縮めるのキッツイよなあ。


 おお、脚が上がるっ!

 大腿四頭筋のやつ、い~い仕事してるねぇ。

 ロンガーの背中が少し大きくなって来たぞ。

 俺に気づいてぎょっとした顔してるわ。

 そうか、福岡国際マラソンで俺の顔覚えてたんだな……


 お、ロンガーも必死で手を振り始めたけど…… けっこう遅いな。

 そうか、こいつラストのスピード無かったっけか。

 たぶん走り込み過ぎて赤筋ばっかりになってて、白筋がほとんど残ってないんだろうな。

 それじゃあ、あと200メートル頑張るとするかね……


 あれ?

 もうミオグロビンに貯蔵していた酸素が尽きかけているぞ?

 あ、そうか、マジラストスパート200メートルの予定が400メートルから始めちゃったもんだから、全部使っちゃったのか……

 ロンガーとの差があと40メートルになったっていうのに……


 仕方ない。

 筋肉中の酸素も振り絞って……

 あー、ちょっと足り無さそうだわー。

 それじゃあ最後の手段だ。

 ごめん俺の脳、ちょっとの間少ない酸素で我慢しててくれ。



 あー、気が遠くなってきた……

 それに俺、なんか、まっすぐ走ってるぞ……

 大丈夫か?

 あ、そうか、最後の直線に入ったか……


 はは、ゴールラインが見えて来たわ。

 おーい、脳くん。あとちょっとで酸素あげるからなー。

 あと50メートルぐらいだぞー。




 ん?

 なんか隣におっさんの顔が見えるな……

 ああ、ロンガーか。

 ようやくあんたを抜けるのか……

 長かったよ……



 っていうことは、俺。

 ひ ょ っ と し て ……
















 ゴールテープを切ったことは確かに覚えていた。

 でも……

 俺はそのまま前のめりに倒れて意識を失ったんだ……


 もちろん俺は見ていなかったけど、電光掲示板には俺の名前と記録2時間6分3秒と、その横に「O.R.(オリンピックレコード)」「W.R.(ワールドレコード)」という文字が燦然と輝いていたそうだ……







 これも後で見た録画映像なんだけど……

 スタンドの大観衆は当初大興奮して大歓声を上げてたんだ。

 遥か遠くの国から来た14歳の少年が、世界の第一人者フランク・ロンガーに迫って、ゴール前でとうとう捲りきったからな。


 でも……

 その大歓声が、俺が倒れたままピクリとも動かないのを見て悲鳴に変わったんだ……


 そうして……

 トラックの内側に運ばれた俺に、ドクターチームが駆け寄って様子を見るなり人工呼吸を始めると、悲鳴が絶叫に変わった。


 そうして、ドクターの一人が大声で叫んで、係員が酸素ボンベを担いで全力で走り寄って来ると、大絶叫に変わったんだ……

 満員の観衆が全員立ち上がってたぜ。



 MHKの録画映像では、その間にアナウンサーが「金メダル!」っていう言葉を20回ぐらい言ってたし、解説者は「これぞ大和魂!」「まさに根性の勝利!」ってこれも20回ぐらい叫んでたわ。


 俺の心配は全くしてくれてなかったんだね……




 俺は意識を失ったままモントリオール市内の病院に運び込まれた。

 病院の周りには数万人のモントリオール市民が集まって来て、俺のためにみんな祈ってくれてたそうだ……


 そうして2時間後。

 白衣の看護婦さんが病院から走り出て来て、「ミラクルボーイが意識を取り戻しましたっ!」って泣きながら叫んだそうだ。

 そこでまた大歓声が起きたんだけど、ここは病院前だって気づくとすぐに静まったらしい。

 でも、それからもみんな長いことその場で跪いて感謝の祈りを捧げていてくれたそうだな。

 ほとんど全員泣いてたそうだし……


 ただ、おかげで海外での俺の呼び名が「ミラクルボーイ」になっちゃったんだよ。

「KANDA」って書かれてると、みんな「KandA? What?」って思うらしいし。




 その日の夜、閉会式が終わったあと、俺の病室にロンガーと3位の選手がやって来た。

 IOC委員やテレビクルーもだ。


 そうして、ベッドの上の俺の首には金色のメダルが下げられた。

 頭には月桂樹の冠もだ。

 さらにその場で小さな日の丸が掲げられて、これも小さな音で君が代が流れたんだよ。


 その後はメダリスト3人で記念撮影をして笑顔で固い握手を交わした。

 こうして俺のささやかな表彰式は終わったんだ……



 後で聞いたんだけど、俺がスタジアムに帰って来てから、神保さんと上級天使さんたち20人が『隠蔽魔法』で姿を隠してずっと俺の周りを飛んでいたらしい。

 それで、俺の心臓がわずかでも止まったら、『キュア(大天使級)』とか『キュア(上級天使級)』とかブチ込もうとして、油汗流しながら身構えていたそうなんだ。

 さらに女神さまから渡されていた『エリクサー(女神級)』を手に握りしめて。

 女神さまなんか俺が倒れて気絶したの見て、神界で自分も気絶してたそうだし……


 みんな、心配かけてごめんね。


 でもさ、オリンピックドクターや大勢の看護師さんたちが、

『あの意識を失った少年の周りには、確かに大勢の天使たちが飛んでいたのを感じました。きっと勇気ある少年を救うために、神が遣わされたのでしょう。アーメン』

 とか証言してるんだけど……


 キミタチ、もっと『隠蔽魔法』練習した方がいいんじゃね?


 ま、まあ、間違ってはいないからよしとするか……





 その日の朝、朝早く起きてテレビをつけた日本人の目に特大のニュースが飛び込んで来た。

 なんと日本の中学生がオリンピックでメダルを獲ったらしい。

 それも男子陸上界では初となる金メダルだ。


 各テレビ局は、ニュース枠の中でラスト400メートルの録画映像ばかり流していたそうだ。

 それしか枠が無かったからな。

 テレビ局には、「なぜ閉会式ばかり流してマラソンレース全体を再放送しないのだ!」って抗議が殺到してたそうなんだけど、当時はそういう突然の番組変更の融通性は無いからなぁ。

 その後の朝の連続テレビドラマとか昼メロとか中止したら、激怒したジジババやおばはんたちから抗議の電話が殺到するだろうし。


 結局マラソンレースの全体録画が再放送されたのは2日後だったわ。

 そうして、このとき初めて、俺がゴール後に意識を失って病院に担ぎ込まれていたことを知った日本人は多かったそうだ。

 世界中の人は知ってたのにな。

 もちろん俺のインタビューも無いし。


 それで日本の報道各社は、カナダにいる取材陣に「神田勇樹のコメントを取ってこいっ!」って指示を飛ばしたんだけどさ。

 もうオリンピック終わっちゃってるもんだから、取材陣もほぼ全員が飛行機乗って日本に帰っちゃってたんだ。


 それでもう一度大量の取材陣がモントリオールに飛んで来たんだよ。

 でも、病院に突入しようとして、全員不法侵入でカナダ当局に捕まっちまったんだわ。

 まー日本と同じ感覚で海外で突撃取材とかやらかそうもんなら当然だよ。

 しかも当時の記者で、フランス語どころか英語すら話せるやつもほとんどいなかったし。


 日本にいる上司から大叱責されてフラストレーション溜まった報道陣は、とうとう現ナマ使って医師や看護師を買収して俺の病室に突入しようとしたんだけどさ。

 カナダ人って、政治家以外はそういうの結構潔癖なんだよな。

 だから大半は受け取らなかったし、中には病院への寄付だと思われて、領収証もらって茫然としてたやつもいたそうだわ。

 きっと発音悪くって英語が通じなかったんだろう。



 とうとう5日後ぐらいに記者団が共同取材を申し入れて来た。


 俺のお返事のお手紙は、「意識はともかく、脚や腰に関しては絶対安静を言い渡されていますので、ご遠慮させて下さいませ」だ。

 せめて写真だけでも、とか食い下がったらしいけど、病院側に他の入院患者さんのご迷惑になりますのでお断りしますって言われて、がっくり肩を落としてたそうだ。

 だってカメラマンと取材記者と照明係だけで120人もいるんだもんな。

 そんなの病院に入れるわけないじゃん!

 ほんっと日本のマスコミって常識無いわー。










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