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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第4章 メジャー挑戦篇
71/157

*** 71 ジョー・キング登場 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 公民館には村中のひとが集まってたよ。

 まあ80人ぐらいだけど。

 そうして俺たちを大歓迎してくれたんだ。


 でも、1か月半分の食費と宿泊費を渡そうとしたら、受け取ってくれないんだ。

 ミゲルのチームメイトからカネなんか受け取れないって言って。

 だから神保さんに頼んで街まで車で行ってもらって、大量の食材やらお菓子やら酒を買って来てもらったんだけどな。

 もっとも途中の人気のないところで車をインベントリに仕舞って、転移魔法で街まで行ってもらってるから、そんなにたいへんじゃないんだけど……


 これ、興味深いことにみんなカネは絶対に受け取らないんだけど、食材やお菓子渡すと喜んで受け取るのな。

 きっと、いつも物々交換で村が廻ってるんだろう。



 翌日には俺とミゲルとでキャッチングやティーバッティングの練習を始めた。

 朝と夕方には目や首の鍛錬もだ。

 3日後にホセとサンディが加わると、さらに本格的な練習になる。

 まずは練習前と後に入念なストレッチをして体をケアして、その後は全員で『ユーキメソッド』と言われてる打率アップトレーニングを始めるんだ。

 その後は俺がホセとサンディにノックをしてる間にミゲルが筋トレをする。


 更には、ミゲルも含めた3人に俺の球を打たせてやったりもした。

 まあ、俺の変化球を打てるようになる必要は無いから、普通のストレートやカーブやスライダーを投げてやってたけど。


 そうして、グラウンドの周りにはいつも10人ぐらいの子供たちがいたんだ。

 13歳ぐらいに見える小柄で可愛らしい女の子を筆頭に5歳ぐらいの男の子まで。

 そしたらちょっと驚いたんだけど、打球がフェンスを越えて外のジャングルに飛び込むと、子供たちがそのボールを探して拾って来てくれるんだ。

 にこにこしながらな。

 きっと子供たちなりに俺たちの役に立ちたかったんだろう。

 俺も思いっきり笑顔でボールを受け取ってやったよ。


 その合間には全員が交代で筋トレをするんだ。

 バーベルのバーは本物を持ち込んだけど、ウエイトはその辺の岩を籠に入れてロープでバーに結び付けたものだ。

 なんか高校時代を思い出すよ。


 もちろんミゲルのキャッチング練習もみっちりやったわ。

 これやらないと、俺が2月からの後期ウインターリーグで投げられないから。


 練習が終わると豆ドリンクも飲んだよ。

 地元の豆をミゲルのおっかさんが茹でて潰して作ってくれたものだ。

 野菜ジュースも。


 夜になると、子供たちも含めてみんなで夕飯を食べるんだけど、その後にミゲルたちが子供たちに英語を教えてるんだ。

 将来出稼ぎでアメリカに行っても困らないようにって。

 だから俺も参加したよ。まあ球拾いのお礼だな。

 ミゲルたちがいないときは、あのボール拾いの子たちのリーダー格の女の子が小さい子たちに英語やスペイン語を教えてるそうだ。




 俺たちはそうして実に密度の高い練習を続けて行ったんだ。

 これ、サクラメントでやってたよりもよっぽど濃い練習だわ。


 そしたらさ、ミゲルもホセもサンディもみるみる上達していったんだよ。

 俺の155キロのストレートを打ち返すし、カーブやスライダーも打てるようになったし。

 やっぱ、ワイルドキャッツのセレクションにかかるような奴らが、ハングリー精神剥き出しにして練習すると凄いわ。

 東大のみんなとはまた別の意味での強烈な向上心だ。


 もちろんミゲルのキャッチングも相当に上達したぞ。

 まだファンブルは多いけど、後ろに逸らすパスボールはほとんど無くなったし。



 そうして1月下旬。

 俺たちはわんわん泣きながら別れを惜しむ子供たちに手を振りながら、サンフランシスコに戻って行ったんだ……

 はは、ホセまで泣いてるじゃないか。

 感受性の豊かな奴だなぁ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 1月のMLBドラフトで全体810番目で指名を受けていた俺は、晴れてワイルドキャッツの一員となった。

 まあ当時は6月と1月の年2回のドラフト会議があって、6月には既に800番目までの指名が終わってたからこの順番だったんだ。

 それにしてもMLBのドラフト指名って人数が多いよ。

 全部で1100名を超えるそうだわ。


 そうした俺のマイナーリーグ生活は、身体検査から始まったんだ。

 身長体重体脂肪率の測定はもちろん、医師の診断や血液検査までみっちりと行われる。


 でも……

 アメリカ国内組のかなりの人数の顔色が悪いんだ。

 なんかみんな太ってるし、唇もカサカサだし。

 あー、そうか、休み中に遊びまくってて体重増えたもんだから、事前にサウナに行って水分抜いてたんか……

 でもそんなことしても……


「ショーン、君は体重は3キロしか増えていないが、体脂肪率は7%も増えてるじゃないか!

 そんなことじゃあ例えメジャーに上がれてもやって行けないぞ!」


「で、でもギガンテスの選手にも太っているひとはいますよね……」


「彼らは太っているように見えて、体脂肪率は全員12%以下だ。

 君のように18%もある者はひとりもいない。

 これで査定はマイナス10ポイントだ。

 今月中に元の体脂肪率に戻せなければ、さらにマイナス10ポイントになる。

 それまでの間、守備練習と打撃練習は禁止する」


「そ、そんな……」


「マイク、君もおなじだ。

 査定マイナス10ポイントの上、体脂肪率が元の12%に戻るまで守備と打撃の練習を禁止する」


「ううっ……」



「ほう! 

 ユーキは体重は2キロ増えているが、体脂肪率は3.8%に減ってるじゃないか!

 ということはまた筋肉をつけたのか、さすがだな!

 査定はプラス5ポイントだが、君の査定点は既に4ケタあるから誤差の範囲だな。

 ははは」



 あーあ、地元出身者を中心にこれで15人が脱落か……

 しかもそれから無理なダイエット始めたもんだから肝心の筋肉まで細っちゃって、体脂肪率むしろ上がってたみたいだからなぁ。

 球団が高いコストかけてカリブ海諸国でセレクションやってる理由がよくわかったよ。

 21世紀にあれほどカリビアン・スーパースターが多い理由も……



 こうして査定を落とされたやつらは、そのまま挽回出来なければ秋にはワイルドキャッツとの契約を打ち切られることになる。

 そうなれば、メジャーを諦めるか2AやシングルAのチームに移ってやり直すかを選ばなきゃなんないんだ。

 でもシングルAのチームだと、年俸4000ドルぐらいしか貰えないから厳しいらしいな。

 食事も自前でハンバーガーしか食べられないから、別名ハンバーガーリーグって呼ばれてるそうだし。



 それで俺、エリックに聞いてみたんだ。

 なんで休暇止めてずっと練習させないのかって。

 そしたら昔はそうしてたんだと。

 でもそういう連中がメジャーに上がると、すぐに生活が乱れて太り始めて脱落して行ったそうなんだよ。

 それで今のようなスタイルにして、マイナーのうちにそうした意志の弱いやつを弾くようにしたそうなんだ。

 なるほどな……




 1週間後、後期ウインターリーグが始まった。

 ミゲルが俺の球を受けられるようになったために、最初の試合の先発は俺、キャッチャーはもちろんミゲルだ。

 結果は当然のようにまたも責任回数ノーヒッターゲームよ。

 相手にゃ悪いけど、176キロのストレートに18種類のキレキレ変化球があったら、マイナーの選手じゃちょっと打てないだろ。

 ミゲルも『ユーキメソッド』の効果が出たのかヒット3本も打ってたし。

 なんか嬉し泣きしてたぞ。


 それに競争相手が減って、ホセもサンディも試合に出られるようになったんだ。

 それでみんな打ちまくってたよ。


 そしたら、俺がミゲルとホセとサンディと一緒にドミニカで練習してたの知ってたエリックが、またブツブツ言ってたんだ。

「こりゃまたユーキにコーチングフィーを払わんといかんかな」とか……



 ワイルドキャッツは原宿研究室と正式に契約を結んでいた。

 渡航費、滞在費、食費は球団負担で、2人のコーチングスタッフ派遣に対して、年間10万ドルの大盤振る舞いだったよ。

 当時のレートで2500万円だぜ。

 いくら育成費に糸目はつけないって言ってもスゲェよな……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺が3試合に登板して被安打合計1の快投を続け、ホームランも6本ほど打っていた2月中旬、ティーバッティングの練習してたら、またエリックが近づいて来たんだ。

 横にいるギガンテスのユニフォームを着たやたらにデカいおっさんと話しながら。


「それにしてもジョー、メジャーのキャンプインの前に、どうしてマイナーになんかに来たんだね」


「俺もたぶん今季限りでマスクを脱ぐだろうからな。

 最後のシーズンぐらいは初心に帰ろうと思って、懐かしのミリーフィールドに寄ってみたのよ」


「そうか…… 寂しくなるな……」


「それにここにゃあ、査定点5200点とかいうバカげた若けえのがいるっていうじゃねぇか。

 しかもそいつぁピッチャーなんだろ。

 だからメジャーに上がって来る前に、面ぁ拝んでやろうかと思ってな」


「はは、ジョーに気にして貰えるとはユーキも喜ぶだろう。

 ちょうど今ティーバッティングしてるのがそのユーキだよ」



 そのとき俺は水平方向の的とその30センチ上の的に交互に打球を当ててたんだけどさ。

 なんか後ろからものすごい威圧感が襲って来たんで、思わず振り返っちまったよ。


 この威圧…… まるでオーガキング並みだな……



 でも別に殺気があったわけじゃないから、俺はすぐティーバッティングに戻ったんだ。

 しばらく真ん中の位置で打つと、スタンドを動かして外角低めを打つ。

 正面のネットには無数の的がつけてあるけど、そのなかでも外角低め用の的2つに当てて行く。

 次は内角高め、その次は内角低め。



 突然デカいおっさんが吼えた。


「おう若けぇの、随分面白そうなことやってるじゃねぇか。

 俺にもやらせろ」


「どうぞ」


 まあギガンテスのユニフォーム着てるし、エリックのおっさんがあれだけ親しそうに話してたからな。

 空気の読める俺は素直に打席を譲ってやったんだよ。

 そしたらエリックが小声で言ったんだ。


「こいつはジョー・キング。

 ミスター・ギガンテスと呼ばれるチームリーダーでポジションはキャッチャーだ。

 本名はジョージア・キングなんだが、冗談みたいなパワーの持ち主なんでみんなジョーキングと呼んでるんだよ。

 ミスター・キングと呼んでやってくれ」


 ジョー・キングだと……

 それって、日本風に苗字から言うと、ウルト〇セブンに出て来た巨大ロボットとおんなじじゃねぇか……

 ま、まあ体形も少し似てるか……



 コーチが球をスタンドに乗せた。

 おっさんが打った最初の打球は的の下10センチに当たっている。

 その次の打球もその次も。


「なんだこりゃ? なんで当たんねぇんだ?」


「あー、ミスター・キング。

 これは目と手の連動を確認する練習なんです。

 人の目と手は意外に連動してなくって、ボールの芯を捉えたつもりでも上っ面を叩いてることがよくありますからね」


「ふん……」


 はは、それにしても愛想の無いおっさんだわ。

 お、さすがはメジャーリーガーだ。

 すぐに的に当たるようになったぞ……


 それからおっさんはボールのやや下を叩いて、上側の的も狙い始めた。

 これも2~3球外した後は、すぐに当たるようになって行く。


「次はアウトローだ」


 おいおい、俺にスタンド動かせっていうんかよ。

 あ、コーチがすぐにスタンドの位置変えてるわ。


 ん?

 今度はなかなか的に当たらんな。

 ひょっとしてこのおっさん、外角低めが弱いのかな?

 ははは、なんか「なるほど……」とか小声で呟いてるわ。

 やっぱり外角低めの打率が低い自覚があったんだ。



 一通りティーバッティングが終わるとまたおっさんが吼えた。


「おい、他にも新しい打撃練習方法があるんだろ。俺にもやらせろ」


 なんでそんなこと知ってるんだろうかね?


 それでコーチが外野の芝生のあるところに連れて行こうとしたんだけどさ。


「若けぇの、お前ぇも来い」


 へいへい、仰せの通りに……

 それにしてもほんっと愛想の無いおっさんだわ。

 ところでエリックはそんなおっさんを見て、なんでにこにこしてるんだ?


 まあ、随分後になって聞いたんだけど、これはジョー流の新人試験だそうなんだよ。

 ビビリーかどうかをチェックしてたんだと。

 それによっぽど気に入ったやつじゃないと、話しかけもしないそうだ。

 ツンデレか?

 巨体おっさんのツンデレとかどこにもニーズ無いぞ。





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