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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第4章 メジャー挑戦篇
70/157

*** 70 ドミニカキャンプ ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……



 


「さて、首の筋トレと動体視力強化もやっておくか。

 でも首の筋トレって実はかなり危険だから、絶対に1人でやらないでくれよ。

 あと1週間ほどで専門のトレーナーが来るから、彼らと一緒にやってくれ」



 それでみんなでジムに移動して、俺は僧帽筋、斜角筋や胸鎖乳突筋を鍛えるトレーニングを実演してみせたんだ。

 つまりネックローテーション、ネックフレクション、ネックエクステンション、ブリッジ、それからヘッドハーネスなんかも。


 それから食堂に移動してPCを使った一連の動体視力検査も行ったんだ。

 みんなさすがだったよ。なんせ全員が10点以上だったし。


「な、なあ、ユーキはこれ何点なんだ?」


「じゃあ俺もやってみるか……」


 そしたら最近少しトレーニングの間が空いてたんで、95点だったんだけどさ。

 また全員口開けてたわ。


 はは、俺の論文を読んだエリックはしきりに頷いてるけど、まだ読んでないコーチ陣はなんか衝撃のあまり蒼ざめとるわ。



 その日の練習を終えたら、エリックが言い出したんだよ。


「ユーキ、キミへのコーチングフィーは2000ドルではなく3000ドルにしよう」だってさ♪



 それから翌日にはティースタンドとネットが6人分になってたんで驚いたけど。

 メトロノームやノートPCまで6台あったし……



 こうして俺たち6人は「打率アップのためのトレーニング」を続けてたんだ。

 そしたら日を追うにしたがって周りに見学者が増えてったよ。

 まあいつもコーチが2~3人張り付いてたこともあったんだろうけど、俺たちが使ってない時には、見よう見真似でティーバッティング始めたやつらもいたし。




 幕張講師と稲毛助手がやって来た。

 俺と3人でささやかな歓迎会をしようと思ってたら、エリックが市内の一流レストランに連れてってくれたわ。

 残念ながら2国間協定が発効されてないんで、2人はアメリカで医療業務に従事は出来ないんだけど、それでも2人とも日本の医師免許とついでに博士号を持ってるのがよっぽど嬉しかったらしいぞ。



 その席で幕張さんたちが教えてくれたんだ。


「神田くんのあの3つの論文、アメリカスポーツ医学界で『新人賞』にノミネートされてたぞ」


「もし受賞したら、アメリカの大学から研究室と研究助成金を用意するから来てくれって言われるかも知らんな」


 そしたらなんかエリックが慌ててたんで笑ったけど。




 そうそう、2人の宿舎は例のギガンテス選手用の1人部屋だったし、食事代はタダだし、渡航費を別にして1か月のコーチングにひとり4000ドルも払うそうだ。

「選手育成のためだったらなんでもする」っていうのは本当だったんだな……


 翌日から『特別打撃コーチング』が始まったんだけど、ピッチャー以外のほとんど全員が参加してたわ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 12月になった。

 あと10日ほどでウエストコーストリーグのウィンターシーズンも終了して、その後は来年2月1日のキャンプ開始までチームは休暇に入るそうだ。


 それで俺は悩んでたんだよ。

 2月までどこで練習するかね?

 宿舎もグラウンドも全て閉鎖されちまうから、ここにはいられないし。

 ここサクラメントに残って、ホテル住まいでどっかにグラウンド借りるか?

 いやそれいくらなんでもカネかかりすぎておかしいだろ。

 俺の年俸でそんなこと出来るわけが無いんだから。

 それに、ここいら辺は冬は雨期になるんで雨が多いそうだしな。


 それじゃあ日本に帰って、東大の練習に混ぜてもらうか。

 まあそれもいいんだけど、なんせ向こうは寒いからなあ。

 春の6大学の開幕は4月だから1月の練習はそんなに動かなくていいんだけど、少なくとも俺は1月末まで万全の体調でいたいし。

 いっそハワイにでも行って練習するか。

 いやそれひとりだけで、練習相手がいないわな。

 それじゃあ神界に行って天使リーグに入れてもらうか。

 ま、まあ、めーちゃんは喜んでくれるだろうけど……



 そんなふうに考えてたら、ミゲルがあと2人連れて俺のところに来たんだ。


「な、なあユーキ、ウインターホリデーには日本に帰るのか?」


「どうしようか今考えてたところだ」


「そ、それだったらさ、俺たちと一緒にドミニカに来ないか?

 お、俺たちみんなドミニカの山奥の村出身なんだけど……

 俺の村には小さい野球場があるから、そこで3人でキャンプしようと思ってるんだ……

 ハリケーンの季節も終わったから、ユーキも一緒にどうかな……」


「ほう」


「やあ、僕はホセって言うんだ。ポジションはショートだ」


「俺はサンディ、レフトを守ってる」


「そ、それで俺たち3人で練習しようと思ってるんだけどさ……

 ピッチャーがいないんだよ……」


「それでもまああの『ユーキメソッド』で打率アップの練習は出来るだろうけどな」


「それに休暇中に運動してないと、2月1日の身体検査で査定落とされるし……」


「なんだそれ?」


「あ、ああ、ユーキは知らなかったのか。

 休暇中に体重や体脂肪率が5%以上増えた者は、大幅査定ダウンになるんだ。

 そんなもので解雇されるわけにはいかないからね。

 だからドミニカで一緒に練習しないか?」


(うーん、ドミニカか。カリブ海の島国なんてちょっといいな……

 距離は…… ほう、サンフランシスコ・ニューヨーク間より少し遠い程度だな。

 日本に帰るよりよっぽど近いか)


「俺も行っていいのか?」


「むしろ是非来てもらいたいんだ。

 そうすれば俺のキャッチングの練習にもなるし……」


「俺の宿泊はどうすればいい?」


「村対抗の野球大会をするときに客を泊める公民館があるから大丈夫だよ」


(さすがはドミニカ、村対抗野球大会か……)


「それじゃあよろしく頼むわ。

 あ、俺のサポートをしてくれてる友人もひとりいいかな?」


「もちろんだよ」


「それから、一応ショーンとマイクにも声をかけてみたらどうだ?」


「さっき声をかけてみたんだけどさ、2人とも地元出身で約束もあるから来ないって」


(ふう、どうせ女連れて遊びまわるんだろうな……

 なんせワイルドキャッツにドラフト指名されたら地元じゃヒーローだろうから)



 そしたら翌日心配そうな顔したエリックが来たんだ。

 ん? なんかエリック、右足を引きずってないか?


「なあユーキ、キミはウインターホリデーをどこで過ごすんだ?

 やっぱり日本に帰るのか?」


「いえ、ミゲルたちに誘われたんでドミニカでミニキャンプをします」


 途端にエリックが笑顔になったよ。


「そうかそうか、さすがはユーキだ。

 いや我々はこの休暇を『魔のホリデー』と呼んでいてな。

 練習しないで遊びまわって、査定を大幅に落とす者が実に多いんだ。

 それじゃあキミの分の航空券も手配させよう」


「ところでボス、さっきなんか右足引きずってませんでしたか?」


「はは、気づかれてしまったか。

 この冬にまたマラソンを走ってみようと思って、少し無理して練習してしまったんだ。

 それで昔の古傷が痛むようになってしまってね」


「そうですか、それじゃあ俺のマッサージ受けてみませんか?」


「ユーキはそんなことも出来るのか!」


「ええ、モントリオールのマラソンが終わった後、入院先の病院で西ドイツのスポーツドクターに教わったんですよ。

 上手だって随分褒められました」


「そうか、あのオリンピックのときにか……

 そ、それじゃあ少しお願いしてもいいかな……」


「俺は練習終わってますんで、ジムに行きましょう」



 それで俺、『サーチ』の魔法でエリックの膝をチェックしたんだけどさ。

 うっわー、これ膝周りの腱も靭帯も半月板もかなり痛んでるよー。

 まあそれもそうか、この巨体でマラソンやってたんだもんな。

 それじゃあ、もっともらしく膝蓋骨周りをマッサージしながら『キュアLⅴ1』でもかけてやるか。

 治すのは30%ぐらいになるように気を付けて……

 まあ、コーチングフィーのお礼ということで……


 それで20分ほどのマッサージを終えたら、エリックが驚いてたよ。

「い、痛みが引いた……」とか言って。

 それで俺は翌日の朝夕と2日後の朝夕にもマッサージしてやって全快させてやったんだ。


 なんかエリックが涙目になってたぞ……

「いったいどれだけの才能を持っているというのだ……」とか言いながら。




 シーズンが終わると、俺と神保さんはミゲルたちと一緒に空港に向かった。

 どうやら休暇の時には帰国用の航空券を球団が支給してくれるそうだ。

 でもちょっと驚いたんだけど、みんな球団が手配してくれたアメリカン航空のチケットを当たり前のようにキャンセルして、カリビアン航空のチケットに変えてたんだ。

 なんでも半額以下になるんだと。

 仕方ないから俺たちもそうしたけど。


 それにしても……

 なんだこの小っさい飛行機は!

 しかもプロペラ機!


 おかげでドミニカまでの所要時間が10時間だと!

 それサンフランシスコから日本までと変わらんだろうに!


(ご安心ください勇者さま。

 先ほど遠隔魔法での機体の整備は終了致しました。

 また、機体に『強化』の魔法もかけてございますので……)


 俺からすれば、こんな飛行機が飛んでる方がよっぽど魔法だわ!



 ん? それにしてもみんな荷物が少ないな……

 こういう里帰りのときって、村中に土産買っていくんじゃないのか?


 それでまあ、俺も10時間の苦行に耐えたけどな。

 エンジン音が煩くてろくに会話も出来んかったから。

 まあ、神保さんと念話出来たし、脳内インターネットで2030年の最新の論文読めたからよかったけどさ。


 それでようやく首都のラス・アメリカス国際空港に着いて一旦実家に戻るホセとサンディと分かれたんだけど、その後ミゲルがサントドミンゴの街で山ほど買い物してるんだ。

 お菓子だの酒だのって。

 それこそ飛行機のチケット切り替えた分で浮いたカネを全部使う勢いで。


 なるほど、アメリカで土産買うと荷物代取られるからか……

 まあ仕方ないから俺もいろいろ土産買ったよ。


 それから路線バスに揺られて3時間、牧歌的な風景の中を山に向けて走っていくんだけどな。

 なんだよこの座席!

 なんで金属むき出しでクッションのクの字も無ぇんだよ!

 あー、ケツ痛てぇ…… 仕方無ぇ、『身体強化Lv1』。



 それでようやくほどほどの大きさのルイゼっていう街に着いたんだけど、そこにはミゲルの父ちゃんが迎えに来てたんだ。

 走れるのが不思議なぐらいのボロボロの軽トラックで。

 それでまあ一通り挨拶を終えたあと、神保さんはレンタカーを借りて俺を乗せ、ボロ軽トラの後を付いて行ったんだ。

 後で聞いたんだけど、この軽トラはミゲルの村の共有財産だそうだな。


 そうしてようやくミゲルの生まれ故郷の村に辿り着いたんだよ。

 それにしてもなんという素朴な村なんだ……

 コンクリートなんかどこにもないぞ。

 みんな高床式でヤシの葉を葺いて屋根にしとる。


 お、あれが野球のグラウンドか……

 すげぇな、ヤシの木にロープ渡してフェンス作ってあるわ。

 ネットは全部なんかの植物で作った網だし……

 センターネットまで60メートルっていうとこか。

 あ、ネットの真ん中の水平方向のロープが赤く塗られてる。

 あれより上に当たればホームランなんだろうな……

 うん、こういう野球場もなんか温かくっていいじゃねぇか……


 ああ、グラウンドが2度ほど傾いてるか……

 夜中に土魔法で直しておこう……





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