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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第4章 メジャー挑戦篇
64/157

*** 64 3Aワイルドキャッツ入団テスト1 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……






 読買新聞社での説教から2日後、俺たちはサンフランシスコの地に降り立った。

 神保さんが手配してくれたホテルと小さなグラウンドで調整し、2日後にはサクラメント・ワイルドキャッツの入団テストを受けることになっている。



 テスト当日、俺たち一行はワシントンさんに連れられて、ワイルドキャッツの本拠地ミリーフィールドに向かった。

 そして、その玄関先には身長2メートルぐらいのおっさんが立っていたんだよ。



「やあアンジー! 久しぶりじゃないか! 元気そうだな!」


「エリックも元気そうじゃないか。今日はよろしくな」


「それにしてもお前、3年前と全く変わってないな!

 いや少し若返ったようにも見えるぞ!」


「はは、あまりにも有望な人材を見つけられたんで、歳甲斐もなく興奮してるからかな」


「そうか、この若いのがあんたの言ってた『過去35年のスカウト人生で最高の逸材』か……」


 それでおっさんは俺をじろじろ見たんだけどさ。

 まあ俺ぐらいの体格のやつはアメリカにはごろごろいるからな。

 すぐに興味を失ってたみたいだわ。



「ジャパニーズのユウキ・カンダです。よろしくお願いします」


「エリック、急な入団テストで済まないね」


「わはは、アンジーが最高の人材と言ってる奴を他球団に取られるわけにはいかないからな。

 それじゃあ1時間後に入団テストを開始するから、それまで体を暖めておいてくれ。

 グラウンドの施設は好きなだけ使っていいぞ」


 後で聞いたんだけど、このエリックとかいうおっさんは、このワイルドキャッツのGMだそうだ。

 そうか、やっぱりアンジーは、3AとはいえGMとタメで口を利ける人だったんだな……



 俺たちは球場に隣接された第2グラウンドに向かった。

 そこで俺ちょっと驚いたんだけどさ。

 小さな観客席に300人ぐらいの観客がいたんだよ。

 それもジジババばっかりで。


 後で聞いたんだが、この連中ってコアなワイルドキャッツファンなんだと。

 息子や娘に家業を任せて引退した年寄りが、こうして若い選手の練習を見るために弁当持参で集まってくるそうなんだ。

 今日はワイルドキャッツの1軍は遠征中だけど、ベンチ入り出来なかった選手たちの練習を見に来てるらしい。


 そうか…… 

 このひとたち、メジャーのギガンテスファンじゃなくって、3Aのワイルドキャッツのファンだったんだ……




 俺は上野と一緒にいつもの練習前ルーティンを始めた。

 まずは軽いランニングで体を暖め、その後は入念な動的ストレッチを行う。


 あー、なんかエリックのおっさんがおっかない顔してずっと見てるわー。

 なんか手にボード持ってて書き込んでるし。

 これってもうテストは始まっているっていうこったな。


 30分もかけてストレッチを終えた俺は、肩を作るために上野とキャッチボールを始めた。

 はは、おっさんの顔がさらに真剣になってるぜ。




「それじゃあテストを始めよう。

 アンジー、済まんがテスト内容はフルメニューだ。

 いくらアンジーのイチオシでも、テストを省略することは出来んからな」


「構わないともエリック。存分にテストしてくれたまえ」



 さて、それじゃあ俺も俺の夢のために本気出すとしましょうかね……



「最初は50メートル走からだ。あそこにあるトラックで走ってもらう」


 ほほー、アンツーカーの走路が2本あるか。

 スターティングブロックもあるし、あ、電気計時システムもあるじゃねぇか。

 さすがに本格的だわ。



 俺は本気出したよ。

 それで記録は5秒76。

 当時の世界記録にあと0.2秒ってぇところだな。

 日本記録までは0.03秒か……

 はは、観客席がどよめいてるわ。


 でもさ、エリックやコーチたちがなんか話してるんだ。

 故障か?とか言いながら。

 そのうちエリックが言い出したんだわ。


「なあユーキ、済まんがもう一度走ってくれるかな。

 どうも機械の調子が悪いみたいでな」


「もちろん構いませんよ」


「あー、誰かアダムを呼んで来てくれるか」



「ボス、お呼びだそうで」


「君の50メートル走の最高タイムはいくらだったっけ?」


「5秒90です」


「さすがは我がチーム最速だな。

 それで済まんがこのテスト生と一緒に50メートルの計測をしてくれんか」


「はいボス」



 それで俺たちは並んで走ることになったんだわ。


 スターティングピストルが鳴った。

 へへ、今度のスタートもタイミングばっちりだぜ!


 それで俺の記録は5秒75。

 アダムとかいう奴に0.15秒以上の差をつけて圧勝したんだ。

 なんかコーチたちが騒いでたわ。

 アダムはショック受けてたみたいだけど……

 観客席からも、「おい、あの若いのアダムに勝ったぞ!」とか聞こえて来てたし。



「アダムお疲れさん。

 やっぱり機械は壊れてなかったのか……

 それじゃあ次は遠投をしてもらおうか。

 100%の力で投げると肩を壊すかもしれんから、95%ぐらいの力で頼むぞ」


 それでグラウンドに戻ると、ホームベースの辺りに白線が引いてあったんだ。

 そこからセカンドベースの後方とセンターの守備位置辺りにも白線があって、巻き尺持ったコーチが一人ずつ立ってるんだよ。


「それじゃあ投げてくれ。もちろん助走をつけても構わんぞ」


 はは、上野がこっち見てにやにやしとるわ。


 それで俺、その場でノーワインドアップモーションから軸が右を向いたライズをかけて遠投したんだけどさ。

 揚力も働くし空気抵抗も少ないもんだからよく飛ぶんだこれが。

 まあ普通のストレートに比べて4割増しぐらいの飛距離か。


 バックスクリーン目掛けて直線状に飛んでく球を目で追いながら、計測係のコーチたちが2人とも仰け反り倒れた。

 立ち上がってこっち見た時、口開けて同じ顔してたんでつい笑っちまったけど。

 後ろ見たらエリックのおっさんも口開けてたよ。


「400フィート以上! 計測不能!」


 わははは、観客席のジジババもみんな口開けてるわー。

 そのあとすっげぇ拍手してくれてたし。


 あー、ワシントンのおっさんも口開けてる……

 そういやぁ、おっさんも俺の遠投は見たこと無かったか……



「そ、それじゃあユーキ、キミはピッチャー志望だったな。

 次はピッチングを見せてくれ。

 今キャッチャーを呼ぶから」


「ミスターオーディン、キャッチャーなんですけど、日本でいつも俺の球を受けてくれるている奴を連れて来たんです。

 彼に投げてもよろしいでしょうか」


「あ、ああいいぞ……」


「それじゃあ上野、支度してくれ」


「はいっ!」



 それで上野が防具着け始めたんだけどさ。

 またエリックのおっさんやコーチたちの目が真ん丸よ。

 観客席もどよめいてたし。


「こ、この防具は……」


「すいません時間がかかって。

 でもこれは、彼が日本で俺の球を受けるときにはいつも着けてる防具なんです」


「そ、そうか……」



「お待たせしました」


「それじゃあまずはストレートをど真ん中に5球ほど投げてみてくれ。

 その後はコーナーに投げてくれるかな」


「あの、外角はベースからボール2個分外でいいんでしょうか。

 それから高低は身長180センチぐらいのバッター想定でいいですか?」


「アンパイアによって多少の違いはあるんだが、今日はベースからボール2個分にしよう。

 高低も180センチバッターのつもりで構わん」


「わかりました。それじゃあ上野、頼んだぞ」


「はいっ!」


 お、あれスピードガンじゃねぇか。

 そうか、この時代でももうアメリカじゃあ普及してたんだな。

 まあもともとは米軍の軍事レーダー技術の応用だから当然か。




 俺はど真ん中に構えた上野のミット目掛けてストレートを投げ込んだ。


 ズドォ――ン!


 最初の球は時速158キロ。

 次は160キロ、その次は165キロ。

 そして5球目は176キロ……

 俺の最速の球が上野のミットに突き刺さった。


 あー、電光掲示板の速度表示見てまた全員口開けてるわー。

 観客たちもだ。



 上野がミットを内角高めいっぱいに上げた。

 俺はそのミットの中心目掛けて投げ込む。


 ズドォ――ン!


 上野のミットは微動だにせず、ボールはやや上昇しながら吸い込まれるようにミットの芯に収まる。


 上野がミットを内角低めに構える。

 176キロの球がそこに吸い込まれて行く。


 ズドォ――ン!


 外角高めに構えたミットにボールが吸い込まれて行く。


 ズドォ――ン!


 外角低めも。


 ズドォ――ン!


 1球ごとに観客席からの歓声も大きくなっていった。


 はは、最初は俺の球見て口開けてたエリックのおっさんが、今度は上野のミット見てもっと口開けてるよ。

 ミットが全く動いていないのに気付いたか。

 さすがだな……



【エリック】

(こ、このキャッチャー、さっきからまったくミットを動かしていない……

 投げ出し方向がミットから20センチも下なのに微動だにさせていない……

 その後球威で球が浮き上がって、吸い込まれるようにミットに収まっている……

 す、凄まじいまでのピッチャーへの信頼感だ。

 い、いやそれだけこのユーキのコントロールが正確だということなんだろう。

 こ、これは、もしスピードガンの故障でなければ、このストレートとあと2つほどの変化球ですぐにでもメジャーに上がれるぞ!)



「ユーキ、ち、ちょっと待ってくれるか。

 今スピードガンをチェックするから。

 おーい、デニス、すまんがちょっとこっちに来てくれー」


「ボス、なんか御用ですかい?」


「あのな、スピードガンが壊れてるかもしれんのだ。

 だからキミに投げてもらってチェックしたいんだ」


「へい、それじゃあ肩作るのに15分くだせえ」


 デニスがキャッチャーを呼んでブルペンに行くのを見ていたエリックが言った。


「あいつはつい1か月前までメジャーで投げてたんだが、今は引退してコーチングを学ぶためにここで勉強してるんだ。

 それじゃあユーキ、あいつの肩が出来るまで変化球を見せてくれるか」


「はい。

 上野、すまんが変化球のメニューを持って来てくれ」


「はい先輩」


「メニュー?」


「ええ、俺の変化球のレパートリーは大別して9種類、細かく分けると18種類もあるもんで、変化のパターンと名前を書いたメニューを作ってあるんです」


(神保さんが本物のフレンチレストランのメニューを参考に作っちまったんだよな……)


「これです。コーチのみなさんの分もありますんで」


「お、おお、ありがとう……」



【エリック】

(な、なんだこれは……

 フォーク? ああ、ここ数年メジャーで流行り始めた球種か。

 こ、このジャイロとはなんだ? それにライズボールだと?

 ま、まさかユーキのオリジナル変化球か?)


「それじゃあ1番から順番に投げますんでー」


「ち、ちょっと待ってくれ。

 わたしも現役時代にはメジャーで32%打ったこともあるんだ。

 だから打席に入らせてもらえるかな」


「もちろん構いませんが、それでしたら恐縮ですが打者用防具を着けて頂けませんでしょうか」


「お、おう」


(な、なんだこのヘルメットは…… 金属だと?)


「そのヘルメットはチタン合金で出来ています。

 中のクッションはケブラー繊維です。

 .22口径の銃弾まででしたら余裕で防げますんで」


「な、なんだと!」


「アメリカのアーミーの基準も満たしているそうですので安心して使ってください。

 そちらのアームガードも打者用レガースもトゥーガードもすべてチタン合金製で頑丈ですんで、どうぞ使ってください」


「「「…………」」」


(ま、まさかユーキのために日本で開発された防具か!)



「それじゃー投げますねー。

 まずは1番の50センチフォークですー」


 ズドーン。


(やはりフォークだ……

 し、しかもキャッチャーがまたミットを動かしていない!

 こ、この変化球ですらコントロール出来るというのか!)



 はは、さすがのメジャー3割2分と首の太さだな。

 見送ることを決めているとはいえ、上野のミットが動いてないことまでしっかり見てるじゃねぇか。


「次は1メートルフォークですー」


 ズドーン。


(な、なんだこの落差はっ!

 高めのボール球だと思っていたのに、ストライクゾーンを通過して地面スレスレに構えたキャッチャーのミットに収まっている!

 さ、さっきのストレートとこのフォークだけでメジャーでも勝てるぞ!)


「な、なあスコット、今キャッチャーはミットを動かしていたか?」


「すいませんボス。

 あまりの変化にみとれていて見ていませんでした……」


「そうか……

 それじゃあすまんが、次の球からはミットを見ていてくれんか。

 そして動いていなかったら教えてくれ」


「はいボス」



「それじゃあ次はメニューナンバー3番の1.5メートルフォークを投げまーす」


(ま、まさか落差1.5メートルだと……

 ああ、あんなに高い投げ出しで……)


「うおおおおおっ!

 ほ、本当に落ちたっ!

 し、しかも速いっ!

 落ちながら減速しているが、優に時速140キロはあるぞ!

 投げ出しは155キロを超えていたろうが……

 バッターのタイミングを崩しつつ、30度近い角度で落ちてくる球か……

 これはメジャーリーガーでもバットに当てるだけで20打席近くかかるだろうな……

 ところでスコット、ミットは動いていたか?」


「そ、それがボス、最後に数センチ動いただけでした……」


「な、なんだと! 

 これほどの変化球ですらそこまでコントロール出来ると言うのかっ!」


「それじゃあ次は4番の50センチジャイロを投げまーす」



(さあ、どんなオリジナル変化球を見せてくれるというのだ……)


「うおぉぉぉっ!

 するりと落ちた!

 し、しかも落ちながら加速する球だとっ!

 さ、先ほどの50センチフォークと落ち幅は同じだが、全く違う球だ!

 あちらは減速しながら落ちる球、今度は加速しながら落ちる球だと!

 お、俺は今夢を見ているのか……」


「ミ、ミットはほとんど動いていません……」



「次はメニューナンバー5番の1メートルジャイロでーす」


(まさか今の球が1メートルも落ちると言うのか……)


「うわぁぁぁぁぁっ!

 ほ、本当に加速しながら1メートル落ちたぁっ!」


「こ、今度もほとんど動いていません……」



「次は右に50センチ曲がって50センチ落ちるジャイロでーす♪」


(こ、このジャイロを曲げるだと……

 そんな球誰も打てんだろうに……)


「うわぁぁぁ―――――っ!

 ほ、本当に曲がったぁぁぁ――――っ!

 お、俺は今奇跡を見ているぅっ!」


「ミ、ミットは動いていません……」


「こ、これほどまでの奇跡の変化球ですらコントロールしているだと!

 こ、こやつはモンスターか!」




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