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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第3章 大学野球篇
61/157

*** 61 米国人スカウト *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 

 東大が秋の6大学と明治神宮大会も制するころ、上野の打率が急上昇し始めた。

 長打も増えて来て、ホームランも3本も打ってたし。

 まあ、俺の筋トレに付き合ってたおかげで、体がバッキバキになって来てたからだろう。

 身長も184センチになったし、肩幅も広くなったし。

 それに毎日動体視力トレーニングして俺の変化球見ていたせいで、動体視力も相当なもんになってたわ。


 それでなんと秋の6大学では打撃10傑入りよ。

 俺も驚いたぜ。

 ま、まあ1位は4季連続で俺だったけど……



 そのせいでどうやら渋谷涼子が本格的に上野に惚れちまったみたいなんだ。

 あいつ…… 筋肉フェチだったんだな…… それも重度の。


 天使達の噂話によると、ときどきお互いにナマ胸見せっこしてるんだと。

 それでさらにお互いに鼻血出しとるそうだわ。

 ファーストキスは2人とも鼻にティッシュ詰めたままだったそうだし……



 …………変わったカップルだよな…………




 でもおかげで上野がさらに意欲的に筋トレに励むようになったんだ。


 どうやら目標は「涼子さんと同じぐらいの大きさの胸になること」らしいんだけどさ。



 上野よ。

 それたぶん俺でも無理だぞ。

 それに万が一そんなことになったら相当にキモいからな。


 ロッカールームで着替える時に「走るとき揺れるし乳首が擦れて痛いもんで」とか言いながらHカップのブラとかつけてたら、部員全員どどどん引きだぞ。

 せめて俺と同様、乳首にバンド○イド貼っとくぐらいにしとけよ。


 だからその目標は諦めた方がいいんじゃね?




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 秋の6大学が終わってすぐ、また日米大学生対抗野球のために日本選抜の召集があった。


 それで今回は上野も呼ばれたんで、俺も行く気になったんだ。

 そうそう、上野の防具は全部神保さんが現地のホテルに送ってくれてたよ。

 あんな重くてかさばるもん持って行けないからな。


 その後アメリカ西海岸を中心に5試合が行われたんだけどさ、俺は3試合に登板して3勝0敗、防御率0.0だったわ。

 ヒットは2本ばかり打たれちまったけど、ノーヒットノーラン2回、ホームラン6本で日本チーム初の勝ち越しに貢献したんだ。


 まあ、いくら野球の本場アメリカといえども、相手はまだ学生だろ。

 しかもジャイロやナックルや1.5メートルフォークは、連中も完全に初見だし。

 だからずっと「オーマイガー!」とか叫び続けてたよ。


 でも面白いんだぜ。

 ネイティブが「オーマイガー!」って叫ぶと、そいつの訛りによっては「お前がー!」って聞えるんだわ。

 笑っちまったよ。




 アメリカでの全日程が終わった後、なんか品のいいおっさんが日系人の通訳連れて俺を尋ねて来た。


 それで通訳が日本語でそのおっさんを紹介するんだけど、俺もガキの頃から英語勉強してたから英語で答えたんだわ。

 なんか通訳さんががっかりしてたけど。


(作者註:以後外国人との会話は英語かスペイン語です。

 脳内で変換してお読みください。

 最初は外国語の会話は『 』で書いてたんですけど、余りにも『 』が増えすぎて……)



「初めまして、わたしはアンジェルア・ワシントンと申します。

 いくつかのメジャー球団や3A球団と契約してフリーのスカウトをやっています」


「はぁ、初めまして。神田勇樹です」


「あなたのピッチングは途轍もなく素晴らしかったです。

 もちろんバッティングも。

 それに英語も実に流暢です。

 是非メジャーに挑戦して欲しいと思って参りました。

 そのときには、よろしければわたくしに連絡してください。

(と言いつつ名刺を差し出す)


 さすがにすぐMLBのドラフトに紹介することは無理ですが、3A球団ならばいつでも臨時入団テストを受けられるように計らえます」


「はい、そのときはよろしくお願い致します」



 それでそのあと神保さんが、そのワシントンとかいうおっさんのことを調べてくれたんだ。


(勇者さま、御依頼のあのワシントンと名乗るフリーのスカウトにつきまして、調査が終了致しましたのでご報告させて頂いてよろしいでしょうか)


(お願いします)


(結論から申し上げますと、全米でも10指に入る有能なスカウトマンでございました。

 主にドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコなどのアメリカ本土以外の国や地域を巡って、優秀な高校生をスカウトしています。


 また、現在MLBで活躍する選手の内、彼がスカウトして来た選手は150人を数えておりまして、引退した選手を含めれば300人を超えるかと思われます。


 その仕事は確かな目と誠実さで知られ、3AのGMはもとよりメジャーのGMにも友人が多いようでございますね。

 また、日本のプロ球団とも6球団と契約していまして、日本の球団がメジャーリーガーを欲したときに仲介に立っているようです。

 まあ超一流のスカウトと言ってよろしいかと思われます)


(そうでしたか。やっぱりそんな貫禄でしたよね。

 来年は連絡してみますか……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は4年生になった。

 この時の俺は、身長2メートル5センチ、体重120キロ。

 因みに体脂肪率は4%。


 毎日の鍛錬の結果、ストレートの最高速は時速173キロ、スイングスピードは175キロになっていた。

 だからもしも俺が俺の球を打ったら、インパクトの瞬間は時速350キロ近い衝突になるわけだ。


 MAXフォークの落差は150センチ、MAXジャイロの落ち幅は120センチ。

 それに加えて、カットボールの落ち始めがベース手前2メートルになって、落差もベースまでで30センチになったんだよ。

 それにライズボールの変化の開始もベース前5メートルになったんだぜ。

 そこからベースにかけて1.5メートルほど上昇するんだけどな。

 打席に入ったやつに言わせると、打つ直前に球が突然上向きに消えるように見えるそうだ。

 へへ、この球もメジャーで通用するかもな。



 おかげで春の6大学でも、各校から相当に研究されてたみたいなんだけど、楽勝で抑えられたぜ。

 ただ、驚いたことに2試合ほどバックネット裏にあのワシントンさんがいたんだ。

 俺が投げる時にはでっかい双眼鏡構えて。

 そうしてにこにこしながらずっと俺のピッチングを見てたんだ。


 その後はどうやら契約してる日本のプロ球団に挨拶に行ったみたいだな。

 ついでにファームの練習風景も見に行ってたみたいだけど。




 春の6大学が東大の優勝で終わった後、俺は神保さんに頼んでミスター・ワシントンと会談の場をセッティングしたもらった。


「ミスター・ワシントン、今日はお忙しいところありがとうございます」


「とんでもないです、これがわたくしの仕事です。

 そんなことより6大学野球の優勝おめでとうございます。

 去年の日米大学野球のときよりも、更に進化した変化球を見て驚きました。

 あなたは野球の才能もさることながら、『努力する才能』もお持ちだ」


「ありがとうございます。

 それにしてもよく見ていらっしゃるんですね」


「ははは、それも仕事ですからね」


「ところで今日ご足労頂いたのは、秋の6大学が終わったらアメリカに行って3Aチームの入団テストを受けてみたいと思っているんです。

 それでいくつか球団を紹介して頂けませんでしょうか」


「ふむ、君は日本のドラフトでは裏契約金も併せて2000万円とも3000万円とも言われていますよね。

 それに対して3A球団へのテスト入団では、契約金は日本円にして75万円ほどで年俸も250万円ですよ。

 それでも構わないんですか?」


「わたしは年俸のために野球をやるつもりはありません。

 最高の環境で最高の野球をしたいだけです」


 ミスター・ワシントンは嬉しそうに微笑んだ。


「つまり君はマネーに対してハングリーなんじゃなくて、野球に対してハングリーだと言うんですね」


「はい、その通りです。

 それに日本のプロ球団の若手育成環境は最低最悪です。

 わたしは、自分のことしか考えていない無知で無能なコーチのせいで、酷い故障をして野球が出来なくなることを最も恐れていますから」


「さすがですね。

 日本とアメリカの若手育成方針の違いまで調べていたんですか……」


(それにどうやら私のことまで調べていたようだな…… はは)



「確か君の希望はナショナルリーグの球団でしたね。

 それは打席に立てるからということですか?」


「はい、そうです」


「それではサンフランシスコ・ギガンテス傘下の3A球団サクラメント・ワイルドキャッツは如何でしょうか。

 あそこの若手育成レベルは全米最高峰です。

 それにそこのGMとは友人なんですが、若手に過剰な練習をさせて故障させることを心底嫌っている男なんですよ」


(その3A球団って確か神保さんのレポートでも全米ベスト3の育成環境だったな……)


「はい、それでお願いします。

 ですが、テストに不合格だったときのために、あと5つほど他の球団でも入団テストを予定しておいて頂けませんでしょうか」



 ミスター・ワシントンは満面の笑みを浮かべた。


「テストのときに君が怪我でもしていない限り、1球団で十分とは思いますけどね。

 それでも君がそう言うのなら、あと12球団ぐらいは紹介出来ると思います」


(まあ、ケガしても『キュア』一発で治せるからな……)


「ではそれでお願い致します」


「念のためお伝えしておきますが、入団テストに合格した後は仮契約になります。

 正式契約はあなたが1月のドラフトで指名されてからになりますね」


「はい、承知しています。

 あ、6大学が終わって5日ほどしたら進路希望に関する記者会見を開かなければならないと思いますので、渡米するのはその後でよろしいでしょうか?」


「もちろん構いません。

 それでは大会が終わった10日後に入団テストをセッティングしておきましょう」


「ありがとうございます、ミスター・ワシントン」


「アンジーと呼んでくれませんか」


「は、はいアンジー。それでは私のことはユーキとお呼び下さい」


「そうそうユーキ、君の進路記者会見なんですけど、もしよかったらわたしも参加させて貰えないでしょうか」


「もちろん構いませんが……」


「はは、理由が分からないっていう顔をしていますね。

 理由はですね……………ということなんです」


 そ、そんな……

 このひともう日本でビジネス出来なくなっちまうかもだぞ……

 それでも言いたいっていうのか……

 そうか、これが本物のスカウトなんだな……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アンジーに頼まれて、俺は東大野球部の練習を見学させてあげたんだ。

 アンジーは、にこにこしながら原宿助教授を質問攻めにしてたよ。

 特に動体視力の鍛錬と球を良く見るための首周りの筋トレについては、随分と感心してたみたいだったわ。



 それからの俺はさらにモチベーションが上がりまくって猛練習したんだ。

 まあ変化球はこれ以上進化させても全部ビーンボールみたいになっちまうから、主に球速とスイングスピードを上げる練習に特化してだが。


 その結果、ストレートはMAX176キロが投げられるようになったし、スイングスピードも180キロまで上がってたよ。



 4年生にとっては、秋の6大学の後の明治神宮大会の参加は任意だった。

 それで俺は予め監督とヘッドコーチに、最後の6大学野球の後は進路記者会見を開いてすぐに渡米し、3A球団の入団テストを受けることを伝えたんだ。

 もちろん会見までは極秘にしてもらったけど。


 そしたら監督さんが俺の手を握って言うんだよ。


「今まで本当にありがとう……

 君ならきっとそうすると思ってたし、すぐにメジャーに上がって大活躍するだろう。

 我々も心から応援しているよ……」


 あー、監督さんもヘッドコーチも泣いちゃってるよー……



 上野にも伝えたんだけどさ。

 そしたらあいつ、入団テストには何が何でも付いて行くって言うんだわ。


「だって、テストのときに投げろって言われても、受けられるキャッチャーがいないでしょうから」だってさ。



 そうして俺は神保さんに頼んでMLBの公認球を買って来て貰い、その球も使ってピッチング練習を始めてたんだ。


 これ……

 アメリカ製の球の方が縫い目が高くて、変化球が変化しやすいって言われてたのは本当だったんだな……

 なんか俺の変化球の変化幅が2割増しになっとるわ。

 これなら俺もメジャーで通用するかも……



 俺の最後の6大学も東大は優勝を飾った。

 俺の成績は7勝0敗。

 被安打2、四死球ゼロ、パーフェクトゲーム1、ノーヒットノーランは3だったよ。


 へへ、これでとうとう、練習試合も含めて高校大学通算330試合330連勝と四死球ゼロと自責点ゼロの記録は守れたな。

 ついでに本塁打は602本か。

 なんかマスコミには、今後1000年経っても破られないであろう超絶記録って書かれてたけど……

 ギ○スブックにも申請するって言ってたぞ。



 そうそう、そういえば上野が次期キャプテンに指名されたんだよ。

 まあ、正捕手だし打撃10傑にも入ってるしリーダーシップもあるしでものすごく妥当なところだけどな。


 本人は「来年は神田先輩がいないんで不安です」って暗い顔してたけど。





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