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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第3章 大学野球篇
55/157

*** 55 勝ち点制の大学野球 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 お、もう俺の打順か。

 1アウトランナー梨、じゃなかったランナー無しか。


 初球はカーブね。見送ってストライク。

 そうか、第1打席と第2打席で俺にストレートを打たれてるから、変化球勝負に切り替えたか。


 2球目は内角高めに外れるボール。

 3球目はまたカーブ。


 でも申し訳ない。

 俺、首を速く回す練習もけっこうしてたし、動体視力も相当なもんだし、さらにはバットスピードも速いし、バットをコントロールする腕の力も強いしでさ。

 初見のカーブでも、最後まで球を見て打てるんだわ……


 グワキィ―――――ン!


 あー、またバックスクリーン一直線だわ。


 どがんっ!


 あああー、また時計ぶっ壊しちまったぜー。


 あっ!

 今晩確かここ神宮でナイターあったよな!

 ご、ごめんなさい、プロ野球のみなさん……

 時計修理するのたぶん間に合わないと思いますぅ……




 その日のナイタ―では……

 ビフィズス・スパローズと対戦相手の読買ラビッツの選手たちは、バックスクリーン上部のぶっ壊された時計を見て鳥肌が止まらなかったという……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 6回の裏の早大の攻撃も、俺は無難に抑えることが出来た。

 なんだか早大ベンチも静かになってるぞ。

 あ、そうか。今まで全員三振で来てるのか。

 はは、そりゃ静かにもなるわな。


 7回の裏、早麦田大学の攻撃。


 おいおい、1番がセーフティーバント試みたよ。マジか?

 まあバントすら出来ずに空振りだったけど。


 それにしても、「完全試合、もしくはノーヒットノーランがかかっている場合、7回以降はセーフティーバントを試みない」っていう暗黙のルールはどこ行ったんだ?

 


 あ、そうか。あれはMLBの話か……

 日本のプロなんか平然とセーフティーバントしてたか……


 お、ウチのヘッドコーチが立ち上がった……


「ファースト、サード前進っ。もっとだ!」


 うわー、すげぇ前進守備だわー。

 これベースより5メートルぐらい前にいるぞ。

 あ、その分セカンドが1塁に近づいてショートがやや深めに位置を変えたか。 

 レフトもライトも前進守備になったな。


 2球目は……

 はい、内角に1.2メートルフォークね。

 了解しましたー。


 あれ?

 またバント試みてるぞ?

 このシフトでセーフティーバントなんか成功するわけ無いのに……


 そうか!

 全員全打席三振のアルティメットパーフェクト負けを逃れたいのか!

 取敢えずそれを逃れてから打ちに来るっていうつもりだな。

 よーし! そういうことなら三振狙ってやろうじゃないの!


 3球目、俺の渾身のカットボールを内角に。


「ストライーク、バッターアウッ!」


 へへ、バットも引かずに三振してやんの。


 それじゃあ2番打者にも、1.2メートルフォークと80センチジャイロと渾身カットボールで……


「ストライーク、バッターアウッ!」



 あ、顔面蒼白になった相手監督さんが前に出て来てサイン出しとる……

 おいおい、ちょっと手が震えてないか?


【早大3番くん】

(く、屈辱だ……

 3番のこの俺に最初からバントの構えをしろだと……)



 おー、こいつ最初からバントの構えかよ。

 配球はどうするかな。

 ぷはっ!

 錦糸町先輩がライズのサイン出してるよ!

 先輩もけっこういい趣味してるじゃないのー。

 それじゃあ投げてみますかー。


「ストライーク!」


 うっわー、バッターがジャンプしてバットにボール当てようとしたわー。

 それいくらなんでも無理じゃね?


 おいおい、2球目もライズ、しかも投げ出し高めいっぱいの。

 ま、まあいいか。1球ぐらいボールになっても……


「ストライーク!」



 ま、またジャンプしやがった……

 でも今度はボールにバットが届いてすらいないぞ。

 それバントすら不可能だろうに……


 3球目は……

 あー、やっぱり渾身カットボールを内角低めいっぱいに落とすのね。

 わかりました。


「ストライーク、バッターアウッ! チェンジ!」



 ベンチに帰ったらさ。

 隅の方で先輩たちが小声で話してるのが聞こえて来たよ。


「なぁ…… 俺相手が可哀そうになってきた……」


「お、俺もだ……」




 8回の裏の早大の攻撃。


【早大4番くん】

(な、なんという屈辱だ……

 このわしにバントをせよとは……

 こ、この恥辱は忘れんぞっ!)



 な、なんというサマにならんバントの構えだ……

 このひときっとバントなんかするの高校1年生以来ぐらいなんだろうなー。


 あー、先輩がキャッチボックスの端によって、さらにミットを外側に構えてるわー。

 しかもカーブのサインかー。

 それ、投げ出しは真ん中高めに見えて、その後とんでもない外角のボール球になるぞ。

 まあいいか、うりゃっ!


「ストライーク!」


 うわ、やっぱりバット引かなかったよこのひと!

 それどころか外角に1メートル外れるボールに飛びつい来て腹から地面に落ちてるよ。

 額に青筋立ててるしー。怖ぇー。

 先輩も後ろに逸らしてたけどまあいいか。


 次はライズのサインか……

 果たして引っかかってくれるだろうか……


「ぬおぉぉぉぉ―――っ!」


「ストライーク!」


 うっわー、やっぱりジャンプして飛びついて来たわー。

 みょーな根性だけはスゴいわー。



【早大4番くん】

(次はまた上か、それとも外か!

 なんとしてでも飛びついてバットに当ててみせようぞ!)



 お、内角低めに渾身のストレートのサインか。

 先輩もいいとこあるじゃん。4番さんに最後のチャンスか。

 酷いだけの配球じゃなかったんだね♪

 それじゃあ俺の今の最速球で…… うりゃ―――っ!


【早大4番くん】

(あっ……)


「ストライーク! バッターアウッ!」


【早大4番くん】

(嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!)



【神田くん】

(き、気の毒に……

 錦糸町先輩のサインって、一見温情配球に見えて、実は残虐配球だったんか……)



 その後の5番さんはなんとかバットに当てたけど、後ろに転がってスリーバント失敗でアウト。

 6番さんもバットがボールに当たらず空振り三振でアウト。



 9回の表、俺の第4打席。


 お、ピッチャー全力投球か。

 もうヤケクソだな。

 でも手は抜かずに真剣に打とう。


 ドキャッ!


 あ、真芯喰った……

 や、やべえ! 弾丸みたいな球がレフトスタンド一直線だ!

 あそこにゃ客もいるぞ!


 バキャッ!


 うわっ! すげぇ勢いでボールが跳ね返って来たっ!

 それも内野までっ!


(ご安心くださいませ勇者さま)


(じ、神保さん……)


(最後に打球を少し曲げて、無人のコンクリート壁に当てておきましたので、死者はおりません)


(俺のホームランは殺人兵器リーサルウエポンかよ……)




 9回の裏、早大最後の攻撃。


 早大の応援席どころか東大の応援席も静まり返っている。

 い、いや胸を押さえてうめき声をあげてるジジイが何人か……

 あーあーあー、担架で運ばれてるぅー。


(ご安心ください勇者さま)


(じ、神保さん……)


(先ほどから5人ほど緊張のあまり心停止しておりましたが、すぐにすべて蘇生させており、その後も強制的に心臓を動かしております。

 含む早大監督です。

 万が一にも死者は出しませんので安心してお投げ下さい♪)


(お、俺は死神かよ……)




 早大は3人の代打を送り込んで来た。

 でもやっぱり初見の球はバントすら出来なかったんだよ。

 そうして俺は、27人目の打者も三振に打ち取り、静かにマウンドを降りたんだ。


 観客席もびっくりするほど静かだったな。

 みんなアドレナリン使い果たしてぐったりしてたわ。

 ついでに東大ベンチもみんなぐったりだ。


 ようやく動けるようになった先輩たちは、ロッカールームで俺に抱き着いて来た。

 なんか監督さんも含めて全員号泣している。

 どうやら対早大戦は30連敗中だったらしくて、それで感激してたそうだ。



 それからストレッチとアイシングを済ませた後、いったん部室に帰った俺は監督さんとヘッドコーチに呼ばれたんだ。


「今日は信じられないほど見事なピッチングだった。ありがとう……」


「いえ、たまたまです」


(このひとたち、1年生の俺にお礼言ってるよ。

 よっぽど嬉しかったんだろうな……)


「それで、明日の先発も神田に任せたいんだが、肩は大丈夫か?」


「はい、大丈夫ですが、僭越ながらまたひとつご提案があります」


「是非聞かせてくれ」


「明日は私ではなく先輩ピッチャーに投げて頂くというのは如何でしょうか」


「!!!」


「理由を聞かせてもらってもいいかな……」


「はい、それはこの6大学野球大会が、トーナメント制ではなく勝ち点制だからです。

 無論、勝てそうな場合はいつでも私をリリーフに使って頂いても構いませんが、今まで努力して来た先輩投手たちの登板の機会を失わせたくないと考えました」


「そうか……」


「万が一それで負けたとしたら、明後日はまた私に投げさせてください」


「了解した。4年生のピッチャーとキャッチャーたちにそう伝えておこう」




 翌日の神宮球場。


 早麦田大は、先発メンバーのうち8人を左打者で固めて来た。

 まあ、俺対策なんだろうけど、ウチの先発投手が4年生の左の船橋先輩だったんで、相手監督は真っ赤になって頭から湯気出してたよ。

 ほぼ満員の3塁側スタンドもちょっと残念そうにザワついてたわ。


 東大は4年生と3年生の投手4人のリレーで頑張ったんだけどさ。

 奮起した早大がそれなりに打って、1-8で早大の勝ち。

 これで1勝1敗となり、勝ち点の行方は月曜日の第3戦にもつれ込んだんだ。




「今日の俺は三振には拘らず、打たせて取るピッチングに切り替えようと思います。

 まあ、ピンチになったらまた三振を狙いますけど」


 亀戸先輩は微笑んだ。


「了解した。守備陣にも仕事をさせてやりたいっていうことだな」


 そうなんだよ。

 東大野球部が弱いのは、ピッチャーに少々難があるのと、打撃陣のパワー不足で点が取れないからなんだ。

 でも、その分守備はなかなかのものがあったんだ。

 この点で、高校2年の頃とは大違いなんだわ。



 早大の先発メンバーは、やはり8人が左打者のままだった。

 でも……

 俺が最初から6本指グラブを右手に嵌めて、左のナックルを投げ始めると、また早大の監督が頭から湯気出してたわー。



 このナックルって、上下左右に10センチから20センチほどの変化を繰り返す球種だろ。

 まあ、上への変化はすごく小さいけど。

 だから、出会い頭でそれなりに打たれるとは思ってたんだ。


 でも、芯を捉えるのは難しいんで、打ってもボテゴロやポップフライになりがちだから、まあなんとかなるかなとも思っていたけどさ。

 ただやっぱり完全に初見の球なんで、早大の打者は最初随分戸惑ってたよ。

 なんか蒼ざめてるひとと真っ赤になってるひとに分かれてたけど。

 因みにあの4番さんは真っ赤になって今にも「この卑怯者――――っ!」って言いたそうな顔してたけどな……


 それで3回の打者1巡までは、誰もヒットを打てなかったんだ。

 でも4回の裏に1番さんがポテンヒット打ったら、相手ベンチは大騒ぎしてたよ。

 ノーヒットノーランを免れただけでそんなに嬉しいんかね?


 その後すぐに、走る気満々の走者を例のノールッキング牽制球で仕留めたら、とんでもなくがっかりしてたけどな。


 その後もポテンヒットや内野の間を抜けるラッキーなヒットでランナーは出たけどさ。

 そのたびに右投げに戻して18色の変化球投げるもんだから2塁は踏めず。


 そして東大は俺のホームラン2本を含む3得点で、3-0で勝利したんだ。

 なんか4シーズンぶりの勝ち点だったそうだな。




 1週間後の法制大学戦でも俺は第1戦の先発でノーヒットノーラン。

 ホームランも2本打って3-0で東大の勝ち。

 2戦目は俺はベンチに引っ込んで1-4で東大の負け。

 3戦目はやっぱり俺が投げて打って、4-0で東大の勝ち。


 これで俺たちは勝ち点2を手に入れたんだ。


 3戦目の慶王大学戦も同様に2勝1敗で勝ち点1。

 4戦目の立橋大学戦もおなじく2勝1敗で勝ち点1。


 そして迎えた最終戦。

 勝ち点4同士の対決となった対明寺大学戦に勝てば、東大の初優勝になる。


 初戦第1試合は神宮球場も満員よ。

 もちろん東大の応援席は外野席にハミ出て、外野の8割は東大応援団だったけど……





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