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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第3章 大学野球篇
53/157

*** 53 春の6大学野球(対早大戦)1 *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 4月15日土曜日。

 開会式の後、ついに6大学野球リーグが始まった。


 我が東大の対戦相手は秋の大会の優勝校早麦田大学。

 開幕戦は、前回大会の1位大学と最下位大学の対戦という伝統があるそうだ。

 因みに東大は、秋の大会では1勝も出来ずに勝ち点ゼロで最下位になっていた。



 ほほー、早大側の応援席にはほとんど応援団しかいないが、東大側にはけっこう観客がいるじゃねぇか。

 こりゃ俺を見に来たんかな。

 それにおっさん連中も結構いるな。

 OBが集結したんか? 

 なんかみんな挨拶しあってるぞ。あ、あれ八王子会長と専務さんだ。

 それじゃあご期待に応えて一丁頑張りますかー。



 先攻は東大。


 事前に俺の打順をどうするかの打診を受けたんだけど、俺はやっぱり1番を希望した。

 いくらなんでも、秋の優勝校が最下位校の1年生投手を第1打席から敬遠するのは有り得ないだろうからな。


 因みに、俺はバットには苦労してたよ。

 大学野球のバットは高校と違って木製バットだからな。

 それで、一番重い頑丈なバットでバッティング練習してたんだけど、それでも満振りするとバットが砕けちゃうんだ。

 そう、折れるんじゃなくって砕けるんだよ。

 ま、まあ完全に芯に当てると大丈夫なんだけどさ。

 でもなるべくホームランにしようと思って、ボールの芯の2ミリ下とか狙うと、バットが粉々に砕けちまうんだわー。


 それで仕方ないから八王子製作所の専務さんに頼んで、通常のタモじゃなくって樫の木でバット作ってもらったんだ。それも最大サイズで。

 バットって、太さ6.6センチ以下、長さ106.7センチ以下、っていう規定があるんだけど、重量に関しては900グラム以上っていう規定しか無いんだよ。

 つまり最大重量の制限は無いんだ。

 そうして最大サイズのバットを樫の木で作ると重量が1.2キロになっちまうんだけど、まあ俺の筋力なら問題無いだろ。




 早大の先発はエースだった。

 普通東大相手には2番手3番手を当てて来るそうだが、やっぱり俺を意識してるんかな?


 初球は内角低めに外れるストレートでボール。

 2球目も内角高めに外れるストレートでボール。


 ふむ、球速148キロってとこか。まあまあだ。

 でもやっぱり四球覚悟でクサイとこ突いて来てるようだなぁ。

 ただ、今日の俺のバットは、普通の選手が使ってるものよりも10センチも長い特別バットなんだぜ。

 まあ俺の身長も2メートルに迫って来てるから、見た目にそう違和感はないだろう。


 それにさ、ストライクゾーンって打者の身長が高ければ上下には広がるけど、左右にはベースの幅以上には広がらないだろ。

 元々ストライクゾーンって、「この範囲に来た球なら打てるでしょ」っていうゾーンだよな。

 それに加えて、当時の野球関係者の間には、「ボールゾーンに来た球は打ってもヒットにはならない」っていう思い込みがあったんだ。

(今でもあるかもしれないけど)


 ということで、長いバットを持った長身の俺にとってのヒットゾーンは、外角に優にボール2個分広いんだ。


 お、外角高めの球が、本来のストライクゾーンからボール1個分外れて来てるな。

 よし! いただききますっ!


 ガキィ――――――――ンッ!



 スイングスピード時速163キロを誇る俺のバットが、ボールの芯の2ミリ下を捉えた。

 最初はやや低く飛び出した打球は、どんどん高度を上げて行き、そのままバックスクリーンに突き刺さる。


 東大側応援席からはまるで優勝したかのような大歓声が上がった。

 俺は表情を変えないように努力しながらベースを回ったよ。


 その後は動揺した相手ピッチャーがフォアボールを出したものの、後続が続かずダブルプレーでチェンジ。



 そして俺は大学野球の初マウンドに立ったんだ。


 はは、キャッチャーの完全装備を初めて見る観客がザワついてるわ。

 首回りなんか完全に覆われていて、肩から顔面まで繋がってるように見えるからな。

 脚も左腕も完全に防具で覆われていて、まるでロボットみたいに見えるし。

 でもチタン合金製なんでそんなに重くはないんだけど。


 そうそう、去年(1979年)からテレビであの「機動戦士〇ンダム」の放映が始まってるんでさ。

 この防具、野球部内では「捕球戦士マ〇ダム」って呼ばれてるんだぜ。

 因みに「マ〇ダム」って言うのは当時CMが流行ってた男性化粧品の名前な。




 今日の先発マスクの錦糸町先輩とは、すでに大方の配球の打ち合わせは終わっている。

 サインは球種だけで19種類もあるんだけど、俺も先輩も記憶力は抜群なので問題は無い。


 お、相手ベンチで監督がなんか吼えてるぞ。



「いいか! 相手はいくら甲子園3連覇投手といえども1年生だ!

 1か月前までは高校生だった新人だ!

 大学の野球を教えてやるつもりで打ちまくって来い!」


 はは、まあそりゃそうだ。

 俺は間違いなくちょっと前までは高校生だ。

 でも俺の野球経験は3歳の時からの15年間だぞ。

 俺より長いやつはそうはいないんじゃないか?



 1番打者への初球は真ん中高めのストレート。時速は161キロ。

 このスピードだと、途中まではぎりぎりストライクに見えるだろう。

 でも、球威のせいで少し浮き上がって、ベース上を通るときには少しだけボールになっているはずだ。


「ストライーク!」


 はは、やっぱり空振りだ。

 でも錦糸町先輩がボールを前に零したか。

 まだ緊張してるのかな?


 それじゃあ俺からサインを出そう。

 次は捕る必要のないライズボールで行こうじゃないの。

 そりゃっ!


 投げ出しはど真ん中。途中までは当たり前のストレートに見える。

 当然バッターは絶好球と思ってスイングに入った。

 でも……

 ベース前8メートル付近から急速に浮き上がった球は、ベースの2.2メートル上を通ってバックネットに突き刺さっている。

 バッターはスイングを止められずに空振り。


「ストライーク!」



「ボールをよく見ろっ!」


 相手ベンチから怒声が飛ぶ。


 そうなんだよ、このライズボールって、不思議なことに遠目から見てるとただの暴投に見えるそうなんだ。

 途中から浮き上がっているようには見えないんだってさ。

 なんでだろうな?

 だから上への変化に驚くのはバッターと球審だけなんだ。

 まあ、それでますます相手監督やコーチが混乱するんで有難いんだけど。



 さて、第3球のサインは……

 はは、外角への1.2メートルフォークだってさ。

 しかも錦糸町先輩のミットは、もう最初からショートバウンド捕る体制になってるよ。

 脚もケツもぺったり地面につけてるし。

 絶対にパスボールにはしないっていう意気込みがすごいね♪

 よし、その心意気にお応えして、投げ出しは外角高めにそりゃ!


「ストライーク、バッターアウト!」


 やっぱり空振りしてくれたか。錦糸町先輩も無事捕球してくれたし。

 よかったよかった。



 2番打者への最初の球は、高めボールゾーンから落ちてストライクゾーンを通ってワンバンするフォーク。

 もちろん球審の目をチェックするための球だ。

 はは、パスボールでも問題ないんで、錦糸町先輩もリラックスして構えてるわ。

 こういう力の抜き方っていいねぇ。

 よし、よく狙って、そりゃ!


 バッターはボールと思って見送り。

 だが……


「ス、ストライーク!」


 球審は一瞬迷ったがストライクのコール。


 はは、やっぱり相手ベンチから伝令が飛び出して来たか。

 でもベースの後ろでワンバンしても、ストライクゾーンさえ通っていればストライクだからな。

 ご苦労さん。

 そして球審も合格だな。



 そうそう、因みに21世紀のアメリカでは、審判から見た日本人キャッチャーの評判ってすっげぇ悪いんだよ。

『狡い』とか『フェアプレーの精神を理解していない』とか『審判を愚弄している』とか言われて。

 おかげで日本チーム全体の評判も悪くなっちまってるんだけどな。

 

 日本の高校生キャッチャーって、バッターが見送った球がストライクゾーンから少しだけ外れてると思ったときに、ストライクゾーン方向にミットを動かしながら捕球したりするだろ。

 そうすれば未熟な審判はミットの捕球位置を見てコールするから、ストライクってコールして貰える可能性が高くなるわけだ。

 実際そうらしいし。

 あの漫画のドカ〇ンでもキャッチがミット動かしてボールをストライクって判定させたのを、『なんて上手なキャッチングなんだ!』って褒められてたし。


 だからそういう癖がついてて、大学やプロに行ってもおんなじことしてるから、日米大学対抗戦とかWBCとかでアメリカで試合するときも、微妙な球は捕球するときにミットを動かしてるわけだ。


 だからアメリカのプロの審判たちにはすっげぇ評判が悪いんだよ。

 まあ実際に審判に対する欺瞞行為だしな。

 メジャーリーガーは、フェアプレーを尊重する奴が多いから絶対にそんなことしないんで余計目立つんだ。


 つまり、未熟な審判が『捕球したミットの位置を見てコールする』ってしていることのせいで、日本チームの評判まで落とす結果になっていたわけだ。

 それにしても、なんでボールの軌道を見てコール出来ないんかねぇ……


 閑話休題。



 2球目のサインは…… お、カーブか。


 ミットの位置は外角低めのあの位置だから、投げ出しはあそこだな。

 中学時代にホームベースんとこに置いたマス目板に投げてたのが役に立ってるよ。

 どの辺りが何センチ上か右かって分かるもんな。

 よーし、うりゃっ!


 バッターはどうやら球を見失ったようだ。

 そして突然目の前に現れた球が、大きく曲がり落ちるのを見ながら茫然としている。


「ス、ストライーク!」


 へへ、やっぱ大学野球でも俺のカーブは十分に通用するか。

 次のサインは……

 あー、バッターさんも可哀そうに。チェンジアップのサインだよー。

 まあ、この球なら滅多にパスボールにはならないからなあ。

 それじゃあ、フォームだけは全力ストレートになるように気を付けて、うりゃっ!


 投げ終わった俺の頭上に突然現れたように見える球が、ゆっくりと飛んで行って、やや曲がり落ちながらキャッチャーのミットに収まった。


 わははは、球審が一瞬腕を前に出そうとしてたぞ!

 さては『偽投球』だと思ってボールを宣告しようとしたな。


「ス、ストライーク、バッターアウト!」


 バッターは打席内でテイクバックを3回も繰り返してガクガクしてたよ。



 さて、前回大会優勝チームの3番さんか。

 サインは……

 うん、落ちるだけの80センチジャイロね。了解。


 回転軸がやや左に向いたジャイロボールが、ベース前8メートルほどからスルリと落ちて、球速を落とさないまま低めに構えたキャッチャーのミットに収まった。


 バッターは完全に振り遅れて空振り。


「ストライーク!」


【早大3番くん】

(な、なんだ今の球はっ! なぜ落ちながら伸びるっ!

 い、いやそんなことは有り得ない。

 俺の目の錯覚に違いない……)



 あーあ、試合前に監督さんがあんなこと言うもんだから、みなさん打ち気満々だよ。

 これじゃあ、俺の『18色の変化球セット』の餌食だぞぉ。


 2球目は、カーブか。

 はは、またバッターがボールを見失ってるよ。


「ストライーク!」



【早大3番くん】

(な、投げた途端にボールが消えた……

 そして目の前に突然現れて曲がって落ちた……

 こ、これも有り得んっ!

 お、俺は夢でも見ているのか……)



 まあ、ボールがどこいったのかわからなかったら、スイングなんか出来ないよなぁ。

 お気の毒に。


 3球目は……

 ああ、カットボールね。無難な配球ですね。

 うりゃっ!


 おー、手ごろなストレートだと思って満振りしてるわ。

 でもボールはバットの遥か下を通ってるぞー。


「ストライーク、バッターアウトっ! チェンジ!」


 よーっし! 三者三振か!

 幸先いいじゃないの♪



【早大3番くん】

(こ、これも信じられん……

 今の球は多少速いが絶好球だった……

 それを何故空振りするのだ!

 確かにボールを捉えたはずだったのに!

 い、いったい何が起こっているというのだ……)



 俺は相手ベンチの監督の怒鳴り声と、応援席の大歓声を聞きながらベンチに戻ったんだ。


「錦糸町先輩」


「おお神田、ナイスピッチング!」


「今日の俺の変化球はけっこうキレてますし、先輩のキャッチングも調子いいみたいですから、このあとは全部変化球で行きませんか。

 相手打者のスイングも鋭いし、ストレートは出合頭の1発がありますから」


「わかった。でも肩や肘が重くなったらすぐ言えよ」


「ええ、そのときはジャイロを主体にして配球を組み立てましょう」


「おう、了解」





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