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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第3章 大学野球篇
52/157

*** 52 向上心が異様に強い人たち ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 それじゃあ俺も努力して練習を進めて行こうか。


「次は左右変化のほとんど無いジャイロボールです。

 フォークに比べてややベース寄りから落ち始めますが、落ちながら加速しているように見える球です。

 落ち幅は50センチから行きましょうか。

 やはり真ん中低めに構えてください」



 それで俺は落差50センチの縦ジャイロを投げたんだけどさ。

 やっぱり初見の球種なんで、2人とも最初はほとんど捕球出来なかったんだ。


(ん? それでも錦糸町先輩の方がパスボールが少ないかな?

 亀戸先輩の方がキャッチングは上手いけど。

 あ、そうか、錦糸町先輩は、キャッチング姿勢のまま腿からケツをぺったりと地面につけてるからか。

 このひと、上野並みに下半身の関節が柔らかいんだな……

 これならイケるかも……)



「次は落差80センチジャイロです。

 同じようにミットを動かさないようお願いします。

 もちろん前に弾くのは大歓迎ですよ」


(弾かれた球って、ピーゴロみたいに俺の守備範囲に来ることが多いからな)

 あ、そうだ。防具の表面にもう少しクッションを着けておこうか。

 そうすれば、もっと大人しい弾き球になるだろう……)



「次はカットボールです。

 ベースの3メートル手前までは少し速い普通の直球に見えますが、そこから急激に25センチ落ちる球になります。

 ですのでキャッチャーが手首を痛めやすい球でもあるんですが、今は先輩たちの手首はグローブとテーピングでガチガチに固めてあるんで大丈夫です。

 このガードをつけたまま試合が出来れば最高なんですが……」


「おお、こっちの方が安心感があるから構わんぞ」

「俺ももう少しすれば慣れると思う」


「ありがとうございます。

 このカットボールって俺の決め球のひとつなんですよ。

 この球を投げられると、勝率がかなり上がります」


「それなら頑張って慣れるよ」




 俺はカットボールを投げ込み始めた。


 うん、最初は全く捕れなかったけど、どんどん捕球出来るようになって来てるよ。

 相変わらず前に弾くことは多いけど、パスボールはかなり減って来たし。

 それにしても、いくら精神系の基礎能力値が高いからって、ここまで上達が早いもんか?


 あ、そうか!

 2年半前の荻窪先輩や大塚と違って、俺への信頼感が全然違うからか!

 あのとき俺は練習試合に1勝してただけだったけど、今の俺には『高校時代195試合で四死球ゼロ』の実績があるからか……

 だから俺を信じてミットを動かさずに我慢出来るんだ……

 なるほどな。



 こうして、先輩たちのパスボールはどんどん減っていったんだ。

 はは、2人とも表情が明るいよ。

 やっぱり『努力した結果、自分が向上出来たことを知る喜び』っていうものを知っているからだろう。


 よし、念のため最も捕球が容易なチェンジアップを受ける練習もしておくか……




 入学式も終わって俺が正式に野球部員となった日。


 まずは新入部員の身体測定と身体能力測定が行われた。

 これはチームドクターの原宿さんの研究室が主体となって、これから4年間の俺たちの成長度合いを測っていくものだ。

 まあ、中学の時も高校の時も似たようなものはあったがな。

 あ、なんだか先輩たちも大勢見に来てるわ。



「神田勇樹君、身長198センチ、体重102キロ」


「「「 おおー! 」」」


 まあみんな勉強ばっかしてたやつが多かったんだろう。

 なんか俺一人目立ってるようだわ。


「神田勇樹君、胸囲140センチ、太もも周り75センチ」


「「「 おおおおーっ! 」」」


「神田勇樹君、握力測定不能、100キロ以上」


「「「 げげっ! 」」」


「神田勇樹君、背筋力測定不能、300キロ以上」


「「「 げげげっ! 」」」



「おーい、神田―っ、ちょっとポーズとってみてくれないかー」


「はいキャプテン」


 それでまあ俺もサービスでポージングしてやったわけよ。

 フロント・ダブル・バイセップスとか、サイドチェストとか、バック・ダブル・バイセップスとか、モストマスキュラーとかな。


 そしたら大ウケだったんだけどさ、なんか測定補助の女子マネさんたちが真っ赤になっちゃってたわー。



 その日の夜は新入部員歓迎会だったんだ。

 それでやっぱり新入生はなんか宴会芸をやらされるわけよ。

 仕方ないから、俺のとっておきの芸を披露してやったんだ。


 まずは服を脱いで水泳パンツ一丁になる。

 そのあと、正面を向いて腕を下方45度ぐらいに降ろして軽く肘を曲げる。


「それでは筋肉たちのダンスをご覧ください♪」


 最初は右腕の前腕筋群に力を入れて膨らます。

 次は右腕の上腕筋群に力を入れて膨らます。

 次は右肩の三角筋に力を入れて膨らます。

 次は僧帽筋に力を入れて首を膨らます。

 次は左肩の三角筋に力を入れて膨らます。

 次は順に左腕の上腕筋群と前腕筋群に力を入れて膨らます。

 その次は左の大胸筋に力を入れて膨らまし、最後に右の大胸筋に力を入れて膨らます。


 これをリズミカルにだんだん早くしながら繰り返すんだ。

 顔は笑顔で前を向いたままな。

 ああ、低い声で筋肉の動きに合わせて「ボン、ボン、ボン、ボン」とかリズムとってもいいぞ。

 こうすると、体の中を何かが動き回ってるように見えるんだわ。

 まあ、俺の鉄板の宴会芸だ。


 もう先輩たちはみんな酒も入ってるせいか大ウケだったわー。

 こんど腹話術でも練習して、左右の大胸筋に顔描いて会話させてみるか……




 変化球と同様、宴会芸のレパートリーも多い神田くんであった……





 翌日の新入部員初練習。


 コーチの指示でホームベースのすぐ後ろに可動式ネットが張られた。

 その後ろには8人ずつ交代で部員が張り付いている。

 両側の打席にも、ベースから離れたところに3人ずつ入った。


 それで俺が持つ全ての球種を全部見せることになっちまったんだわ。

 ストレートに加えて、フォークやジャイロには2~3種類のバリエーションがあるから合計19種類な。


 肩を作り終わった俺は全力投球を開始した。

 もちろんキャッチャーは置かずにだ。


「うわっ!」

「げっ!」

「な、なんだこれっ!」

「ひえっ!」


 最初は結構騒がしいんだけど、すぐにみんな無言になってたわ。

 そうして19球ごとに見学者を入れ替えて行くんだ。

 俺が野球部に入るって報道されたもんだから、1年生の入部希望者が50人も入って来て部員は110人に膨れ上がっていたから、2日に分けて投げたんだけど。


 それ以外にも女子マネ希望者が殺到したんで、今まで3人で頑張って来た先輩女子マネさんたちが大喜びしてたよ。

 グラウンドの外にはけっこうなギャラリーもいるようになったし。





 春の6大学野球まであと1週間になった。


 ストレートと落ちる系の球のパスボールは激減したか。

 ということは、2ストライクから投げられるのは、ストレート、フォーク、真っすぐ落ちるジャイロ、チェンジアップか。


 横の変化球はまだパスボールが多いから、ランナーのいないときか1球目と2球目しか投げられないな。

 よし、半分は横の変化球の練習をして、もう半分は落ちる系の球のキャッチング練習をしよう。



「それではカーブを投げます。

 ミットは外角低めのボールゾーンに構えてください。

 俺はその位置を見てから投げ出し方向を決めますから」


「そ、そんな神業みたいなコントロールが出来るのか……」


 まあ、この3年半やってきたことだからなぁ……


「それじゃあ投げますよー」



 投げ出し方向は、横方向は内角ややボール気味、そして高さ方向は打者の頭上30センチほど。

 あはは、錦糸町先輩がボール見失ってるよ。

 おかげで構えたミットの真ん中にボールが収まったわ。

 これ、上野みたいに目ぇ瞑ってた方が、捕球率高くなったりして……



 10球ほど投げて、ようやく投げ出しの方向が見えるようになったようだな。

 でもその分、ミットが動いちゃうんだよ。

 途中で一瞬ボールの軌道がキャッチャーの顔面方向に向かうし。

 そりゃ怖いよな。

 だから無意識にミット動かしちゃうんだ。

 それで、それからの変化について行こうとしてミット戻すけど、間に合わなくってパスボールになるんだ。


 でも……

 このひとたち、ミットは動かすけど、体は動かしてないんだ。

 あ、そうか。防具が重すぎて体の位置を咄嗟に変えられないんだな。

 はは、思わぬ効用だ。



「なあ神田、投げるときに声を出してみてくれないか」


「はい、それじゃあ声出しますね。

 それじゃあカーブ投げますよー、うりゃっ!」


 そしたらさ、錦糸町先輩が全くミットを動かさなかったんだよ。

 まあ、ボールはミットの土手に当たって弾かれてたけど。


「うーん、そう簡単には行かないか……」


「先輩どうしたんですか?」


「いや、今神田の声が聞こえてから目を瞑ってみたんだ。

 そしたらミットを動かさずに済んだんだけど、やっぱり弾いちゃうよなあ。

 残念だ」


 こ、このひと、上野と全くおんなじことやってる!

 それにほんとに目ぇ瞑ってたのかよ。驚いたわ。

 そうか……

 このひとこうやって自分で工夫して勉強して来たんだろう……

 さすがは向上心偏差値92だわ。


「それでもさすがは神田だよな。

 弾いたとはいえ、ミットの中心から5センチもズレて無かったぞ。

 うーん、これなら安心してミット動かさずにいられるかも……」



 そしたらさ、錦糸町先輩のミットがどんどん動かなくなって行ったんだ。

 それから亀戸先輩も同じように最初は目を瞑って捕球したんだけど、こちらもすぐにミットが動かなくなっていってたわ。

 最後の最後に数センチ動かすだけで。


 他の4人の先輩たちも、こうした練習の様子を喰い入るように見つめていた。

 うーん、もともと向上心が異様に強い人たちを訓練するのって、ラクだわー。



 その次には横の変化もするジャイロを投げたんだ。

 50センチ落ちながら左右に50センチ曲がるやつ。


 そしたらさ、これもパスボールしないんだよ。

 まあ捕球出来るのは半分で、あとの半分はミットに当てて弾いてたけど。

 あー、「信頼感」って大事だったんだなぁ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 いよいよ春の6大学野球の開幕が近づいて来たある日、俺は監督とヘッドコーチに呼ばれた。


「4月15日の開幕試合、対早麦田大学戦では神田に先発を任せたいと思っている。

 それから翌日の第2戦もだ。

 行けるか?」


「はい、体調は万全です」


「さすがだな。

 それでは、キャッチャーは錦糸町と亀戸のどちらがいい?」


「どちらの方でも大丈夫です」


「まあそう言わずに、君の考えを言ってくれ」


「それでは大変僭越ながら……

 実はあのお二方の実力は本当にほとんど変わらないんです。

 錦糸町先輩はパスボールは少ないんですけど、捕球は少し劣ります。

 亀戸先輩は、逆にパスボールが少し多い代わりにキャッチングそのものは上手です。

 ですからご提案なんですけど、第1戦と第2戦をそれぞれの方に任せてみられたらいかがでしょうか」


「第1戦はどっちがいい?」


「それもお二方にお任せするということで」


「了解した。それでは2人にそう伝えよう」



 そしたらさ、先輩2人ともすっげぇ喜んでるんだ。

 どうやらやっぱりどっちが正捕手になるかで緊張していたらしい。

 それからの数日は、2人で熱心に俺の球を受ける方法について議論していたよ。

 もちろん後4人の捕手も、それを真剣に聞いていたわ……





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