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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第3章 大学野球篇
51/157

*** 51 上達する才能 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 俺は監督やコーチに頼まれて、まだ3月のうちからキャッチャー陣6人の練習を任された。

 4月から2年生、3年生、4年生になる各2人のセンパイ方だ。

 いくら俺が頑張ってもキャッチャーが捕れなかったら野球にならないからな。

 だから4月中旬から始まる春の6大学野球に備えて、早めに訓練して欲しいそうだ。

 もちろん俺にとっても望むところだし。



 俺はコーチや先輩方と一緒に更衣室に移動した。

 更衣室には6人分のキャッチャー用防具の山が置いてある。


(なんか2年半前と同じようなことしてるな。

 あのときは段ボールと座布団だったけど、八王子製作所のおかげで防具の質は段違いか……)



「それでは最初にこの特製ファウルカップをつけて下さい」


「な、なんだこれ! なんでこんなに重いんだ!」


「あー中に鋼鉄板が入ってます。

 表面はケブラー繊維ですし、体に当たる部分は強力な衝撃吸収材が使われてます。

 ですから.22口径の銃弾まででしたらキンタマは守られるそうです」


「「「 ………… 」」」


「次はこのアンダーウエアを着てください。

 ちょっと厚手ですけど、中の綿は全てケブラー繊維です。

 アメリカで防弾ベストに使われている素材です」


「「「 …………………… 」」」


「それで、ユニフォームを着て頂いたら、まずはこのネックガードを着けてください。

 皆さんの首を守るものですね。

 全体にクッションとやはり鋼鉄の細い板が入っています」


「マジかよ」

「完全武装だな……」


「いえ、まだまだありますよ。

 それからユニフォームを着て頂いたあとは、この『大腿ガード』を着けます。

 大腿の前面はもちろん、腿の内側も守られます。

 各種ある中で、これは最も重くて防御力が高いものですね」


「おお、これ日比山のキャッチャーが着けてたやつだな」

「最近ではプロも使い始めたぞ」


「それからこちらは手首ガード付きグローブになります。

 手首が後ろには曲がりませんので、慣れるまでに若干時間がかかるかもしれません」


「すげぇ……」

「ここまでするんか」


「ご面倒をおかけしてすみませんが、こうした防具を使用することが安全性の確保に繋がるとと思いまして。

 次はこのレガースですね」


「お、重い……」

「それに大きい……」


「全ての防具には軽量のチタン合金製のものもあります。

 鋼鉄製に慣れてからチタン合金製を使うと、非常に軽く感じるそうです」


「なんか高そうだな……」


「はい、まだチタン合金は貴重なので、キャッチャー用防具一式で50万円するそうですね」


「「「「「 !!! 」」」」」


「だ、大卒初任給半年分近いのかよ……」


「八王子製作所さんのご厚意で、チタン製はLサイズとLLサイズの2人分用意出来ました。

 基本サイズフリーなんで、どちらかを使えると思います。

 ですから皆さんが鋼鉄製に慣れたら順番に使ってみましょう」


「「「 あ、ああ…… 」」」



「次はアームガードです。

 これは鋼鉄製だと重いので、最初からチタン合金製を使いましょう。

 前腕と上腕に装着してください。

 前腕用ガードは肘をガードするために、肘よりも先に少し出るように着けて下さいね」


「まるで中世の西洋甲冑だな……」


「はは、そうですね。

 実はわたしもデザイン会議に参加したんですが、参考にしたのは各種西洋甲冑でした」


「「「「 ……(甲冑着けて野球するんかよ)…… 」」」」


「それからこちらは『トゥーガード』です。

 つま先と足の甲を守るためのものですね。

 厚さ8ミリの鋼鉄の板が入っているので、筋トレ用のウエイトを足に落としても大丈夫ですよ」


「す、すげぇ……」


「それからこちらはヘルメットです。

 表面は同じくチタン合金で、内側のクッションにはケブラー繊維が使われています。

 若干大きめなのはチタンを厚くしているのと繊維も多く入れてあるからです。


 アメリカに行っての実験では、マネキンに被せて.45口径の拳銃弾を撃ち込んでもマネキンの頭部には傷ひとつついていなかったそうです。

 まあ、残念ながら人体実験はしていないようですがね。

 たぶん、衝撃で脳震盪ぐらいは起こすかもしれませんが、ただアメリカ軍の軍用基準はすべて満たしたそうです」


「軍用基準かよ……」

「戦争出来るんかよ……」



「次はキャッチャーマスクなんですが、これもチタン合金を使用しているせいで、前面のガードを若干細く出来て視界がよくなっています。

 また、周囲のクッションもケブラー繊維製で少し大きめに作られています。

 それからこの練習用プロテクターをつけてください」


「お、重い……」


「はい、中に厚さ8ミリの鋼鉄板が入ってます。

 また、通常の綿に代えてもちろんケブラー繊維が使われています」


「マジで完全装備だな……」


「はは、開発担当者は『例え正面からサブマシンガンの銃撃を受けたとしても、顔面以外は無傷だろう』と言っていました」


「「「「「 (こいつの球は銃撃並みかよ……) 」」」」」



「最後はこの練習用背面ガードです。

 リュックサックを背負うように装着してください」


「これは何のためのものなんだ?」


「はい、後ろにひっくり返ったときに背中を痛めないためのものです」


「「「「「 ……(なにがどうなったら後ろにひっくり返ったりするんだ?)…… 」」」」」


「さて、それでは練習を始めましょうか……」




 全員でブルペンに移動したあと俺は言った。


「それでは順番にお一人ずつキャッチボックスに座って下さい。

 後の方々は、恐縮ですがキャッチャーの周囲での球拾いをお願いします。

 ではキャッチング練習を始めますが、最初は緩い直球を投げますので、ミットでキャッチせずにすべて体に当てて弾いてください」


「「「「「 えっ…… 」」」」」


「もちろんこれは、防具に安心感を持って頂く練習になります。

 きっと、全く痛くないので驚かれることでしょう。

 防具の無い利き腕にだけは球が当たらないように気を付けてくださいね」


「「「「「 あ、ああ…… わかった…… 」」」」」



 それで俺は時速130キロほどの直球を投げ込んでいったんだ。


「ほ、本当だ…… 全く痛くない……」


「さ、さすがは完全装備……」


「これ、慣れたら実際の試合でも使えるかな……」


「うーん、盗塁阻止率ダダ下がりかも……」


「そ、そうか……

 でっ、でもチタン合金製の防具なら……」


「そうだな、もう少ししたら、チタン製を装着して盗塁阻止の練習もしてみようか……」



「それでは最後に球をマスクで受けてみてください」


「「「「「 !!! 」」」」」


「無理に顔面で弾こうとすると首を痛める可能性がありますので、顔面に当たったらそのまま後ろにひっくり返って衝撃を逃がして下さいね」


「そ、そのための背面ガードだったのか……」



 最初はおっかなびっくりだった先輩たちも、マスクにボールを当てて「かぁ~ん」とかいい音を響かせながら、後方受け身を取れるようになっていったんだ。


 あ、なんか周りに人が大勢いる……

 はは、見たことのない練習なんでみんな寄って来たんだな。



 先輩キャッチャーたちも嬉しそうだ。


「な、なんかこの防具ってすげぇな……」

「球への恐怖心がどんどん薄れて来たよ」

「なんか俺、自分が無敵のロボットになったような気がして来た……」

「はは、スーパーキャッチングロボットか」



 翌日。


「さて、今日は球速を上げてみましょう。

 私は70%ほどの力で直球を投げますので、昨日と同様に全て体で弾いて下さい」


 翌日。


「今日は90%の力で投げる速球です」


 さらに翌日。


「今日は私は100%の力で投げますので……」


 そうして俺は、時速163キロの球を投げ込んで行ったんだよ。


「衝撃や音はものすごいけど、ぜんぜん痛くないな……」

「これ、この防具無かったら全員病院送りだな……」

「いや、全員死んでるわ」

「ふはははは、俺は最強ロボットだっ!」



 また翌日。


「みなさんボールに対しての恐怖心はすっかり無くなったようですので、今日からは直球を捕球してみて下さい。

 また遅い球から順に速い球にして行きますので」



 さらに翌日。


「それでは今日から新しい練習に移ります。

 実はこれはキャッチャー経験の長い方ほど難しい練習かもしれません」


「どんな練習なんだ?」


「今日から変化球を投げます。

 まずは一見高めの直球に見えて、ベース手前8メートルから50センチ落ちるフォークですね。

 このとき、ミットは真ん中低めに構えて動かさないでください。

 私が努力して、ミットの中心から半径5センチ以内に収まるように投げますから」


「マジかよ……」

「変化球でそこまでのコントロールが出来んのかよ……」


「この練習は恐怖心を克服する練習です。

 自分の頭部に目掛けて迫って来る球に対して、ミットを下に構えたまま我慢するのですから、相当な勇気が必要です」


「だからあれほど防具の安全性に自信を持つ練習をやっていたのか……」


「仰る通りです。それでは始めましょう」



 いやみんな苦労してたわ。それも上級生ほど。

 どうしてもキャッチャーの本能でミットを上げちゃうんだよな。

 でも、これはまだ俺のコントロールへの信頼感が足りないっていうことなんだろう。



 数日後。

 とうとう4年生のセンパイ2人がギブアップした。


「俺たちにはまだ無理なようだ。

 たぶんミットを動かさないようになるには、数か月の練習が必要だな」


「だから来月中旬から始まる春の6大学には間に合わん」


「それで神田、最もミットを動かさない新3年生の錦糸町と、その次に動かさない新2年生の亀戸を優先的に練習させてやってもらえないだろうか」


「もちろん春の6大学が終わったら、俺たちにも本格的な練習をさせてもらいたいんだが」


 おー、先輩だからと言って後輩を排除するんじゃなくて、チームの勝利のためにポジションを譲ったか。

 あ、横で見ていたコーチも笑顔で頷いてるわ……


 それからは、俺は3年の錦糸町先輩と2年の亀戸先輩に集中して練習をしていったんだ。

 もちろん俺たちの周囲には4人の先輩たちもいる。

 そうして、超真剣な目で俺たちの練習を凝視していたよ……



「次は落差1.2メートルのフォークになります。

 投げ出しは完全なボール球ですが、ストライクゾーンを通過してその後にワンバンします。

 ですから、最初からワンバンすると思って低めに構えていてください

 同じようにミットに収まるようにコントロールしますが、左右は5センチ以内でも、上下は10センチほどの誤差を見込んで欲しいと思います。

 また、必ずしも捕球しなくても構いません。

 ですが、後逸しないでなるべく体に当てて前に弾いて下さい。」


 はは、先輩たちが唾呑み込んでるよ。



 それで俺は1.2メートルフォークを投げ始めたんだけどさ。

 やっぱりワンバン球は難しいみたいだな。

 2人とも、10球中捕球出来るのは1~2球で、パスボールが3~4球だよ。

 残りは全て前に弾いてたんだけど、その球も次第に俺に向かって弾くことが出来るようになって行ったんだ。

 これなら、もう少し練習すれば、2ストライクからでも1.2メートルフォークを投げられるようになるかもしらんな……。




 先輩たちは頑張った。

 無理して捕球しなくても、前に弾くだけで十分と言われた後は、パスボールもどんどん減って行ったんだ。


 よし! これで50センチフォークと80センチフォークと1.2メートルフォークは実戦で使えるな!


 それにしてもこのひとたち、なんでこんなに上達が早いんだろ?

 あの荻窪先輩や大塚とは全然違うよなぁ。

 みんな高校ではそれほど野球やってなかったはずだから、野球経験はそんなに違わないはずなのに。


 ちょっと詳細鑑定してみるか……


 うわっ! 

『克己心』と『集中力』が2人とも偏差値75超えてる!

『努力する才能』、『向上心』に至っては80超えてる!

 他の先輩たちも軒並み高スコアだ!


 そうか!

 克己心や集中力や努力する才能、向上心が無かったら、そもそも東大には来られないのか!

 ということは、この野球部に所属しているひとたちって、こういった精神系の能力値が軒並み高いんだな。

 低いのは野球能力や体力だけで……


 こ、これはマトモな練習と筋トレすれば、このひとたちどんどん強くなるぞ……

 野球能力はすぐに上がるけど、精神系って努力しても上がらないことが多いから。


 つまり、全員『上達する才能』を持ったひとたちだったんだ!





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