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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第3章 大学野球篇
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*** 47 大学合格と野球部入部 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 国立大学合格発表が行われる3月中旬。

 スポーツ紙どころか一般紙にも巨大な見出しが躍った。


「あの都立の星、ミスター完全試合神田くん、東京大学合格!!!」って……


 いやほんとよかったよ。

 3歳のころからの15年間の勉強が実ったぜ。


 でもさ、同級生とかの周り見てて思ったんだ。

 ほとんどの高校生って、3年生になってから勉強しようって思うようだ。

「俺も来年は受験生だからそろそろ真面目に勉強するか……」とか、

「だから塾や予備校にでも行くか……」とかって。


 それでもって、翌年の春には、

「毎日3時間も勉強したのに第一志望落ちちゃった。俺運悪いわ」

 とかって言い出すんだよ。


 あのさ。

「俺も来年は3年生だし、これから野球部に入って練習がんばって1年後には甲子園に行こう!」って思って、実際に行けると思うか?

 せいぜい地区予選3回戦がいいとこだろ。

 野球強豪校だったらベンチ入りすら出来んぞ。

 それで『1年もかけてあんなに練習したのに……』とか『毎日3時間も練習したのに……』とかって言っても笑われるだけだぞ。


 甲子園に行けるような連中って、それこそ小学生のころから野球漬けだったやつらがほとんどなんだよ。

 練習休みは元旦の一日だけとかいう練習を、それこそ10年以上続けて来た奴らの中でも、さらに一握りが甲子園に行けるんだ(除く熊襲工業高校)。


 でもって、勉強が好きな子にとっての甲子園が、東大を始めとした超一流難関校なんだよ。

 だから、そういう大学に合格する奴って、やっぱり10年以上毎日のように勉強してたやつなんじゃないか?

 少なくとも大学の受験勉強は中学1年から始めないとな。

 まあ、過去問とか解くのは無理だけど、基礎練習から。


 それをたったの1年の受験勉強で志望大学に落ちたのを、「なんで落ちたんだろ」とか「運が無かった」とか言うなよな。

 笑うぞ。



 でもなあ……

 その後の日本中のヘイトがスゴかったわー。

「オリンピックで金メダルを獲り、甲子園であれだけ活躍して有名人になって脳筋だと思ってたやつが、東大に合格するとは! ゆ、許せんっ! ナマイキだっ!」っていうカンジで……


 記者たちの扱いも記事もどんどん陰険になっていったし。



 そういえば2年半前に、「受験があるから」とか「塾や予備校に通えなくなるから」とか言って野球部辞めてった先輩たちなんだけど……

 一浪しても第1志望に落ちて、泣く泣く滑り止めに行くことになってた奴が多かったらしいんだけど、俺のこの合格のニュース見て血の涙を流しながら慟哭して俺を呪ってたそうなんだ。

 なんで自分たちが失敗したのに俺にヘイト向けるんだ?



 それにしても、どうして日本人って、頑張って努力して結果を出したやつを叩こうとするんだろうな。

 それもその結果が大きければ大きいほどバッシングが激しいし。


 民族的に嫉妬心が激しいんか?

 そういう祖先の遺伝子引き継いで来てんのか?

 なんか、狭い国土に嫉妬心の強いヤツラばっかりが1億人以上もひしめいて暮らしている国って、キモいよなー……



 でも、東大野球部の先輩たちは大歓迎してくれたよ。

 合格発表見たその足で練習場に行って入部希望を伝えようとしたらさ。

「合格おめでとう!」って言って、野球部全体で万歳三唱してくれて、ついでに胴上げまでしてくれたぜ。


 そう、このころは合格したやつを胴上げするのが流行っていたんだ。

 各運動部が新人勧誘のためにやったり、中には「たったの500円で20人の先輩が万歳三唱&胴上げ!」とかやってる学生グループもいたし。


 それでその日は、そのまま野球部の寮で俺の歓迎会になだれ込んだんだけど、俺が「まだ未成年なんで酒はお許しください」って固辞したら、みんな驚いてたわ。



 そして、その場に白衣を羽織ったおっさんがやって来て、俺の前に座ったんだ。


「去年からスポーツドクターとして、野球部の練習メニューやケガの治療に助言している医学部講師の原宿だ。

 日比山高校の練習方法には多大な興味を持っているんだ。

 論文の参考にするために、神田くんに話を聞かせてもらいたいんだが、お願い出来ないだろうか」


 おー、高校生相手に丁寧なひとだなぁ……

 それにこのひと、野球部のOBで現ヘッドコーチの代々木さんとは同期だそうだ。

 現監督の新宿さんは現役時代のヘッドコーチだったそうだし。


 それで俺は、翌日原宿さんと監督とヘッドコーチと4年生の目白キャプテンに、日比山高校の練習方法を教えることになったんだわ。




 翌日東大野球部の合宿所に行った俺は驚いた。

 だって野球部員が全員揃って待ち構えていたんだもの。


 どうやら俺や日比山の練習方法を聞きたくて、部員全員が新宿監督やチームドクターの原宿さんに直訴したらしい。




「えー、それでは大先輩方を前に大変僭越ではございますが、日比山高校の練習メニューをご説明させていただきたいと思います」


 すげぇよ、みんなノートとペン持ってるよ。

 さすが東大生だな……


「それでは日曜日の練習を例にとってご説明いたします。

 まずは集合は朝9時です。

 これは、グラウンドがやや遠いこともありますが、起床から4時間ほど経たないと体の調子が万全になっていないからでもあります。

 そのため部員には、朝5時に起床して勉強してからグラウンドに来ることを推奨しています」


 カリカリカリカリとペンの音が響く。


「9時からの練習の最初のメニューは動的ストレッチです。

 30分ほど時間をかけて入念に行います」


 目白キャプテンが発言した。

「それは準備体操かな?」


「まあ準備体操ではあるんですが、通常の体操とはかなり異なっています。

 主に体全体を温めながら靭帯を伸ばして、関節の可動域を広げるための運動ですね。

 目的はもちろんケガの防止ですが、夜のうちに筋肉に溜まっていた疲労物質を押し出す効果もあります」


 はは、スポーツドクターの原宿さんが頷いてるわ。



「午前中は主に守備練習です。

 ノッカーの代わりにピッチングマシンを使ったりすることもありますが、まあ普通の守備練習ですね。

 実際にランナーを置いたりして、ベースカバーなんかの練習もあります」


 はは、守備練にピッチングマシンを使うのは意外だったらしいけど、みんな頷いているよ。

 まあ常識的な守備練習だし。


「ノックを受け終わって交代した者は、ベンチに行って水分と塩分を補給します。

 これは特に暑い日は強制ですね。

 みんな水を飲まない練習に慣れていたんで、最初は飲ませるのに苦労しました」


「水なんか飲ませてバテないか?」

「それにそれじゃあ根性がつかないんじゃないか?」


「水だけ飲めば間違いなくバテます。

 そんなことをしたら、ただでさえ汗で塩分を失っているのに、水を飲むことでさらに体内塩分濃度が低下してしまいますし。

 そのせいで、眩暈がしたり気絶したりして最悪死にます」


 みんながザワついている中、原宿ドクターだけが頷いていた。



「高校の世界史の教科書にも載っていましたけど、アメリカは大恐慌の後にテネシー川流域開発公社を作って余剰労働力を吸収しようとしましたよね。

 そのときの目玉になったのがフーバーダムでしたけど、実はこの工事では当初謎の死因での死者が相次いだんです。

 死なないまでも突然倒れて意識不明になるとか。

 それが最初は水分不足が原因だったんですね」


「「「「 ………… 」」」」


「そこで工事現場のあちこちに給水施設を作ったんですけど、気絶者や死者は減るどころかますます増えたそうなんです。

 日本の教科書には載ってませんけど。

 それでとうとう社会問題になり始めたんで、慌てた政府は調査団を派遣して死亡原因を徹底的に調べたんですよ。

 それで明らかになったのが、死者の血液中の塩分濃度が極端に低くなっていて、そのせいで体内の細胞膜が破壊されていたことが死因だったんです。

 他にも汗と一緒に出て行ってしまったミネラル分の不足も顕著だったんですけど、さすがに死因にまではならなかったそうですが」


「「「「 ……………… 」」」」


「それで水場の傍に塩を置くようにしたんです。

 おかげで気絶者や死者は激減したそうですね。

 ですから塩分と一緒に水を飲めばバテません。

 それどころか体内の塩分濃度が最適な状態に維持されて、より長時間集中して練習出来るようになります」


「そ、その塩分はどうやってどのぐらい摂るんだ?」


 お、さすがは東大生。


「最初は濃度0.9%よりやや濃い生理食塩水を作って飲んでいたんですが、体内塩分濃度にはけっこう個人差がある上に、不思議なことに生理食塩水ってかなりマズく感じるんですよ。

 ですから、塩の量は各人に任せています。

 これ、興味深いことに、体内塩分量が足りないときほど、塩を喰ったときに美味しく感じるんです。

 また、塩分量が十分な時には辛くてマズく感じます。

 人間の体ってすごいですよね」


「食塩をそのまま舐めているのか?」


「最初はそうだったんですけど、練習中は手が汚れていますから、いちいち手を洗うのは面倒でした。

 ですから最近は、でんぷん糊に塩と少量の砂糖を混ぜて直径8ミリほどの小さな粒にしています。

 粒の周りはすり鉢で細かくした塩の粉末です。

 腐らないので大量に作って保存しています」


 はは、マネージャーのお姉さんがメモ取ってるわ。


「そうして、午前中は守備練習を3時間ほどみっちり行います。

 それから、午前の練習後、すぐにタンパク質を摂取します」


「肉を喰うのか?」


「いえ、植物性タンパクです。

 大豆をミキサーで砕いたものに水や牛乳を混ぜて、飲みやすいように少量の砂糖を加えてます。

 最初は粒が大きくて飲みにくかったんですが、最近では部員も増えたんで、当番が交代ですり鉢で細かくしてくれるようになって、飲みやすくなりました」


 あ、またマネージャーさんがカリカリとメモ取ってる……


「実際には豆類だけでは必須アミノ酸が足らないんですけどね。

 その分パンや米を食べて補わなければならないんですけど、これはまあ普段の食事で摂れますから。

 ですから不足しがちなリジンを補うための豆類の摂取をこのときに行っています。

 米と小麦はこのリジンの合有量が低いですから。

 それらを筋肉に変えるために必要なビタミンやミネラルの補給は、練習後の野菜ジュースで行っています」


 はは、必須アミノ酸とかリジンとか聞いてみんな戸惑ってるよ。

 まあこの時代の受験には出てこない言葉だからな。


「当初は野菜ジュースを作るための野菜や果物の調達に苦労してたんですけど、甲子園に行けるようになってからは寄付金が集まったんで、各種たっぷりと買えるようになって助かっています。

 それから昼食後は45分ほどの休息です。

 みんな雑談しながらストレッチとかしていますけど、3年生の中には勉強しているヤツもいます」


 はは、みんなちょっとびっくりした顔してるわ……





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