*** 42 2回戦突破と出張仕事 ***
この物語はフィクションであります。
実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……
さて、1回の表は俺が先頭バッターか。
果たして勝負してくれるのかな?
うおっ!
イキナリ頭部危険球かよっ!
でもなぁ……
魔人将軍が打つマッハ3の石槍魔法をあっさり躱してきた俺だしなー。
それも1000発同時のやつ。
こんなヘナチョコ球、かすりもしないわ。
よっと。
次の球は……
お、今度も頭部狙いかよ。
ほいっと。
あ、主審が相手バッテリー呼んだ。
次に危険球投げたら退場だって。
あー、2人とも主審にメンチ切ってる!
俺にもだ!
3球目も頭部狙いか……
よいしょっと。
「退場~っ!」
あー、相手応援席からヒドいヤジが飛んでるわー
「主審をコロセっ!」「主審をコロセっ!」「主審をコロセっ!」だって……
そうか……
こいつらこうやって勝ち上がって、甲子園に出て来たのか……
それを許したのが「高校球児らしさ」を尊ぶ高野連合なんだな……
よし! 俺が全員まとめて退治してやる!
ピッチャー代わって初球も危険球。
あー、投げるとき「おどれーっ」とか叫んでるよコイツ……
俺は微笑みながら顔の前にバットを持って行ってファウル。
次の危険球もファウル。
そしたら球審が、「キミ、大丈夫かね?」って聞いて来てくれたんで、さらににっこりしながら「お任せください♪」って答えておいたよ。
次の危険球もファウル。
そしてピッチャー退場で投手交代。
(神保さん、聞こえますか?)
(はい、勇者さま)
(このままだとたぶん暴動になるんで、なんとか大勢の警察官を呼べませんかね?)
(相手側応援団がスタンドに入った段階で、兵庫県警と大阪府警に大量の通報が入っています。
試合開始前から、兵庫県警本部長と大阪府警本部長をはじめ、多くの幹部警察官がこの放送を見始めましたので、ついでに彼らの脳内の「激怒中枢」を刺激致しました。
そのため、現在兵庫県警と応援要請を受けた大阪府警の機動隊2個大隊1000名と警察官2000名が動員され、甲子園球場に向かって集結中でございます)
(さ、さすがですね……)
(出来れば後少々お時間を稼いで頂きたいのですが……)
(わかりました。任せて下さい)
俺は危険球のファウルを続け、3球ごとに相手投手を退場させ続けた。
もちろんにこにことほほ笑みながら。
そうしてその間に、相手の選手、ベンチ、応援席の全員に、密かに『ロックオン』の魔法をかけていったんだ。
ついでに『麻痺』の魔法も自動発動状態にしておいたし。
これで連中がベンチから飛び出したり、応援団の奴らがグラウンドに降り立つと、俺が解除するまで全員が自動的に麻痺することになる。
俺のファウルが24球続くと、相手ベンチの控え選手がゼロになった。
その時ちょうど、神保さんから甲子園球場の全ての通路が機動隊によって封鎖され、突入準備も整ったとの連絡が入った。
あー、熊襲工業応援団が、応援席とグラウンドを隔てるネットをワイヤーカッターで切り始めたわー。
乱入する気満々だね♪
ベンチの選手たちも、ナイフやらメリケンサックやら取り出して殺気立ってるし。
そして俺は、最後のピッチャーが俺の顔面めがけて投げた甘いヘロヘロ玉をフルスイングして、場外ホームランにして差し上げたんだ……
その瞬間に応援席からエモノを持った連中がなだれ込んで来たんだけど、フェンスを越えた瞬間に麻痺して折り重なって倒れて人の山が出来上がった。
圧死者が出てもなんなんで、仕方ないから全員に『身体強化Lv0.1』もかけてやったよ。
もちろん機動隊員が駆け付けるたびに『麻痺』も『身体強化』も解除してやったけど……
その試合での成人逮捕者は約2000人、未成年の補導者約1000人。
容疑は凶器準備集合罪、銃刀法違反、不法侵入、傷害未遂、公務執行妨害、etc。
兵庫県警と大阪府警だけでは留置施設が足りず、警察庁の指示で近県の警察も動員されたそうだ。
熊襲工業野球部は100年間の対外試合禁止処分。
なんだそれ?
また、熊襲工業の生徒の99%が補導されたため、2学期からの学校再開も危ぶまれている。
驚いたことに、応援席の真ん中で踏ん反り返っていた熊毛皮のおっさんは校長だったそうで、ついでに学校自体の存続も危ぶまれているそうだ。
また、地元暴走族、暴力団員も全員留置場に入ったとのことで、再犯者や弁当持ち、加えて首謀者は全員実刑判決になる見込み。
あ、お礼参り対策として、相手関係者全員にマーカー魔法つけといたよ。
敵対的意思を持って大阪より東に移動したヤツには自動的に『雷撃Lv0.1』が落ちるようにセットしたやつ。
それからの半年で、120人ほどが全身の毛チリチリにして気絶してたけど。
凶器持ってたやつにはLv0.5だったんで、服も全部コゲ落ちてたけど……
こうして、高校野球史上最大の不祥事と呼ばれるこの試合も、相手校の試合放棄で俺たち日比山高校の勝利に終わったんだ……
まあ、俺たちにケガがなくって、ヨカッタヨカッタ……
チームの面々は多少メンタル的に動揺があったものの、練習グラウンドで汗を流せばそんなものもすぐ消える。
そしてその晩のこと……
(勇者さま)
(あ、神保さん。今日はどうもありがとうございました)
(いえいえ。当然のことをさせて頂いただけでございます。
それでお疲れのところ誠に申し訳ないのですが……)
(どうかしましたか?)
(は、はい。
勇者さまが以前救われた前世の世界の神さまより連絡がございまして……
どうも困ったことになっておるようなのでございます)
(どのような?)
(あの、ある盗賊団が勢力を拡大致しまして、近隣の村や町を征服してとうとう帝国を名乗り始めたのでございます。
もちろんまともな統治などしているわけではなく、単に自分たちの権勢と働かずに贅沢をする環境を求めてのことでございます)
(要はクズどもなんですね)
(はい、最低のクズどもでございます。
そして、そのクズどもが大きな街に狙いを定めました。
現在、町の男たちを皆殺しにして、女子供と老人を奴隷にするために進軍中なのでございます)
(その軍勢の規模は?
それからその街の人口は?)
(はい、自称帝国軍の規模は約3000人、街の人口は約5000人でございます)
(よく知らせて下さいました。
それでは今から行って蹴散らしてくることにします。
その程度の小規模軍でしたら30分もかからないでしょうし)
(あ、ありがとうございます……)
そうして俺は、俺が救った前世の世界に転移されたんだ。
あー、小さな壁に囲まれた平和そうな街に向かって、世紀末ヒャッハーどもが進軍しとるわ……
それにしても、軍とか言いながらその規模はたった3000人か……
はは、熊襲工業応援団の逮捕者の数と同じだな……
軍の構成は……
前列がぼろぼろの服を着て木槍や棍棒を持った男たち約2000か。
奴隷兵だな。
中列は前列に向けて金属の槍を突き付けてる将校らしき連中約1000。
督戦部隊か。
その後ろに馬に乗った金属鎧が100ほど。
あいつらが支配階級ってぇこったな。
でもってバカデカイ輿に乗ったあのデブが自称皇帝陛下か……
お、行軍が止まったか。
今晩はここで野営する気だな。
俺はインベントリから予備の神剣とハデな装飾の軽鎧を取り出した。
ちょっと厨2入っててハズい鎧だ。
だけど懐かしいな。13年ぶりか……
俺はまず軍勢の周囲に光球を打ち出し、奴らの上空に移動する。
そうして風魔法で全員に届くように声を拡大した。
「盗賊団に告ぐ。
すぐに武器を捨てて帰還せよ。
さもなくば全員殲滅する。
もちろんそこにいる自称皇帝陛下のデブアフォ~も含めてだ」
将軍らしきヤツが叫んだ。
「弓兵! あの無礼者を射殺せっ!
畏れ多くも皇帝陛下を愚弄した罪、万死に値するっ!」
あー、ひょろひょろの矢がぱらぱら飛んで来たよ。
こんなもん『身体強化Lv1』で十分だな……
俺は将軍閣下を指さしてテレキネシスで空中に持ち上げた。
そして手を振って風魔法で将軍の四肢を切り落とし、すぐに『治癒』の魔法で止血する。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」
「とっとと武器捨てて尻尾巻いて帰ぇれやぁ!」
俺は奴らを挑発するように高度を落とし、皇帝とやらの正面に降り立った。
「何をしておるっ!
早くコヤツを押し包んで殺せっ!
細切れにしてゴブリンのエサにしろっ!」
まあこれで2回警告したからな。
もう十分だろ。
「それでは神罰を与える……」
俺はまず、ホーミング機能付き風魔法と『治癒』の魔法を鎧を着た支配階級全員にロックオンする。
そしてそれら魔法を同時に発動して全員の手足を切り落とした。
「「「「「「「 ぐげぇぇぇぇぇぇぇぇ~っ! 」」」」」」」
まあ『痛覚遮断』までは使ってやってないからな。
それなりに痛いだろう。
次は将校たち約1000名を同じ目に合わせた。
辺りには悲鳴と共に飛び散った手足が散乱している。
「さて奴隷兵たちよ。
このままお前たちの国に帰ればよし、だがこれ以上あの街に近づくならば、お前たちも殲滅する。
また、そこにいる自称皇帝陛下の扱いはお前たちに任せよう。
そして、これからは他人を働かせてその実を搾取するのではなく、お前たち自身でお前たちを養うのだ」
そうして俺は上空に昇って行ったんだ。
もちろん『遠隔視力』で様子見ながらだけどな。
将校、将軍連中は、全員奴隷兵たちに撲殺されてたよ。
もちろん自称皇帝も。
腹ん中のもん全部ぶち撒きながら命乞いしてたけど、ムダだったみたいだわ。
せっかく命だけは助けてやってたのになー。
(勇者勇樹よ)
「あ、神さん」
(またもや本当にありがとう……
これで貴重な人命が救われた)
「いいってことよ。
俺、神さんの友神の地球の女神さんに無茶苦茶世話になってるんだ。
この程度はほんのお礼だわ」
(それでもありがとう。この恩も忘れん)
「まあ気にしないでくれ。
俺が毎日楽しくやれてるのは神さんや女神さんのおかげだからな。
それじゃあそろそろ失礼するわ。
あ、女神さんにも挨拶していきたいから、地球の神界に転移させてくれないか?」
(うむ)
「あ、めーちゃん、お久しぶり」
「わたしの愛しい人、今回も本当にありがとうございます」
「いえいえ。
それよりも俺、神保さんには本当にお世話になってまして。
俺だけじゃあなくって俺の仲間たちも。
だからお礼を申し上げたくて寄らせてもらいました。
いつもありがとうございます」
「うふふ、あなたさまも毎日本当に楽しそうでなによりです♪」
「ええ、実に楽しんでますよ♪
それにしても神保さんには助けて貰ってるだけじゃあなくって、たいへんな額のお金を使わせてしまってすみません。
あのホテル代だけでも莫大な費用がかかったことでしょうに」
「御心配には及びません。
今わたくしのこの神界では、あなたのおかげで天使や天使見習いの間で野球が大流行しているのですよ。
この前も野球道具セット一式1000人分をおねだりされてしまいました♪
もちろん神保に言って八王子製作所製の用具を購入しています」
「えっ……」
「あの筋トレマシンも大量に用意しましたし、天使たちも毎日筋トレに勤しんでいます」
(ムキムキ天使かよ……)
「先日、球場も造って『天使リーグ』も始まりました。
みんな本当に楽しそう……
すべてあなたさまのおかげです。
それに比べればあのホテル代などは些細なことですよ。
気にされる必要はまったくありません)
「そ、そうだったんですか……」
(めーちゃん、大金持ち?
っていうことは俺って「玉のこし」?
あ、あれはビンボーな女が金持ちの男と結婚することか……
じゃあ俺の場合は逆だから、「こしの玉」?
なんかそれ…… キンタマみたいでヤな感じ……)
「そうそう、天使たちのリーグ戦の勝者が決まったら、いつかあなたのチームと対戦したいと願っているようですね」
(羽生やして飛び回ってる天使が外野とか守ってるんか……
それじゃあ俺、絶対にホームランとか打てないじゃん……)
「それではまたお会いしましょう、ダーリン。
たまにはこの神界にも遊びに来てくださいね♪」
「は、はい……」
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