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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
41/157

*** 41 新変化球 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 その日の夜。

 俺たちはホテルのミーティングルームに集まって、とんでもなく美味いフレンチのコースを頂きながら試合のビデオ録画を見始めた。



 もー、俺と渋谷はテーブル叩きながら爆笑の連続よ。

 さすがは関西だ、野球解説のおっさんまで一人漫才やってるって……


 でもさ、お調子もんの新橋や五反田は爆笑してたんだけど、1年生とかの中には何人か顔を蒼くしてた奴らがいたんだ。

 きっと大人の本気のヘイトとか見たことが無かったんだろうな。

 まあ、いい経験になったろ。

 でも魔人や魔獣のヘイトは1億倍怖いぞ……


 それから、わくわくしながら1回裏の攻撃前の我が日比山高校と野球部の紹介映像を見たんだけどさ。

 ホテルの内装と料理の紹介ばっかしで、まるでホテルの紹介映像みたいなんだわー。

 ついでに新木場グラウンドで練習中にみんなが水呑んでる映像もしっかり長かったし……

 俺があんなに話してやってたのに、俺のコメントはほとんど全部カットされてやんの。

 最後に「がんばります」って言ったのだけ映ってたわー。



 でも放送中にその映像見たあの漫才解説者が激怒しちゃっててさ。

「こ、高校生のくせに……」とか、

「俺でもフランス料理なんか食べたことないのにっ!」とか、

 面白コメント連発してたんでウケまくったけどな。

 また俺と渋谷で爆笑よ。



 それでなぜか漫才おっさんがおとなしくなって、ふつーの試合録画になったあと、品川センパイがしみじみと言ったんだ。


「なあみんな。

 俺たちは確かに大黒柱の神田のおかげでここまで来た。

 そして、その神田は何があってもまったく動じない、信じられないほど肝の太い男だった。

 きっと、これこそがあの奇跡のピッチングとバッティングの元になっているものなんだろう。

 俺たちは幸せだよ。

 こんなすげぇキャプテンに率いて貰ってるんだもんな」


 みんな顔色を戻して微笑みながら頷いてくれてるわ。



「ところで神田。

 神田がプレッシャーを感じるときってどんなときなんだ?」


「ええーっ? プレッシャーですかぁ?」


(まさか10万の軍勢と殺し合いするときとは言えないよなー)


「そうですね、ものすごくプレッシャーを感じそうなことはひとつだけありますね」


「そ、それはどんなときなんだ?」


(はは、みんなが大注目してるぜ)


「渋谷があのタンクトップ着て近づいて来たとき……」


「あほ―――――――――っ!」


(こ、これも仕返しに「神田勇樹観察日記」に載せてやるっ!

 そうだ! 明日の朝後輩にカメラ持たせて……)



 どんなときでも趣味を忘れない渋谷涼子であった……




 翌朝……


 朝食の席に渋谷があのタンクトップ着て現れて、俺に近づいて来たんだ。

「うりうり」とか言いつつ左右に揺らしながら……


 だからヤメろって!

 1年生マネが写真撮ってるじゃねえかっ!

 他の女子マネがマネして体振ってるじゃないか!

 でも微動だにしないんで涙目になってるじゃないかっ!


 新橋もまた前屈みになってるし!



(ふっふっふ。やはりこれが弱点だったか……

 もちろんこれも「神田勇樹観察日記」に載せよう。

 しかも写真付きっ!)



 もはや「ヤラセ」まで始めた渋谷涼子であった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 朝食後の午前の練習のとき、上野が言ったんだ。


「すいませんセンパイ。

 昨日のあの激しく曲がるジャイロ、もう一度投げて頂けませんでしょうか。

 弾かずに捕れるように練習したいんです」


「いや上野、もう気にするな」


「ですが……」


「マジな話、あれは俺のコントロールミスだろうに。

 いや、つい力が入っちまったんだ」


「ということは、センパイはまだ力をセーブして投げてるっていうことですよね……

 すいません、僕が未熟なせいで……」


「いやそれも違うぞ。

 これ以上曲がるストライク球を投げようとすると、投げ出し方向が打者の体方向になっちまうんだ。

 もしくは曲がった先が打者の足に当たりそうになるとかな。

 俺はそんなビーンボールまがいの危ない球を投げたくないんだよ」


「………………」


(このひと、自分がとんでもないこと言ってるって、きっとわかってないんだろうなぁ……

 これまた後で『神田勇樹観察日記』に書いておこう♪)



 数年後、履歴書の趣味の欄に「神田勇樹観察」と書いてドン引きされた上野くんであった……




「ということだから、お前は気にする必要は全くないんだ。

 あ、それで思い出したんだが、ちょっと試してみたいことがあるんで肩暖めさせてくれ」


「はい!」




「よし、そろそろいいかな。

 上野、もちろんキャッチング姿勢はとってもらうが、お前は基本動かなくていいから。

 ただ、マスクやメットにボールが当たらないように、ミットを顔の前に上げてガードしておいてくれ」


「それでどんな球なんですか?」


「投げ出しは真ん中やや高めでな。

 それで軸が右を向いたジャイロを思いっきり投げてみたいんだ」


「でもそれって……

 ジャイロ回転でバックスピン効果がかかって揚力が発生しますよね。

 それと重力が相殺されてふつーの真っすぐな球になっちゃうんじゃないですか?」


「うん。たぶんそうなんだけど……

 それ思いっきりやったら浮き上がる球になるかもって思ったんだ」


「…………」


(またとんでもないこと言い出したよこのひと……

 それってまるでソフトボールで言うライズボールみたいじゃないか……)



「それじゃあ投げてみるけど、くれぐれも気を付けてくれな」


「はい……」



 よし、それじゃあやや右方向向けて思いっきりジャイロスピンかけて、投げ出しは真ん中高めで速い球で……


「いくぞー」


「はい……」


「うりゃっ!」


 そしたらさ、途中まで単なる高めの球だったのが、途中で急激に上昇を始めて上野の頭上を遥かに超えて、バックネットの10メートルぐらいの高さにぶつかっちまったんだわー。



「…………」


「…………」


「ヤバいですセンパイ……」


「あ、ああ…… ヤバいな……」


「あの…… これ、実戦で使いますか?」


「それ考える前にもうひとつ試してみよう。

 次は投げ出しをど真ん中からやや低めにして同じ球を放るわ」


「は、はい」


「それじゃあ行くぞ…… うりゃっ!」



 今度の球は、宣言通り出だし方向は真ん中やや低め。

 だけど……

 中間点を過ぎた球は、またもや急激に上昇を始めて上野の頭上1.5メートルを通過し、バックネットの高さ8メートル辺りに突き刺さったんだ。



「…………」


「…………」


「やっぱりヤバいですセンパイ……」


「あ、ああ…… やっぱりヤバいな……」



「あ、あの…… バッターに打席に立ってもらって感想を聞いてみませんか?」


「お、おう……」



 それで俺、新橋に頼んで打席に立ってもらったんだよ。


「っていうわけで、出だしはど真ん中やや低めの球を投げるから、打席に立ってみてくれないか?」


「それって変化球か?」


「あ、ああ、一応変化球だけど左右の変化は無いから……」


「打ってもいいのか?」


「いいぞ……」


「打てたときの賞品は?」


「賞品?」


(まあ当てるのは100パー無理だからな……)


「また渋谷のハグはどうだ?」


「乗ったっ!」



 それでまた全員に頼んでベンチに移動してもらって、新橋と対決することになったんだ。


「それじゃーいくぞー。おりゃーっ!」


(よし! 絶好球っ!)


 それで新橋は強振したんだけどさ。

 途中から浮き上がった球は、また上野の頭上1.5メートルを通ってバックネットに突き刺さったんだ。


 俺もそれなりに野球見て来たけど、バットとボールが1メートル以上離れてる空振りって、初めて見たわー。

 まあ、強振してるから、バット止めると手首イっちゃうからそのまま振ったんだろうけど。




「なあ上野…… この球って…… ヤバくね?」


「はい新橋センパイ…… たいそうヤバいです……」


「そうだよな、つい振りたくなる絶好球に見えるけど、いくら振ってもヒットになる確率は完全にゼロだもんな……」


「はい……」


「最初にこれ喰らったあと、次に1メートル落ちるフォークとか投げられたら、バッター泣いちゃうかもな……」


「はい、泣いちゃうかもです……」


「ふー、俺たち野球の歴史が変わるの見ちゃったか……」


「はい、見ちゃいました……」



 それでまあ、その後はレギュラー全員に1球ずつ投げるハメになっちまったんだけどさ。

 みんな大騒ぎしてくれたんだ。

 まあ、よっぽどのときには投げてみることにしようか……



 でも、なんでジャイロだとあんなに上に変化するんだ?

 ストレートはどんなに速い球投げてもほんの少ししか上に行かないぞ?


 あ、そうか、ストレートって球離れの瞬間は、人差し指と中指しかボールに触ってないからか…… 

 だから回転がそれほどはかかってないんだ。

 それに対してジャイロは球離れの瞬間まで親指も使って球掴んでるし、三本の指に目いっぱい力入れて回転かけてるから回転数が多いんだ……

 だからあんなにホップしていくんか……

 なるほどー!




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 2回戦が始まった。


 俺たちの試合は3日後の第4試合。

 相手は九州〇〇県代表、初出場の熊襲くまそ工業高校。


 またヘンな名前の学校だな……



 でもって試合当日俺は心底驚いたんだよ。


 なんだよこの熊襲くまそ工業の応援席……

 なんで全員頭に剃り込み入れて、マスクしてんだよ。

 それもみょーにとんがったくちばしみたいなマスク……

 みんな目つき最悪だし男は全員ボンタンだし。

 あの学ラン、カラーの高さが30センチぐらいあるし……


 あっ! あいつ特攻服着てるっ!

「夜露死苦」とか「仏恥義理」とかの幟もいっぱい立ってるっ!

 うっわー、あのねぇちゃん黒いサラシ巻いて白の特攻服着てるわー。

 目の上全部紫アイシャドーだし、口紅も黒だわー。


 あ、あの中央で踏ん反り返ってるおっさん、上半身裸に熊の毛皮はおってる!

 あっ、アタマの上に熊のアタマも乗っかってるっ!

 うっわー、1970年代の学園漫画の番長みたいだー。

 あ、今は1970年代だったか……


 それにしても、大人はみんな頭パンチだし、レンズがナナメ45度に傾いたグラサンしてるし……

 なんだよこの応援席っ!


 それになんかエモノもチラチラ見えてんぞ!

 釘バットだのバールだの……

 うわっ! あれ日本刀だろ! あれ青龍刀だっ!


 なんだよなんだよコイツらっ!



 お、相手選手が試合前の円陣を……

 いや違うな。全員で横に並んで拳握って俺たちにガン飛ばしてる……

 あ、みんな帽子脱いだ。

 ああっ! みんな一分刈りにでっかい剃り込み入れてるっ!

 イナズマカットのヤツまでいるっ!



「よかか!

 今日はあん東京もんどもをぼてくりこかっそぉーっ!!」


(何語だよ……)


「「「「「 うおおお~っ! 」」」」」


「おんどりゃ~っ!

 もっと気合入れんかぁ~いっ!!!」


「「「「「 うおおおおおおおお~っ! 」」」」」



(おんどりゃ~?


 あ、「おのれ(敵対的二人称)」が訛って「おんどれ」、その複数形で「おんどりゃ~」か……


 女の子たちが相手だったら「めんどりゃ~」って言うのかな?)










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