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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第1章 転生~中学生篇
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*** 4 理不尽との闘い ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 そうした野球に向けての準備以外にも、あまりにも理不尽なことがいくつかあったんで、ついやらかしちまったこともあったなぁ。


 あれは小学2年生の図画工作のときだったかな。

 担任の40代の行き遅れ女性教師が授業をしてたんだよ。

 因みに向上心は偏差値32でヒステリー性向は75な。



「さあ、今日はこの花瓶に生けたお花の絵を描きますよ。

 絵具を使って、見たままに描きなさい」


 そう言って、教師は赤いチューリップの入った花瓶を置いた。


 そしたらさ、しばらくしてその女性教師が、洋子ちゃんの絵を取り上げてみんなに見せたんだ。

 そう、花瓶に入った緑色・・のチューリップが描かれている絵だ。


「先生は『見たままに描きなさい』と言ったはずです!

 先生の言うとおりに出来ない子は、心の捻じれた子ですっ!」


 可哀そうに、洋子ちゃんはずっと泣いてたよ……

 そういえばこの子、ピアノが天才的に上手かったか……



 それで俺、図工の時間が終わるとすぐに職員室に行ったんだ。

 昼休みだったんで、先生方も大勢職員室で弁当を食べていた。


「先生、お話があります」


「なに」


「先生はさきほど洋子ちゃんが描いた緑色のチューリップをみんなに見せて、『先生は見たままに描きなさいと言ったはずです! 先生の言うとおりに出来ない子は、心の捻じれた子ですっ!』って洋子ちゃんを叱ってましたよね」


「当たり前でしょ! 先生の言ったことを無視したんだからっ!」


「先生、たぶん洋子ちゃんは先天性の『赤緑色覚異常』です」


「なによそれ!」


(こいつ、小学校教師のくせに、そんなことも知らないのか……)


「生まれつき赤色と緑色の区別がつきにくい障がいのことです」


「な、ななな、なによっ!

 それじゃあアタシが悪いっていうのっ!」


「はい、その通りです。後で洋子ちゃんに深く謝罪してください」


「な、なんですってっ!

 な、なんでアタシが謝らなきゃなんないのよっ!」


「そんな簡単なこともわかりませんか?

 アナタは、片手の無い子に両手で粘土を捏ねなさいと言って、出来ないのをみんなの前で叱責するのとおなじことをしたんですよ」


「だって、だってだって、視覚異常だなんて知らないわよっ!」


(あー、ヒステリー&言い逃れを始めたな)


「違います、視覚異常ではなく色覚異常です」


「な、なんなのよアンタはっ!」


「ただの洋子ちゃんのクラスメートです。

 それに、担任教師のくせに、洋子ちゃんの健康診断内容を見てなかったんですか?

 それとも見たけど知らない言葉なんで無視してたんですか?」


「わ、わたしは、学習指導要領の通りに言っただけよっ!

 2年生の図工の指導要領には、『花を見せて見た通りに描かせましょう』って書いてあるわっ!

 わたしは悪くないのよっ! 悪いのは学習指導要領だわっ!」


 お、先生がエキサイトするにつれて、周りに教師が集まって来てるぞ……


「それはあなたが教師になった時代の古い古い学習指導要領です。

 今の指導要領には、はっきりと『図画の授業では色覚異常の児童に留意すること』と書かれていますし、同時に花の写実画の項目は無くなって、代わりに『花や風景を見せて、心に感じたり思った通りに描きなさい』という項目があるはずです」


 そのとき教頭が本棚に走って行くのが見えた。

 はは、さすがの倫理心偏差値70だな。


「なんなのよなんなのよあなたはっ!」


「だから、先生が洋子ちゃんの心を傷つけたことに義憤を感じて告発しに来た単なる一児童ですよ……

 ところで先生は團伊〇磨という音楽家をご存知ですか?」


「誰よそれっ!」


「日本を代表する音楽家です。

 音楽の教科書には彼の創った歌も載っていますよ。

 そして、彼も赤緑色覚異常でした。

 まあ音楽の才能は超天才的でしたが。

 そして、彼自身がエッセイの中で書いているんですが、やはり図画の時間に赤い花の絵を描かされたそうなんです。

 そうしてその場で、『先生は見た通りに描きなさいと言ったのに、この子は緑色の花を描いています。先生の言う通りに出来ない子は心のひねくれた悪い子です!』と叱責されたそうです。


 さっきの状況とほとんど同じですね。

 そして團氏は続けてこうも書いたんです。

『その教師は小学校の教師のくせに、赤緑色覚異常のことを知らなかった。叱責に耐えかねた少年期のわたしは、それからは図画のある日は仮病を使って休むことを覚えた。つまり、私は美を習うべき時間に嘘を学んだのである』と……」


 はは、周囲の教師のうちの何人かが顔面蒼白になっとるわ。


「あ、アナタ、先生に逆らうのねっ!

 そんなことしたらどうなるか思い知らせてやるからっ!」


「いえ、逆らっているのではなく、あなたの不勉強さと理不尽さを糾弾しているだけですよ」


 ああ、こいつ、怒りの余りに絶句しとるわー。



 やはり蒼い顔をした教頭先生が近づいて来た。


「先生、この子の言ったことは本当ですよ。

 今年の図工の学習指導要領には、『特に色覚異常の児童には留意すること』と書いてありますし、写実画の授業はなるべく避けることともあります」


「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ!

 どうせ私の本は古いわよっ! わたしも古いわよぉ―――――――っ!」


 あー、ついにヒステリー発作起こしたか……


 その後担任の先生は休職になった。

 どうやら精神科に通いながら実家で療養中らしい。

 そして教頭先生は、洋子ちゃんとご両親に心から謝罪していたようだ……




 また、俺が3年生になったとき、担任が異動して来たばかりの30歳ぐらいの男性教師になった。

 こいつはとんでもなく命令好きで、その分生徒が少しでも従わないとすぐに激高する碌でもないやつだったんだ。

 自己中偏差値は80もあったしな。



 体育の授業では、全ての時間をかけて、気を付けだの前へ倣えだのと吠えまくっていた。

 そうして、可哀そうに貧血を起こして座り込んだ子を無理やり立たせては号令を繰り返したんだ。

 まるで軍事教練だわ。

 まあ、当時はこういう教師もけっこういたけどな。



 その横暴ぶりは最初の給食の時間でも発揮された。


「全部残さず食べなさい!」


 それで、玉ねぎが嫌いな子たちが標的になったんだよ。


「玉ねぎを食べない子は家に帰しませんっ!

 帰りたかったら全部食べなさいっ!」


 とうとうそいつ、子供の口を無理やりこじ開けて玉ねぎを押し込んだんだ。

 その子はげーげー言って吐き出してたよ。

 玉ねぎだけじゃあなくって、それ以外の給食も……



「せんせー、質問がありますー」


「なんだ!」


「ぼくたちは、なんで玉ねぎを食べなきゃなんないんでしょうかー」


「バカかお前は! 栄養があるからに決まっておるだろう!

 子供が育つには栄養が必要なんだ!」


(こいつ…… 怒鳴りながらじゃないと喋れないのか?)


「どんな栄養があるんですかー?」


「そ、それはだな、ブタミンとかいろいろだっ!」


「それってビタミンのことですかー?」


「なんだとっ!」


「実は玉ねぎにはビタミンやミネラルはあんまり含まれていないんですよー。

 まあ、カリウムは多少多いですけど、それでも同じ重さの大豆に比べれば、カリウムは3分の1以下なんですー」


「な、なんだとぉっ!」


「その代わり、ポリフェノールの一種であるケルセチンと、硫化アリルの一種である硫化プロピルは豊富ですー」


「ほ、ほら見ろ! 栄養があるじゃないかっ!」


「ケルセチンの効用は、その強い抗酸化作用で血管をしなやかにすることと、血液をさらさらにすることと、悪玉コレステロールを減らすことと、脂肪の吸収を抑えることなんですよー」


「そ、そそそ、そんな栄養があるから食べろと言っているんだっ!」


「でもー、血管しなやかとか血液サラサラとか悪玉コレステロールとか、それって大人の成人病を防ぐためのものですよねー。

 脂肪の吸収抑制に至っては僕たち子供の成長を妨げるものかもしれません」


「うっ……」


「それからもう一つの栄養成分である硫化プロピルなんですけどー。

 その効能は、血圧を下げて、動脈硬化の予防をして、中性脂肪を減らすことなんですー。

 でもこれってせんせーぐらいの年の大人に必要なことですよねー。

 ボクタチ小学生にはほとんど必要ない効能ばっかりですよねー」


「ぬぐぐぐぐ……」


「それから硫化プロピルのもう一つの効能は、ビタミンB1の吸収を促すことなんですー。

 そうすればイライラも抑制されるんですー。

 これって、今のせんせーにこそ必要な栄養素じゃないんですかー?」


「な、なんだとコノヤロウっ!」


「一般家庭の料理に玉ねぎが多用されるのは、ひとつには大人の成人病予防のためなんですよー。

 それによく炒めたら甘みが出ることで味に深みが出て料理が美味しくなるからなんですが、最大の理由は『たまねぎは栽培が比較的簡単なので、どこでも売ってて且つ安い』っていうことと、『保存が効く』っていうことなんですー。

 

 ただ、玉ねぎを切ったときには涙が出ますよねー。

 あれはこの硫化アリルのせいなんですー。

 でも玉ねぎを切った後に30分ほど水に晒すかよく炒めれば硫化アリルは分解されるんですー。

 でもこの給食の野菜炒め、ぜんぜん炒めてないんで硫化アリルがたくさん残ってて辛くてマズイんですー。

 そりゃそうですよね、目に入ったら涙が止まらなくなるような成分が口に入ったら辛くて耐えられないほどマズイのは当たり前でしょー。

 きっと給食のおばさんが手を抜いてるんですねー。


 ですから、あまり栄養も無いのに子供に玉ねぎを食べさせたかったら、怒鳴りつけて恫喝して無理やり食べさせる前に、もっと料理が美味しくなるように給食のおばさんたちを指導したらどうですかー?」


「お、お前は先生をバカにしてるのかぁっ!!」


「ようやくわかったかこのウスラバカ!

 玉ねぎ無理やり喰わせるんだったら、その前に玉ねぎの栄養成分ぐらい勉強しろや、このボケがっ!」


「な、なんだとこのガキぃ―――っ!!!」



 俺は『クイック』の魔法で短縮された時間の中で考えた。


 あー、とうとうこの阿呆、殴り掛かって来たわー。

 しかもグーだぜ。

 こいつ、典型的な命令好き権威好きだわ。

 それも自分の思い通りにならないと、すぐに暴力を振るおうとするオプションつきの。

 さて、それじゃあ一本背負いで投げ飛ばすか……


 あ、でもこれチャンスかもしらん……

 よし、念のため身体強化Lv1をかけて、『痛覚遮断』と、さらに脳を『防御魔法』で保護しておこう……


 よし、拳が顔に当たったな。

 確かまだ乳歯が残ってたからそれ折って吐き出して……

 ついでに殴られた勢いで2メートルほど飛んで机に頭ぶつけるかー。

 造血細胞を活性化させながら、大量の血も流そう。

 あ、頭蓋骨も少し陥没させておこうかな……


「きゃぁぁぁぁ―――――っ!」


「すごい血が出てる―――っ!!」


「歯が、歯が折れてる―――――――っ!!!」


「か、かんだくんが死んじゃったぁ―――――っ!!!」


(死んでねぇよ……)



「お、おい! すぐに雑巾持って来いっ!

 そして、みんなで床の血を拭きとるんだっ!

 は、早くしろぉ―――っ!」


(俺を気遣う前に、証拠隠滅かよ……)


「あ、あたし、保健のせんせい呼んで来るっ!」


「ぼくは校長せんせい呼んで来るっ!」


「か、勝手に教室を出るなぁぁ――――っ!!」


(そんな隠滅工作するヒマがあったら、早く救急車呼べよ……

 それじゃあ、そろそろダメ押しいくか……)


「げほっ……」


「ああああっ! か、神田くんの口から血がいっぱい出て来たぁっ!」


「えーんえーん、神田くんが死んじゃったよぉっ!」


「し、静かにしろぉ―――っ!!」


(隣の教室の教師が気づくのを恐れたか……

 しっかしこいつ、サイテ―な男だな……)


「「「「「 えーんえんえん! えーんえんえん! 」」」」」


「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!!」


(とうとう逃亡したか……)



 俺は薄目を開けた。


「なぁみんな、保健の先生を呼びに行ってくれるか?」


「あっ、神田くんが生き返ったっ!」


(だから死んでねぇよ……)


「あ、あたし保健のせんせい呼んで来るっ!」


「ぼ、ボクは隣のクラスの○○せんせい呼んで来るっ!」


(はは、小学3年生の方があのクソバカ教師よりよっぽど危機対処能力あるじゃねぇか……)



 間もなく俺は救急車で病院に運ばれた。

 頭部裂傷と頭蓋骨陥没骨折で緊急手術が必要とのことで、病院側は俺の両親を必死で探したが、どうやら親父はまた仕事さぼってパチンコ、お袋はデパートにお出かけらしく、連絡はつかなかったようだ。

(当時はもちろん携帯なんか無いからな)


 代わりに神保さんが駆け付けてくれたよ。



(勇者さま、あまり無茶をなさらないでくださいまし……)


(ご心配かけてすみません。

 でもあのクソバカ横暴教師を退治する絶好の機会だったもんで……)


(まあ、勇者さまを殴ってダメージを与えられるのは、あの侵略者どもの中でも上級将軍レベルでございましょうから、心配はしていなかったのですが……

 まさかご自身で頭蓋骨を陥没骨折されるとは……)


(へへ、我ながらいい演技でしたよ……)



 白衣の医者が聞いて来た。


「きみの名前を教えてくれるかな?」


「神田勇樹です」


「それじゃあ神田勇樹くん、先生の指は何本立ってるかな?」


「2本です」


「それじゃあ君の右手の指を1本立ててくれるかな」


「はい」


「うむ、脳の機能は今のところ正常だね。

 ところで勇樹くんは、なぜこんな大けがをしたのかな?」


「せんせいに殴られて吹き飛ばされ、机の角に頭をぶつけたからです」


「ふむ、教室にいた児童たちの証言と完全に一致してますな」


 よく見れば病室の隅に警察官がいた。

 救急隊員からの通報で捜査に来てたのかな。


「それで勇樹君はけがをした後のことはなにか覚えているかな?」


「はい、せんせいが、みんなにぞうきんを持って来て床の血を拭いて綺麗にしろと大声で怒鳴っていました」


 警察官の顔が険しくなった。


「君は傷口を押さえてもらったりはしたかな?」


「いえ、なにもされていません」


「他に何か覚えていることはあるかい?」


「保健室に先生を呼びに行こうとした子を、先生がまた怒鳴って止めていました。

 それからみんなが泣きだすと、せんせいは泣くなって大きな声を出したあとどっかに行っちゃったんです。

 そうしたら、みんながほかのせんせいを呼びに行ってくれました」


 はは、警察官が鬼の形相になってるわ……



 部屋を出て行った警察官の声が聞こえて来た。

 どうやら無線で本署と話をしているらしい。

 よし、『聴力拡大』。


「はい、そうです。加害者は○○小学校の教諭○○です。

 被害児童の担任です。

 教室にいた児童の証言では、叫びながら教室を出て行ってしまったそうです。

 いえ、救急車出動要請は、小学校の保健室教諭から為されています。

 容疑者の教諭からの119番通報はありません。

 また、被害児童の証言では証拠隠滅工作もしていますし、他の児童が助けを呼びに行こうとしたのも妨害しているとのことです。

 はい。至急容疑者の確保をお願い致します」



 ということで、あのアホバカ教師は自宅で震えているところを逮捕されたんだ。

 容疑は傷害と保護責任遺棄な。


 その後何人かの警察官が来て、俺に同じことを聞いていたよ。

 そういえば神保さん情報なんだけど、あの教師は他の小学校でも同じような傷害事件を起こしていたそうだ。

 まあ、実家が裕福だったんで、そのたびに示談で済ませていたらしいが……










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