表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
37/157

*** 37 ど厚かましいマスコミも撃退 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 夕食後、テーブルが片付けられた食堂には、顔を真っ赤にした取材陣が大挙してズカズカとやって来た。

 朝〇新聞以外にも結構な数のマスコミもいるようだ。

 あ、MHKも来てる……

 記者代表は、あのナマイキで怒りっぽい朝〇新聞のスーツのおっさんか……



「それでは15分と短いですが、共同記者会見を始めさせて頂きたいと思います。

 質問の際には、恐縮ですがご所属とお名前を頂戴出来ますでしょうか。

 それでは最初の方どうぞ」


「朝〇新聞の国立だ!

 まず最初に何故我々取材陣をグラウンドから締め出したっ!」


(おー、のっけから喧嘩腰! いーねー、面白くなって来たよ♪)


「それは単純な理由です。

 あなた方にボールを当てたりしてケガをさせたくなかったからです」


「詭弁を弄すな!

 ガキには分らんだろうが、詭弁という言葉の意味はだな!」


「そんな簡単な言葉ぐらいわかりますよ」


「なっ!」


 俺はにっこりと微笑んだ。


「英語で言えばSOPHISTRYですね。

 ドイツ語だとSOPHISTIKですか」


「そ、そそそ、そうだ!」


「ところで今のご質問は、『詭弁という言葉の意味を知っているか?』というものだったんですか?」


「やかましいっ!

 だいたい取材中ならば練習を中断すればいいだろう!

 それなら我々がケガをすることなど有り得んっ!」


「そうですかー、それじゃあ取材って一種の妨害行為なんですね♪

 それは知らなかったわー。

 だったらグラウンド入り口に鍵をかけてあなたを締め出したことで妨害を防げたんですね♪

 ヨカッタヨカッタ♪」


「なっ! ななななな……」


「それからもう一つの理由ですが、我々はまだ高校生です。

 中には1年生もいます。

 ですから、あなたのような威圧的、恫喝的な言動を弄する方の質問を受けたときの、部員たちのメンタルが心配でした。

 よってこうしてわたくしだけがご質問に答えています」


「なっ! ななななななななななななっ!」


 後ろの方からクスクス笑い声が聞こえて来た。


 なななななのおっさんは顔面を膨らませながらデコの血管を盛り上げている。



「次のご質問はございますか?」


「だいたいなんだその髪型はっ!

 高校球児として恥ずかしくないのかっ!」


「はて? ご存知無いのは当然でしょうが、わたくしはモントリオールオリンピックのマラソンに出場した時もこの髪型でした。

 ですが、JOCの方にもIOCの方にも海外の選手たちにも恥ずかしくないのかとは言われませんでしたが……」


「他のスポーツはどうでもいいっ!

 高校球児として恥ずかしいと言っているのだっ!」


「そうでしたか……

 ということは、全世界でも日本の高校野球界と朝〇新聞さんだけが恥ずかしがっている可能性もあるっていうことですよね?

 なんでですか?」


 クスクス笑いが大きくなった。


「それにですね、この髪型、アメリカと欧州のトップアスリートさんたちには大絶賛されたんです。

『精悍に見える!』『なんて爽やかなんだっ!』って。

 ですから今欧米のアスリートたちの間でも流行り始めてるそうなんです。

 なんで『精悍』で『爽やかな』髪型が恥ずかしいんでしょうか?」


「ぬがががががががが……」


「ところで、もしよろしければ教えて頂きたいのですが、『高校球児らしい髪型』とはどのような髪型なのでしょうか?」


「そんなことも知らんのかっ!

 もちろん坊主頭に決まっておろうがっ!」


「あの……

『坊主頭』とは本来得度して僧侶になる時に頭髪を剃り上げることですよね。

 それでは高校生にスキンヘッドになれということなんですか?」


「!!!!」


「それって、僧侶でない我々一般人がやったら、まるで世紀末ヒャッハーの極悪人たちみたいなヒトになっちゃいますよね。

 そんな不良みたいなアタマにするのイヤだなぁ……」


「こ、この馬鹿者がぁっ! 

 坊主頭というのは5分刈りや1分刈りのことだぁっ!」


「そんな日本語の定義はありませんよ?」


「な、なにっ……」


「それとも戦う者は1分刈りにしろっていうことですか?」


「そ、そそそ、そうだっ!」


「それもおかしな話ですよね。

 古代日本でも1000年以上の間、武士は1分刈りにはしていませんでしたよ?」


「!!!!!」


 はは、他の記者たちから『なるほど』とか『そういえばそうだな』とかいう声が聞こえて来てるわ。

 おかげでこの朝〇のおっさんのデコの血管がますます膨らんで来とるぞー。


「それってまさか第2次大戦中に軍人がみんな1分刈りにしてたからですか?

 あれは調髪の回数を減らすためだったんですよ?

 それともあなたや大日本アマチュア野球連合の方々って、みなさん軍国主義者だったんですか?

 あの戦争時代は良かったなぁ、っていうノスタルジーなんでしょうか?」


「!!!!!!!!」


「私たちは平和主義者ですから、昭和軍国主義の象徴である特殊な髪型はお断りします。

 平和じゃなかったら野球なんか出来ませんしね。

 それに他人の髪型を強制するということは平和憲法に記された『基本的人権』の侵害になりますよ?

 新聞社がそんなことしていいんですか?」


「ぬがあぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!」



「次の方ご質問をどうぞ」


「読〇新聞の鈴木です。

 キミたちは、練習中に水を飲んでいたようですが、そんなことをしていいんですか?」


「なんでいくないんですか?」


「そ、それは水を飲むとバテるからで……

 それから水を我慢することで根性を鍛えるとか……」


「ええ、確かに水を飲むとバテます。

 ですがそれは、水分だけを補給すると、汗で失った塩化ナトリウムの体内濃度が低下してしまうからです。

 場合によっては失神するか最悪死にます。

 ですが、水分不足でも熱中症になってしまいます」


「熱中症?」


「そういえばあの症状は、日本のマスコミではまだ『日射病』という名で呼ばれていましたね。

 でも医学の正式用語では『熱中症』です」


「そ、そうなんですか……」


「そして熱中症を防ぐためには、こまめな水分補給と塩化ナトリウムの補給が欠かせません」


「でっ、でも日射病は帽子を被っていれば防げるんじゃないんですか?」


「その迷信のせいで、毎年多くのひとが熱中症で死亡しています。

 つまり熱中症による死亡事故の多発は、マスコミさんの責任でもあるっていうことですね」


「えっ……」


「熱中症、まあ日射病でもいいですけど、日射病は体内の水分と塩分の欠乏と体温上昇が原因です。

 頭皮への日射量とは関係ありません。

 まあ炎天下の運動では体温上昇は仕方がありませんが、水分と塩分の補給は出来ます。

 ですから我々は、こまめに水を飲み、同時に必ず塩の錠剤も摂取しています」


「でっ、でもそれでは根性が……」


「気温が高い中で、水分と塩分が不足した状態のまま激しい運動が続くと、30分ほどで運動機能が低下してフラフラになって来ます。

 そんな状態でいくら練習を続けても、無意味な根性は多少補われても上達はしません。

 つまり練習の効果もありません。


 因みに気温30度以上であれば、水分と塩分を補給しながらの1時間の練習は、何も補給しなかった場合の練習8時間に匹敵します。

 さらに熱中症による気絶や死の危険を防げるのでいいことづくめです」


「そ、そんなことは聞いたことが無いんですけど……」


「それは現在の野球関係者の無知と勉強不足という怠慢によるものですね。

 マスコミさんも含めて」


「き、君はどこで勉強したっていうんですか!」


「3年前の7月の西ドイツスポーツ医学会の論文誌に載っていますから、お読みになっては如何でしょうか。

 今では欧米では常識になっている理論だそうですから。

 因みにもちろんドイツ語で、200ページほどあります」


「キミはそれを読んだんですか!」


「はい、もちろん。

 オリンピックのときに仲良くなった西ドイツの医学生が紹介してくれましたので、中学生の時に読みました」


「……げっ……」



「報〇新聞の阿佐ヶ谷です。

 ブルペンでの投球練習をシートで囲って隠していたのは何か秘密兵器の練習だったからですか?」


「はは、お上手な誘導尋問ですね。

 単に集中して練習したかったからですよ。

 皆さんが騒いでくださったおかげで、ヤジの中で投げる練習にもなりました。感謝しています」


「…………」



「毎〇の西荻窪です。

 甲子園に向けての意気込みを聞かせて下さい」


「すみません、特に考えていません」



 朝〇新聞のおっさんが突然立ち上がった。


「舐めるな若造っ!

 神聖な取材活動を何と心得るっ!」


「ああ、これ取材だったんですね。

 わたしは『恫喝』だと思っていました。

 主にあなたのせいで……」



 そのとき部屋の隅に座っていた渋谷涼子が立ち上がった。

 笑顔のまま手に持った鐘をトンカチで叩く。


 かぁ~ん……


「あ、ちょうど時間になったようですね♪

 それではみなさん、取材と恫喝お疲れサマでしたー」


 そうして俺は、喚き散らすおっさんを尻目に、渋谷と談笑しながら食堂を出て行ったんだ……


「それにしても酷い取材だったなー。

 あれって『取材させて下さいじゃあなくって、取材してやるからありがたく思え!』だよなー」


「そーねー、あれは無いわー」


 とか大きな声で言いながら。


 帰りにがけに怒鳴り散らしながら正門を蹴った朝〇のおっさんは、足首を骨折して救急車で運ばれたそうだ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 夜の勉強を終えて寝ようとしていた俺の頭に神保さんの声が響いた。


(勇者さま、お疲れのところ誠に申し訳ございません。

 2つほどご報告事項がございまして、今お邪魔してもよろしいでしょうか……)


「神保さん、いつもお世話になっています。

 どうぞよろしくお願い致します」


 その場に神保さんが現れた。

 あー、表情はいつもの微笑みなんだけど……

 な、なんか額に太っとい青筋が……



「それでは早速ご報告申し上げます……

 まずは、今日勇者さまのお手を煩わせた自称大政治家の都議会議員なのですが。

 先ほど過去5年間の収賄記録の詳細を警視庁幹部20人に送り付けておきました」


「おほっ!」


「それに加えて、女性スキャンダルと警視庁にねじ込んでもみ消させた軽犯罪記録の全て、そして公費の流用記録をマスコミ10社の編集長と政治部部長、並びに社会部部長に送ってもいます。

 あと都議会で対立する派閥のトップにも」


「げげげげげ……」


「たぶん次の都議選の頃には留置場かと……」


「げーげげげげげげげ……」


「それからあの無礼な朝〇の記者でございますが……

 先ほど正門を蹴りつけた際に、足首を粉砕骨折させておきました。

 全治6か月の重傷でございます」


「うーげげげげげげげげげ……」


「以上、ご報告までに……」



 ち、地球の天使怖ぇ~っ!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日は、一旦自宅に帰ってから東京駅の新幹線ホームに集合だ。

 ってゆーか、神保さんが手配してくれた指定席券を渡して、新幹線内集合にしてある。

 夏休み中なのによく指定席券取れたなって思ったけど、どうやら2か月前から手配していたそうだ。

 まだ予選すら始まってなかったころから……



 また、俺の提案で移動中は全員私服だ。

 野球用具や着替え、参考書や問題集なんかは、神保さんたちが昨日までにトラックで運んでくれていることになっている。

 なんと筋トレ用のあの鉄籠バーベルもだ。

(実際には『転移魔法』でだけど)


 つまり、俺たちの手荷物はジュースとおやつだけだ。

 まあ、誰がどう見たって高校生の夏休み旅行だよな。


 それにしても渋谷涼子よ。

 なんだそのピッチピチのタンクトップは……

 部員たちの目が泳いでるぞ。

 新橋なんか前屈みになってるし……


 それ、1年生女子マネたちに対する示威行動か?

 3人分全部足してもアタシの片っぽ分しか無いって言いたいのか?

 あ゛―、だから切符を谷間に挟むなっつーの!

 大事な女子マネの後輩たちが、涙目になっちゃってるじゃねぇかっ!



 そうそう。

 今日の昼前に俺たちが新幹線で甲子園に向かうっていう情報がマスコミに漏れてたらしいんで、東京駅にはカメラ持ったおっさんたちが大勢いたんだけどさ。

 誰も俺たち日比山部員を見つけらんなくて右往左往してたそうだ。

 はは、またマスコミのヘイト買っちまったか……



 また、神保さんは俺たちの宿舎も用意してくれていた。

 それも相当に高級なホテルで、ミーティングルームまで予約されている。

 もちろん先生たちの部屋もあった。


 さすがに宿泊費を全部出して貰うのはマズいんだって言ったらさ。

「それでは1泊3食付きでおひとり様500円をご負担下さいませ。残りはこっそり私共でお支払いしておきます」って言われちまったよ。


 ついでに神保さんは、ホテルの隣にある室内練習場付きの野球場も予約してくれていた。

 しかも決勝戦当日までだ。

 ホテルも野球場も半年前に予約してたらしいんだ……



 ああ…… 天使たちの俺への愛が痛い……










毎日↓ランキングタグをクリックしてくださっている方。さらにブクマ下さる方。

あまつさえポイントすら下さる方。

誠にありがとうございます。とても励みになりますです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ