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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
36/157

*** 36 群がるクズども撃退2 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 部屋に入るとぶくぶくに太ったおっさんがふん反り返って座っていた。


「やぁ~、キミがキャプテンなのかぁ~。

 名前はなんというんだ?」


(なんだよこのおっさん、俺の顔も名前も知らずに応援団長やる気かよ……)


「神田ですが……」


「いや甲子園出場アッパレだ!

 このワシも都立高校の予算を決める都議会議員のひとりとして鼻が高いわ!

 わっはっはっは」


「はぁ……」

(コイツ、いきなり脅迫して来やがったよ……)


「それでな、今回の都立高校の快挙に鑑みて、このワシ自ら応援団長をやってやろうと、こうして忙しい中を来てやったのだよ」


(本題に入る前に、せめて「甲子園出場おめでとう」ぐらい言えよ……)


「ところがだな。

 こちらにいる校長風情が、ワシのような重鎮応援団長を断るというのだ。

 そこでキミからこの世間知らずの校長を説得して貰いたいと思ってな。

 なぁに、もしワシのような大物政治家を味方につければ、キミやチームの連中の就職はもちろん、キミの親御さんの仕事にもメリットがあるかもしれんぞ」


(校長風情だとよ。政治屋風情が……)


「三期12年も議員をしておるワシが一声かければ、応援団員も300人は集まるだろう。

 どうだ、素晴らしい話だろう!」


「いや真摯かつ無私なご提案誠にありがとうございます。

 感服致しました」


「はっはっは。

 キミは野球だけでなく礼儀も心得た青年だの。

 ところでキミのポジションはどこなのだね?」


(俺がピッチャーだっていうことも知らんのか……)


「はあ、ピッチャーですが……」


「それはそれは!

 それじゃあモテてモテてしょうがないだろう!

 ワシにも何人か可愛らしい女子高生を紹介してくれんか?」


(…………)


「ところで応援団長を引き受けて下さるとのことですが、それは日比山高校の全ての運動部の応援をして下さるということなのですよね。

 いや、そうすると、春休みと夏休みにはほぼ全ての日に公式戦がありますから相当にたいへんなことでしょう。

 重要なお仕事のある中、本当にありがとうございます!」


「い、いやキミ、『野球部特別応援団』に決まっておるだろうに!」


「それではもし甲子園で勝ち進めれば、全部で5~6試合も応援して下さるんですか。

 それから秋の大会も、ひょっとしたら春の選抜大会も全部。

 さらに週2~3回の応援練習も」


「い、いやワシも忙しいからな。

 政治家というのは高校生には想像もつかないほどの激務なのだよ。

 だから、甲子園の最初の試合だけは応援に行ってやろうじゃないか。

 つまり『名誉応援団長』だ。

 それ以外の試合の応援は、ワシが責任をもって副応援団長を任命してやろう」


(こいつ、俺たちが甲子園で1回戦負けすると確信してるわ……)


「ということはですね。

 アナタがやりたいことは、日比山高校人気に便乗した票集めなんですね」


「なっ!」


「年末の選挙に向けて、選挙活動の際の自己アピールで『あの都立日比山高校野球部の名誉応援団長』と言うための」


「なななななっ!」


「ふぅ~っ、勉強になりましたよ。

 こういうのを便乗戦略とかコバンザメとか言うんですね♪」


「な、なんだとこのガキやぁっ!」


「それにしても、そこまでセコいことして票が欲しいんですか?

 そんなに落選しそうなんですか?」


「こ、こここ、このこのこの……」


「それではお帰りください。

 我々は選挙活動ボランティアじゃあないんです」


「こっ、後悔するなよぉっ!!!」


「はは、政治家ってまるで893みたいなんですね♪

 これもいい社会勉強になりましたよ♪」


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ……」



 ドアも吹き飛ぶんじゃあないかという勢いで政治家センセイが出て行くと、御茶ノ水先生がしみじみと言ったんだ。


「神田くんのマウンド度胸は素人の私から見ても凄まじいものだったけど、普段の度胸もスゴかったんだねぇ……」


 はは、先生も魔人を10万人ほど殺せばこれぐらいの度胸はつきますよ……




 自称大物政治家をカルくあしらった俺は、女子マネたちが食後のデザートに果物を用意してくれてる食堂に帰って来た。


 そしたら、渋谷涼子が小さなナイフで、梨をチマチマしょりしょりと剥いてるんだよ。


「よし出来た!

 うーん、我ながら上手だわぁ!」


「なんだそれ?」


 その梨……

 皮がほんの一部しか剥かれてないんだけどさ。

 それがどうやら文字になってるみたいなんだ。

『根性』っていう……


「うん、根性ナシ。

 後で荻窪センパイに送ってあげようと思って♪」



 ……オマエの方が俺よりよっぽど度胸あるよ。

 今まで何人コロして来たんだ?




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 午後の練習は守備練習だ。

 部員たちが交代でノックを行い、その合間に水を飲んでは塩錠剤を齧っている。

 俺と上野は新しいグラブとミットを試すために、1塁側ネットの先にあるブルペンに向かおうとした。


 そのブルペンを囲むフェンスには、1年生たちが工事現場によくあるブルーシートを大量に張っていてくれてもいた。

 もちろん、俺の左投げ練習をギャラリーから隠すための措置だ。



 そのときグラウンドの正門付近から大きな声が聞こえて来たんだよ。

 もう元部員やら政治家やらが入って来られないように、校長先生に頼んで正門を閉めて貰ってたんだけど。

 その門の後ろにカメラやらなんやら機材を持った連中が大勢いて、おろおろする校長先生に罵声を浴びせてるんだ。



 俺は苦笑しながら正門に歩いて行った。


「校長先生、これは何の騒ぎですか?」


「あ、ああ、神田くん……

 新聞社のみなさんが、取材をするから門を開けろって言うんだよぉ。

 取材は練習が終わってからって言っても聞いてくれないんだ……」


 俺は取材陣らしき連中に向き直った。


「ここは都立日比山高校が使用しているグラウンドです。

 部外者は立ち入り禁止ということでお願いいたします」


 1人だけスーツを着たおっさんが喚いた。


「だから何度言えばわかるんだっ!

 我々はあの朝〇新聞の記者団だぞ!

 早く門を開けて取材をさせろっ!」


「あー練習が始まる前だったら取材はお受けしたんですけどね。

 今は大事な大会前の練習中ですので、取材は練習が終わった後でお願いします」


「なんだと! 

 我々はその大会の主催者だと言ってるのが分からんのかっ!」


「はて? 主催者は法人としての新聞社ですよね?

 少なくともあなたじゃないのは確かでしょ?」


「へ、屁理屈を言うなっ!」


「それでは練習と夕食終了後に15分だけ合同記者会見の場を設けさせて頂きます。

 あ、合同記者会見ですから、他のマスコミの方々が来たら、ご一緒にお願いしますね♪」


「ま、待てこのガキぃっ!」


 俺は帽子を脱いで一礼すると、その場を後にしたんだ。


 はは、俺の髪型を見てカメラのフラッシュが一斉に焚かれてるよ……



 俺と上野がブルペンに向かうと、何人かの取材陣がフェンスの外側を走ってついて来る。

 でも……


「な、なんじゃこりゃ~っ!」


 はは、ブルーシートで中が見えないもんだから、みんな逆上しとるわー。


 俺と上野がキャッチボールを始めると、連中はますます激高し始めた。


「生徒たちの練習の妨げになるので、静粛にお願いいたしますっ!」


 お、御茶ノ水先生頑張ってるな。



 それでも5メートルほどのフェンスをよじ登ろうとしたヤツが、足を滑らせて転落した。

 ガシャンとか音もしたから、カメラもぶっ壊れたんじゃないか?


「フェンスを乗り越えたりシートを切ったりしたら、不法侵入と器物破損で通報させて頂きますっ!」


 おー、御茶ノ水先生も言うじゃん。

 俺の影響か?



 俺が本格的に投げ始めてキャッチングの音が大きくなると、フェンスの外の連中はますます喚き始めたけどな。

 まあ大観衆のヤジの中でのピッチング練習と思おう。


「ところでどうだ上野、新兵器の具合は」


「最高ですね。軽くて動きやすくて……

 もう一生手放せません。

 それでセンパイ、そろそろあのミットとガード使っていいですか?」


「おお、それじゃあ俺もアレ試してみるわ」


 はは、シートの裏が静かになったか。

 みんな耳がダ〇ボになってるんだろう。



 ルール上限の大きなミットはやはり効果的だった。

 俺の左腕から放たれるナックルがいくらキレキレでも、上野は半分は捕球し、あと半分も全て前にこぼしている。

 うーん、素晴らしい!


 まあ、ナックルにさほど球威は無いからな。

 上野の手首にも負担はかかっていないだろう。

 最後に何球か速いストレートを投げてみたけど、手首ガードが優秀らしくて全然問題無いらしい。


 次に俺は、プレートを両脚で踏んで、体の後ろでグラブを嵌め変え、左右投げをランダムに投げてみた。

 それから他の投げ方も。


 後はあの牽制球の練習だけかぁ。

 でも取材陣がいるときにやりたくないなぁ。

 仕方ない、誰もいないときにやるか……


 


 取材とやらのおっさんたちは、ブルーシートの向こうで新聞紙敷いてイラつきながらたむろしてたよ。

 タバコとかばんばん吸いながら。

 天使見習いたちがイタズラしてタバコの火を新聞紙に移したんで、ケツ下が炎上してパニくってたのには笑ったけど。

 いきなり『あちゃちゃちゃちゃちゃーっ!』とか叫び声が聞こえて来たんで、ヒマすぎて功夫カンフーでも始めたのかと思っちまったぜ。


 それで気が付いたのか、タバコの火でブルーシートに穴を開けようとしたヤツがいたんだ。

 でもまたも天使見習いたちにイタズラされて、直径50センチぐらいの範囲が一気に燃え上がったんだよ。

「ばおん!」とか音立てて……


 そいつ……

 髪の毛前半分と、眉毛と睫毛が全部燃え落ちちゃって、火星人みたいな顔になってたぞ……

 




 それにしてもさ、どうしてマスコミってああも上から目線なんだろうかね?

 なんであそこまで唯我独尊になれるんかな?

 普通だったら、事前に連絡して取材許可を貰うべきじゃないのか?


 ああそうか、誰か言ってたわ。

 マスコミって自分からネタを提供して来る奴って全く信用しないんだと。

 ほとんどがガセネタか記事になれば自分に有利になるような情報だから。

 でも取材を受けたがらない奴に対しては、とことん突っ込んで行って強引に取材するそうだ。

 そういうふうに教育されるらしいな。


 でも……

 それだと自分たちが取材相手に信用されないってわからないのかね?

 まあその辺りが思い上がりなんだろう。


 少なくとも社会人なんだから、最低限の礼儀は守ろうよな……










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