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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
34/157

*** 34 東東京大会決勝戦! ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 翌日の夏の全国高校野球大会、東東京予選決勝戦の相手はあの全日本体育大学付属高校だった。

 そう、超格下の俺たちの練習試合の相手になってくれて、俺たちが本気で甲子園を目指すきっかけになってくれた甲子園常連校だ。


 あのときの恩義は忘れてはいないけど、勝負は別だよな。

 もしも負けても、その分俺たちが甲子園で活躍するからカンベンしてくれ。



 お、スタンドにテレビカメラが入ってる。

 そうなんだよ。

 この時代って、例え地元テレビ局でも、決勝戦ぐらいにならないとテレビ中継ってしてくれなかったんだよな。

 30年後には3回戦ぐらいから放送してたけど。


 うーん、テレビカメラを見た部員たちがガチガチに緊張しとるわ。

 これはまあ仕方ないか。

 それにしても、なんでみんなテレビに映るっていうと緊張するんだ?


『俺が殺されたら1500万人の同胞たちが絶滅させられる』っていう戦いで、殺る気満々の魔人魔獣軍5個師団を目の前にしたときに緊張するならわかるけど……


 でも、これじゃあみんなをあんまり守備機会に晒すわけにはいかないな。

 しょうがないから先取点が入るまで、最初は全員三振狙いでいくか……

 まあこの試合が終わったら最悪でも4日は休めるだろうから、多少疲れてもいいことにしよう。



 試合開始前に相手監督が選手を集めた。


「いいか、昨日のミーティングでも言ったように、スコアラーの報告では日比山の投手はツーストライクの後は落ち幅の小さな球が多くなる。

 これはもちろんパスボールと振り逃げを警戒してのことだろう」


(やべえ、また聞こえちまってるよ。

『聴力強化』発動してないんだけど……

 ひょっとしたら、俺の素の聴力も上がって来てるんか?)


「よって最初の打席では2ストライクまではなるべく球を見て行け。

 まあスイングしても構わんが。

 あの投手は今大会四死球ゼロだ。

 つまり驚異的なコントロールを持っている。

 だから死球を恐れずバントの素振そぶりだけして見送るのもいいだろう。

 バントの前屈みの姿勢の方が、球筋がよく見えるだろうからな。

 だが2ストライクの後は真剣にボールの下を狙って打つように。

 あの投手はほとんどボール球を投げないから、打ちやすいだろう」


(うーん、2ストライクの後の球の落ち幅が小さく見えるのは、決め球にカットボールを多用してるからなんだけど……

 それじゃあ今日は打者一巡までは、決め球はリクエスト通りカットボールにして、どれぐらいバットに当たるか観察してみるか……)




 ついに決勝戦が始まった。

 1回表の全体大付属の攻撃。


 まずは主審のテストからか……

 1球目は真ん中高めに外れるストレート。

 2球目は、投げ出しは同じ軌道ながら、打者手前8メートルから落ち始め、ストライクゾーンを通過してからワンバンするフォーク。

 落差1.1メートルの俺の渾身のフォークだ。


「ストライーク!」


 おお、この主審も目がいいな。

 さすがは決勝戦だけあるわ。

 1回戦や2回戦の主審はヒドかったからなあ。

 たとえストライクゾーンど真ん中を通過してても、ワンバン球は全てボールって言ってたし。

 審判の世界でも実力差って大きいんだな。



 3球目は左右に曲がらずに落ちるジャイロ。

 まあ2ストライクになるまで打って来ないのはわかってるから、60%ぐらいのジャイロだ。

 それでも30センチ近くは落ちているだろう。

 打者はバントの構えをしたあとバットを引いたがストライク。

 うんうん、よく球を見てるね。


 4球目は予定通りカットボール。

 バッターは、ボールの下を叩くつもりがボールの遥か上を空振りして茫然としてるわ。


 これで1アウト。


 2番打者も3番打者も2ストライクまではフォークとジャイロを織り交ぜて対応。

 まあさすがに3番には横にも変化するジャイロを投げたけど。


 全体大付属の初回の攻撃は、三者三振に終わった。


 我が日比山高校の初回攻撃も、2三振とボテボテの内野ゴロで三者凡退。

 うーん、このピッチャー相変わらずいーいスライダー投げるねぇ。



 2回の表。

 お、全体大付属の4番のヤツ、3球目のカットボールにバットをかすらせやがった。

 でも相当にボールの上を叩いたんで、後ろに飛ぶファウルチップに終わったけど……

 ふーん、さすがは4番だわ。打率4割8分は伊達じゃないか。

 よし、次からは全力のジャイロやチェンジアップも投げてやろう!



 5番と6番もツーストライクまで見送った後は、空振り三振。


 ウチの攻撃もフォアボールでランナーを出したものの、後が続かずに終了。


 3回の表は相手の下位打線をなんなく連続三振で退ける。


 3回裏の日比山の攻撃。

 先頭バッターの上野の当たりは、かなりいい当たりだったが惜しくもセンターライナーに終わった。

 さて、俺の初打席か……

 1アウトランナー無しからあからさまな敬遠をするとは思えないんだけど。


 おお、やっぱりキャッチは座ったままだ!

 でもピッチャーの球はボール球。

 キャッチが頷いているところを見ると、敬遠気味の四球狙いかな?


 あ、そうか。

 こいつら準決勝にスコアラー送り込んで来てたみたいだけど、俺がホームラン打った球をストライクだと思ってたんだな。

 だからこの程度のボール球で大丈夫だと思ってるんだろう。


 ごっつあんですっ!

 美味しく食べさせて頂きます!


 グゥワキィ~ン!!


 ルールの上限いっぱい、106.5センチの俺のバットが火を噴いた。

 おー、よく飛んでってるわー。


 そうそう、準決勝で俺が壊したバックスクリーンの時計。

 あれ弁償しなくってもいいことになったんだ。

 おかげで渋谷涼子もツノ引っ込めてくれたんだけど……


 だから、今日も安心して打てるかな。



 俺の打球はライナーのままバックスクリーンに突き刺さった。

 推定飛距離135メートルの特大ホームランだ。

 俺はドヤ顔にならんよう気を付けながらベースを回ったよ……



 その後の俺の打席では、全打席キャッチが立ち上がった。

 まあ予想通りだけど。


 おかげで俺は試合終了まで丁寧に投げるハメになったんだわ。

 あのピッチャー相手に、ウチの打線では追加点を取るのは難しいからな。

 内野エラーのせいでランナーも出たけど、後続を無難に抑えて得点は許さず。

 上野は防具に当てて前に弾くことは何度もあったけど、パスボールはゼロ。

 おかげで俺も、全力に近い変化球を投げ続けることが出来たんだ……



 試合が終わった。


 終わってみれば1-0で我が日比山高校の勝利。

 俺の成績は予選13本目のホームランに加えて、投球成績は内野ゴロ3つ、24三振でノーヒットノーラン。

 そういえば、予選大会通算で被敬遠四球16っていう珍記録も出来たそうだ。


 試合終了後に自陣側応援席に挨拶に行ったんだけどさ。

 あの会長さんが号泣してたよ……



 それからいつもの通り入念なストレッチとアイシングをした後、俺たちはみんなで新木場グラウンドに併設された合宿用宿舎に帰ったんだ。


 その晩は、ささやかながらジュースで祝勝会だ。

 最近の俺たちの活躍で、1年生中心に女子マネ希望者も殺到してるそうで、後輩が出来た渋谷もニコニコだ。

 女子マネたちが作ってくれた簡単な料理も並んでいる。



 ひとしきり野球がらみの感想が出尽くすと、新橋が言い出した。


「おーい1年。なんか余興をしてみてくれー」


 それで1年がみんなもじもじしながら顔を見合わせてたんだけどさ。

 上野のヤツが元気よく手を上げたんだわ。


「はい! わたくしがやらせて頂きますっ!」


「おー、いいぞいいぞ!」


「殊勲選手の余興かー」


「楽しみだわー」



「それでは野球クイズです!

 答えを思いついたら手を挙げてください!

 そしてわたしのところに来て小声で答えを言ってください!

 最初に正解を言った方が優勝です!」


「優勝賞品はなんだー?」


「えっ……」


「なんだ賞品無しかよー」


「し、ししし、賞品は……

 し、渋谷マネージャーがハグしてくれますっ!」


「「「「「 おおおおおお~っ!!! 」」」」」



 はは、渋谷涼子がGカップなのは有名な話だからな。

 高校生ならかなり気合が入るんだろう。


「ちょっとぉー! 聞いてないわよーっ!」


「渋谷さん、お願いしますっ!」


「仕方ないわねー、優勝者ひとりだけだよー」


「「「「「 うおおおおおおおお~っ!!! 」」」」」


(まあヘッドロックかチョークスリーパーならいいかな……)


 渋谷涼子は格闘技女子でもあった……




「それでは問題です。

 あるとき野菜さんチームと果物さんチームが野球の試合をしました。

 白熱した攻防が続いていましたが、とうとう9回に入ります。

 そして9回の裏、1-0で野菜さんチームのリードの中、果物さんチーム最後の攻撃。

 2アウトランナーなしでバナナさんが打席に入りました。

 そして見事なホームランを打ったバナナさん。

 大喜びでベースを回りました。


 ですが…… そこで突然試合が終わってしまったのです!

 何故試合が終了してしまったのでしょうか?

 答えは早い者勝ちです!」


 有楽町が上野のところに走って行った。


「日没コールド?」


「いえ違います」


 新橋も小声で言った。


「審判がケガをして替えの審判がいなかった?」


「いいえ違います」



 そのあともみんなで必死に考えたんだけどさ。

 誰もわかんなかったんだわ。



「それではみなさん降参でよろしいですか?」


「早く答えを言えって!」


「つまんねぇ答えだったら許さねぇからな!」


(あ、両腕をかぽんかぽんしていた渋谷が、ちょっと残念そうにしてる……)



「それではお答えです!

 9回の裏、2アウトランナー梨で、打席のバナナさんがホームランを打ったからです!

 サヨナラツーランホームランで2対1となり、果物さんチームが勝ったから試合が終わりました!」


「マジかよ!」


「ランナー無しじゃあなくって梨かよ!」


「あはははは!」


「因みにこのクイズを東北地方でやるときには、野菜さんチームと果物さんチームを逆にして、『ツーアウトランナーなす』になります!」


「「「「「 わはははははーっ! 」」」」」



 こうして俺たちは、甲子園出場決定の緊張感をほぐしてから、その日を終えたんだ……




 翌日の日曜日。

 おー朝っぱらからけっこうギャラリーがいるわ。

 それも8割が女子高生か……

 やっぱり甲子園に出るとなるとけっこうモテるんだな。


 でも俺は人生経験70年のじじいだからなぁ。

 女子高生は孫みたいでちょっと……

 やっぱりめーちゃんぐらいの妙齢のご婦人じゃないと……


 あ、校長先生も教頭先生も御茶ノ水先生も来てるのか。

 なんかみんなにこにこしとるわー。

 まあ、世話になった人たちが喜んでくれてよかったよ。



 さて、いつも通りの入念なストレッチから始めるか。


 それで俺もマジメにストレッチしてたんだけどさ。

 目の隅に高校生が一人、御茶ノ水先生に話しかけてるのが見えたんだ。

 あれ元野球部でキャッチャーの荻窪センパイだよな……



 センパイはためらいがちに俺のところにやって来た。


「や、やあ神田。甲子園出場決定おめでとう……」


「ありがとっス」


「…………」


「…………」


「そ、それでな。俺、野球部に復帰しようと思って……」


(この馬鹿、今になってノコノコ来たのかよ。

 荻窪先輩に含むところは無かったけど、今のこの態度だけは許せんな……

 俺たちみんなで努力して得た成果を、美味しいところだけパクるつもりか……)


「それ、復帰すれば即レギュラーで甲子園に行けると思ったからですか?」


「い、いやだって、このチーム、キャッチャーが1年の上野しかいないじゃないか!」


「だったらなんで夏の大会が始まる前に来なかったんですか?」


「い、いや上野がパスボールばっかりしてるんで心配になって……

 それで……」


「上野はここ5試合後ろに逸らすパスボールはありませんけど」


「だ、だって前や横に弾いてばっかりじゃないか!」


「それもここ3試合はほとんどありませんが」


「そ、それでもさ。

 捕手が一人しかいないんじゃ、上野がケガしたらタイヘンだろ。

 だから控えのキャッチャーでいいから……」


「そうですか、それじゃあベンチ入り選抜試験を受けてください」


「な、なんだと!」


「俺が本気の変化球を10球投げます。

 それをセンパイが受けてパスボール5個以内だったら合格です」


「お、おお…… 5回受けられればいいんだな……」


「もちろん不合格の場合はスタンドで1年生と一緒に応援してください」


「わ、わかった……」



 ということで俺は選抜試験をすることになったんだ。

 なんか無意味な作業だけどなぁ。










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