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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
32/157

*** 32 東東京地区予選準決勝1 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 夏の全国高校野球大会、東東京地区予選準決勝。


 試合会場となった球場のスタンドには、多くの観客が詰めかけていた。

 新聞等で母校の活躍を見た現役高校生やOB、OGが大挙して押し寄せてきたらしい。


「ふー、すげぇ観客だなぁ」


「お、俺、こんな大観衆の前で野球すんの初めてだ……」


「なーに言ってんだよ。

 全員初めてに決まってるだろうに」


「き、緊張して来た……」


「まあ程よい緊張は却って好プレイを生み出すこともあるからな。

 みんな緊張はほどほどにして、モチベーションに変えよう」


「そうよ! 

 この試合に勝てば、あの大観衆はきっとまた寄付金をたくさんくれるわ♪

 みんな、スタンドにいるのはお札だと思って頑張ってね♪」


「平常運転はマネージャーだけか……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 準決勝が始まった。

 1回の表、日比山高校の攻撃。

 1番バッター有楽町は、初球からバットを大きく振って空振りしている。



 そう、試合前のキャプテンとしての俺のいつもの指示。

 それは、

「余程のボール球でなければバットを振れ、それもフルスイングで」

「ストライクゾーンは、上下左右にボール1個分広いと思え」

「スイングアウトの三振は素晴らしい。だが見逃し三振は許さない」

 という内容だ。


 ついでに言ってやったんだけどな。


「お前たちは筋トレと食事トレを続けて来た。

 半年前に比べて前腕や上腕の周囲もそれぞれ3~4センチは太くなっているはずだ。

 だから、半年前にはボテボテのゴロや平凡な内野フライしか打てなかったのが、今では鋭いゴロや外野に飛ぶ打球になっている。

 だから振って振って振りまくってくれ!」



 先頭バッターが初球から強振してきたことにやや驚いたのか、相手ピッチャーは多少制球を乱したようだ。

 だが、多少高かろうが外角に外れていようが、バッターはガンガン振っていく。


 バッター有楽町は、ツーストライクから大きな当たりを打ったものの、惜しくもファウル。

 そして次のタイミングを外されたカーブを激しく空振りして三振。


「ナイススイング!」


「「「「「 ナイススイング! 」」」」」


 ピッチャーがちらりと俺たちを見た。


 俺たちの声が届いた2番打者新橋も、初球からフルスイングだ。

 まださほどには暑くなってもいないのに、額の汗を拭うピッチャー。

 よしよし。これでもっと制球を乱してくれるといいんだが……


 大きく外角に外れるボールが2つ続いて、カウントは2ボール1ストライク。


 そういえば、俺がボールを先に言うカウントの仕方をしたら、みんなから「分かりにくいからヤメてくれ!」って言われたっけか。

 キミタチも、あと20年したら俺の先進性が分かるぞ。



 第4球。

 内角高めのボール臭い球を強振。

 またも鋭い打球が放たれるが、惜しくもファウル。


 この打球に恐れを為したのか、5球目は高めに大きく外れてフォアボールになった。


 ベンチに座っていた御茶ノ水先生が立ち上がって最前列に行く。

 そうして頭だの肩だの胸だのをせわしなく触り始めた。

 それを見て頷くバッターボックスの3番バッター。


 はは、みんな頑張ってくれてるよ。

 実はこれ、全部ダミーなんだ。

 予選が始まった頃から、先生にお願いしていろんな試合を見てもらって、いかにもサインっぽい動作を覚えてもらったんだわ。

 先生が一生懸命練習しているのを見て、みんなもベンチを見て頷く仕草を練習してくれたし。

 まあ、笑いを堪えるのがタイヘンだったけど……



 俺たちにはサインは無いんだ。

 そんなもの練習するヒマがあったら守備の練習をしたかったし、そんなサインを覚えるぐらいだったら、英単語のひとつも覚えた方がよっぽど将来のためになるしな。


 これで如何にもな送りバントのサインだと思ってくれたかな?

 まあ高校野球の常識からすれば、1アウトだろうが打者が3番だろうが、ここはバントだろう。

 まだ初回だし。


 お、3番バッターの田町先輩、バントの構えをしやがった……

 相手バッテリーは、念のため初球は外角に大きく外す高いウエスト球を選んでランナーを牽制する。


 第2球。

 あはは、やっぱりバスターだったか。

 先輩はバントなんて器用なことは出来ない分、バスターの練習だけはけっこうやってたからな。

 実際にバントしたことは一度もないけど。

 みんなにはバント禁止って言ってあるし。

 理由は1アウトがもったいないし、バント練習の時間ももったいないから。

 バントなんかするぐらいだったら、筋トレで50M走早くして盗塁した方がよっぽどリスクが低いし。


 低めに来たボールにかろうじてバットを当てた田町先輩の打球は、対バント守備の内野の頭を超える緩い当たりとなり、これも前進守備のレフトの前に転がった。

 まあ、どう贔屓目に見てもラッキーポテンヒットだわ。

 これで1アウトランナー1、2塁か。



 この時代の高校野球の常識から言えば、打者が4番といえどもここも送りバントだろう。

 ところで、なんでそんなもんが常識になっているんだ?


 バッテリーは初球と2球目はウエストしてきた。

 おいおい、そんなことしてフォアボールは怖くないんか?



「バッター集中!」


 相手ベンチから監督の声がかかる。

 そのとき俺には2塁ランナーの新橋が1塁の田町先輩とアイコンタクトしたのが見えた。

 おお! こいつらヤル気だわ!


 監督の命令を受けてバッター勝負となった相手バッテリーは、牽制球も投げずに速い直球を投げ込んで来た。

 4番の品川先輩はフルスイングで空振り。


 その時、1塁ランナーと2塁ランナーがダブルスチールを敢行した。

 虚を突かれた相手だが、さすがにベスト4チームのキャッチャーは優秀だった。

 矢のような送球をサードに送る。

 タイミングはアウトっぽかったけど、同じく虚を突かれたサードがベースカバーに入るのが遅れて、ボールがレフト前に転がった。

 おお、すげぇ!

 レフトのヤツ、ダブルスチールを見てサード目掛けて全力疾走してたんか!

 実に献身的なベースカバーだよ。


 うーん、やっぱり守備のいいチームは最高だな!


 3塁ランナーも慌ててベースに戻った。


 ところでさ、4番品川先輩のさっきのフルスイング……

 あれどう見ても盗塁走者援護のためのスイングじゃないよな。

 完全にランナーを見てなかったフルスイングだわな。

 まあ、ウチはそれでいいんだけどさ。

 ランナー見てるヒマあったらボールを見ろっていつも言ってるし。



 相手チームは、定石通りその後は品川先輩を敬遠して塁を埋めた。

 またもところで、なんで満塁策が定石なんだ?

 大量失点怖くないんか?


 ああそうか、俺相手に点を取る自信があんまり無いのか。

 まあ俺も予選6試合でノーヒットノーラン以上が5試合だからなぁ。

 一応警戒してくれちゃってるわけね。


 おー、5番大崎も打つ気満々だわー。

 いいぞいいぞ、それでいいんだ!


 相手バッテリーは、初球こそウエストしたものの、大崎の打ち気に気づいてバッター勝負に切り替えた模様。

 おいおい大崎、せめてスクイズの素振そぶりぐらいしろよな。

 そして2球目、芯を外した緩い当たりながら、打球はレフトへ。

 3塁ランナー有楽町が必死に走ってタッチアップ成功。


 よーし!

 ポテンヒット1本で1点取れたか!

 6番五反田が凡退してチェンジになったが、これで俺たちは貴重な先制点を取れたわけだ。

 これで後は俺が全打席敬遠されても、相手を0点に抑えればいいんだな。

 よし! これで勝つる!




 1回の裏。

 上野のサインは、予め決めていた通り真ん中高めの明らかなボール球。

 球速は時速150キロ。

 まあ70%ぐらいの力で投げられる。

 あー、ちょっと指に力入れすぎたかぁ。

 バックスピンが強すぎて、少し球が浮き上がってるわ。


 2球目は俺の全力フォークのサイン。

 投げ出しはさっきの速球とおなじく150キロで、最初は真ん中高めにボールになるように見える軌道。

 だが目いっぱい指を開くと同時に、人さし指と中指の先端を狭めて結構なトップスピンもかけた球。

 俺の渾身のオリジナル・フォークだ。


 中間地点を過ぎた辺りから、重力とマグヌス効果で球は急激に落ちて行く。

 俺の全力のフォークは、ストライクゾーンを過ぎた後にワンバンして上野のミットに収まった。


「ストライーク!」


 もちろんこれも主審の目を試すチェックだ。

 捕球地点だけで判断するのではなく、ちゃんとストライクゾーンを通ったかどうか見ているかの。

 よし! 合格!


 っていうかさすがは準決勝の主審だわ。

 このひとなら安心して投げられそうだ。



 相手チームがタイムを取った。

 ベンチから伝令が走って来たが、主審にイチャモンをつけるつもりなのかな?

 俺は『聴力拡大』の魔法を発動した。


「あの、すみません。

 今の球はワンバンしていたのでボールではないのでしょうか?」


「いや、確かにストライクゾーンを通過していた。

 ストライクボールの判定は、ワンバンしたかどうかではなく、ストライクゾーンを通過したか否かである」


「ありがとうございました!」


 伝令は一礼するとベンチに戻って行った。

 ただでさえ蒼ざめていた相手監督の顔がさらに白くなる。


 つーことはアレか……

 ワンバンを全部ボールに判定して貰いたいがためのブラフだったのか。

 まあ、フォークボールの軌道は結構はっきりしてるし、落ち始めも早いからな。

 今の球の落差が1メートル近かったことにも気づいたんだろう。

 それにどっかで俺の落ちる球の評判を聞いたのかもしれん。

 それで、主審を自チームに有利になるよう誘導しようとしたけど失敗したのか……




 3球目のサインは同じコースで左右変化の無いジャイロ。

 投げ出し方向も速度もほとんど同じだが、打者の8メートルほど手前から急激に伸びて落ちる球。  

 実際には伸びているわけじゃないんだけどな。

 CD値が見たことのないほど低いのと、視野内角度変化で伸びてるように錯覚するだけだ。


 バッターは見送ってストライク。

 あー、目が真ん丸になってるよ。


 さっきのフォークと同じ落ちる球だが、印象は全く別物だろうから。



 4球目はカットボール。

 投げ出しは内角真ん中に投げられたように見えるが、打者手前3メートルから20センチほど落ちる球になる。

 時速150キロのボールが3メートル進むのにかかる時間は約0.07秒。

 これは、21世紀のオリンピック短距離走の電気計時でフライングとみなされる反応時間0.1秒を下回っているんだ。

 つまり、フライングをしなければ、たとえ世界のトップアスリートでも反応出来ない時間だということだ。

 ということは、変化を見てからバットを振るんじゃなくって、最初からカットボールを見越してフライングして振らないと打てないっていうことだな。


 でも高校生が「球の20センチ下を目掛けて振れ」なんていう練習はしたことないだろうからなあ。

「ボールをよく見て当てていけ!」とは言われてるだろうけど……


 まあカットボールはそれぐらい打つのが難しい球だっていうことだ。

 だからマリアーノ・リ〇ラもあれだけセーブに成功したんだろう。

 もっともカットボールの配球比率が高すぎて、タマに打たれてたけど。

 イ〇ローにもサヨナラホームラン打たれてたし。



 あ、ベンチに戻った先頭打者が監督に呼ばれてる。

 ちょっと『聴覚強化』してまた聞いてみよう。


「お前はあの投手の球をどう見る」


「は、はい。

 初球のボールになるストレートはともかく、2球目は8メートルほど手前から減速して大きく落ちる球でした。

 あれ、確かフォークボールって言うんですよね。

 3球目はもっと打者寄りから落ち始めるんですが、ものすごく伸びのいい球でした。

 本格派ピッチャーのストレート以上に伸びて来ます。

 4球目は打席のすぐ手前から急に20センチほど落ちました。

 あんな球は今まで見たことがありません……」


「そうか、やはり4球目は落ちる変化球だったか……

 遠目で見るとストレートにしか見えんのだが……」



 ほほー、流石は準決勝チームの1番だなあ。

 よっく見てるわー。

 まあよく見ても打てないことには変わりないがな……



 それにしても『聴力強化』はよく聞こえるなー。

 あ、これルール違反か?

 い、いや、俺の耳で聞いてるんだから大丈夫か。

 盗聴器仕掛けたワケじゃないし。



「よしみんなよく聞け。

 相手ピッチャーの配球は、ボールになるストレート以外は全て落ちる球だった。

 球をよく見てボールの下を叩いていけ!」


「「「「「 はいっ! 」」」」」



 だから球種によってはよく見た方が打てないんだってば……


 まあ、2巡目ぐらいまでは今の配球でいいかな。

 それでバットに当たるようになったら横の変化も入れるか……











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