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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
30/157

*** 30 東東京大会準々決勝戦2 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 3回の裏の我がチームの攻撃。

 先頭バッターは上野だ。

 前の試合までは上野が9番で俺が4番だったんだけどさ。

 それが8番と9番に回ったっていうことは、誰がどう見たってバッテリーに負担をかけさせないための守備重視作戦だろう。

 実際には、俺への警戒心を緩めて敬遠させない作戦なんだけど。

 それに割と選球眼のいい上野を俺の前に持って来たっていうことだ。


 その上野は、外角球を強引に引っ張ってレフト前へのポテンヒットを打った。

 うーん、しばらく前までの上野だったら、力の無いショートフライだったろうけど、筋トレ頑張ったおかげで芯を外しても外野に持っていけたか。

 よかったな上野……



 さて、ようやく俺の打順か。

 ここはノーアウトなんで向こうさんも送りバント警戒だろう。

 上野は意外と足も速くて、今大会では盗塁も記録してるからな。

 でも、今日はあのプロテクターつけてるから盗塁は絶対に無いんだけど。


 1球目、俺は投球と同時にバントの構え。

 それを見越した相手バッテリーは外角高めに外すストレート。

 俺もすぐバットを引いたし、上野も走る素振りだけ見せてすぐに1塁に帰塁した。


 2球目。

 俺は最初からバントの構え。

 ピッチャーの配球は、最もバントがし辛いと言われる内角低めへの沈む球。

 俺はすぐにバットを引いて、普通に強振した。


 高校生のバットスピードは平均で時速110キロ。

 甲子園クラスで120キロ。

 大学生で130キロ。

 そしてプロでは140キロ以上。


 だが、背筋力350キロ、それ以外にも内転筋群と腸腰筋と腹斜筋を鍛えまくった俺のスイングスピードは時速160キロを超える。


 一般に120キロ以上のバットスピードが無いとホームランは打てないそうなんだけど、まあ160キロあったら十分だろ。


 さらに俺は、長年『クイック』の魔法を常時発動して目を鍛えていたために、魔法無しでもボールの軌道がスローボールに見える。

 体感時速30キロぐらいか。

「高校生スポーツに魔法を持ち込むな!」って怒られそうだけど、ま、まあ訓練に使ってただけで、試合で使ってるわけじゃないから許してくれよ。



 常人を遥かに超える動体視力のおかげで芯の3ミリ下を打てたボールは、なんかコゲ臭い匂いを発しながら飛んで行った。

 あー、つい力が入りすぎちまったか……

 外野スタンドも遥かに超えて場外の森まで飛んで行ってるわぁ。

 推定飛距離135メートルっていうとこだな。

 まあこの球場は外野スタンドも小さいから飛び越えたんだろう。


 よし! これで先制点か。

 でもなあ…… これで次の打席からはまともに勝負して貰えんかもなぁ……

 おかげで過去5試合でホームラン10、残りはだいたい敬遠四球なもんで俺の打率は今9割超えてるんだけど……


 ということで、この試合を含めて今まで6試合、マトモに勝負して貰えるのは、ほとんど最初の打席か2打席ぐらいなんだよ。

 だから今の打席で少し張り切ったんだけどな。


 あ、ベンチに戻ったらバットをチェックしなきゃ。

 なにしろちょっとでも芯を外すと、すぐにバットがびみょーに曲がってるもんなあ。

 今度、多少重くてもいいから、長くて曲がらないバットを会長さんにお願いしてみよう。



 その後も俺は相手打線を無難に抑えた。

 2回ほど打球が内野に飛んだが、いずれもボテボテのゴロだったんで、ウチの内野も無難に捌いていたよ。


 俺たちの攻撃については、5回に四球と盗塁で2アウトランナー2塁のとき、バッターが緩い当たりのセンター前ヒットを打って追加点。

 あれ2アウトでよかったよ。

 1アウトだったらスタート遅れて本塁アウトだったかもしれん。



 ということで、東東京大会準々決勝は3対0で我が日比山高校の勝利となった。

 終わってみればエラー無し、パスボール無し、四死球も無しの完封試合。

 あ、ついでに打者27人で終わらせるパーフェクトゲームにもなってたか……


 試合終了後は相手チームはみんな泣いてたけどさ。

 大会参加3212校のうち3211校は負けて泣くんだから、まあカンベンしてくれや。


 そうそう、試合後の挨拶が終わると、相手チームのキャプテンがやって来て俺に聞いたんだ。


「その……

 よかったら教えてくれないか……

 あの激しく落ちる球はドロップとシュートなのか?」


「いえ、フォークとジャイロボールとカットボールと、あとシンカーです」


 相手は不思議そうな顔をしてたけどな。


 そうなんだよ。

 この時代の変化球って、カーブとシュートぐらいしか無かったんだ。

 落ちる球はみんなドロップって言ってたし。


 大昔の野球漫画とか見てみると、変化球はほとんどこの3つしか無いんだ。

 まあごく一部ではフォークも知られるようになってたけど、「スライダー」っていう言葉すら無かったんだぜ。

 これからの20年ほどで、野球も随分進化して行くんだな。



 試合終了後にさっさとシャワーを浴びると、俺はマネージャーから氷の入った大きなビニール袋を受け取り、右肩を冷やし始めた。

 上野にも3つ袋を渡して、両脚の大腿四頭筋とキャッチングする左肩を冷やすように言う。

 氷袋を持った付き添いの1年生3人に囲まれた上野は随分恐縮してたけど、このアイシングは俺の指示だからな。


 実は女子マネの渋谷には、この氷の調達でけっこう苦労をさせている。

 彼女は試合の数日前から球場の周囲を探し、氷屋を見つけてくれているんだ。

 この時代は、まだ電気式の冷蔵庫の普及がそこまで進んでなくて氷式の冷蔵庫も多いから、氷を配達してくれる氷屋も多かったのが救いだけど。

 もちろんコンビニなんてどこにも無いし。

 勝ち進んで寄付金集めて、早く製氷機を買いたいもんだぜ。



 8回ぐらいになると、渋谷は1年生に手伝わせてロッカールームで氷を砕き始める。

 氷屋の氷はブロック状だからな。

 だから、氷屋から届いた大きな氷の塊を、タガネとトンカチでカンカン叩いて小さくして行くんだ。

 俺たちのために、そうやって苦労してアイシングバッグを作ってくれてるんだよ。



 セカンドの目黒が近寄って来た。

 ライトの大崎もだ。


「なあ神田。

 お前今日三振ばっかり狙って、相手に打たせなかったろ。

 おかげで俺は守備機会1だぜ」


「いや外野なんか3人合わせて守備機会ゼロだぜ」


「おかげで、せっかく用意してもらったアイシング用の氷も使う意味無いよなぁ」


「いやすまんすまん。

 上野のケガに気を使う必要が無くなったんで、今日は思いっきり変化球を投げられたんだわ」


「それであの奪三振25&パーフェクトピッチングか……」


「なあ神田、その変化球って俺たちにも打席で見せてくれよ。

 外野からだと直球にしか見えないんだ」


 まあ、普段の打撃練習で俺が投げるときには、ストレートと緩いカーブとスライダーもどきしか投げてなかったからな。

 この時代にはまだそれ以外の変化球を投げるやつがいなかったから。

 見たことも無いような変化球投げても打撃練習の意味が無いし。



「うーん、もちろん構わないけどさ。

 それでバッティングの調子崩されると困るんだけど……」


 周囲が唾を呑み込む音が聞こえて来た。


「それほどのもんなんかよ……」


「まあひとり3球ぐらいずつだったらいいか。

 明日交代でバッターボックスに立ってみてくれ。

 そうそう、それでもアイシングはしておいた方がいいぞ。

 あの守備姿勢ってけっこう大腿四頭筋に負担かけてるから」


「いやあの程度だったら普段の練習の10分の1にも負担にはならんだろうに」


「そうだよなぁ。俺たち立ってただけだもんな」


「あ、そうしたらさ、また利き足だけアイシングしてみたらどうだ?

 そしたら明日、アイシングの効果が改めて分かるかもしれんぞ」


「おお、また試しにやってみるか!」



 俺たちは、次の試合があるからってロッカールームを追い出されたんだけど、外の公園の芝生の上でアイシングとストレッチを続けて、その後は電車に乗って帰って行ったんだ。




 翌日。

 次の日の準決勝に備えて今日は軽めの調整だ。


 いつものように入念なストレッチから軽いランニング。

 そしてひとり30球ほどの守備練習を終えると、俺はブルペンで肩を作り始めた。


「さて、それじゃあ昨日の約束通り、俺の本気の変化球を見て貰おうか。

 レギュラー陣7人に3球ずつだな。

 1球目はフォーク、2球目は打者から見て左から右にかけて落ちながら曲がるジャイロ、3球目はカットボールで行くからよく見てやってくれ。


 でも危ないからスイングはしないでくれるかな。

 その代わり控え組もバッターボックスの周りに立っていいぞ。

 それからまたキャッチャーの後ろにネット持って来てくれ。

 そこが特等席だ。


 ついでに上野はキャッチャーミットを動かさない練習を続けよう。

 お前の構えたところに投げてやるからな」


「はい!」



 最初の打者への1球目。

 上野は地面にぺったり座り込んで真ん中低めいっぱいに構えている。

 ミットが地面に付きそうだ。


 俺は、指を目いっぱい開くと同時に指先を狭めて投球し、球に少々トップスピンもかけた。

 普通のフォークはほぼ無回転で重力だけで落ちて行くけど、トップスピンをかければさらにマグヌス効果が加わって落ち幅を大きく出来るからな。

 スピンのかけ具合によって落ち幅も調節出来るし。


 投げ出し方向は打者の頭より高く、一見完全な暴投に見える。

 上野の構えから、少なくとも低め方向に投げられると思っていたギャラリーが硬直した。


 だが……

 打者の頭の高さを超える方向に投げ出された球は、ベース手前8メートルほどから急激に下降し、狙い通り上野のミットに収まった。

 俺の全力、落差1.1メートルのフォークだ。


「マジかよ……」

「なんであんなに変化するんだよ……」

「こんなん見たことないよ……」


 はは、外野の連中ほどフォークには驚いてるか。

 まあ内野は少しは近くで俺の球見てるからな。



「次は落ちながら曲がるジャイロだぞー」


 21世紀のメジャーリーガーの投げるジャイロは、毎秒40回転ほどだそうだが、握力170キロの俺の指がかけられる回転は、最高で毎秒60回転を超えている。

 その強力な回転を伴ったジャイロが、投げ出し方向右上空から急激に変化して左低めに構えた上野のミットに当たって跳ね返った。

 はは、さすがの上野も俺の本気中の本気、落差50センチ左右変化50センチのジャイロはミットに当てるだけで精いっぱいか。


 3球目のフォーシームカットは上野も無事捕球した。

 あー、キャッチャーが優秀だと投げてて楽しいわー。



 こうして俺は打者7人を相手に21球を投げ終わったんだ。



 2人しかいない3年生が近寄って来た。

 田町センパイと品川センパイだ。


「なあ神田。

 お前の変化球がとんでもないのはよくわかった。

 遠くから見るとほとんどストレートに見えてた球が、打者の手元ではあれほどまでに変化してたんだな……」


「はい」


「それで神田。

 お前の変化球ってあの3つだけなのか?」


「いえ、実はあといくつかあります」


「それな、もしもよかったら俺たちに見せてくれないかな」


「つ、疲れてるんならいつでもいいけど……」


「はは、ご希望なら喜んでお見せしますよ」


 俺はグラウンドの周囲を見渡し、『感知』の魔法も使って部外者がいないかどうか確認する。


「それじゃあせっかくですからマウンドに行きましょうか……」










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