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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
25/157

*** 25 苦労する俺1 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 2回戦の日になった。

 観客席が小さいからチームのメンバーはあんまり緊張しないかなって思ったんだけど、相手がシード校だったもんでやっぱりガチガチよ。

 やっぱ強豪校とも練習試合やっときゃよかったぜ。

 まあ、もう少し守備がまともになってからって思ってた俺も悪いんだけどな。



 1回裏の俺のピッチング。

 試しに50センチフォーク投げてみたんだけど、上野がかろうじて受けたミットの位置見てやっぱりボールの判定だったよ。

 ストライクゾーン通過してたのにな。

 ったく無能な審判だらけだわ。


 じゃあチェンジアップでも投げてさらに球審を試してみるか。

 あはは、投げた瞬間球審が腕を前に出したけど、かろうじて堪えたか。

 でもバッターが見送って、球を受けた上野のミット位置が低かったせいで、これも判定はボール。

 おいおい、ベース上ではストライクゾーンのほぼど真ん中通ってたぞ。


 はぁ、こりゃ今日も苦労しそうだわ。

 それで仕方ないからまたストレート主体に投げてたんだ。


 あれ?

 この3番、俺の内角低めいっぱいの155キロストレートにバット当てやがったぞ?

 もちろん振り遅れてファウルだったけど。


 ああそうか、相手のピッチャーも球速いから、普段からバッティング練習で速いストレートはよく打ってたのか。なるほど。


 それじゃあ配球はどうするかなあ。

 仕方がないや、多少疲れるけど158キロのストレートをコーナーに投げてみるか。


 おー、さすがに打てないようだな。

 これならなんとかなりそうだ。


 あ、次は俺の打席か。

 ふーん、コーナーを突くストレートか。145キロってところだな。

 でもなー、俺の動体視力はかなりのもんだからなー。


 よし! 頂きますっ!


 ガキーン!


 おほー、ライトスタンド上のネット一直線か。

 これで先制点頂きだ。



 あ、6回に入って、こいつらもセーフティーバント攻勢始めたか。

 まあ、158キロの球は多少浮き上がるから、ポップフライになる可能性が高いぞー。

 ほら、3人目がようやくバットに当てたけど、内野フライだ。


 ああっ! セカンドまさかの落球っ!

 うーん、まだ緊張してんのかよ。


 次は当然送りバントか。もうバントの構えだな。

 それじゃあ内角低めにまた力いっぱい……


 はは、球の勢いを殺せずに、勢いよくバットに弾かれた打球がファースト方向に転がったか。

 ベースカバーに入ったセカンドに対し、ファーストが落ち着いて投げて……


 あああっ! あ、悪送球っ!

 あー…… ノーアウト1塁2塁だって……

 なんか審判と言い味方エラーといい、俺の道は荊の道だなぁ……


 まあいいか。バッター集中。

 と言っても当然バントね。バントする気満々ね。


 あ、こういうときこそカットボール投げてみようか。

 見た目コース真ん中だったらバットを引かずにバント続行するかもだ。

 ついでに投げ出しをやや高めにすれば、上野もプロテクターで弾いて後ろには逸らさないだろう。


「ストライーク!」


 はは、さすがの未熟審判も、バントの構えのまま空振りをしたらストライクと言わざるを得ないわな。


 あ、バッターが首傾げてる。

 ってぇことは、こいつ最後まで球見て無かったな。

 途中まで球見てバント成功を確信してたのに、空振りした理由がわかんないんだろう。

 しめしめ、それじゃあ次もおなじカットボールを内角へ。


 あは、やっぱりバント空振り。

 スリーバント試みたけど、やっぱり空振りで三振。


 よし、次の打者も当然バントだろうけど、やっぱりカットボールを投げてみよう。

 そうして打者の目線も観察してみよう。


 おー、やっぱりベース手前5メートルで球から目線を離してるわー。

 こいつらよくこんなんで強豪校とか言われてるよ。

 よし、今日はカットボールだらけにしよう!


 あ、こいつ第2球を見逃しやんの。

 でもって上野がミットを下に降ろし過ぎて前に弾いたか。

 な、なんだと、そのミット見て判定ボールだと!

 なんだよこのクズ審判!

 今のは完全にストライクゾーン通ってたろうに!

 お前の目ん玉歪んでんじゃねぇのか?


 ふー、冷静になれよ俺。

 それにしても、いつか審判たち集めて俺が投げて講習会やってやりたいもんだぜ……

 タイトルは、「ミットの位置だけ見てコールするクズ審判になるな!」だな。

 まあ、この時代の高校生の変化球って、カーブでもせいぜい30センチぐらいしか変化しないから、こんな審判でもなんとかなるんだろう。

 俺にとってはいい迷惑だけど。


 それじゃあ第3球は、見た目打ちごろの真ん中高めのカットボールだ。

 これならバントしたがるだろう。


 はは、やっぱりバント空振りか。

 さて、次はどうする?

 やっぱりスリーバントにチャレンジか?


 それじゃあバッターも首傾げてるし、空振りの理由もわかってないみたいだから、4球目は3球目と全く同じコースで……


 あはは、やっぱりバント空振りで2アウト。

 あー、首傾げてるわー。



 さて、ツーアウトながら次は左の4番か。

 まさかのセーフティースクイズもあるぞ。


 それじゃあまたカットボールで……


 キンっ!


 ありゃ、走り出しながら出したバットにボールが当たっちまったぜ。

 バットコントロールが悪くて、たまたまバットが下がってたんか。

 でも球の勢いを殺せずにショート真正面に速めのゴロか。


 うわっ、またもやエラー!

 あー、スタート切ってたセカンドランナーがホームに帰って1点取られちまったかー。

 ありゃ、記録はヒットだと。

 あれがショート強襲のヒットだっていうの?

 単なるエラーでしょうに。

 公式記録員もレベル低いのかよ。


 あー、仕方ない。地道にカットボール投げてくか。

 ふう、三振でようやくチェンジね。


 はは、ウチのベンチがお通夜みたいだ。

 あれだけエラーしたら当然か。まあいい薬になってるだろ。


 さて、ネクストバッターサークルに行きますかね。


 おー、3番の田町先輩が四球を選んでノーアウト1塁だ。

 当然あちらさんはバント警戒だろ。

 それじゃあ俺も付き合ってあげて、最初だけバントの構え。

 やっぱり初球はウエストか。

 すぐにバット引いてと。


 2球目もウエスト。俺はバントの構えだけですぐ引く。

 第3球目は、定石通りインローに速い球ね。

 それじゃあバットを引いてと。

 お待ちしておりましたーっ!


 ガキ―――――ン!


 おー、よく飛んでってるわー。

 よし、またレフトスタンドの上のネットに突き刺さったか。

 ふう、これで3-1になって勝ち越し成功。



 その後はカットボールで無難に抑えられたよ。

 相手はバント攻勢してきたけど、さっきのショート強襲ヒットは、偶然下がったバットに当たったんだかんね。

 2匹目の泥鰌どじょうはそうそういないんだよぉ。



 俺の第3打席は痛烈なセンターライナーに終わった。

 あまりにもボールの芯を喰い過ぎたか……

 でも、終盤にかけては焦り始めた相手がカットボールを打とうとしてくれたんで、なんとかなったよ。


 ふー、ようやく試合終了か。

 疲れたわー。




 その日は一旦みんなで新木場グラウンドに帰ったんだ。


 部員のみんなが俺に頭を下げている。


「神田、すまん」

「俺たちエラーばっかりで……」

「しかもぜんぜん打てなくて……」


「あー、まあ仕方ないっしょ」


「こ、これからはもっと練習時間を増やして……」


「田町先輩、その必要はありませんよ」


「で、でも……」


「今以上に練習すると、かならず体を痛めるやつが出てきます。

 ただでさえ毎日練習してるんですから」


「そうは言っても、神田に申し訳なくて……」

「それにしても、あんなに練習して来たのに……」


「先輩たちやみんなが『野球』の練習を始めてから10か月です。

 まだ1年も経ってないんですよ」


「そうか、鶯谷コーチの練習はそれだけ無意味だったっていうことか……」


「その通りです。ですが俺にも非はあります」


「なんだそれ?」

「お前には何の失敗も無いだろうに」


「俺の誤算はみんなの緊張ですね。

 試合会場が立派だったり対戦相手がいると、あそこまで緊張して動けなくなるとは……

 他校との練習試合をやっておくべきでした」


「お、お前は緊張してなかったのか?」


「ええ、全く」


(剣と魔法の死に物狂いの修行を20年、それから極限状態の中で30年も殺し合いしてたら、普段の生活では緊張なんかしなくなりますよ…… とは言えないよな)


「そ、そうか……」


「でもまあ、これで2試合経験しました。

 その点ではこれから少しはよくなって行くことでしょう」


「そうだといいんだが……」


「そこで俺からの提案なんですけど……」


「なんでも言ってくれ」


「はい、それじゃあ。

 まず次の試合からは、打者はガンガン振って行きましょう。

 スイングアウトの三振は大歓迎ですけど、見送り三振はダメダメです。

 また、ストライクゾーンはボール1個分広いと思ってください。

 ボール球をスイングしての空振りもOKです」


「そ、そんなんでいいんか?」


「ええ、緊張してミスをする最大の理由は、体を動かしていないことなんです。

 守備のときも声を出して少し動き回りましょう。

 それに、打席でバットを思い切り振り回せばかなり緊張がほぐれますよ。

 もちろんネクストバッターサークルなんかでも、ガンガン素振りしてくださいね」


「わ、わかった……」


「さあ、次の試合は5日後です。明日からまた少しずつ練習しましょう」




 そして5日後。3回戦の日。


 さて、今日の球審はどんなもんかな。

 試しに50センチフォーク投げてみるか……


 あー、やっぱり上野の捕球位置を見てボールの判定だよ。

 こいつも使えねぇな。

 それじゃあ真ん中から低めストライクゾーンに落ちるカットボールはどうだ?

 あ、上野が弾いたけど、コールはストライクだ!


 はは、ほんの少しだけマトモな審判になったか。

 1回戦と2回戦じゃ、上野が捕れないと全部ボール判定してたもんなー。

 まあ、3回戦ともなると審判も多少はマシなヤツが出て来るんか。

 これで少し助かったよ。


 それじゃあストレートも試してみよう。

 ストレートなら上野も弾かないからな。


 おー、バッターが見送ってもストライクのコールだわ。

 この時代は変化球が少ないせいで、ストレートの判定には慣れてるのか。

 それじゃあ今日はまたストレート主体で、決め球にはカットボール使おう。


 あー、助かるなー。

 相手バッター、みんなストレートに振り遅れてる。

 きっとこのチームのピッチャーはあんまり球が速くないんだな。

 よし、1回は三者三振で終えられたぞ。


 お、俺の前の3番田町先輩がポテン気味のヒット打った。

 ようやく3戦目で緊張感が解れてきたのか?


 ともあれ、これはチャンスだな。

 ボールの芯の2ミリ下を狙って……


 ガキ―ンッ!


 おほー、レフトスタンド一直線で上段に突き刺さってるわー。

 これで後は全打席敬遠されても、俺が相手打線を抑えればなんとかなりそうだ。

 よかったよかった。


 あ、ああっ!

 ば、バットがほんの少しだけど曲がってる!

 ボールの芯を外すとこうなるのかっ!




 その後はストレート主体で決め球にカットボール使って、相手打線を無難に抑えていったよ。

 上野も前には弾くけど、後ろには逸らさなくなって来たし。

 でも、回が進むにつれて、相手のベンチの監督の声がだんだん大きくなっていったんだ。


「な、なぜあんなストレートばかりのピッチャーを打てんのだ!」


(すいません、決め球は変化球です)


「し、しかもキャッチャーがあんなにポロポロ弾くバッテリー相手にまだノーヒットだと!」


(すいません、キャッチャーがポロポロ弾くのは、俺の変化球がキレまくってるからなんです)



 ベンチに帰ったら上野が言って来たんだ。


「すいません神田さん。

 僕が弾いてばかりなせいで……」


「はは、そんなことぜんぜん気にするな。

 それよりも、お前が公式戦の場に慣れるためにも、次の回からは他の変化球も少し混ぜてみるか。

 カーブとスライダーと縦ジャイロなんかどうだ?」


「は、はい……」



 よーし、まずはカーブだな。

 おー、これもキレキレだわ。

 バッターも球審も投げ出してすぐの球見失ってるわー。


 直後に現れたように見えるボールは、バッターの頭の高さから鋭く曲がり落ち、ストライクゾーンを通過して遥か外角低めに構えた上野のミットに当たって跳ね返った。


「………… す、ストライク? …………」


 なんで疑問形なんだよ!


 でもこれは収穫の多い実験だったわ。

 球審も、内角超高めだった球が、外角超低めに行ったっていうことは、途中でストライクゾーンを通っていた、って気づけたんだな。

 しかも上野もあんまり動かずにいたし。


 うんうん、もう1球カーブ続けてみよう。


「す、ストライク……」


 あー球審がビビってるわー。

 まあこんなカーブ見たこと無かったんだろうな。

 はは、バッターはもっとビビってるか。


 それじゃあ次は、右バッターの内角ベルト付近から外角低めに流れる軽いスライダーでいってみようか。


「す、ストライク、バッターアウト……」


 上野は斜め前に弾いたけどすぐに拾ってタッチしたか。

 うんうん、だいぶ落ち着いて来てるね。


 それじゃあ次のバッターには縦の50センチジャイロを試してみよう。


「…… ストライク ……」


 おい主審! 声が小いせぇぞ!

 コールの声は大きくハッキリとって、審判講習会で教わらなかったのか!


 それにしても、上野が零しただけでボールと判定しなくなったんで、大分ラクになったなぁ。

 って、なんでそんなことで俺が苦労しなきゃなんないんだよっ!










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