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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
22/157

*** 22 驚愕する新入生たち2 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 果物の差し入れを持った神保さんが食堂に入って来た。


「神保さんおはようございます。

 こちらは練習見学の1年生諸君です。

 1年生諸君、こちらが神保通商株式会社の神保社長さんだ。

 この球場も施設もすべて神保通商の持ち物で、俺たちに自由に使わせてくださってるんだ。

 さあ、ご挨拶してくれるか」


「「「「「 よろしくお願いします! 」」」」」


「こちらこそよろしく。

 野球部のメンバーが増えるのは嬉しいねぇ。

 君たちもぜひ入部してくれたまえ」



 うーん、やっぱ神保さん、さすがの貫禄だわー。

 なんかちょっと神々しいオーラも出してるし。

 こりゃ1年生諸君は一発で魅了されただろうな……

 さすがは大天使だ……



 皆の食事が終わると田町先輩が立ち上がった。


「それじゃあいつも通り午後の練習は13時からだぞー。

 それまでしっかり体を休めるように。

 食休みは重要だからな―」



「おい、あ、あのひと参考書開いて勉強始めたぞ」

「あっちのひとはなんか難しそうな英語の本開いてる……」

「あのひと、なんか湯気が上がってる大豆をすり鉢で潰し始めた……」


「はは、参考書開いて勉強してるのは3年の田町先輩だ。

 もちろん受験生だからな。

 それからあの英語の本は、アメリカのスポーツ医学界の今月号の論文誌だ。

 みんな交代で読んで、なにか新しい知見があったらあとでみんなの前で発表することになっているんだ」


「あ、あのひと英語の本持ってお茶の水先生に質問しに行ってる……」


「お茶の水先生は英語の先生だからな。

 それも教員採用試験の試験委員をされているほど有名な方なんだ」


「「「 !!! 」」」


「それで春休み中や土曜の夜なんかはみんなに受験英語を教えてくれてたりするんだ。

 おかげで予備校に行かなくてもいいってみんなには大好評なんだよ」


「す、すげぇ……」



「それからあの大豆は筋トレの後に飲むプロテインドリンクの材料だ。

 当番が交代で昼のうちに作るんだよ」


「プロテインドリンク?」


「午後は筋トレもするからな。

 筋トレしたら1時間以内にタンパク質の補給が重要なんだ」


「な、なんかすげぇ……」




 午後の練習が始まった。

 まずはマウンド上にピッチングマシンが置かれ、そこから打ち出される球を交代で打っていく。

 ファウルゾーンでは、8つほど立てたケージの中で順番にティーバッティングも始まっている。

 うん、最近みんな少しずついい音させて打てるようになって来てるよ。


 他の者は皆、ミニ体育館に向かっている。


「さあ、それじゃあ俺たちの筋トレを見学してもらおうか」



「こ、ここもすげぇ……」

「な、なんてデカいバーベルなんだ……」


「はは、コンクリの比重は鉄に比べてだいぶ小さいからな。

 バーベルがやたらにデカくなっちまうんだ」


「お、おい。あのひとの挙げてるバーベル、80キロって書いてあるぞ……」



 2年の新橋が近寄って来た。


「なあ神田。見学の1年生にお前の怪獣筋トレ見せてやったらどうだ?」


「あ、ああ、そうだな……」


 俺は鉄のウエイトを付けた一つしかない本チャンのベンチプレスに横になろうとした。


「いや神田、どうせならトレーニングパンツ一丁になって、お前の怪獣筋肉も見せてやれってば」


「ん? そうか?」


「まあ、滅多に見られるもんじゃねぇから、きっと1年生諸君も喜んでくれるぞ」


「そ、そうか……」



 それで俺はユニフォームを脱いでトレパン一丁になったんだけどさ。


「な、なんというガタイ……」

「プロレスラー……」

「ボディビルダー……」

「筋肉怪獣……」


 何だよ最後のヤツ!



「それじゃあみんな、すまんが補助を頼む」


「「「「 おお! 」」」」


「神田、ウエイトは160キロのままでいいのか?」


「おう」



「ひ、160キロ……」

「ほんとだ! 片側のウエイトの数字足したら80キロだ!」


 バーベルの左右に2人ずつ計4人の補助が付いた。

 俺はウエストベルトをつけてベンチに横になると、おもむろにバーを掴む。


 ふんっ!


「「「「「 !!!!! 」」」」」


 そのまま挙げ下ろしを始める。


 前腕筋群と上腕筋群、それから肩の三角筋が膨らんだ。

 そして大胸筋と腹筋が盛り上がる。


「な、なんだあの腕…… 倍ぐらいに膨らんだ……」

「肩が…… 肩が大きくなった……」

「肩って膨らむもんだったんだ……」

「だ、大胸筋が山みたいになってる……」

「腹筋も山脈みたいだ……」


 俺は無事8回の挙げ下ろしを終えて起き上がった。


 新橋がドヤ顔で言う。


「どうだ1年生諸君!

 これが日比山高校野球部名物、神田の怪獣筋トレだ!」


((((( ……………… )))))


「それじゃあ神田、お前のバケモノ握力も見せてやってくれ!」


「お、おう……」


 俺が握力計を握ったとき、どこからともなく渋谷涼子がすっ飛んできた。


「こらぁ! また握力計壊す気!

 握力測るときは2台使って測れって、あれほど言ったでしょうに!」


「お、おう…… わ、分かった……」


 俺は2台の握力計を握りしめ、均等に力がかかるように握り込んだ。


「ふー、こっちが90キロでこっちが70キロか。

 どうやら壊さずに済んだようだな」


「す、すげぇ……」

「まさにバケモノ握力……」

「これがあの変化球のキレの秘密……」

「す、すげぇ…… あれが噂の『おっぱい星人』……」


 おい! 最後のヤツ何に感心してんだよっ!



「それじゃあちょっと失礼してストレッチさせてもらうわ」


 俺はミニ体育館の隅のストレッチスペースに移動して、腕や大胸筋や腹筋も伸ばし始めた。


「そ、それが『ストレッチ』なんですね……」


「おお、さっき大きな負担をかけて縮めた筋肉を、こうして伸ばしてやってるんだ。ついでに筋肉に溜まった疲労物質を絞り出してやるイメージかな」


「効果あるんですか?」


「びっくりするほど効果あるぞ」


「あ、あんな凄い筋トレを毎日やってるんですか?」


「いや、ああいう大きなウエイトを使ったトレーニングは、毎日やってはいけないんだよ」


「な、なんでですか?」


「筋肉っていうのはな、酷使されてるときには太くはならないんだ。

 酷使されてブチブチに切れて痛んだ筋肉が修復されるときに太くなるんだ。

 それには通常3日かかるから、大過重の筋トレは3日おきにやるべきなんだよ。

 その代わり全部で30種類ぐらいの筋トレがあるから、1日10種類ぐらいずつやってるな」


「あの、腕立て伏せとかはやらないんですか?」


「ああいう小過重のトレーニングを回数行うのは、筋持久力を高めるトレーニングでな。

 筋力そのものはあんまり上がらないんだよ」


「そ、そうなんですか……」


「君たちもムキムキになってホームラン打ちたいんだったら、腕立てよりもウエイトトレーニングの方がいいぞ」


「は、はあ……」


「そうそう、このストレッチだけど、俺はもう今日は100球投げたし、筋トレもしたからじっくり筋肉を伸ばしてるんだ。

 でも午前の練習が終わったときとか、練習の合間のストレッチは、1か所につき15秒以内に抑えておくように気を付けるように。

 それ以上長時間伸ばすと筋肉が収縮しづらくなって、練習のパフォーマンスが落ちるから」


「は、はい……」


「それじゃあ大豆ドリンクを飲むために、食堂に戻ろう」



 食堂では渋谷がたくさんのコップを用意していてくれた。


「はい、大豆ドリンクと野菜ジュースよ。

 1年生のみなさんにも飲ませてあげるんでしょ」


「おお渋谷、ありがとう」



(小声で)

「揺れてる……」

「揺れるんだ……」

「地震の時とかも揺れるんかな……」


 おいお前ら! 俺には全部聞こえてるからな!


 で、でも地震の時の渋谷、見てみたい気もするな……

 ただ立ってるだけなのにブルンブルン揺れるとか……

 だ、だめだ、絶対爆笑しちまうっ!




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「それじゃあ1年生諸君。

 これでだいたい練習見学会は終了だ。

 なにか質問はあるかな?」


「あの、ピッチャーのランニングとかは無いんですか?」

「毎日必ず5キロ走るとか……」


「無いよ」


「あの…… 僕、ピッチャーだったんですけど、『足腰を鍛えるため』とか『持久力を養うため』って言われて毎日すっごい走らされてたんですが……」


「あー、日本の野球指導者の勘違いってものすごく多いんだけどな。

 その中の最たるもんが、『ピッチャーは足腰や持久力を鍛えるためにランニングしろ!』っていうものなんだよ」


「そ、そうなんですか?」


「あのな、俺は中1の夏前からオリンピックまでの2年間、だいたい毎日30キロ走ってたんだ」


「「「「「 !!!!! 」」」」」


「まあ、30キロなら1時間半もあれば走れるから大した練習量じゃないんだが。

 でも、ランナーは30キロ以上走ると、筋肉や骨を痛める可能性が飛躍的に上がるから、当時のコーチが絶対に1日30キロ以上走らせてくれなかったんだ。

 走ろうと思えば100キロぐらいはへーきだったけどな」


((((( …………… )))))


「それで足がどうなったかって言うと、どんどん細くなっていったんだ。

 どういうことかって言うと、赤い筋肉、つまり軽度の運動を長時間続けるための遅筋は鍛えられたけど、白い筋肉、つまり瞬間的に大きな力を出す速筋はどんどん減って行ったんだよ。

 つまりまあ、長時間走るエネルギーを必要としたために、使っていない速筋を分解してエネルギーに変えちゃってたんだ」


((((( ………………… )))))


「野球の試合の中の動きを思い出してごらん。

 30分間走り続ける動きなんか絶対無いだろ。

 野球では短い時間で大きな力を出す瞬発力しか使わないんだ。

 そして、この瞬発力は白い速筋を使うことでしか得られないんだよ。

 だから、ピッチャーにとって長時間のランニングは害でしかないんだ」


「で、でもランニングはピッチャーに必要な持久力をつけられるって……」


「それも大いなる誤解だね。

 持久力には2通りあるって知ってるかい?」


「い、いえ……」


「軽い運動を長時間続けるための心肺持久力と、瞬発的な力を出すことを何度も繰り返せる筋持久力の2つなんだ。

 このうちピッチャーに必要なのは筋持久力だろ。

 心肺に負担がかかっているとき、つまり脈拍が高くてはーはー呼吸が激しいときには、野球ではタイムが取れるしチェンジになればベンチで休めるし。

 そして、ランニングは心肺持久力は高められても、筋持久力を高めることは出来ないんだ。

 つまり、ピッチャーにとって長距離ランニングは害だけあって利は無いんだ」


「で、でもみんなが……」


「そう、日本の指導者は、みんながそうしてるっていうだけで、それが正しいと思い込んじゃってるんだよ。

 絶対に自分では勉強しようと思わないからね。

 それで実際には全員が間違ってるわけだな」


((((( ……………… )))))


「俺は野球をするようになってから、1日に10分以上は決して走らないようにしてるよ。

 走るのは単に体温を上げてケガをしないようにするためで、せっかく身に着けた白い筋肉がエネルギーに変わってしまう長時間ランニングは絶対にしないんだ」


「そうだったのか……」

「確かにコーチたちって、自分で勉強している様子はまるで無かったもんな」

「単にみんながやってるからやらされてるだけだったのか……」


「あ、あの…… それじゃあ筋持久力をつけるトレーニングって、どうすればいいんでしょうか」


「筋持久力をつける最良の方法。

 それは、『軽度な負荷を持った運動を繰り返す』ことなんだ。

 ということは、ボールを持って投げたり、バットを振って打ったりすることもいいトレーニングだろ」


「「「「「 !!!!! 」」」」」


「ということでさ、野球に必要な筋持久力を付ける方法は、『野球をすること』だったわけだ」


((((( ……………… )))))








【特別付録:その年の忘年会での神田くんの宴会芸】


(渋谷さんが席を外したスキに)


「さあみなさん、これからわたしと宴会芸で勝負しましょう!

 わたしがこれから面白いモノマネをします。

 笑ったら皆さんの負け。笑わなかったら皆さんの勝ちです。

 それでは全員コーラを口に含んでください。

 それじゃあいきますよー」


 そこでばっとシャツを脱ぐ神田くん。

 シャツの下には紙を切って作ったブラ。

 既にこの段階でコーラを吹いてしまった者数名。


 さらに大胸筋に力を入れてぐぐぐっと大きく盛り上げる神田くん。


「渋谷涼子」


「「「「「 ぶふぉぉぉぉ~っ! 」」」」」


 新橋君と目黒君と五反田君は、それでも額に青筋立てて歯を食いしばって堪えている。


 さらに大胸筋に力を入れたり抜いたりして、ぶるんぶるん大きく動かす神田くん。


「地震のときの渋谷涼子」


「「「 ぐぼぁぁぁぁぁぁぁ~っ! 」」」


 歯を食いしばっていたせいで、鼻からコーラを盛大に吹いた新橋くん。

 お前は象か!




 だが……

 不穏な気配を察知していた渋谷涼子は、部屋の隅に仕掛けたビデオカメラのリモートスイッチを入れるために席を外していたのだ!

 どうやらゴミ箱に捨ててあった紙製ブラの切り残しを発見してたらしい。

 そんなことにはまったく気づいていない神田くんであった……



 翌日の食堂。

 昼食の時間に、テレビでエンドレスに再生される昨日の神田くんの宴会芸。

 それを見て立ち竦む部員たち。

 そして神田くんは、腕を組んで仁王立ちになった渋谷さんの前で、小さくなって土下座をしていたという……


(ところで渋谷涼子さん……

 あの…… お胸の前で腕をお組みになると、腕が胸部装甲に埋もれて半分以上見えなくなってるんですけど……)




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