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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
21/157

*** 21 驚愕する新入生たち1 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 通常の内野守備が終わり、ピッチングマシンの仰角が上げられて、外野守備の練習が始まった。

 その後は、走者も置いて守備のフォーメーション練習が始まる。

 ノーアウトランナー無し、ノーアウトランナー1塁、ノーアウトランナー2塁。

 打球も内野ゴロ、外野フライ、外野へのヒット。

 あらゆるケースを想定しての守備練習が続けられている。

 もちろん、ベースカバーの練習も込みだ。

 まあありきたりの練習だけどな。



「特にみんなに言っておきたいのは、彼らはまだまだ野球が下手だっていうことなんだ。

 アホなコーチのせいで、去年の夏まではまともな『野球の練習』が出来ていなかったからな。

 だがらこうして毎日効率的に練習して、まともな高校野球が出来るように努力しているんだよ。

 そして、もしみんなが普通にまともな野球が出来るようになったら、俺が投げて打ってみんなを甲子園に連れてってやるって約束してるんだ」


((((( すげぇ自信だ…… )))))


「だから君たちも、もし中学時代にまともな野球が出来ていたなら、すぐにレギュラーになれるかもしれんぞ。

 そうしたら、あと4か月後には甲子園のグラウンドに立てるかもしれないんだ」


((((( ……………… )))))




「神田くんおはよう」


「あ、吉祥寺先生おはようございます」


「今日は新入生の練習見学会だそうだが、君のピッチングはもう見せてやったのかね?」


「はい、昨日ストレートだけ少し。

 もちろんキャッチャーは置いてませんでしたけど」


「ふむ、それでは今日は久しぶりに私が受けさせてもらおうかな。

 やはりキャッチャーがいた方がいいだろう」


「ありがとうございます!」



 それで俺たちはブルペンに移動して、先生が防具を付け始めたんだ。


「な、なんだあの首のガードは……」

「そ、それに手首にあんなにテーピングしてる……」

「脚に段ボール巻いてる……」

「座布団まで……」

「つ、つま先に鉄の板当ててるぞ……」


「ははは、わたしもまだ死にたくないのでね。

 神田くんの球を受けるときには完全武装が必要なのだよ」


((((( ………… )))))


「それじゃあ準備も出来たから肩を作り始めようか」


「はい」



 俺は先生とキャッチボールを始めた。

 徐々に距離を空けながら遠投キャッチボールも行う。

 辺りにはスパンスパンといい音が響いている。


「な、なあ。キャッチボールでやたらにいい音させてないか?」


「これ、ゆっくりしたキャッチボールに見えて、相当に速い球投げてるからですよ。

 それも伸びのあるいい球だ……」



「それじゃあそろそろ私は座ろうか」


「その前にネットを移動させますね。

 みんな、ちょっと手伝ってくれるか?」


 移動式のネットがキャッチャーのすぐ後ろに設置された。


「みんなはこのネットの後ろで見ていてくれ。

 ネットには指をかけないでくれな。俺が暴投したら指無くなっちゃうぞ。

 それじゃあ先生、お願いします」



 俺はいつものノーワインドアップから、145キロの速球を投げ込み始めた。


 スパーン!

 スパーン!


 球速を150キロまで上げる。


 ズパーン!

 ズバーン!


 さらに155キロ。


 ズドーン!

 ズドーン!


 吉祥寺先生がミットを左上に上げた。

 俺はそのミット目掛けて無心で投げる。


 ズドーン!



「す、すげぇ球だ……」

「昨日もすげぇと思ったけど、後ろから見てるともっとすげぇ……」


(みんな、球の速さに注目して驚いてるけど……

 さっきからこのキャッチャーさん、構えたミットを全然動かしてない……

 神田さんはそこに吸い込まれるように投げている……

 と、途轍もないコントロールだ……)


 ミットが左下に下がる。

 俺は無心でそこに投げ込む。


 ズドーン!


 ミットが右上に上がる。


 ズドーン!


 右下に下がる。


 ズドーン!


(す、すごいよこのひとたち……

 神田さんは、豪速球がほんの少し浮き上がるのも計算に入れて、ミットの中心に収まるように投げてるよ……

 しかも、キャッチャーさんも、それを見越してやや球が下に向かって来てもミットを動かしてないよ……

 2人ともなんて凄いんだ……

 ああ、僕もいつかこんな風に神田さんの球を受けてみたい……)



「それじゃあ神田くん、そろそろ変化球も行ってみようか。

 まずはカーブからだ」


 はっ! 俺今意識飛んでたわ!


 あー、これ『投げ禅』の境地だな。

 久しぶりだ―。

 やっぱ最高のキャッチャーに投げるのって素晴らしいわー。


 それじゃあカーブだな。

 先生のミットは右打者の外角低めだから、その1メートル上80センチ右を狙って……



「「「「 うわっ! 」」」」


(あっ! ボールが消えた!

 ああ、あんな高いところに。それも内角いっぱいに……

 で、でもキャッチャーさんは動いてないっ!

 外角低めに構えたままだ!

 ああああーっ! 

 落ちる落ちる曲がる曲がるっ!)


 バシィ!


(す、すごいよ……

 あんなに投げ出しが遠いところだったのに、キャッチャーさんはミットを動かさずに捕球してるよ……)


「ふむ、神田くん。また身長が伸びたかね?」


「ええ、3センチ伸びて185センチになりました」


「だからだろうな。その分指も少し長くなったんだろう。

 カーブの落ち幅が5センチ大きくなって、右への変化も3センチ大きくなってるぞ」


「あ、そうか。すいません、意識してませんでした」


「それじゃあもう1球投げてみたまえ」


「はい」


 ズドーン!


「うむ、修正出来たようだね。

 威力が上がるのは大歓迎だが、キャッチャーのためにもマメに身長は計測した方がいいだろうね」


「はい、そうします。気づかせていただいてありがとうございます。

 それではもう少しカーブを投げてもいいですか」


「はは、好きなだけ投げたまえ」


 ズドーン!

 ズドーン!

 ズドーン!

 ズドーン!



(な、なんていう会話だ……

 いつもより5センチ落ちたのを身長が伸びたせいだと指摘するなんて……

 そしてなんというコントロール!

 そしてそのコントロールに対するなんという信頼感!

 だからこのキャッチャーさん、あれほどまでにミットを動かさずにいられるんだ……

 凄いっ! 凄いよっ!)



「それじゃあそろそろフォークを投げてみたいと思います。

 最初は50センチ落ちフォークを投げますが、もう少し落ち幅が大きくなっているかもしれませんので先生も気を付けてください」


「うむ」


(フォーク?

 最近プロで流行り始めたっていう球種か?

 そ、そんな球を高校生が……)


 ばしっ!


(ああ、ミットはど真ん中なのに、投げ出しがあんなに高かった……

 でも、ベース手前8メートルほどから減速しながら落ちて来て、やっぱりミットに収まった……)


「な、なんであんなに落ちるんだよ……」

「まるで手品見てるみたいだ……」

「なんかボールが生き物みたいに動いたよ……」



「やはり50センチではなく55センチ落ちているな」


「それじゃあ修正します」


 ズドーン!


「よし、これでいい」


「それではあと2球ほど」


 ズドーン!

 ズドーン!



「次はMAXのフォークを投げてみていいですか?」


「はは、今日は鉄板入りのファウルカップだから大丈夫だ」


 どがっ!


「先生っ! 大丈夫ですかっ!」


「ああ問題ない。

 やはり落ち幅が大きくなっているな。

 今までは落差1メートルだったのが1.1メートルになっておるようだ」


「す、すいませんでした」


「はは、また威力が上がったんだ。いいことじゃないか。

 それじゃあ次はジャイロを投げてみたまえ」


「はい。ではまず50センチジャイロから。

 少し修正を意識して投げます」


「うむ」


 ズドーン!


「うわっ!」

「な、なんか今の球、おんなじように落ちたのに、むちゃくちゃ伸びてるように見えなかったか?」

「初速より終速の方が速くなってるように見えたよ……」

「なんなんだよこれ……」



(ジャイロ?

 聞いたことのない変化球だ……

 まさか神田さんのオリジナル変化球?

 そ、それよりも『落ちながら伸びる球』なんて誰も打てないぞ……)



 その後も俺は新入生たちに変化球を披露し、100球投げた辺りで投球練習を終えたんだ。



 お、吉祥寺先生が1年生を集めて話し始めたか。


「新入生諸君。

 君たちはまだ高校生の投げる球を間近で見たことがないだろう。

 そして今、神田くんの投げた球を見て、高校生って凄いなと思ったかもしれん。

 だが、それは間違いなく誤解だ。

 彼は今すぐにでもプロで通用するピッチャーだ」


「「「「 !!! 」」」」


「君たちは全体大付属という高校を知っているかな」


「はい、甲子園の常連校で、去年の夏の大会では惜しくも決勝で負けて、甲子園に行けなかった強豪校ですよね」


「そうだ。

 そして、神田くんはその決勝戦の8日後、練習試合で全体大付属をノーヒットノーランに抑えている」


「「「「「 !!!!!! 」」」」」


「しかも唯一のランナーは味方のエラーによるもので、奪三振は24だった」


((((( ………(な、なんだって)……… )))))



「彼からもう聞いているかも知らんが、君たちや君たちの先輩が普通に練習して、普通に守備をし、普通に打てれば、彼が君たちを甲子園に連れて行ってくれるそうだ。

 私も私の学生時代の後輩である全体大付属の監督も、その言葉を疑ってはおらん。

 そしてその監督は、『もしもいいキャッチャーが見つからなかった場合、神田くんを私のチームで預からせて欲しい』とまで言ったよ。

 彼の才能を埋もれさせるのは、日本野球界にとっての損失だとまでも言っていた」


((((( ………(す、すげぇ)……… )))))



「しかも、神田くんが実践し提唱している練習方法は、信じられぬほど科学的で合理的なものだ。

 根性を鍛える練習などは全く無く、全ては『野球能力の向上』のみを目的として行われている。

 さらに、筋肉痛などになっても、神田くん自らがオリンピック仕込みのマッサージで治してくれるからな。

 どうか君たちも野球部に入部して、甲子園を目指して貰いたいものと思っている」



 あ、ちょうど午前の練習が終わったようだな。


「吉祥寺先生ありがとうございました」


「いや、わたしも楽しかったよ」


(あんな球をあそこまで見事に受けられたら、そりゃあ楽しいだろうな……)



「それじゃあ1年生諸君。食堂で昼メシを食べようか」



 食堂に歩いて行く途中、1年生たちが質問して来た。


「あ、あの先生はどういった方なんですか?」


「ん、吉祥寺教頭先生のことか」


「き、教頭先生……」


「あのひとはな、大学時代に全体大野球部が全国大会で優勝した時のキャッチャーで主将だったひとだ」


「「「「「 !!! 」」」」」


「ついでに卒業時には読買ラビッツを含む複数のプロ球団に誘われたそうだが、教師になりたいと言って断っていたそうだな。

 まあ、当時ドラフト制度は無かったけど、もしあればドラフト重複1位候補だったらしい」


「「「「「 !!!!! 」」」」」



「あの…… 

 神田キャプテンはどうやってあんな凄い球を投げられるようになったんですか?」


「うーん、そうだなー。

 効率的なトレーニングを毎日やって来たからかな」


「効率的なトレーニングってどんなトレーニングですか?」


「まあ、それは午後に見てもらうよ。

 なんでだか分からないんだけど、日本の野球の練習ってものすごく非効率なものばっかりなんだよ」


「そ、そうなんですか……」


「おっと、ここが食堂だ。さあ、中に入ってくれ」



 それでみんなを連れて中に入ったんだけどさ。

 1年生たちが驚いてるんだわ。


「なんだここ……」

「まるでレストランみたいだ……」

「なんかシャンデリアまであるぞ……」


 そしたらさ、御茶ノ水先生がエプロンつけて大きな鍋持って出て来たんだよ。


「おお、神田くん。

 そちらは1年生のみなさんかな。

 今ちょうど豚汁が出来たところだ。

 さあさあみんな、温かいうちに食べてくれたまえ」


「ありがとうございます御茶ノ水先生」


「「「 せ、先生…… 」」」


「そうだ、こちらは野球部顧問の御茶ノ水先生だ。

 こうして日曜日には豚汁やみそ汁を作って下さっているんだ。

 さあ、お礼を言って」


「「「「 あ、ありがとうございます、先生! 」」」」


「ははは、私は野球のことはよくわからないからね。

 これぐらいしかみんなの役に立てないんだよ。

 さあさあ、座って座って」


 いやほんと、冷たい弁当だけだと味気ないけどさ。

 こういう温かいもの食べられるのっていいよなぁ。










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