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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第1章 転生~中学生篇
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*** 2 三歳児へ ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 翌朝の目覚めは実に爽やかだった。

 もう体も絶好調だ。

 さすがは勇者の体だな。


 さて…… そろそろ再転生の準備でも始めるとするか……



 書斎のような場所には神保さんがいた。


「勇者さま、勇者さまが転生された1971年から現在の2021年までの50年間の地球の主な知識の御取得は如何なさいますか?」


「えーっと、それって脳への直接転写ですか?」


「はい、約30分ほどで完了いたします」


「それではお願いします」


「畏まりました」



 おおー、あれから社会はこんな風になっていったのかー。

 なるほどね。

 でも、21世紀になってもロボットは街を歩いてないし、車も空飛んでないのか。

 1970年ごろの未来予想って大ハズレだなー。

 まあPCやインターネットっていうものがヤタラに便利そうだから良しとするか。


 あ、さっきの自己鑑定項目の中の、【知識】が3から2050になってる……

 脳への直接転写便利だわー。


「如何でございましたでしょうか勇者さま」


「大満足です! ありがとうございます!」


「それはよろしゅうございました。

 また、詳細にお知りになられたいことがございましたら、是非お伝えくださいませ。直接転写やPCデータなどでご用意させて頂きます」


「まあこれからはチートな転写ではなく、なるべく自分で文字を読んで勉強したいと思います。

 あ、ところで、詳細鑑定に【知力】とか【知識】っていう項目があるんですけどね。

 これって日本人の平均ってどのぐらいなんですか?」


「はい、平均を50として、プラスマイナス10の範囲内が1標準偏差で母集団の約68%に入ります。プラスマイナス20の範囲が2標準偏差でございまして、母集団の約95%に入りますね」


「ま、まるで偏差値ですね」


「そのようなご理解でけっこうかと存じます」


「ということは、俺の知力125って……」


「7シグマを超えていらっしゃいますので数十億人に1人ということになられます」


「お、俺、そんなに頭良かった記憶が無いんですけど……」


「はは、勇者さまのご功績を寿がれた女神さまよりのギフトでございますよ」


「げげげげげげ……」




 それからも神保さんのサポートは完璧だった。


 俺が知りたいことは何でも調べてくれたし、また資料の準備も素晴らしかった。

 ネット環境も充実してるんで、調べたいこともすぐに調べられたし。


「そういえば神保さん。

 2021年より先の未来のことも分かるんですか?」


「残念ながらそれは出来ません。

 現在の地球は宇宙全体と共に2021年の世界にあります。

 過去に遡ることは出来ますが、未来を知ることは神さまにも出来ないのです」


「過去に遡って影響を与えたりしたら、因果律を乱して現在が変わってしまったりしませんか?」


 神保さんはにっこりと微笑んだ。


「実は歴史や因果律の流れはかなり強固なのです。

 未来に於いて大きな功績を成し遂げて歴史を変えた人物を子供の頃に暗殺したとしても、ほぼ間違いなく同じような業績を成し遂げる者が出てきます」


「でも、もし俺が過去の下界で活躍したりしたら、歴史を変えてしまうことになりませんか?」


「戦争や大規模な殺戮などを起こせば変わるかもしれませんが……」


「そ、そんなことはしませんってば!」


「それならばご安心ください。

 万が一勇者さまのご活躍で因果律が改変されそうになったとしたら、その際には神界がすぐ修復を図ることになるでしょう。

 我々天使には容易な作業です」


「ということは、俺は自由に生きてもいいんですね」


「はい、もちろんです。

 特にスポーツの世界では、何をされても大きな因果律の流れに影響を与える可能性はまずございませんので……」



 はぁ、安心したよ。

 再転生した俺が何をやっても大丈夫そうだわ……



 その後の俺は、主に乳幼児期から少年期にかけての発達生理学や、少年期から青年期にかけての運動能力向上の方法論を勉強したんだ。

 うん、こうした分野での21世紀の研究論文にはなかなかのものがあるな。

 まだわかっていないことも多いけど。

 それにしても、1970年代の日本スポーツ界って酷いわー。

 指導者層がみんな戦前戦中世代だったせいか、精神論しか言ってないようだ。

 勝ったやつは根性があったから勝ったんで、負けたやつは根性が無かったから負けたんだとか……



「そういえば神保さん、俺の両親はどうなってますか?」


「ご存知のようにお二人とも第2次大戦中の1933年に生まれ、15歳の時に集団就職で東京に出てきました」


(まあ高校進学率50%の時代だからな。

 それに、両親とも父親を戦争や病気で亡くしていたから仕方が無かったんだろう)


「そして、東京の小さな会社で共に働き、1956年、23歳の時に結婚。

 そして1961年に長男の勇者さまがお生まれになられたわけです。

 わたくしどもは、1955年に遡って株式会社神保通商を設立し、ご両親の勤める会社を買収して現在に至っております。


 つまりご両親とも、わたくしの会社の従業員でございますね。

 もちろん勇者さまのご成育環境を万全にするための措置でございます。

 因みに他の従業員は、ほとんど天使か天使見習いが人に変化へんげしたものでございますが」


「両親の暮らしぶり、働きぶりは如何ですか?」


「それが…… 申し上げにくいのですが……」


「構いません、なんでも仰ってください」


「は、はい。

 残念ながら父上さまはギャンブル依存症、母上さまは買い物依存症の傾向が見られます」


 そういえばそうだったわ……

 俺が地球で子供だったころは、親父は土日は場外馬券売り場に入り浸り、平日はパチンコ屋に入り浸ってたよな。

 母親は、カネのあるときは、いつも俺を連れてデパート巡りだったか……


 でもまあ、この時代では仕方が無いことだったかもしらん。

 田舎の村には碌に店も無く、よって小遣いも無かった中学生が、東京に出て来て就職して、少ないながら給料を貰えるようになるとハジけちゃってたんだ。

 当時はそんな連中からカネを吸い上げようとして、パチンコ屋やデパートが大活況だったもんな。

 余程に意志の強いやつじゃないと貯金なんかしてなかったし……



「また、わたくしが社長としてお二人に、『学費を出してやるから夜間高校に行ってみないか』と聞きましたところ、当初ご両親は相当に乗り気だったんですが……

『学費は直接高校に払っておくから』と言うと、やっぱり行かないと言い出していました。

 どうやら学費を懐に入れて、夜間高校には行く気は無かったようです」


「しょーもな!」




 それから半年が経過し、すべての準備を終えた俺は、俺自身が3歳の時に再転生することにした。


 そしたら女神さまが言ったんだ。


「転生してからの体に慣れるためにも、ここ神界で一度3歳の体になられては如何でしょうか」


「それもそうですね。それじゃあお願いします」


 おお! これが3歳児の体か!

 なんか少し動きにくいけど、感覚が随分新鮮だわ。

 これいいなぁ……


「か、かかか、可愛い―――っ!」


 あー、女神さまが抱き着いて来たよー。

 天使見習いたちの方がよっぽど可愛いとは思うけど、人間の子はまた別なのかな?


 それで俺、女神さんに頼まれちゃって、その夜は一緒に寝ることになっちゃったんだわ。

 まあ、世話になってるからいいけどさ。

 頭の奥底はジジイだし、今の体にも脳にも性本能とかこれっぽっちも無いから、別に問題は無いだろう。


 それにしても……

 この胸部装甲、なんとかならんもんかね。

 気を付けてないと窒息死するわー。



 翌朝、俺を抱きかかえた女神さんがしみじみと言ったんだ。


「わたくしもあなたのような子が欲しくなってしまいました……」


「そ、そうですか……」


「ひとつお願いがあります」


「な、なんでしょう?」


「あなたが下界で成長し、精通が見られたら、ここ神界に帰って来てわたくしにあなたの子種を頂戴出来ませんでしょうか……」


「ええええっ!

 め、女神さまが人間と子供なんて作れるんですかっ!」


「ご安心ください。

 そのときはちゃんとヒト族に『変化』して子宮も作っておきますから。

 もちろん性器も♪」


「げげげげげげげげげ……」


「それではそれまで健やかにご成長くださいませ。

 未来のわたくしの子のお父さま♡」


「げーげげげげげげげげげげげげ……」


(お、俺、3歳にしてもう婚約かよっ!

 し、しかも超年上の奥さんっ!

 でもまあ、地球にはこれ以上の美人はいないだろうし、すっげぇ優しそうなひとだからいいか……)




 そんなわけで、俺は下界に降りたんだ。


 俺が目を覚ましたのは病室だった。


(そうか、確か3歳のころ、一度病気で入院してたっけか……

 それじゃあまた自分を鑑定してみるか)



 名前:神田勇樹

 称号:地球出身の勇者

 年齢 生活年齢60歳、精神年齢35歳、肉体年齢3歳

 総合レベル 11217

 HP:      20

 MP:23485470


 体力:      25

 総合攻撃力:32551

 肉体攻撃力:   30

 魔法能力: 32521

 知力:     125

 知識:    2050



 あー、そうか。

 今は3歳児だし入院中だからHPが20なんだな。

 なにしろ母集団が日本人全体なんから、その中では偏差値20っていうことなんだろう。

 総合攻撃力が45032から32551であんまり減ってないのは、魔法能力が依然として高いままだからか。

 だから総合レベルもこの程度の減少で済んでるんだ。

 なるほどな。




 俺はそれからしばらくは病院でそのまま過ごすことにした。

 まあ、『キュア(超勇者級)』を使えば病気もすぐに完治するけど、そんなことしたら医者に不審がられるからな。


 それで3週間ほど病院にいるうちにちょっと驚いたんだけど、俺の両親がほとんど見舞いに来ないんだわ。

 なんで親父もお袋も日曜の昼に3分だけしか見舞いに来ないんだ?


 あっ、そうか……

 この病院のすぐ近くに場外馬券売り場(今のウインズ)があったか!

 あー、だから日曜の昼に来てるのね。

 それで3分で見舞いを切り上げて、すぐ馬券売り場に直行かー。

 我が親父ながらしょーもないやっちゃのう……

 ついでに近所にデパートもあるから、お袋はそこに入り浸ってるのね……


 数週間して退院した俺は、神保通商株式会社の社宅である自宅に帰った。

 まあ、この時代の普通の家だわ。

 2DKで風呂無しの。



 それじゃあそろそろ父親を鑑定してみるかね。

 あー、これ詳細鑑定だと項目多すぎるわ。

 いくつかピックアップして見てみよう。


 名前:神田権蔵

 称号:一般人

 年齢:31


 父性: 12

 倫理心:13

 知力: 11

 向上心: 8

 射幸心:75


 うっわー、これもう既にダメダメじゃん!

 倫理心も父性も向上心も全然無くって頭悪い上にギャンブルだけ大好きとか。

 あー、念のため母親も見てみるか。


 名前:神田花子

 称号:一般人

 年齢:31


 母性: 13

 倫理心: 9

 知力:  8

 向上心: 4

 浪費癖:78



 うーん、うーん……

 この時代のひとたちってさ、ただでさえ倫理心も無いし向上心も知力も無い人が多いんだけどさ。

 当時日本はようやく後進国から発展途上国になったところだったから。

 でもその中でもこの偏差値かー。

 こりゃ俺の子供時代は苦労するだろうなー。



 あと、この時代が酷いのはなんといっても大気汚染だよな。

 乗用車やトラックがケムリ吹き出しながら走ってるし。

 街中はいつも霧がかかってるように見えるし。

 まるで2000年代の北京市だわ。

 排ガス規制なんかカケラも無いようだ。



 でも、ありがたいことに、神保さんは敷地内に強力な空気浄化魔法のかかった託児所まで作ってくれていたんだ。

 まあ、俺以外に6人ほどの小さな子がいたけど、これが全員『変化』の魔法で人の子に姿を変えた天使見習いのダミーなんだわ。

 最初は魔法に慣れていないせいか、くしゃみするたびに翼出しちゃってたりしてたけど……

 つまりまあ、この託児所もすべて俺のためだけに作られているわけだ。

 この環境なら俺の夢のためのトレーニングには十分だな。


 でも……


「勇者さま、なにかお元気が無いようでございますが……」


「あ、神保さん。実はちょっとがっかりしてましてね」


「なにか私共がお役に立てませんか?」


「あの、今自分の体をチェックしていたんですけど、俺の今の体って、平均より筋繊維が少ないみたいなんです。

 ヘモグロビンの量も少ないし。

 でもこれって遺伝で決定されるもんですからね。

 いまさらどうにもならないんで、ちょっと落ち込んでたんです」


 神保さんはにっこりと微笑んだ。


「そのようなこと……

 ひとこと仰って頂ければ私共が如何様にもご対処させて頂きますのに」


「えっ……」


「それではまず、筋繊維の数を増やしましょうか。

 それからヘモグロビン生成機能も強化致しましょう」


「そ、そそそ、そんなこと出来るんですか?」


「私共はこの世界を管理する女神さまの配下でございます。

 たやすいことでございますよ。

 もし我々にも不可能なことがあるとすれば、2021年以降の未来を知ることと、寿命で亡くなった方を生き返らせることぐらいでしょうか」


「さ、さすが……」


「そうそう、収納可能な翼はいかがですか?

 それから同様に収納可能な追加の3本目の腕とか」


「翼や追加の腕はけっこうですっ!

 イザとなったら魔法で飛べますし、魔法の腕もありますから!」


「そうでございましたな。

 勇者さまの魔法能力は前世と同様『超勇者級』でございました。

 それではとりあえず、EPO(エリスロポエチン受容体)を変異させて、酸素運搬機能を強化させましょう。

 それからACE(アンギオテンシン転換酵素)の型もⅡ型に改変いたしますか。

 これにより運動機能がかなり高まります」


「なんかそれってチートっぽくてちょっとためらいが……」


「何を仰いますか。

 再転生されたこと自体が究極のチートでございます。

 しかも前世の世界を救うために、それこそ命がけで取得された魔法能力を今世でもお使いになれるのですから」


「い、言われてみればそうですね。

 そ、それではお願い致します……」


「お任せくださいませ」


(ついでにその他の遺伝子も改変しておきますか……

 ふふ、究極のスポーツモンスター爆誕ですね♪)




 お、筋繊維の数が……

 ああっ! ご、5倍になってるっ!

 ミオグロビンは10倍っ!

 ヘモグロビンは15倍っ!


 お、俺のカラダ、や、ヤベぇ……










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