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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
18/157

*** 18 キャッチャー訓練開始 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 それからの俺は頑張ったよ。


 みんなに動的ストレッチを教え、練習中は水分と塩分を摂らせ、練習後は静的ストレッチを行い、大豆ジュースと野菜ジュースを飲ませて。

 それから、まともな「野球のための」練習メニューを組んで行ったんだ。



 そうそう、神保さんがあの新木場の土地に、とんでもない球場を造ってくれたんだわ。


 グラウンドのサイズは完全に甲子園球場と同じ。

 さらにホームベースからセンター方向は球場標準仕様通りきちんと東北東を向いている。

 その上周囲は高さ20メートルの金網フェンスで覆われ、バックネット裏には小さいながら観客席まであるんだぜ。


 フェンスの外には5メートルほどの高さの金網で覆われたブルペンもある。

 その横にはアンツーカー走路があって、50メートル走の計測まで出来るんだ。

 しかも電気計時設備まであるんだよ。

 その横にはけっこう大きな室内練習場、部員100が余裕で泊まれる合宿用宿舎、それから筋トレ用のミニ体育館まであった。


 ウエイトトレーニング用の機器は、俺の要望通り手作り風だ。

 バーベルのバーは本物を使ってるけど、ウエイトはコンクリートを固めて「20キロ」とか「10キロ」とか書いたものだ。

 それ以外にも鉄パイプを溶接して、いろんなマシンを作ってくれていたよ。

 ついでにアメリカに行って、最高級のピッチングマシンや開発されたばかりのスピードガンも買って来てくれたし。


 神保さん…… いくら予算使い放題で魔法も使って造れるからって、ちょっとやりすぎなんじゃないか?

 ま、まあ、有難く使わせてもらうけど。



 それに加えてさ……


「この土地を相場の3割増しほどで購入したために、東京都から周辺の土地も購入しないかという打診も来ておりまして、それらも全て購入することに致しました。

 それであと1つ球場を建設する予定であります」


「そ、そんなに球場造っても……」


「全国高校生野球大会東東京予選や練習試合などに貸し出してやればいいでしょうし、実は神界でも『天使野球リーグ』が始まりまして。

 そのためのスタジアムが手狭なのでございますよ。

 天使たちからも下界で野球をしてみたいという希望が多々寄せられておりますし」


「は、はあ……」



 それでさ、神保さんたちはなんと5万人収容のスタンドを持つ大球場まで造り始めちまったんだよ。

 野球部以外の天使たちにも観戦希望者が大勢おりますのでだとさ。

 それも開閉式の屋根まで付いた球場な。

 万が一にも天使たちが野球したりそれを観戦している姿を一般人に見られないためらしいんだけど。


 ついでに天使たちの宿泊用に100戸のワンルームがある高層マンションを8棟も建て始めてるし……





 神保さんのおかげで俺たちの練習環境は大いに整った。


 でもさ、やっぱり2年生が次々に辞めていったんだよ。

「下級生の指図に従えるか!」とか言って。

「毎日練習をしてると塾や予備校に行けないから」とか言いわけしてた奴もいたか。


 俺がバッティングピッチャーをやってやったときに、誰一人としてバットにボールを当てられなかったこともムカついてたらしいわ。

 普通に140キロ台のストレートしか投げてなかったのにな……

 それがまた口惜しかったのか、『下級生のくせにナマイキだ!』とか言ってたわ……

 自分たちがヘタだからとは誰も思わなかったようだ。


 それにしても不思議だよ。

 身体能力や野球能力はもちろん、トレーニング理論だって全く俺に及ばないのにさ。

 なんで『上級生』っていうだけで自分の方がエライって思い込んでるんだろうね?


 それにあの『上級生』と『下級生』っていう言い方。

 なんで自分たちが『上級』で1年生の俺が『下級』なんだ?

 違ってるのは生まれた年度だけだろうに……



 そして、最後まで残ったのはファーストの田町先輩と、サードの品川先輩と、キャッチャーの荻窪先輩だけだったんだ。


 それで3人の合意もあって、俺は正式にキャプテンになったんだけど。



 でもまあ嬉しいこともあったぜ。

 4月に退部していた1年生が、あのダニコーチが辞めされられたって聞いて5人戻って来てくれたんだ。

 これで1年生20人、2年生3人の計23人体制だ。

 紅白戦ぐらいは出来そうだな。



 そしてもうひとり……


「あ、あなたが神田くんね。

 わたし1年3組の渋谷涼子っていうの。

 マネージャー希望なんだけどいいかしら?」


 こ、こいつ……

 ルックスもかなりのものと言えようが、それ以外にもなんという胸部装甲を持っているんだ……

 ま、まあ、めーちゃんには劣るけど。


 あ、そうか!

 こいつが有名なあの1年3組の『おっぱい星人』か!

 な、なるほどー!



 渋谷の話では、最初4月からマネージャーになろうとしたんだが、中学時代の先輩だった2年生女子から「絶対にやめとけ」って言われたそうなんだ。

 どうやらダニは、女子マネを片っ端から食事に誘い、ことあるごとに触ろうとし、とうとう3人いた女子マネが全員辞めちゃってたそうなんだわ。

 ったくあのダニ、マジでどうしょうもないやつだったんだな。



 それからはみんなで一生懸命練習してたんだけどさ、最初のうちは酷いもんだったよ。

 キャッチボールやらせてもコントロールはめちゃめちゃで後逸ばっかし。

 打撃練習でも最初はトスバッティングを空振りする奴までいたよ。


 さらに悲惨だったのは外野守備だ。

 あのダニがノックで外野フライを打てず、まったく練習が出来てなかったせいで、平凡なフライも半分以上はバンザイだもんな。

 どんだけ根性練しても、肝心な野球の練習してないとこうなるんだなぁ。



 まあボールコントロールや守備は練習して行くしかないんだけどさ。

 俺は、21世紀のある著名選手の打撃練習方法に興味深いのがあったのを思い出したんだ。


 その選手は打撃不振になると、ファームに行ってスタンドティーの上にボールを乗せて打つ『ティーバッティング』をしてたって言うんだよ。

 そんなの普通超初心者の練習方法なんだけどな。


 だけど、元々人間の目と手ってそれほど連動してるわけじゃないそうなんだ。 

 目で見た1点を打とうとしても、バットはけっこう違うところを通ってしまうことがあるらしい。

 つまり普段の打席でゴロが多い時には、目で見た点より5ミリとか10ミリ上を叩いてたりするんだそうだ。

 選球眼が悪かったとか、思ったよりボールが落ちてたとか思い込んで、目と手の不連動にはほとんど気づかないんだと。


 だからティースタンドに置いた球を打って、そういう目と手の連動性の狂いを修正して行くそうだな。

 たぶん俺がボールの芯を狙って打てるのも、3歳のころからティーバッティングしていたからなんじゃないかな。



 それで俺は毎日の練習にティーバッティングを取り入れたんだ。

 バットの芯で打つ練習にもなるし。

 それでも最初のうちは、静止した球でも空振りしてるヤツがいたんで驚いたけど。

 それ、実際の打席では偶然以外に絶対に打てないだろうに……


 こうして日比山高校野球部は、野球超初心者向けの練習を続けて行ったんだよ。

 だから俺、みんなが不満に思うんじゃないかってちょっと心配もしていたんだ。



 でも……


「なあ、練習中に水飲むと体楽じゃね?」


「そうだな、なんか1日中練習しててもふらふらしないよな」


「それに最近、『俺野球してるぜ!』って思えて楽しいわ♪」


「俺も俺も!」


「俺今日、ティーバッティングでボールの芯にバットの芯が当たったんだ!

 1球だけだったけど、すっげぇいい音がしてボールの重さをぜんぜん感じなかったんだ。

 あれ気持ちよかったわー」


「そうだよな、あれ病みつきになるよな。

 俺、毎球毎球芯で打てたら1日中ティーバッティングでもいいわ」


「それに筋肉痛にならないって楽だよなー」


「前だったらあんだけ体動かしたら翌日バリバリの筋肉痛だったのが、今はほとんど痛くないもんな」


「うーん、やっぱストレッチって効果あるんか……」


「それにあのアイシングも効果抜群だぞ。

 俺この前神田に言って、片足だけアイシングしなかったんだ。

 そしたら翌日そっちの脚だけパンパンだったもん」


「あのクエン酸も、試しに飲まなかったら翌日全然違ったしな」


「それに俺、最近腹筋が割れて来たんだよ」


「へへ、俺も」


「俺なんか大胸筋が少し動かせるようになったんだぜ♪」


「うーん、さすが金メダリストのトレーニング方法ってことか」


「そうだよな。

 神田が凄まじい球を投げたりホームラン打てたりする理由がようやくわかってきたわ」




 そうそう、吉祥寺教頭先生や御茶ノ水先生もよく練習を見に来てくれたよ。

 吉祥寺先生は土日のどちらかに。

 御茶ノ水先生なんか自宅が近いもんだから毎日のように来てたな。

 そうして俺たちの明るさと熱心さに気づいたようで、2人してバックネット裏に座ってなにやら楽しそうに話してたわ。


 そしたら神保さんが、バックネット裏に特別席作っちゃったんだ。

 前面がガラス張りになってて冷暖房完備で豪華ソファが置いてある部屋を。

 おかげで先生たちが来る頻度も増えてたわ。


 さらにそこに神保さんも加わって、なんかすっげぇ楽しそうなんだ

 練習が終わるとそのまま3人で飲み屋に行って、神保さんが披露する俺の小中学生時代の話を肴に酒飲んだりもするようになってるらしい。

 それにまあ神保さんってさすがの大天使でさ。

 一般人から見たら、もうとんでもないオーラを持った人格者に見えるわけよ。

 見た目も一番年上だし。(実年齢はさらにとんでもなく上)


 おかげで吉祥寺先生も御茶ノ水先生も、すっかり神保さんに心酔してたわ。

 それで、未だ独身の神保さんが俺を実の子供のように思っていて、甲子園に行くためには何でもしてやる、っていう設定話を完全に信じ込んでくれたそうだ。

 ま、まあ「実の子供」っていう部分を「崇拝する女神さまの婚約者」に直せば、完全な事実だけどな。




 野球部の面々は、上達するにつれてますます明るくなっていった。

 まあ、まだまだエラーも多いけど、でも練習が自分たちの実力に結びつき始めた手ごたえも感じ始めたみたいだ。


 でも……


「なあ、俺たち、このまま練習して行ったら、今度の夏はけっこうなところまで行けたりして」


「うん、なにしろあの神田が投げるんだもんな」


「でも問題は……」


「うん、問題は……」



 そうなんだ、問題は「キャッチャー」だったんだ……


 12月になると、俺はかかりきりで2人のキャッチャーの訓練を始めた。

 2年生の荻窪先輩と1年生の大塚だ。


 もう、内野や外野のノックは田町先輩や品川先輩が出来るようになってきたから任せられたし。

 この2人って守備はまだまだなんだけど、それなりに打てたから。

 それに他のみんなも、もう自主的に練習できるようになってたからな。

 だから俺はキャッチャーを育てることに専念したんだよ。




「それじゃあ最初に、球を怖がらないようになる練習を始めますか」


「どうするんだ?」


「まず2人ともこれをつけてください」


 その場に用意されたのは、LLサイズのジャージ、鉄板、むち打ち患者用のギプス、薄い革の手袋、テーピングテープ、最も大きくて厚いファウルカップ、座布団、ガムテープ、アメフト用のショルダーガード、アイスホッケーのキーパー用のアームガード、そして大量のタオルと段ボールだった。


「最初は股間に2つ折りにしたタオルを3枚当てて下さい。

 その上からファウルカップを当てて、さらに段ボールを2枚ほど当ててからガムテープで固定します」


「なんか段ボールが相撲取りのまわしみたいだな……」


「その上にこのLLサイズのジャージを穿きましょう。

 ちょっとしゃがんでみてください」


「うーん、がさがさするけどなんとかしゃがめるぞ」


「それじゃあ上半身にユニフォームを着て、首にこのギプスをつけてください」


「あ、これ練習試合のときに吉祥寺先生がつけてたやつだ」


「このギプス、鉄板が巻いてある……」


「ええ。それでどうですか。首は苦しくないですか?」


「ま、まあなんとか」


「それじゃあ胸から腹にかけて段ボールを当てましょう。

 最初は3枚にしますか。その上に鉄板をガムテープで固定して。

 さらにその上からプロテクターをつけます」


「な、なんかすげぇな……」


「それじゃあ立ってみてください。

 次は太ももの前と内側を守るための段ボールを2枚巻いて、その上から座布団を巻いてガムテープで固定して……

 脛の内側にも段ボールを当てて、座布団を巻いて。

 その上からレガースをつけてと……

 どうですか? しゃがめますか?」


「うーん、ちょっと太もものガムテープがキツイな」


「俺も」


「それじゃあちょっと緩めましょうか……

 今度はどうですか?」


「うん、これならなんとか」


「俺もなんとか」


「次は左肘にアイスホッケーのキーパー用のガードをつけて、両肩にアメフト用のショルダーガードをつけて。

 左手の前腕と上腕にも段ボールを巻いて、その上から座布団も巻いて……

 それからつま先にこの湾曲した鋼鉄板を当てます」


「なんかすげぇ……」


「最後に手首ですけど、まあ今日は簡単でいいでしょう。

 この手袋を嵌めて、上からテーピングをします。

 さあ、これで完了です。

 メットとマスクを着けてブルペンに行きましょう」




「それじゃあ最初は荻窪先輩から行きましょうか。

 ベースの後ろに座って頂けますか。

 大塚はそこのベンチに座ってよく見ていてくれ」


「「 了解 」」


「それではこれから俺は緩い直球を投げます。

 最初は捕球せずにすべて体で受け止めてください」


「「 !! 」」


「慣れたらだんだん速い球にしますから」


「と、捕らなくていいのか?」


「まずは、捕れなくて体に当たっても痛くないということを確認して貰いたいんです。

 そうしないとまともに捕球の練習が出来ませんから」


「でっ、でもこの格好だと、ほとんど左右に動けないぞ」


「安心してください。

 俺はセンパイのミットを中心にして半径5センチ以内に球を集めますから」


「………………」


「そうして、球が近づいて来たらミットを避けて下さいね」


「……(ま、マジかよ)……」


「それじゃあ行きますよ」



 そうして俺は時速120キロほどの直球を投げ込んだんだ。


 ドン!


「うわっ!」


「痛かったですか?」


「い、いや、驚いただけだ。

 少し衝撃はあったが痛くはない」


「それはよかった。

 それでは続けて何球か投げましょう……」










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